64 / 135
第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第64話 兄と妹
しおりを挟む
《翔視点》
5月初頭。
ゴールデンウィークも、明日で最終日となった。
休みというのは、本当に過ぎるのがはやい。
明後日から学校が始まり、俺にとっては新しい生活が幕を開ける。
“プロ冒険者としての活動”だ。
先日、ダンジョン運営委員会からのメールで、今週末の日曜に“新規冒険者を呼び込むための広告”を作るらしい。
そのために、ダンジョン冒険者の活躍をカメラに収め、いろいろとインタビューもするのだとか。
なんだかんだで、忙しくなりそうであった。
「それにしても、起きてくるの遅いな」
俺は、時計を見て呟く。
時刻は朝の九時半を回ったあたり。
基本的に休日でも朝の七時台には起きている俺である。そして、そんな俺よりも早く起きるのが亜利沙なのだが――今日は珍しくお寝坊さんだ。
きっと、疲れているのだろう。
そんなことを思いつつ、忙しい日々が始まる前の休日を味わうように、俺はソファへと深く身を沈めてテレビを流し見る。
ちなみに叔母さんは、今日も仕事である。
大人になるとゴールデンウィークも消え去るのか。
金色週間がもはや鈍色週間だ。
そんなことを思いつつ、ぼんやりとテレビを眺めていると、リビングへ通じる扉が開いた。
そして、勢いよく亜利沙が飛び込んでくる。
「おっはよー! 我が兄上!」
「おそよう。随分と爆睡してたみたいだね」
「や、やだ。お兄ちゃんたら、まさかなかなか起きてこない妹が心配で、無防備な女の子の部屋に突入してたとか言わないよね?」
「あほか。一々部屋に入って確認なんかしないよ」
わざとらしく自分の身を抱いて冗談を言う亜利沙に、俺は呆れつつツッコミを入れる。
相変わらず、朝っぱらからウルサイ妹だ。
「とにかく、我が家の台所担当、伊吹亜利沙が起床したからには最高の朝ご飯をお届けするよ!」
「朝ご飯ならもう食べたよ」
「…………」
笑顔のまま固まる亜利沙。
しばらくの間、なんとも言えない空白の時間が流れて――キジバトの鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。(ちなみに、キジバトの鳴き声は田舎でよく聞く『ホーホー、ホッホー』というくぐもった感じの懐かしのアレである)
そんな哀愁が漂ったあと、亜利沙はこほんと小さく咳払いして。
「よーし! 今から最高のブランチ作るよ! ブランチ! 朝ご飯とお昼ご飯の間とかいう、背徳感の募る時間帯の食事を!」
「……無理矢理話逸らしたよ、この子。しかも朝食を兼ねた昼食のはずだから、もう朝ご飯食べた以上、さらに食べる必要無いし」
俺は小さくため息をついたあと、どうしても朝ご飯を作りたくて仕方ないらしい我が家のシェフへ、ラップにくるんだ朝食を差し出した。
「ほら、お前の分」
「え? 私の?」
「ああ。お前も朝起きてこないし、叔母さんも朝早く出掛けちゃったから、俺が作っといた」
「なぁっ!?」
不意に亜利沙は目を大きく見開いて、ラップの掛けられた皿の上を凝視する。
「ば、ばかな……ハムエッグが出来上がっている……だとぅ!?」
「ハムエッグ一つでやけに大袈裟だな、おい。簡単な料理の代表格だと思うんだけど」
が、妹はそんな話を聞いちゃいない。
認めたくない現実を前にしたように、わなわなと肩を振るわせながら、
「そ、そんな! パンを黒焦げにして、野菜炒め一つとっても半生と黒焦げで立体的な温度感を演出するとかいう無駄に高度なことをしていたあのお兄ちゃんが、普通の料理を作れるようになっている、だと!?」
「バカにしてる? ねえ、絶対バカにしてるよね? お兄ちゃん泣いていい?」
ていうか、なんでそんなこと覚えてんだよ。
大前提として、俺は今「ああ、そういえば亜利沙に料理を作ってやったこともあったな」と思いだしたくらいだ。
