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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第74話 3人のダンチューバー
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――そんな感じで、現在午後五時二十分。
撮影を終えた俺達は、私服姿で街へと繰り出していた。
ここは、最寄り駅付近の繁華街なのだが、随分と活気がある。
それもそのはず。ここは、センター・ダンジョンがある街だからだ。
日本全国に出現したダンジョンの中で、各都道府県において最も大きいものがセンター・ダンジョンとして認定されている。
当初こそ混乱はあったが、ダンジョン運営委員会が設立され、“生還の指輪”によって気軽にゲーム感覚でモンスター討伐や異世界にいるかのような体験ができる状況になってからは、センター・ダンジョンには多くの人が集まるようになった。
人が集まれば、利益に繋がる。
そんなこんなで、センター・ダンジョンのある街は、日本全国どこもかしこも例外なく、急速な発展を遂げた。
かつては寂れた田舎だった場所に、巨大なダンジョンが出現したことで、瞬く間に鉄道が通り、宿屋ができ、飲食店が生まれて繁華街へと発展していったのだ。
だから今は、ほとんどの都道府県でセンター・ダンジョンがある市や街は、政令指定都市と大差ない発展を遂げている。
今いる街の繁華街も、そういった大規模な再開発で生まれ変わった場所だった。
――まあ、ダンジョンが生まれたことでどういう経済効果が生まれたかなんて話は、高校1年である俺にとっては、わりとどうだっていい話なのだが。
「はぁ、まったく。いつ来ても好かんのう、この場所は。人間共が跋扈《ばっこ》しているのは、どうにも落ち着かん」
「単に人見知りなのではなく?」
「そこ、やかましいわ!!」
ぶつぶつ文句を言っていた七禍に対しツッコミを入れた直人に、すかさずツッコミ返す七禍。
ちなみに、今直人はマスクをしている。
プロのダンジョン冒険者は、何かと目立つ職業だ。知名度も高いが故に、バレる状態で外を出歩くのはリスクが付きまとう。
俺に関しては、特に変装などしていない。……まあ、強いて言うなら、普段と髪方を少し変えているくらいだろうか。
七禍に関しては、ちょっと大人びた女子中学生。
この子は変装の必要がないというか、ダンジョン冒険者としての姿がむしろ変装だからなぁ。
そんなことを考えているうちに、目的地であるしゃぶしゃぶ屋『シャブ=リーヌ二世』へやって来た。
ここは、チェーン店ではあるが、母体がダンジョン運営委員会のため、少し特異な経営方針をとっているらしい。
俺も詳しくはないが、例えばダンジョン運営委員会の職員が店員として入っている点とか。
とりあえず、母体が大きいだけに立派な建物であるのは間違い無かった。
ファミレスを一回り大きくした感じだ。
ただ、一つ言わせて欲しい。『シャブ=リーヌ二世』という名前だけは、もうちょっと、こう、なんとかならなかっただろうか?
「あれ? もう来ていますね」
ふと、直人が正面自動扉横の植え込み付近に、2人の女性(女子?)がいるのが見えた。
ひょっとすると、もしかして……
「あ、直人さんじゃないっすか。ちっす」
内1人、高校生くらいと思われる藍色の髪の女の子が、こちらに気付いて手を振り真柄近づいてきた。
赤い瞳と長いマツゲが特徴的な美少女だ。
ただ、その目を惹く容姿よりも一際目立ったのが。
「えーと……なんでレインコートなんです?」
俺は思わずそう突っ込んでいた。
天気は快晴。だというのに、若干青みがかった半透明のレインコート(なんとケモミミっぽいのがフードについている)を着込んでいる。
なんで晴れているのにレインコートを着ているのか、気になって仕方が無い。
「あん? あー、あなたは確か噂のアーチャーさんっすね。いや、ただのファッションすよファッション」
屈託なく笑いながら、高校生くらいの少女が答える。
なるほど、ファッションか。うん、よくわからん。
と、もう1人いた大学生くらいの女性が、こちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「ふぁひめまひへ。わらひはほんはいほほふひはいふぇ、ふぁんひふぉふほへはひへひははひはぅ――」
「え?……あの、なんて?」
俺は思わず聞き返してしまった。
黒髪ショートで、スカンクか何かのようにサイドに分けた髪を白く染めている、ゆるふわおっとり系の女性が目の前にいる。
ぺこりと頭を下げているからして、挨拶をしてくれているのだろう。
が――両手に串団子を大量に持って、頬張りながらでは何を言っているのかさっぱりわからん。
「こら、熊猫さん、ちゃんと飲み込んでからしゃべってくれなきゃ、困るでしょうよ」
呆れたように、レインコートの少女が言うと、ようやく熊猫さん? はもぐもぐと噛むスピードを速め、飲み込んだ。
