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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第79話 縁七禍の想い人
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皆の視線が、一斉に七禍の方を向く。
なんとなく、どこかで見たことあるような気がする南あさりさんの方に向けていた注意も削がれ、必然的に七禍への対応に迫られる。
「わ、わぁ! ど、どうしましょう!? きゅ、救急車!? 110番!?」
「お、落ち着いてくださいっす熊猫さん! 救急車は119です!」
あたふたする熊猫さんに対し、すかさず訂正する梅雨さん。
――番号が違う以前に、流石に救急車は大袈裟すぎる。
「大丈夫か?」
思わず声をかけると、七禍は火傷した箇所を隠すように俺から距離をとる。
「へ、平気じゃこのくらい! ほっとけば治る!」
若干涙目になって、腕を押さえる七禍。
本当に大丈夫か?
「だ、大丈夫じゃないじゃないですか、鍋当たったところ真っ赤ですよ!」
七禍を挟んで俺の反対側に回ってきたあさりさんが、若干顔を青ざめさせている。
「だから平気じゃと言っておるだろうが! 妾は誇り高き吸血鬼の王で、治癒力も人の何倍も高いんじゃ!」
それでも痛いのだろう。
涙ぐんで声を震わせる七禍。
「とにかく、今何か冷やすものを――って、あれ」
俺は、手ぬぐいを手に取ろうとして振り返り、その事実に気付く。
いつの間にか、直人が消えていることに。
一体、どこへ行ったんだ?
そんな風に訝しんでいた俺だったが。
「少し遅くなりましたが、店員さんから冷やすものを貰ってきました」
少しばかり小走りで駆け寄ってくる直人。
その手には、厚手のビニール袋に入った氷水がある。
冷静に状況を見極め、いち早く自分に出来ることをしていたことに思わず感心するが、今はそれも後回しだ。
俺は、直人に道を譲りつつ、手にしたおしぼりを手渡す。
「これ、冷やすときに使って。患部を冷やしすぎると、返って悪化することもあるって言うし」
「ありがとうございます」
直人はおしぼりを受け取ると、七禍に詰め寄る。
「ほら、火傷したところを見せてください」
「い、いい! 貴様が気にすることではないわ!」
「意地を張るのは勝手ですが、このまま痛みが増したらどうするんです?」
「し、知らん! そもそも吸血鬼は痛みを感じぬ――って、いてててて!」
不意に、七禍が悲鳴を上げる。
少しうんざりした表情で、直人が七禍の耳たぶを優しく引っ張ったのだ。
「……痛み、感じないんじゃなかったでしたっけ?」
「ぐっ」
悔しそうに歯噛みする七禍。その隙を突いて、彼女の腕をとると、赤く腫れている箇所に優しくおしぼりを巻き、その上から氷水の入った袋を乗せる。
「しばらく、このままじっとしていてくださいね。あと、必ず病院にも行くこと。幸い、鍋に腕が触れていた時間は短いでしょうから、そこまで重傷ということはないでしょうが」
「……別に、貴様が気にすることではないだろうが」
不意に、ぽつりと七禍が呟く。
「いいえ、気にしますよ。……少なくとも、僕のお肉禁止令のせいでケガしたようなものですし」
「それはまあ、そうじゃが」
「それに……可愛い女の子が、腕に傷を残すなんて、嫌でしょう?」
「んなっ!」
とたん、七禍が絶句したように口をパクパクさせる。
「ば、バカか貴様! 妾に「可愛い」などと、そんな冗談を言うでないわ!」
「? いえ、冗談でもなんでもなく、可愛いと思ってますけど」
そんな、素っ気ない答えを返す直人。
が、真正面から「可愛い」と言われた七禍の反応はというと――
「えっ、あ……いや、その……うぅ」
完全に頭の回路がショートしてしまったらしい。
ミミまで真っ赤になって、目を回してしまっている。
――まあ、直人は良い奴だしな。面と向かって正直にそんなこと言われてしまえば、恋愛に免疫のなさそうな七禍はクラッときてしまうのもわからなくはないが。
しかし、少し待てよ。そういえば、最初に七禍に会った時、気になる台詞を言っていた。
――「なるほどのう。妾としては気兼ねなく話せる相手ができると喜んでいたのじゃが、まあ仕方ないのう。それに、ライバルも減ったと受け止めるべきか」――と。
確か、俺が男だとわかったときに、そんなことを言っていたはず。
つまり、俺が女子だと何か彼女にとって不都合があるかもしれないわけで――例えば、恋のライバルが増えてしまう、的な。
「ははぁん、なるほど」
これは、そういうことらしい。
七禍め、以外と落とすまでに苦労しそうな人を選んだな。
2人のやり取りを見ながら、俺はそんな風に思うのだった。
なんとなく、どこかで見たことあるような気がする南あさりさんの方に向けていた注意も削がれ、必然的に七禍への対応に迫られる。
「わ、わぁ! ど、どうしましょう!? きゅ、救急車!? 110番!?」
「お、落ち着いてくださいっす熊猫さん! 救急車は119です!」
あたふたする熊猫さんに対し、すかさず訂正する梅雨さん。
――番号が違う以前に、流石に救急車は大袈裟すぎる。
「大丈夫か?」
思わず声をかけると、七禍は火傷した箇所を隠すように俺から距離をとる。
「へ、平気じゃこのくらい! ほっとけば治る!」
若干涙目になって、腕を押さえる七禍。
本当に大丈夫か?
