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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編

第67話 中世イングランドの義賊

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「で、お兄ちゃん。衣装の方はどうなの?」

 ひとしきり揉みくちゃにされたあと、亜利沙はそう問いかけてきた。
 そうだった、衣装だ。
 元々はそれを届けるためだけに、乃花は我が家へ遙々訪れたのである。
 
「ちょっと開けてみるね」

 俺は紙袋を開け、中の衣装を取り出した。
 
「これって!」

 俺は思わず目を見開いた。
 中に入っていたのは、意外というか、「ああ、こういう方向性で来るんだ」的な衣装だった。
 先に言っておくが、ふりふりきゃるーん☆な衣装ではない。
 
 ただ、こう現代日本において学生やサラリーマンの着る制服やスーツなどといったもの、またはただの私服ともかけ離れていた。
 紛れもなく、衣装という言葉が正しい。

 学園祭でクラスの出し物として演劇をやるときにみんなで作る衣装のクオリティを、格段にアップさせた感じというか。
 舞台や時代劇などで、役者さんが着ているような雰囲気の服といった感じだ。

 基本の色は緑色。
 和風というよりは洋風の色が強く出た衣装で、どことなく昔読んだ絵本の登場人物めいた、ノスタルジーな雰囲気を感じさせる。
 
 確かにキラキラきゃるん♡な可愛さではないが、なんというか子ども受けしそうな、絵本の中の住人的な可愛さがある。
 具体体には、小学生に「がんばえー!」と応援されそうな感じの。

 くっ! やはり俺は「可愛い」雰囲気からは逃れられないのか!!
 いやまあ、フリル付きのスカートをひらひらさせながら戦う展開にはならなかったから、まだマシではあるが。

「この衣装……もしかしてロビンフッド?」

 CDの裏面のようなプリズム色に輝く羽がぴょこんと飛び出している帽子を手に取りながら、乃花は呟いた。

「ろびんふっど?」

 近くで衣装を眺めていた亜利沙が、可愛らしく小首を傾げる。
 ――あと、ついでに俺も。

「亜利沙ちゃんはともかく、なんでかっくんが知らないの! あなた弓使いでしょ!」

 乃花に軽く突っ込まれたが、知らないものは知らないのだ。
 俺、今は亡き父親に憧れて弓道とか始めただけだし、そもそもあんまり伝説上の人物とかに詳しいわけじゃないのだ。

 乃花は俺の方に帽子を渡しつつ、軽く説明をしてくれた。

「ロビンフッドっていうのは、中世イングランドの森に住む義賊のこと」

 なるほど、義賊か。
 悪代官や悪徳貴族みたいな、いわゆる裕福なヤツらから金品を奪い、貧しい者達に分け与えていた人達のことか。

 盗みは当然褒められる行為ではないが、単純な盗賊と違って、悪者を懲らしめて困っている人を助ける存在だ。
 、とでも言うべきか。

「それで、義賊ロビンフッドは、何より弓の名手として、古くから語り継がれてる」
「「へぇ~」」

 俺と亜利沙の声がハモる。

「で、潮江ちゃんはかっくんとその姿を重ねたんじゃない? 弓使いで、誰かのために頑張るヒーローってとこをさ」
「面と向かってそんなこと言われると、恥ずかしいけどな」

 俺は少々照れくさくて頬をかく。
 ロビンフッド。中世イングランドの義賊にして、弓の名手、か。
 潮江さんが丹精込めて作ってくれた衣装だ。ありがたく使わせて戴くことにしよう。

――。

 それから、なんだかんだで2時間くらい過ぎた。
 なんとなく話が弾んでしまい、気付いたらもうお昼時になっていた。

「そういえば、お腹が空いてきたな」

 何気なくその言葉を放った。……うん、地雷だった。

「「あ、なら私が作るよ!!」」

 約2名、同時に挙手をした。
 2人は互いに目を見合わせる。

「私、この家の専属料理長だから。お客さんは黙って料理長に任せておけばいいんだよ?」
「いや、私はここにお邪魔している身だし、何かしないと。料理だったら花嫁しゅぎょ――げふんげふん、よく作ってたから、得意だよ?」
「いやいや、でも知らない家の台所で料理するの大変だよ? いくら乃花ちゃんでも――」
「いやいやいや、亜利沙ちゃんは私の妹みたいなものだし、世話を焼くのはお姉ちゃんの仕事だよ?」
「いやいやいやいや――」
「いやいやいやいやいや――」

 ……。
 …………なんだこれ。

 さりげなく「かのん」から「乃花」呼びになっている亜利沙と、乃花の舌合戦が繰り広げられている。

 なんだろう。2人とも、一歩も退かない雰囲気がある。
 見つめ合う視線が死線になっているというか、バチバチ火花が散っているような錯覚が見えると言うか。

 これは、アレだ。
 「「私の方が上手く作れるんだよ!!」」(FIGHT!!) 的な感じになって、あれよあれよという間に料理勝負が始まって、俺が二人前の食事を食べてジャッジしなくてはいけなくなる感じだ。
 ラブコメ主人公お約束イベントって感じで、大抵「両方美味い」って言っとけばなんとかなりそうなシチュエーションだが……よく見ろ、今の彼女たちを。

 目は全く笑っていないし、なんか黒紫色のオーラが背後に見えるんDEATHですけど!?
 下手に「両方美味い」って言った瞬間、「「もっとしっかりジャッジして!!」」と、2人揃ってフライパンでぶん殴ってきてもなんら不思議じゃないくらいの迫力。
 より端的に言えば、俺の命が危ない。

「ストップストップスト~ップ!!」

 もう爆発しそうになっていた2人をギリギリ割り込んで止める俺。

「なに、お兄ちゃん。どっちが料理を作るか決まらないから、画期的なアイデア思いついたとこなのに」
「はい。どっちの料理が美味しいか、勝負しようと――」
「それはなし!! 今日のお昼は俺が作ります! なので喧嘩禁止!!」

 そう叫ぶと、少し面食らったような顔になる2人。
 だが――

「ま、まあ……お兄ちゃんの料理スキルがこれ以上上がって欲しくないけど、朝に続いてまた食べられるのだけは嬉しいし……? 私は、まあ仕方ないけどいいよ」
「わ、私も……かっくんの料理食べられるの、嬉しいかも」
「あの……俺が作るなら作るで、変に期待しないでくれない? 基本カップ麺も卵掛けごはんも手料理の枠に入れちゃう翔さんのハードルが跳ね上がるから本当に!!」

 そんな感じで、お昼ご飯は俺が作ることになった。

 ――。

 結果的に、2人にはチャーハンをご馳走することになった。
 それなりに美味くできたし、まあ及第点ということにしておこう。

 お昼を食べた後、乃花はお礼を言って帰っていった。
 ゴールデンウィークも終盤にして、なかなか濃い一日を過ごすことになったのだった。
 
 そして――いよいよ、プロの冒険者として活動する時がやって来る。
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