【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

文字の大きさ
上 下
51 / 135
第三章 《ハンティング祭》の騒乱編

第51話 もう一人の英雄

しおりを挟む
 小手調べなどなし。俺は、全力で風属性の「魔法矢」をつがえ、放つ。

「“ウィンド・インパクト・アロー”!」

 刹那、風の塊が放たれ、際限なく迫り来る瘴気をまとめて吹き飛ばす。

「は? え」
「な、なにが起きた?」

 Sランクモンスターの放つ瘴気が、なぜか吹き散らされた。
 その事実に気付いた生徒達の視線は、当然その不可解な現象の出所を向く。すなわち、視線が俺に集中する。

「は……え? えええええええっ!?」
「な、なんで!? あれって、あ、ああ、あの人だよね? 今めっちゃ話題になってる」
「なんでここに……じゃあ、あの噂ってマジだったのか!?」
「うっそ! 例のアーチャーがウチの学校の生徒だってヤツ?」
「マジかよ……」

 これで、俺の退路は完全に塞がれた。
 あとは、前に進むのみだ。

「うぉおおおおおおっ!? おお、お前マジかよぉっ! ……いやまあ? 俺は最初っから、正体に気付いてたから驚かないけどな?(裏声) なんていうか、うん。お前には初めて会ったときから、なんかこう、覇気があったからな! うん!」
「嘘つけめちゃくちゃ驚いてたじゃねぇか」

 顎が外れそうなほどに口をあんぐりと開けている英次にジト目でツッコミを入れた俺は、英次とその隣にいる乃花へ必要なことを伝えた。

「瘴気を浴びた人を治療するために、誘導してほしい。誘導先はジョブが“回復師ヒーラー”の人でも、近くにある救護室でもどっちでもいい。専門職の解呪ディスペルなら、なんとかなるはずだ」
「わ、わかった!」
「なんとかする!」
「お願い」

 俺は短くそう告げて、己の敵の方を見据える。
 本当なら、「回復矢」みたいなのを天井に撃って、エリア回復――みたいなことをやりたいが、残念ながら“弓使いアーチャー”はそこまで万能でもない。
 餅は餅屋。専門職の方に任せた方が早いのだ。
 俺は、俺で――できることをすればいい。

 瘴気を吹き飛ばされたヴェノム・キング・デーモンが吠えた。
 次の瞬間、赤い目が俺を捕らえる。
 ゴーグルの中にあるディスプレイには、赤い目の周囲に「DANGER」の文字が躍る。
 
「させないよ!」

 俺は、自分の収穫物が入った袋から、ある植物をすかさず取り出す。
 黒いトマトのような実のついた、不思議なダンジョン植物。
 それを、めいいっぱい引っ張った弦にのせ、パチンコのように飛ばした。

 黒い実は、今まさに目を怪しく光らせて俺を睨みつけようとしたヴェノム・キング・デーモンの顔に激突した。
 ぐちゅりと音を立て、黒い実が破裂する。中から出てきた墨汁のような果汁が敵の赤い目にへばりつき、視界を遮った。

 目標を見失い、のたうち回るヴェノム・キング・デーモン。
 我武者羅に瘴気を撒き散らし、範囲攻撃で俺を仕留めようとする。
 地面を這うように迫り来る赤黒いガスを尻目に、俺はハープンガンとして使用している滑車つきの改造矢を高い天井めがけて放った。
 返しつきのやじりがダンジョンの天井に突き刺さると同時、俺は矢と繋がるロープを巻き上げ、一気に上へ上昇する。

 結果、地面を進む瘴気から難なく逃れた。
 俺を見つけられないでいるヴェノム・キング・デーモンが、胴体と繋がった頭を左右に振って俺を探しているのが眼下に見えた。

「悪いけど、その子を離してもらおうか。情けない俺のせいで、巻き込んでしまった分、ちゃんと謝らないといけないんでね」

 もちろん、この場合釈放して欲しいのは潮江かやの方だ。
 間違っても、君塚賀谷斗とかいうヤツじゃない。
 これがトロッコ問題で、どちらか片方を列車でひき殺さなくちゃいけないのなら、99%の人間が潮江さんを救う方を選ぶはずだ。