「だ、大丈夫じゃないじゃないですか、鍋当たったところ真っ赤ですよ!」
七禍を挟んで俺の反対側に回ってきたあさりさんが、若干顔を青ざめさせている。
「だから平気じゃと言っておるだろうが! 妾は誇り高き吸血鬼の王で、治癒力も人の何倍も高いんじゃ!」
それでも痛いのだろう。
涙ぐんで声を震わせる七禍。
「とにかく、今何か冷やすものを――って、あれ」
俺は、手ぬぐいを手に取ろうとして振り返り、その事実に気付く。
いつの間にか、直人が消えていることに。
一体、どこへ行ったんだ?
そんな風に訝しんでいた俺だったが。
「少し遅くなりましたが、店員さんから冷やすものを貰ってきました」
少しばかり小走りで駆け寄ってくる直人。
その手には、厚手のビニール袋に入った氷水がある。
冷静に状況を見極め、いち早く自分に出来ることをしていたことに思わず感心するが、今はそれも後回しだ。
俺は、直人に道を譲りつつ、手にしたおしぼりを手渡す。
「これ、冷やすときに使って。患部を冷やしすぎると、返って悪化することもあるって言うし」
「ありがとうございます」
直人はおしぼりを受け取ると、七禍に詰め寄る。
「ほら、火傷したところを見せてください」
「い、いい! 貴様が気にすることではないわ!」
「意地を張るのは勝手ですが、このまま痛みが増したらどうするんです?」
「し、知らん! そもそも吸血鬼は痛みを感じぬ――って、いてててて!」
不意に、七禍が悲鳴を上げる。
少しうんざりした表情で、直人が七禍の耳たぶを優しく引っ張ったのだ。
「……痛み、感じないんじゃなかったでしたっけ?」
「ぐっ」
悔しそうに歯噛みする七禍。その隙を突いて、彼女の腕をとると、赤く腫れている箇所に優しくおしぼりを巻き、その上から氷水の入った袋を乗せる。
「しばらく、このままじっとしていてくださいね。あと、必ず病院にも行くこと。幸い、鍋に腕が触れていた時間は短いでしょうから、そこまで重傷ということはないでしょうが」
「……別に、貴様が気にすることではないだろうが」
不意に、ぽつりと七禍が呟く。
「いいえ、気にしますよ。……少なくとも、僕のお肉禁止令のせいでケガしたようなものですし」
「それはまあ、そうじゃが」
「それに……可愛い女の子が、腕に傷を残すなんて、嫌でしょう?」
「んなっ!」
とたん、七禍が絶句したように口をパクパクさせる。
「ば、バカか貴様! 妾に「可愛い」などと、そんな冗談を言うでないわ!」
「? いえ、冗談でもなんでもなく、可愛いと思ってますけど」
そんな、素っ気ない答えを返す直人。
が、真正面から「可愛い」と言われた七禍の反応はというと――
「えっ、あ……いや、その……うぅ」
完全に頭の回路がショートしてしまったらしい。
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――まあ、直人は良い奴だしな。面と向かって正直にそんなこと言われてしまえば、恋愛に免疫のなさそうな七禍はクラッときてしまうのもわからなくはないが。
しかし、少し待てよ。そういえば、最初に七禍に会った時、気になる台詞を言っていた。
――「なるほどのう。妾としては気兼ねなく話せる相手ができると喜んでいたのじゃが、まあ仕方ないのう。それに、ライバルも減ったと受け止めるべきか」――と。
確か、俺が男だとわかったときに、そんなことを言っていたはず。
つまり、俺が女子だと何か彼女にとって不都合があるかもしれないわけで――例えば、恋のライバルが増えてしまう、的な。
「ははぁん、なるほど」
これは、そういうことらしい。
七禍め、以外と落とすまでに苦労しそうな人を選んだな。
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