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第三章 《ハンティング祭》の騒乱編
第54話 天罰
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「うぉおおおおおおおおおマジか!」
「すげぇ! 生でSSランク冒険者の戦い見れた!」
「まだ鳥肌収まんない!!」
「チクショウ、録画しときゃよかった!」
「俺しといたぜ! あとでクラスPINEで共有するわ」
「マジ? さんきゅ!」
周りから歓声が上がる。
――うん、身バレする覚悟はあったから、この状況は仕方ないと思うんだが……どうやらネットで拡散されてしまうことは避けられないらしい。
この情報化社会、ある程度は妥協しなくてはならないと思うのだが、俺に肖像権とかプライバシーはないのだろうか?
ともかく、俺の前で堂々とネットに載せる発言が出来た度胸は認めてもいい。
「とりあえず、終わったな」
俺は弓を肩に掛けて、すぐ側で俯いている君塚(どうやら、意識は戻っているらしい)をちらりと横目で見つつ、踵を返す。
振り返った俺の方に、英次と乃花、それから応急の治療を終えた潮江さんがやって来た。
「おう、やったな翔。流石は俺の親友だぜ! 褒めて使わそう!」
「何様だよ」
俺は鋭くツッコミを入れ、改めて英次に礼を述べた。
「ありがとう。俺1人じゃ、潮江さんを守り切れなかった。お前が親友で、本当によかった」
「へっ、今更かよ」
英次は頭の後ろに手を回し、照れくさそうにそう答える。
「乃花も、ケガ人の誘導を手伝ってくれてありがとう」
「全然いいよ。むしろ、こんなことしかできなくて申し訳ないくらい」
乃花は、自身もケガ人であることを悔いるようにそう答えた。
なんだかんだ言って、彼女の度胸は凄まじい。
万全の状態なら、平気で弓矢を使って加勢くらいしてきそうな感じだ。
それから最後に、俺は潮江さんの方を向いた。
「……ごめん。俺が、正体を明かす決断を渋ったせいで、あなたに必要のない苦痛を与えてしまった。俺の身勝手な事情に、巻き込んでごめんなさい」
俺は、その場で頭を下げる。
興奮した周りの人間が、カメラを回したままみたいだが、そんなの関係ない。
俺自身の恥じを曝してでも、謝らなければいけないことなのだ。
潮江さんは、小さくため息をついて腕を組むと、やや乱暴な口調で答えた。
「いいわよ、別に。あれだけ話題にもなれば、正体をバラすのも怖いだろうし。だから、あんたが謝るのは筋違い。気にしなくていいわよ」
「……ありがとう」
「何感謝してんのよ、気持ち悪い。むしろ、助けて貰ったあたしの台詞なんですけど」
潮江さんは、若干呆れたようにそんなことを言った。
これにて、この騒動は終わり。そんな風に思っていたのだが――
「くそ……くそが!」
不意に、呪詛が聞こえてきた。
全員で振り返ると、その声の主は君塚だった。
「なんでだ。なんでこの俺が、こんな目に遭わなきゃならねぇ。俺は、頂点に立てる人間なんだ。Aランクの冒険者で、僕を効率的に使える、選ばれた人間なんだ! なのになんでだ、なんでこんな屈辱を味わわなきゃならないんだよぉおおおおおおおおおっ!!」
君塚の慟哭が寒々しく響くが、残念ながらこの場にいる誰の心にも響かない。
惨めだと嘲笑することはあっても、可哀想だと憐憫を抱くことはない。
こいつは、それだけのことをしているのだから。
「別に、これがお前って野郎の噛みしめるべき結末なんだろ」
俺が言葉を発する前に、英次が一歩君塚の方へ近づいて言った。
「惨めだな、お前。何が惨めって、自分の過ちを認められないことが惨めだ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 俺は今まで、こうやってなんでも手に入れてきた! 初めて、世界が俺を拒んだんだ! なんでだ、どこで狂った! 俺はいつも通りやってただけなのに、成功するはずだったのに!!」
英次の言葉を否定するように、裸の王様は喚き散らす。
どこで狂ったも何も、最初からおかしいままそれに気付けなかっただけだろうに。
だから、英次は惨めだと言ったことにも気付かないまま、君塚は放った。無自覚な悪意という、逆鱗に触れる爆弾を。
「そうだ……テメェだ! テメェがSSランクだとわかってたなら、こんなことにはならなかった!」
君塚は血走った目で、俺を指さす。
