【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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第三章 《ハンティング祭》の騒乱編

第57話 潮江かやの秘密

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《三人称視点》

 ――潮江かやという少女は、自分で自分が変わってしまったと自覚していた。
 昔はもっと、よく笑って、友達と過ごす時間を大事にする。そんな普通の少女だった気がする。

 では、いつからそんな自分が変わってしまったのか?
 何がきっかけで、笑顔を作ることを忘れてしまったのか?

――。
 
「ふぅ……」

 土曜日のお昼頃。
 バイト先のスタッフ専用の休憩部屋にて。
 白くい長方形の室内に、とりあえずといった感じで置いてある緑色のベンチに座りながら、潮江かやはため息をついていた。
 消臭材として置いてあるミントの香りが僅かに漂う室内は、ひどく無機質で見方によっては、プールの更衣室みたいだ。

(こんな華やかなお店でも、裏に回ればこんなものよね)

 少女は皮肉げに笑みを浮かべつつ、そんなことを思っていた。
 お店の特徴を考えれば、決して表には出せない侘しい空間。
 しかし、潮江はそんな場所がなんとなく今の自分にピッタリだと思えてしまう。

 彼女は、手元に持った小さいお茶のペットボトルを転がしながら、ぼんやりともの思いに更ける。
 
 ――彼女は、可愛いものが好きだった。
 お人形とか、おままごととか、魔法少女とかもそう。
 中でもとびきり好きだったのは、アニメやドラマなんかで出てくる、普通なら絶対着ないような可愛い服だったけれど。

 が、そういう“可愛いもの”に対する興味は、人によっては年齢が成長するごとに関心を失ってしまうものかもしれない。

 さながら、サンタクロースを布団の中で必至に眠気を我慢しながら待っていたあの頃の気持ちをいつの間にか失い、気付けばSNSで24日の真夜中に「サンタ業務終了!」という微笑ましい投稿をするパパサンタ・ママサンタをどこか遠くに感じながらスマホの画面をスクロールしているように。

 ある意味、幼い頃の趣味が大人になっても続いているという方が珍しいのかもしれない。
 とにかく、彼女は取り残されてしまった。
 ただ、自分が好きなものを好きでいただけなのに。
 今でも、かつて仲が良かったはずの友人達を家に招いたときの、嘲弄するような顔が脳裏にこびりついて離れない。

 ――「中2になってまだ、魔法少女とか好きなの? いやまあ、好きなら好きでいいけど……自分で衣装作るとか、ちょっと……ねぇ?」――
 ――「可愛いとか可愛くない以前に、痛いよ?」――
 ――「てゆーかさ、何このフリル付きのメイド服。真面目にキショいんだけど」――
 ――「うっわ、なにこのお姫様ドレス。マジでこんなの持ってる人いんのかよ。引くわー」
 ――「可愛いのが好きとか行ってるけどさ、ほんとは男子に媚び売りたいだけじゃないの?」――

(わかってる。ただ、先に夢から目が覚めたあっちが、いつまでも夢の世界から抜け出せないあたしを見て、ただ思ったことを言ってるだけだって)

 パキリと、手元から音が鳴る。
 感情の昂ぶりと共にヘコませたペットボトルが、悲鳴を上げたのだ。

 たぶん、友人は己の感覚に従うままにドン引きしていたのだろう。
 可愛い衣装が並ぶクローゼットを見て。その“可愛い”が“痛い”に変換されてしまって。
 それが、一般的で正しい意見だと言わんばかりに、責め立てて。

 だから彼女は、その日から自分の好きなものを他人に言うのが怖くなった。
 いや、本当は友人達にも声を大にして言いたかった。

 「人の好きなものをバカにするな!」と。「可愛いものが好きで何が悪い!」と。

 でも、友人達から一斉に冷めた目で見られたとき、振り絞ろうとした勇気が奥へと引っ込んでしまった。
 たぶん、それからだ。潮江かやという、ただ可愛いものが大好きなだけの少女から、笑顔が消えたのは。

 友人を作っても、好きなものを否定されるだけなら、そんな人間関係はいらない。欲しくない。
 ゆえに彼女は、自分の好きなものを誰にも否定させないために、一匹狼でいることを選択した。本当は、心の底から笑い合える仲間が欲しかったけれど。

 あんな思いをするくらいなら、自分1人で大切なものを守る。
 もう二度と、自分だけがこの世界から否定されたような、あんな空虚な思いは味わうものか。
 
 そう思っていたのに――君塚賀谷斗とかいうヤツにバレてしまった。

 友人と過ごすという選択肢を捨ててまで、好きなことに生きようとした自分の秘密が。
 寂しさを押し殺してまで守ってきた、自分の居場所が。
 だから、潮江は君塚の脅しに乗って協力をせざるを得なかった。秘密をばらされてしまえば、どんな噂を立てられ、学校の誰から否定され、嘲笑されるかもわからないから。

――。

「あら~。かやっち、ここにいたのねぇ」

 ドアを開け、入ってきた誰かの声で潮江かやの意識は現実に戻る。
 顔を上げると、そこにいたのはお店の店長だった。名前は古井万里果《ふるいまりか》。店長、と言ってもまだ二十代後半だ。
 
 ショートボブで栗色の髪が愛らしい、ゆるふわおっとりお姉さんといった感じの人だ。
 喜怒哀楽のうち、“怒”の要素だけが欠落していそうな外見だが、本人が一番気にしている「三十路《みそじ》」とか「アラサー」とかいう言葉をうっかり言った瞬間、般若《はんにゃ》と化す。
 女性に歳の話は厳禁なのだ。

 そんなゆるふわ母性たっぷり系の店長さんは、両手を顔の前に合わせて潮江かやへ言葉を投げかける。

「休憩中ごめんねぇ~。お昼時でお客さんが増えてきたから、ホールに入って欲しいかも。大丈夫ぅ?」
「はい。結構休んだので大丈夫です」
「そう? じゃあ、よろしくにゃん☆」

 古井は、片手で猫の手を作り、自身もホールへと消えていく。
 去り際、彼女の服の後ろから生えているが揺れていた。

 潮江は、今まで外していたを付けて、から生える猫の尻尾を揺らしながら休憩室を出る。

――。
 
「あ、かやっち! 7番テーブルのオーダーお願いね!」

 ホールに出ると、既に忙しそうに働いている店長が、潮江へ告げる。

「はい。店長」

 潮江は、今までのもやもやした気持ちを腫らすべく、一度深呼吸をして7番テーブルへ向かった。

「いらっしゃいませですにゃん! お客様! 《《メイド喫茶『fluffy fairyフラッフィー・フェアリー』》》へようこそ! 今週は『にゃん☆にゃんフェス』ということで、店員一同猫耳姿で接客しますにゃ! ご注文をお伺い――」

 慣れた調子でそこまで言って――ようやく潮江は気付く。
 4人がけのテーブル席に座っている3人のメンツに、控えめに言って見覚えがありすぎた。

 1人は学校のアイドルこと高嶺乃花。もう1人は、例の超有名弓使いである、息吹翔。そしてもう一人。

「お~! 猫耳メイド萌え~!」

 と、クラスメイトの猫耳メイド姿を見て宣っているバカ野郎は――八代英次だ。

「な、ななな、にゃんでここにぃいいいいいいいいいいいっ!?」

 なまじいつもの感覚で接客してしまったせいで、姿を思いっきり見られた潮江かやは、顔を真っ赤にして絶叫していた。
 
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