「はじめまして~。私は今回の食事会で、幹事を務めさせて戴きますぅ~、大学二年の熊猫パンダです。よろしくねぇ」
「あ、はい。矢羽翔です。その……今回はお招き戴き、ありがとうございます」
「いいのよ~。あなたとは一度、ぱくん。はなひへみはいほおもっへはひ(話してみたいと思ってたし)」
「だぁ~もう! また食べ始めないでくださいっす!」
レインコートの少女が慌てて止めに入るが、白黒のワンピースに身を包んだおっとりパンダお姉さん(属性一つ追加)は、また団子を幸せそうに頬張っている。
「すみませんね。食いしん坊で食べてばかりっすけど、すごく面倒見がよくて良い人なんすよ、これでも」
「これでもって、酷くないですかぁ?」
むぅっと頬を膨らませる(半分は怒りでもう半分は団子を詰めた頬袋)、熊猫さん。
そんな年上女性に呆れた様子を見せつつ、レインコートの少女は俺に向き直った。
「挨拶が遅れました。ウチは栗落花梅雨っす。熊猫さん同様、本名じゃないっすけど……どうぞ、よろしくっす」
梅雨、と呼ばれる少女は、俺に手を差し出してきた。
第一印象は変な子だったけれど、どうやらわりと礼儀作法はきっちりしているらしい。
いや、七禍とか熊猫さんとか、いろいろぶっ飛んだ人が多くて、相対的に彼女がマシに見えるだけかもしれないが。
「これで全員揃いましたね。では、中へ――」
動向を窺っていた直人が、一同にそう促す。が。
「あ、待ってくださいっす直人さん。まだ、あと1人来るので」
「あと1人?」
梅雨さんの言葉に、怪訝そうに眉をひそめる直人。
そのときだった。
「ごめんなさ~い! 遅くなりました!」
息せき切って誰かが駆けてくる。
瑠璃色の長い髪に、琥珀色の瞳。活発でありながら清楚な雰囲気も漂う、一言で言えば華のある美少女。
行き交う人々の視線が、思わず彼女の方を向いてしまう、というくらいには。
「う、嘘……」
「な、なんじゃと?」
その少女を見たとたん、直人と七禍が、同時に目を剥いていた。
俺は「?」といった感じだが、その疑問はすぐに解決する。
控えめに映る薄青色のワンピースを纏った少女は、こちらへ駆けてくると挨拶をしてきた。
「こ、こんにちは。急遽参加させて戴くことになりました。ダンチューバーの南あさりです。よ、よろしくお願いします」
撮影を終えた俺達は、私服姿で街へと繰り出していた。
ここは、最寄り駅付近の繁華街なのだが、随分と活気がある。
それもそのはず。ここは、センター・ダンジョンがある街だからだ。
日本全国に出現したダンジョンの中で、各都道府県において最も大きいものがセンター・ダンジョンとして認定されている。
当初こそ混乱はあったが、ダンジョン運営委員会が設立され、“生還の指輪”によって気軽にゲーム感覚でモンスター討伐や異世界にいるかのような体験ができる状況になってからは、センター・ダンジョンには多くの人が集まるようになった。
人が集まれば、利益に繋がる。
そんなこんなで、センター・ダンジョンのある街は、日本全国どこもかしこも例外なく、急速な発展を遂げた。
かつては寂れた田舎だった場所に、巨大なダンジョンが出現したことで、瞬く間に鉄道が通り、宿屋ができ、飲食店が生まれて繁華街へと発展していったのだ。
だから今は、ほとんどの都道府県でセンター・ダンジョンがある市や街は、政令指定都市と大差ない発展を遂げている。
今いる街の繁華街も、そういった大規模な再開発で生まれ変わった場所だった。
――まあ、ダンジョンが生まれたことでどういう経済効果が生まれたかなんて話は、高校1年である俺にとっては、わりとどうだっていい話なのだが。
「はぁ、まったく。いつ来ても好かんのう、この場所は。人間共が跋扈《ばっこ》しているのは、どうにも落ち着かん」
「単に人見知りなのではなく?」
「そこ、やかましいわ!!」
ぶつぶつ文句を言っていた七禍に対しツッコミを入れた直人に、すかさずツッコミ返す七禍。
ちなみに、今直人はマスクをしている。
プロのダンジョン冒険者は、何かと目立つ職業だ。知名度も高いが故に、バレる状態で外を出歩くのはリスクが付きまとう。
俺に関しては、特に変装などしていない。……まあ、強いて言うなら、普段と髪方を少し変えているくらいだろうか。
七禍に関しては、ちょっと大人びた女子中学生。
この子は変装の必要がないというか、ダンジョン冒険者としての姿がむしろ変装だからなぁ。
そんなことを考えているうちに、目的地であるしゃぶしゃぶ屋『シャブ=リーヌ二世』へやって来た。
ここは、チェーン店ではあるが、母体がダンジョン運営委員会のため、少し特異な経営方針をとっているらしい。
俺も詳しくはないが、例えばダンジョン運営委員会の職員が店員として入っている点とか。
とりあえず、母体が大きいだけに立派な建物であるのは間違い無かった。
ファミレスを一回り大きくした感じだ。
ただ、一つ言わせて欲しい。『シャブ=リーヌ二世』という名前だけは、もうちょっと、こう、なんとかならなかっただろうか?