「それに、お前だけじゃねぇ! そこの女も、SSランクのフリしていやがった! 俺を慕ってた連中も、俺を見捨てて逃げやがった! 全部めちゃくちゃにしてやる! 俺を否定したヤツら全員、ぶっ壊して泣かせてやるっ!!」
唾を撒き散らしながら、君塚は叫ぶ。
――が、その発言は、俺の理性を今度こそ吹き飛ばすに十分過ぎた。
「テメェ等全員、地獄に――っ!」
次の瞬間、君塚の叫び声が止まった。
ドドドドドドドドドドドドドドッ! と、連続して音が炸裂する。
「――あ?」
君塚は、最初理解が追いつかなかったようだ。
恐る恐るといった様子で、横を見る。そのまま、恐怖で目を大きく見開いた。
君塚の身体をコンマ1ミリ避ける形で、迅速で放った10本以上の矢が背後の壁に深く突き刺さっていたからだ。
「もう、いい加減にしろ」
自分でも驚くくらい底冷えする声で、俺は無造作に構えていた弓の向こうにいる君塚を睨む。
「ひっ――!」
身体の型を切り取るように突き立った矢に覆われ、身動きがとれないまま君塚は喉を鳴らす。
ダラダラと脂汗を垂らす君塚へ近寄り、俺は告げた。
「お前さ? いつまで自分が正しいと思ってんだよ。ある意味すげぇよ。味方だと思ってたヤツに見捨てられて、モンスターに精神壊されそうになって。少しは反省してきたと思ったのに、なんも反省できてないんだな? 自分が苦しんだのは周りが悪いとか、よくもそんな寝言が言えるよ」
「お、俺は別に――」
何かを言おうとした君塚だが、“拡声”のスキルを付与した弓の弦を弾き、音の塊をぶつけて黙らせた。
「か、はっ!」
脳を揺さぶられた君塚は、口を半開きにしたまま言葉を封じられる。
「もうその口からなんも聞きたくないからさ、黙ってくれ」
こんな気持ちになるのは、豪気のバカをコテンパンに伸したとき以来か。
ほんと、もううんざりだ。
「お前は許さない。絶対に。この期に及んで誰かを傷つけるとかほざいてるお前は、絶対にだ」
俺は、弓矢を構える。
それと同時に、赤く輝く巨大な弓矢が空中に出現した。
ある意味、俺の奥義的位置づけにある、万物を焼き尽くす技――“落ちゆく太陽”。
それを、残りのMPを全て注ぎ込んで起動する。
「な、あ……!」
肥大化していく炎の塊を見上げ、君塚は震えるのも忘れて青ざめる。
何やら股間から湯気が出ている気がするが、まさかそんなもので慈悲を誘えるとでも思ってるのだろうか?
「ダンジョン内には、いくつかカメラがある。もちろん死角の方が圧倒的に多いから、逐一全部を観察できるわけじゃないけど、これだけ派手に暴れたんだ。お前の悪行の一つくらいは記録として残ってるだろ。それに――証人だっていくらでもいる。社会的にも、お前は詰んでるんだよ。お前がいくら我が身可愛さで自分は悪くないと訴えても、お前の悪行を知った人間は誰も許してくれない」
「っ!」
「ていうかさ――」
眩い死の光が輝く下。君塚から見たら逆光で黒いシルエットだけが浮かび上がっているであろう俺は、吐き捨てるように告げた。裸の王様に現実を突きつける、決定的な一言を。
「マナー違反にあたる他冒険者への攻撃も、違反行為に当たるダンジョン崩壊を起こす極大攻撃の発動も、誰1人止めようとしない時点で……お前の味方は、1人もいないよ」
「ア……」
その事実を突きつけられ、今度こそ君塚の心が崩壊する。
「や、やめ――」
「“落ちゆく太陽”」
慈悲を乞う言葉は、聞き届けなかった。
矢を放つモーションをした瞬間、空中に浮かぶ巨大な炎の弓矢から、極光が放たれた。
世界が、朱に染まる。
君塚の周りを取り囲む矢は一瞬にして溶けてなくなり、赤は君塚の輪郭を消滅させる。
たとえ救護室に転送されようが、この恐怖からは逃れられない。
それを証明するように、赤い光はただ無慈悲に、射線上にあるもの全てを消し飛ばした。
――哀れな裸の王様は、いっそ死にたくなるほど惨めな気持ちを抱えたまま、救護室に飛ばされる。
かくして、《ハンティング祭》の騒乱は、幕を閉じたのだった。
「すげぇ! 生でSSランク冒険者の戦い見れた!」
「まだ鳥肌収まんない!!」
「チクショウ、録画しときゃよかった!」
「俺しといたぜ! あとでクラスPINEで共有するわ」
「マジ? さんきゅ!」
周りから歓声が上がる。
――うん、身バレする覚悟はあったから、この状況は仕方ないと思うんだが……どうやらネットで拡散されてしまうことは避けられないらしい。
この情報化社会、ある程度は妥協しなくてはならないと思うのだが、俺に肖像権とかプライバシーはないのだろうか?
