【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

文字の大きさ
上 下
45 / 135
第三章 《ハンティング祭》の騒乱編

第45話 さりとて空の青さも知らず

しおりを挟む
《三人称視点》

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 分身体ドッペルゲンガーに乗り移っていた意識が本体へと戻った瞬間、君塚は荒い息を吐いていた。
 物理的に、身体にダメージを喰らったわけではない。

 分身体ドッペルゲンガーは粉々にはじけ飛んだが、本体にフィードバックするダメージはないのだ。
 ただし、

「く、そ……っ!」

 悪態をつきつつ、君塚は近くの壁により掛かる。
 分身体が吹き飛ぶ一瞬前に、鼓膜が両方とも破れた。そのせいか、本体の鼓膜は無傷なのに酩酊感と吐き気が君塚を襲う。

 何より、圧倒的な力でプライドごと粉々に砕かれたという事実が、恐怖と憤怒の感情を伴って君塚を襲った。
 
「クソガァアアアアアアアッ!!」

 感情のままに君塚は吠える。
 周囲で、意識が分身体に移っている間の無防備な本体を守るように並んでいた取り巻き達が、狼狽えたように顔を見合わせた。

「か、賀谷斗さん? どうしました?」
「何か、不都合が……」

 そんな風に、機嫌を損ねぬようビクビクしながら問いかける声も、今の君塚には響かない。
 彼の頭の中は、得体の知れない力で為す術も無くやられたという恐怖と。
 何より、自分より強い者がこの世にいて、そいつに恐怖した事実に対し、激しい怒りを覚えていたのである。

「黙れ!」
「「「っ!!」」」

 その一喝で、数人の取り巻きが怯えたように肩を振るわせる。
 君塚は血走った目で、彼等の背後に控える1人の少女へ、唾を飛ばしながら叫んだ。

「おい、どういうことだ潮江かや! テメェ、俺を騙してやがったな!」
「そんなわけないでしょ。一体なんの話よ」

 潮江は、僅かに怯えた様子を見せながら、それでも気丈に振る舞った。
 元々、彼女は他人に対して強く当たるタイプの人間だったが、今は弱みを握られている。
 君塚の理不尽に対し、真っ向から対抗することができずにいた。
 それをいいことに、君塚は吠える。

「とぼけんな! テメェが、例のSSランク弓使いじゃなかった! 俺を騙しておもしろがっていたんだろ!!」
「それはあんたの早とちりよ! 最初に絡まれたとき、あたしは違うと言った!」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!!」

 君塚は、ヒステリックに叫ぶ。
 どう見ても、これは君塚賀谷斗が120%悪い。
 勝手に勘違いして、勝手に巻き込んで、勝手に自滅した。それを潮江かやのせいにするというのは、どう考えても道理があわない。

 が、ただでさえ狂った考え方で翔に勝負を挑んだ男が、プライドごとズタボロにされたのだ。
 それも、食い物にする予定だった獲物に、噛みつかれる形で。

 今までが順風満帆だったせいで、彼は初めての挫折が許せなかった。認められない、いや、絶対に認めるわけにはいかなかったのだ。
 今の君塚は、完全に理性のタガが外れている。
 人生で初めて味わった屈辱を、どんな手を使ってでも翔に返す。それしか、考えていなかった。

(焦るな。俺が持ち込んだ勝負はポイント対決。つまり、直接アイツを潰してゼロポイントにする必要はねぇわけだ)

 ここは、どんな手を使ってでも勝てばいいのだ。
 勝てばきっと溜飲が下がる。さっきのは、負けたことにはならない。
 そんな考えが、気休めになっていないと、頭に血が上った君塚は気付いていただろうか?

 君塚は、そばにまとめて置いてある、取り巻きに集めさせた鉱物やモンスターのドロップアイテムを見まわす。
 
(今のままじゃダメだ。もっと……調子に乗ったアイツを潰すためには、もっと大きなポイントがいる!! あの余裕面を泣きっ面に変えるくらいの、圧倒的なポイントが!!)

 そのためには、小さなモンスターや鉱物を刈っているだけではだめだ。
 誰もがあっと驚くような成果がなくてはならない。
 だとしたら――

「……もっと奥へ行くぞ。強力なモンスターを倒して、巨額のポイントを狩り尽くしてやる!」

 その宣言に、周りの取り巻き達からどよめきが上がった。

「そ、そんな……!」
「無茶ですよ! 君塚さんはともかく、俺達の実力はたかだかCランク――」
「黙ってろ!!」

 弱音を吐く連中を、君塚は一喝する。
 
「テメェらは援護だけしてろ! 俺の覇道の邪魔をすんじゃねぇ!」

 周りの制止も聞かず、君塚はダンジョンの最奥へと歩みを進める。
 既に、破滅のレールを歩んでいるとも知らず。

 井の中の蛙大海を知らず。
 狭い世界におり、外の世界を知らない者を指して言うこのことわざだが、実は続きがある。

 井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る。
 狭い世界にしかいなかったからこそ、一つの世界を極める。そういったポジティブな意味に転じるのだ。

 が、果たしてこのきみづかは、この狭い世界で何を見つけていたのか。
 広い世界を知り、何を学んだのか。
 否、そんなことを考えるまでもなく、何も考えていないからこそ、彼は破滅へとひた走る。

 空の青さをも知らぬ愚か者が、今度こそ完膚なきまでに敗北するときは、目前まで迫っていた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...