【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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第二章 弓使いと学校のアイドル編

第17話 胸に秘める思い

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《三人称視点》

「――まあ、こんな感じ?」

 話を終えた乃花は、長い髪の先端を弄りながら呟いた。
 そんなに長い間話していたわけではないのだが、ジュースの入ったグラスの周りは水滴で濡れていた。
 
「ふ~ん。にゃるほど、にゃるほど」

頬杖を突いて聞いていた真美は、ニヤニヤと笑いながら頷く。
そして――

「つまり、その一件で乃花はコロリと堕ちちゃったと」

 容赦なく核心を突いた。

「なっ! だ、だからそんなんじゃ――ッ!」

 慌てて否定する乃花だが、既に真美の中では確信に変わっているのか、「あーはいはい、そういうのもういいから」とテキトーにあしらった。

「で、その人とはなんか進展あったの?」
「それはまあ、学校が終わった後一緒に遊んだりはした」
「はぁ!? それだけ!? Hは!?」
「す、するわけないでしょ! まだ小学生だよっ!!」

 乃花は怒りと羞恥で顔を真っ赤にして否定した。

「ジョーダンだってジョーダン。そんな本気にするなって」

 真美はケラケラと笑いながら誤るが、正直悪いと思っているのかは謎だ。

「その様子じゃ、気持ちを伝える前に離ればなれになっちゃった感じか」
「……うん、まあ」
「いつか、その子に会えるといいね」
「――仮に会ったとして、向こうが覚えてくれてるとは限らないよ」
「乃花?」

 不意に乃花の表情に影が差したことで、真美は首を傾げる。

 1年Bクラスの息吹翔。
 彼に会ったとき、すぐにわかった。
 相変わらず女の子みたいな可愛らしい顔立ちをしていたし、何より――また例の小さな弓矢で助けてくれたから。

 でも、向こうが覚えていてくれるとは限らない。
 彼は、路地裏で泣いていた乃花の前に、英雄ヒーローのごとく舞い降りた。
 ヒーローとは、特定の誰かを助けるものではない。あれほどまでに優しくて強い人なら、乃花以外のたくさんの人間を助けていたとしても不思議じゃないのだ。
 彼にとって乃花は、無数に救った誰かのうちのモブAでしかないのかもしれない。

 それに――
 
――路地裏の一件以降、2人はすぐに仲良くなり、毎日遊ぶ仲になっていた。
 乃花は翔のことを「かっくん」と呼び、翔は乃花を「かのんちゃん」と呼んでいた。

 互いに信頼関係を築いていたが、ただ一つだけ。乃花は翔に嘘をついた。
 それは、

 これはただ、乃花のんかの順番を変えただけだが、乃花にとっては大きな意味を持っていた。
 “高嶺乃花”という名前に罪は無い。ただ、この名前のせいで散々嫌な思いをしてしまった。
 
 だから乃花は、自分の名前をバラすのが怖くなっていたのだ。
 共に過ごす中で親密になっていくほどに、息吹翔という存在に明確に惹かれていっている自分を自覚するほどに。

 もし本名を伝えたら、周りの人達と同じようにバカにするんじゃないか?
 息吹翔の人柄を見ればそんなのは有り得ないとわかっていながら、その恐怖に抗うことができなかった。
 大切な気持ちほど、裏切られるのが怖いから。

 それは、わずか一ヶ月後に唐突に訪れる別れのときまで、克服することができなかった。
 乃花の両親の都合で、今住んでいる地域に引っ越すことになった。
 最後まで、胸に抱いた恋心も、自分の本名も言えないまま、それっきり会うことも叶わなかったが――今日、思わぬ形で再会したのだった。

 でも、彼は私のことを覚えていないようだった。
 あの小さな弓矢で助けてくれたことが、昔助けてくれたときと同じで格好良かったから、「 」と素直に伝えたのだが――なぜか少し、困惑したような顔をしていた。

 そして、別れぎわのあの台詞。

 ――「さっき、俺のこと知ってるって言ったけど――それ、気のせいだと思います」――

 それを聞いたとき、乃花は思わず泣いてしまった。
 今思えば、すごく困らせてしまったと思う。

(そりゃ、覚えてろっていう方が無理あるよね。あれから、いつか再会したときに可愛いって思って貰いたくて、いろいろ頑張ったし。髪もロングにしたし。それに――本当の名前すら伝えてないんだから)

 だから、これは乃花自身が勝手に理想を抱いて、翔を困らせただけの話。
 でも――思った以上に、乃花の中で翔という存在は大きかったらしい。

「はぁ……」

 思わずため息をついてしまった乃花。
 正面に座る真美が、その仕草を見てわずかに眉根をよせる。

(失恋って、辛いなぁ……)

 乃花は、そもそも告白すらしていないことも忘れて、感傷に浸る。
 
 ――しかし、今の彼女は知らない。
 6年前、とある少女とともに過ごした時間が確かに存在したこと。その事実は、息吹翔の記憶に刻まれているということを。
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