上 下
15 / 123
第二章 弓使いと学校のアイドル編

第15話 ふたりの出会い《前編》

しおりを挟む
《三人称視点》

 6年前。
 山台高校のある地域から遠く離れた、とある街。
 当時、小学校四年生だった高嶺乃花《たかみねのんか》は、とある少年に出会うその日まで、お世辞でも楽しいとは言えない日々を送っていた。

――。

「な、なに……こんなとこへ呼び出して!」

 胸元に手を当て、声が震えそうになるのを必至に堪えながら、乃花は掠れた声で叫ぶ。
 乃花が思っていたよりずっと小さな声が、人気の無い路地裏に反響した。

「いやさ、ずっと思ってたんだけどさ……」

 彼女の正面に立っている少年が、薄ら笑いを浮かべながら一歩近づく。
 鼻にテーピングを施し、いかにも背伸びして不良ぶっている感じの少年で、乃花の隣のクラスのガキ大将――杉野荒太すぎのあらただ。

「お前、名前舐めてるよな?」
「え……?」
「はっ、とぼけてんじゃねぇよ」

 忌々しそうに舌打ちした荒太は、後ろに控えている二人の少年の方を振り返った。
 一人はそばかすでガリガリの少年。もう一人は、片耳に金色のピアスをつけた小太りの少年。
 乃花の知る限り、荒太にいつもくっついている取り巻き連中だ。

「お前らもそう思うだろ? 知ってるか? 高嶺の花って、憧れのものだけど遠くて手に入らないものって意味なんだぜ? つまり――」

 不意に荒太は乃花を振り返り、下卑た笑いを浮かべる。
 それから怯える乃花を、路地の壁に押しつけた。

「ぐっ! ちょ……やめて!」
「つまりこいつは、俺達平庶民にはつりあわない美人です~って、言いふらしながら歩いてるってことなんだぜ!」
「ギャハハハ! マジかよ、ありえねぇ!」
「流石に冗談がきついでやんす!」

 取り巻き2人は、その場で腹を抱えて笑い出した。

「べ、別にそんなこと言いたくて名前貰ったわけじゃない」
「そっかそっか。そりゃあ可哀想になぁ! ブスのくせに、大層な名前もらってよぉ。同情するぜ? まあ、そのお陰で俺達は楽しいけどさぁ!」

 ゲスじみた笑い声を上げ、荒太は乃花の短い髪の根元を掴むと、思いっきり引っ張った。
「い、痛い! 離して!」

 ぐいぐいと髪を引っ張る手を、乃花はなんとか引きはがそうとするが、恐怖のせいで力が入らない。

(もう、嫌だよ……なんでいつも、こんなことばっかり)

 乃花は恐怖で真っ白になりかけている頭でもの思う。

 別に乃花は、自分の名前が嫌いだと思ったことは今までない。
 親がくれた大切な名前だし、名前の響きだって可愛いと思う。でも……小学校3年生に上がる頃から、たまに名前で弄られるようになった。

 最初は、難しい言葉を使いたがる背伸び男子が、お遊びでからかっていただけだったが、やがてそれがエスカレートし、気付けばイジメにまで発展していた。

(なんで、こうなっちゃったんだろう。私は別に、自分のことを美人だって示したくて、この名前をもらったわけじゃないのに!)

 こうも酷いイジメが続くと、乃花は嫌でも思ってしまうのだ。
 必死に考えまいとしていたことを。自分の気に入っているものを、嫌いになっていく瞬間を感じながら。

(どうして、こんな名前にしちゃったの? こんな思いをするくらいなら、私はこんな名前、欲しくなかった!)

「なんだ泣いてんの? だらしねぇなぁ。いい名前じゃねぇか、高嶺の花ちゃん!」

 自分でも目尻に溜まっていた涙を目敏く見つけた荒太は、更に煽っていく。
 
「やめて……!」
「くはははははっ!! そりゃあやめて欲しいよな! 高貴な乃花様(笑)は俺達みたいな平庶民に触られたくないもんなぁ! 手に入らないから、高嶺の花のはずだもんなぁ!?」
「うぅ……」

 恐怖と屈辱で、視界が真っ白に染まる。取り巻き達のゲスな笑い声が不協和音を奏で、頭の中で暴れ回る。
 今度こそ、自分の名前を明確に嫌いになってしまった――そのときだった。

「あのさ。そういうのやめたら?」

 不意に、凜とした声が響いた。
 3人の不良達に囲まれ、乃花の方からは見えない路地の出口。
 その方向を荒太達3人が一斉に振り向いたことで、乃花の視界がわずかに開かれる。

「だ、れ……?」

 乃花は、思わずそう呟く。
 彼女の視線の先には、大通りから差し込む光を背負って、1人の子どもが立っていた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...