ともかく、俺の前で堂々とネットに載せる発言が出来た度胸は認めてもいい。
「とりあえず、終わったな」
俺は弓を肩に掛けて、すぐ側で俯いている君塚(どうやら、意識は戻っているらしい)をちらりと横目で見つつ、踵を返す。
振り返った俺の方に、英次と乃花、それから応急の治療を終えた潮江さんがやって来た。
「おう、やったな翔。流石は俺の親友だぜ! 褒めて使わそう!」
「何様だよ」
俺は鋭くツッコミを入れ、改めて英次に礼を述べた。
「ありがとう。俺1人じゃ、潮江さんを守り切れなかった。お前が親友で、本当によかった」
「へっ、今更かよ」
英次は頭の後ろに手を回し、照れくさそうにそう答える。
「乃花も、ケガ人の誘導を手伝ってくれてありがとう」
「全然いいよ。むしろ、こんなことしかできなくて申し訳ないくらい」
乃花は、自身もケガ人であることを悔いるようにそう答えた。
なんだかんだ言って、彼女の度胸は凄まじい。
万全の状態なら、平気で弓矢を使って加勢くらいしてきそうな感じだ。
それから最後に、俺は潮江さんの方を向いた。
「……ごめん。俺が、正体を明かす決断を渋ったせいで、あなたに必要のない苦痛を与えてしまった。俺の身勝手な事情に、巻き込んでごめんなさい」
俺は、その場で頭を下げる。
興奮した周りの人間が、カメラを回したままみたいだが、そんなの関係ない。
俺自身の恥じを曝してでも、謝らなければいけないことなのだ。
潮江さんは、小さくため息をついて腕を組むと、やや乱暴な口調で答えた。
「いいわよ、別に。あれだけ話題にもなれば、正体をバラすのも怖いだろうし。だから、あんたが謝るのは筋違い。気にしなくていいわよ」
「……ありがとう」
「何感謝してんのよ、気持ち悪い。むしろ、助けて貰ったあたしの台詞なんですけど」
潮江さんは、若干呆れたようにそんなことを言った。
これにて、この騒動は終わり。そんな風に思っていたのだが――
「くそ……くそが!」
不意に、呪詛が聞こえてきた。
全員で振り返ると、その声の主は君塚だった。
「なんでだ。なんでこの俺が、こんな目に遭わなきゃならねぇ。俺は、頂点に立てる人間なんだ。Aランクの冒険者で、僕を効率的に使える、選ばれた人間なんだ! なのになんでだ、なんでこんな屈辱を味わわなきゃならないんだよぉおおおおおおおおおっ!!」
君塚の慟哭が寒々しく響くが、残念ながらこの場にいる誰の心にも響かない。
惨めだと嘲笑することはあっても、可哀想だと憐憫を抱くことはない。
こいつは、それだけのことをしているのだから。
「別に、これがお前って野郎の噛みしめるべき結末なんだろ」
俺が言葉を発する前に、英次が一歩君塚の方へ近づいて言った。
「惨めだな、お前。何が惨めって、自分の過ちを認められないことが惨めだ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!! 俺は今まで、こうやってなんでも手に入れてきた! 初めて、世界が俺を拒んだんだ! なんでだ、どこで狂った! 俺はいつも通りやってただけなのに、成功するはずだったのに!!」
英次の言葉を否定するように、裸の王様は喚き散らす。
どこで狂ったも何も、最初からおかしいままそれに気付けなかっただけだろうに。
だから、英次は惨めだと言ったことにも気付かないまま、君塚は放った。無自覚な悪意という、逆鱗に触れる爆弾を。
「そうだ……テメェだ! テメェがSSランクだとわかってたなら、こんなことにはならなかった!」
君塚は血走った目で、俺を指さす。
「それに、お前だけじゃねぇ! そこの女も、SSランクのフリしていやがった! 俺を慕ってた連中も、俺を見捨てて逃げやがった! 全部めちゃくちゃにしてやる! 俺を否定したヤツら全員、ぶっ壊して泣かせてやるっ!!」
唾を撒き散らしながら、君塚は叫ぶ。