 が、これはトロッコ問題ではないし、私怨で君塚を殺すようなことができるはずもない。
 助けるのは不本意だが、そうする力があるのなら、やってやろう。
 
 俺はロープを掴んでいた手を離し、自由落下しながら矢を構える。
 
「属性は風、威力は大を収束させ、数は2――“ウィンド・インパクト・アロー”」

 渦巻く風の矢を、真下にいるヴェノム・キング・デーモンめがけて射る。
 通常、広範囲を巻き込む突風の戦鎚せんついを放つ“ウィンド・インパクト・アロー”の威力はそのままに、範囲を絞って貫通力を上昇させた。

 二本の矢は、狙い過たずヴェノム・キング・デーモンの腕の付け根を吹き飛ばす。
 あ、君塚のやつ、風の矢の威力を見て失神しやがった。

 泥のような両腕が引きちぎれ、2人の男女が地面に落ちていく。
 が、地面に激突する寸前、2人の落下速度が急激に落ちた。
 風の矢は地面に激突すると、辺りの瘴気を再度吹き飛ばした上で、勢いを逃すかのごとく上方向に吹いたのだ。
 結果、上昇する風に身体を包まれた2人は、肉体的ダメージなしに下へ落ちる。

 周囲から、歓声が上がった。
 恐怖の絶頂にいたはずの生徒達が、いつの間にかサーカスの綱渡りでも見るかのような目で俺を見ている。
 見世物じゃないんだけどな、などと思いながらも、俺は心のどこかで一件落着しそうなことに安堵していた。が――それは少々早計だったと思い知る。

「よし、これで……」

 風の矢の逆噴射で勢いを殺した俺は、ゆっくりと地面へ降りていく――が。
 そのときだった。
 不意に、ヴェノム・キング・デーモンの様子が変わった。
 
 吹き飛ばされた泥のような身体の一部が、腕の付け根へと勝手に戻って行く。
 それはまあ、いいのだ。
 問題は――ソイツの赤い目が、君塚と入れ替わるように目覚めた潮江さんを見下ろしていることだった。

 俺は知らなかったことだが、ヴェノム・キング・デーモンは人の負の感情に強く反応する。
 君塚が意識を失い、逆に目覚めた潮江かやは、恐怖というマイナスの感情で顔を真っ青にしていたのだ。

「ま、ず――っ!」

 サッと血の気が引く。
 俺はまだ空中にいる。このままでは、助けようにも間に合わない!
 
「待て――!」

 制止を呼びかけて、弓矢を向ける。が、それよりも早くヴェノム・キング・デーモンは、ただ無慈悲に紫色の瘴気を少女へ向かって放つ。
 ゴーグルのディスプレイに表示される効果は“激痛”。
 肉体的なダメージはゼロで、神経系だけを狂わせて全身が焼き付くような痛みを覚えたと錯覚させる凶悪な効果だ。

「くそっ! やめろぉおおお!」

 吠える俺だが、間に合わない。
 考えてみれば、最初から運命は決まっていたのだ。 
 俺は、自分の身勝手で一度彼女が理不尽に巻き込まれているのを見逃している。
 そんな俺に、彼女を助ける資格はないのだと、そう暗に告げられているようだった。

 俺は、潮江かやのヒーローじゃない。
 でも――それは、潮江さんが絶望に囚われる理由にはならなかった。
 潮江さんを紫の煙が包み込む寸前、彼女の背に覆い被さるようにして影が飛び込んだ。

「なっ!」

 驚く俺の前で、飛び込んだ影は瘴気の暴威から潮江さんを庇う。

「ぐっ、ぁああああああああああああああああっ!!」

 全身をのたうち回っているであろう激痛に、しかし歯を食いしばりソイツは耐える。
 飛び込んだ影は、少女にこれ以上の理不尽が降りかかることを許さない。
 
 ようやっと地面に降り立った俺は、同時にその影が誰なのかを知った。
 本来なら、後方で瘴気を浴びた者を治療場へ誘導しているはずの人物だった。
 それでも、1人の少女の危機に際して飛び出してくるような、そんな人間だった。

 ――俺は思い出す。
 俺は、潮江さんのヒーローにはなれない。
 でも、たった1人だけいたではないか。
 潮江さんが君塚とその取り巻きに囲まれ、言い寄られているとき――退

「や――」

 瘴気が晴れ、そのたくましい背中を見た俺は、反射的に叫んでいた。

「八代英次っ!!」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...