「くっ、これじゃ私のアイデンティティが消失する! お、愚かだった。お兄ちゃんがいつまでも、アニメとかによく出てくる感じの料理下手完璧美人枠だと思っていたけど、お兄ちゃんだって人だから成長していくというのを忘れていた! 一生の不覚ぅうううううう!」
「だからハムエッグ一つで大袈裟だっつの」
この世の終わりみたいな感じで叫びつつ、ハムエッグはキッチリ頬張る妹である。
しかも、結構美味しそうに。
嫌なのか嬉しいのか、はっきりしないヤツだ。
と、そのとき。
ピンポーンと、玄関のインターホンが鳴った。
「誰だろう」
「あ、たぶんアレだ」
亜利沙は首を傾げているが、実は俺には心当たりがある。
実を言うと、連休に入る前。潮江かやから衣装が出来たら届けるから、もし大丈夫なら住所教えてと言われていたのだ。
学校で渡してもいいが、一応漫画とかを持ってくるのが校則で禁止されている以上、悪目立ちする衣装を学校で取引するのはよくないという判断かららしい。
もちろん、俺としても特に問題はないので、住所を伝えていたわけだ。
「はい~。いま行きます~」
俺はそう答えつつ、玄関の扉を開ける。
果たして、外に立っていたのは意外な人物だった。
いや、友人ということに変わりはないのだ。
ただ、その――想定していた人物と違っただけで。
金色の髪が風に揺れ、片手でそれを押さえるワンピース姿の少女。
高嶺乃花。
まさかの人物が、私服姿でそこにいた。
5月初頭。
ゴールデンウィークも、明日で最終日となった。
休みというのは、本当に過ぎるのがはやい。
明後日から学校が始まり、俺にとっては新しい生活が幕を開ける。
“プロ冒険者としての活動”だ。
先日、ダンジョン運営委員会からのメールで、今週末の日曜に“新規冒険者を呼び込むための広告”を作るらしい。
そのために、ダンジョン冒険者の活躍をカメラに収め、いろいろとインタビューもするのだとか。
なんだかんだで、忙しくなりそうであった。
「それにしても、起きてくるの遅いな」
俺は、時計を見て呟く。
時刻は朝の九時半を回ったあたり。
基本的に休日でも朝の七時台には起きている俺である。そして、そんな俺よりも早く起きるのが亜利沙なのだが――今日は珍しくお寝坊さんだ。
きっと、疲れているのだろう。
そんなことを思いつつ、忙しい日々が始まる前の休日を味わうように、俺はソファへと深く身を沈めてテレビを流し見る。
ちなみに叔母さんは、今日も仕事である。
大人になるとゴールデンウィークも消え去るのか。
金色週間がもはや鈍色週間だ。
そんなことを思いつつ、ぼんやりとテレビを眺めていると、リビングへ通じる扉が開いた。
そして、勢いよく亜利沙が飛び込んでくる。
「おっはよー! 我が兄上!」
「おそよう。随分と爆睡してたみたいだね」
「や、やだ。お兄ちゃんたら、まさかなかなか起きてこない妹が心配で、無防備な女の子の部屋に突入してたとか言わないよね?」
「あほか。一々部屋に入って確認なんかしないよ」
わざとらしく自分の身を抱いて冗談を言う亜利沙に、俺は呆れつつツッコミを入れる。
相変わらず、朝っぱらからウルサイ妹だ。
「とにかく、我が家の台所担当、伊吹亜利沙が起床したからには最高の朝ご飯をお届けするよ!」
「朝ご飯ならもう食べたよ」
「…………」
笑顔のまま固まる亜利沙。
しばらくの間、なんとも言えない空白の時間が流れて――キジバトの鳴き声がどこからともなく聞こえてくる。(ちなみに、キジバトの鳴き声は田舎でよく聞く『ホーホー、ホッホー』というくぐもった感じの懐かしのアレである)
そんな哀愁が漂ったあと、亜利沙はこほんと小さく咳払いして。
「よーし! 今から最高のブランチ作るよ! ブランチ! 朝ご飯とお昼ご飯の間とかいう、背徳感の募る時間帯の食事を!」
「……無理矢理話逸らしたよ、この子。しかも朝食を兼ねた昼食のはずだから、もう朝ご飯食べた以上、さらに食べる必要無いし」