――が、その発言は、俺の理性を今度こそ吹き飛ばすに十分過ぎた。
「テメェ等全員、地獄に――っ!」
次の瞬間、君塚の叫び声が止まった。
ドドドドドドドドドドドドドドッ! と、連続して音が炸裂する。
「――あ?」
君塚は、最初理解が追いつかなかったようだ。
恐る恐るといった様子で、横を見る。そのまま、恐怖で目を大きく見開いた。
君塚の身体をコンマ1ミリ避ける形で、迅速で放った10本以上の矢が背後の壁に深く突き刺さっていたからだ。
「もう、いい加減にしろ」
自分でも驚くくらい底冷えする声で、俺は無造作に構えていた弓の向こうにいる君塚を睨む。
「ひっ――!」
身体の型を切り取るように突き立った矢に覆われ、身動きがとれないまま君塚は喉を鳴らす。
ダラダラと脂汗を垂らす君塚へ近寄り、俺は告げた。
「お前さ? いつまで自分が正しいと思ってんだよ。ある意味すげぇよ。味方だと思ってたヤツに見捨てられて、モンスターに精神壊されそうになって。少しは反省してきたと思ったのに、なんも反省できてないんだな? 自分が苦しんだのは周りが悪いとか、よくもそんな寝言が言えるよ」
「お、俺は別に――」
何かを言おうとした君塚だが、“拡声”のスキルを付与した弓の弦を弾き、音の塊をぶつけて黙らせた。
「か、はっ!」
脳を揺さぶられた君塚は、口を半開きにしたまま言葉を封じられる。
「もうその口からなんも聞きたくないからさ、黙ってくれ」
こんな気持ちになるのは、豪気のバカをコテンパンに伸したとき以来か。
ほんと、もううんざりだ。
「お前は許さない。絶対に。この期に及んで誰かを傷つけるとかほざいてるお前は、絶対にだ」
俺は、弓矢を構える。
それと同時に、赤く輝く巨大な弓矢が空中に出現した。
ある意味、俺の奥義的位置づけにある、万物を焼き尽くす技――“落ちゆく太陽”。
それを、残りのMPを全て注ぎ込んで起動する。
「な、あ……!」
肥大化していく炎の塊を見上げ、君塚は震えるのも忘れて青ざめる。
何やら股間から湯気が出ている気がするが、まさかそんなもので慈悲を誘えるとでも思ってるのだろうか?
「ダンジョン内には、いくつかカメラがある。もちろん死角の方が圧倒的に多いから、逐一全部を観察できるわけじゃないけど、これだけ派手に暴れたんだ。お前の悪行の一つくらいは記録として残ってるだろ。それに――証人だっていくらでもいる。社会的にも、お前は詰んでるんだよ。お前がいくら我が身可愛さで自分は悪くないと訴えても、お前の悪行を知った人間は誰も許してくれない」
「っ!」
「ていうかさ――」
眩い死の光が輝く下。君塚から見たら逆光で黒いシルエットだけが浮かび上がっているであろう俺は、吐き捨てるように告げた。裸の王様に現実を突きつける、決定的な一言を。
「マナー違反にあたる他冒険者への攻撃も、違反行為に当たるダンジョン崩壊を起こす極大攻撃の発動も、誰1人止めようとしない時点で……お前の味方は、1人もいないよ」
「ア……」
その事実を突きつけられ、今度こそ君塚の心が崩壊する。
「や、やめ――」
「“落ちゆく太陽”」
慈悲を乞う言葉は、聞き届けなかった。
矢を放つモーションをした瞬間、空中に浮かぶ巨大な炎の弓矢から、極光が放たれた。
世界が、朱に染まる。
君塚の周りを取り囲む矢は一瞬にして溶けてなくなり、赤は君塚の輪郭を消滅させる。
たとえ救護室に転送されようが、この恐怖からは逃れられない。
それを証明するように、赤い光はただ無慈悲に、射線上にあるもの全てを消し飛ばした。
――哀れな裸の王様は、いっそ死にたくなるほど惨めな気持ちを抱えたまま、救護室に飛ばされる。
かくして、《ハンティング祭》の騒乱は、幕を閉じたのだった。
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