「あれ? もう来ていますね」
ふと、直人が正面自動扉横の植え込み付近に、2人の女性(女子?)がいるのが見えた。
ひょっとすると、もしかして……
「あ、直人さんじゃないっすか。ちっす」
内1人、高校生くらいと思われる藍色の髪の女の子が、こちらに気付いて手を振り真柄近づいてきた。
赤い瞳と長いマツゲが特徴的な美少女だ。
ただ、その目を惹く容姿よりも一際目立ったのが。
「えーと……なんでレインコートなんです?」
俺は思わずそう突っ込んでいた。
天気は快晴。だというのに、若干青みがかった半透明のレインコート(なんとケモミミっぽいのがフードについている)を着込んでいる。
なんで晴れているのにレインコートを着ているのか、気になって仕方が無い。
「あん? あー、あなたは確か噂のアーチャーさんっすね。いや、ただのファッションすよファッション」
屈託なく笑いながら、高校生くらいの少女が答える。
なるほど、ファッションか。うん、よくわからん。
と、もう1人いた大学生くらいの女性が、こちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「ふぁひめまひへ。わらひはほんはいほほふひはいふぇ、ふぁんひふぉふほへはひへひははひはぅ――」
「え?……あの、なんて?」
俺は思わず聞き返してしまった。
黒髪ショートで、スカンクか何かのようにサイドに分けた髪を白く染めている、ゆるふわおっとり系の女性が目の前にいる。
ぺこりと頭を下げているからして、挨拶をしてくれているのだろう。
が――両手に串団子を大量に持って、頬張りながらでは何を言っているのかさっぱりわからん。
「こら、熊猫さん、ちゃんと飲み込んでからしゃべってくれなきゃ、困るでしょうよ」
呆れたように、レインコートの少女が言うと、ようやく熊猫さん? はもぐもぐと噛むスピードを速め、飲み込んだ。
「はじめまして~。私は今回の食事会で、幹事を務めさせて戴きますぅ~、大学二年の熊猫パンダです。よろしくねぇ」
「あ、はい。矢羽翔です。その……今回はお招き戴き、ありがとうございます」
「いいのよ~。あなたとは一度、ぱくん。はなひへみはいほおもっへはひ(話してみたいと思ってたし)」
「だぁ~もう! また食べ始めないでくださいっす!」
レインコートの少女が慌てて止めに入るが、白黒のワンピースに身を包んだおっとりパンダお姉さん(属性一つ追加)は、また団子を幸せそうに頬張っている。
「すみませんね。食いしん坊で食べてばかりっすけど、すごく面倒見がよくて良い人なんすよ、これでも」
「これでもって、酷くないですかぁ?」
むぅっと頬を膨らませる(半分は怒りでもう半分は団子を詰めた頬袋)、熊猫さん。
そんな年上女性に呆れた様子を見せつつ、レインコートの少女は俺に向き直った。
「挨拶が遅れました。ウチは栗落花梅雨っす。熊猫さん同様、本名じゃないっすけど……どうぞ、よろしくっす」
梅雨、と呼ばれる少女は、俺に手を差し出してきた。
第一印象は変な子だったけれど、どうやらわりと礼儀作法はきっちりしているらしい。
いや、七禍とか熊猫さんとか、いろいろぶっ飛んだ人が多くて、相対的に彼女がマシに見えるだけかもしれないが。
「これで全員揃いましたね。では、中へ――」
動向を窺っていた直人が、一同にそう促す。が。
「あ、待ってくださいっす直人さん。まだ、あと1人来るので」
「あと1人?」
梅雨さんの言葉に、怪訝そうに眉をひそめる直人。
そのときだった。
「ごめんなさ~い! 遅くなりました!」
息せき切って誰かが駆けてくる。
瑠璃色の長い髪に、琥珀色の瞳。活発でありながら清楚な雰囲気も漂う、一言で言えば華のある美少女。
行き交う人々の視線が、思わず彼女の方を向いてしまう、というくらいには。
「う、嘘……」
「な、なんじゃと?」
その少女を見たとたん、直人と七禍が、同時に目を剥いていた。
俺は「?」といった感じだが、その疑問はすぐに解決する。
控えめに映る薄青色のワンピースを纏った少女は、こちらへ駆けてくると挨拶をしてきた。
「こ、こんにちは。急遽参加させて戴くことになりました。ダンチューバーの南あさりです。よ、よろしくお願いします」
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