俺は小さくため息をついたあと、どうしても朝ご飯を作りたくて仕方ないらしい我が家のシェフへ、ラップにくるんだ朝食を差し出した。
「ほら、お前の分」
「え? 私の?」
「ああ。お前も朝起きてこないし、叔母さんも朝早く出掛けちゃったから、俺が作っといた」
「なぁっ!?」
不意に亜利沙は目を大きく見開いて、ラップの掛けられた皿の上を凝視する。
「ば、ばかな……ハムエッグが出来上がっている……だとぅ!?」
「ハムエッグ一つでやけに大袈裟だな、おい。簡単な料理の代表格だと思うんだけど」
が、妹はそんな話を聞いちゃいない。
認めたくない現実を前にしたように、わなわなと肩を振るわせながら、
「そ、そんな! パンを黒焦げにして、野菜炒め一つとっても半生と黒焦げで立体的な温度感を演出するとかいう無駄に高度なことをしていたあのお兄ちゃんが、普通の料理を作れるようになっている、だと!?」
「バカにしてる? ねえ、絶対バカにしてるよね? お兄ちゃん泣いていい?」
ていうか、なんでそんなこと覚えてんだよ。
大前提として、俺は今「ああ、そういえば亜利沙に料理を作ってやったこともあったな」と思いだしたくらいだ。
「くっ、これじゃ私のアイデンティティが消失する! お、愚かだった。お兄ちゃんがいつまでも、アニメとかによく出てくる感じの料理下手完璧美人枠だと思っていたけど、お兄ちゃんだって人だから成長していくというのを忘れていた! 一生の不覚ぅうううううう!」
「だからハムエッグ一つで大袈裟だっつの」
この世の終わりみたいな感じで叫びつつ、ハムエッグはキッチリ頬張る妹である。
しかも、結構美味しそうに。
嫌なのか嬉しいのか、はっきりしないヤツだ。
と、そのとき。
ピンポーンと、玄関のインターホンが鳴った。
「誰だろう」
「あ、たぶんアレだ」
亜利沙は首を傾げているが、実は俺には心当たりがある。
実を言うと、連休に入る前。潮江かやから衣装が出来たら届けるから、もし大丈夫なら住所教えてと言われていたのだ。
学校で渡してもいいが、一応漫画とかを持ってくるのが校則で禁止されている以上、悪目立ちする衣装を学校で取引するのはよくないという判断かららしい。
もちろん、俺としても特に問題はないので、住所を伝えていたわけだ。
「はい~。いま行きます~」
俺はそう答えつつ、玄関の扉を開ける。
果たして、外に立っていたのは意外な人物だった。
いや、友人ということに変わりはないのだ。
ただ、その――想定していた人物と違っただけで。
金色の髪が風に揺れ、片手でそれを押さえるワンピース姿の少女。
高嶺乃花。
まさかの人物が、私服姿でそこにいた。
164
お気に入りに追加
597
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

異世界の英雄は美少女達と現実世界へと帰還するも、ダンジョン配信してバズったり特殊部隊として活躍するようです。
椿紅颯
ファンタジー
黒織秋兎(こくしきあきと)は異世界に召喚された人間だったが、危機を救い、英雄となって現実世界へと帰還を果たした。
ほどなくして実力試験を行い、様々な支援を受けられる代わりに『学園』と『特殊部隊』へ所属することを条件として提示され、それを受理することに。
しかし帰還後の世界は、秋兎が知っている場所とは異なっていた。
まさかのまさか、世界にダンジョンができてしまっていたのだ。
そして、オペレーターからの提案によりダンジョンで配信をすることになるのだが……その強さから、人類が未踏破の地を次々に開拓していってしまう!
そんな強すぎる彼ら彼女らは身の丈に合った生活を送りながら、ダンジョンの中では今まで通りの異世界と同じダンジョン探索を行っていく!

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる