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第二章 弓使いと学校のアイドル編
第15話 ふたりの出会い《前編》
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《三人称視点》
6年前。
山台高校のある地域から遠く離れた、とある街。
当時、小学校四年生だった高嶺乃花《たかみねのんか》は、とある少年に出会うその日まで、お世辞でも楽しいとは言えない日々を送っていた。
――。
「な、なに……こんなとこへ呼び出して!」
胸元に手を当て、声が震えそうになるのを必至に堪えながら、乃花は掠れた声で叫ぶ。
乃花が思っていたよりずっと小さな声が、人気の無い路地裏に反響した。
「いやさ、ずっと思ってたんだけどさ……」
彼女の正面に立っている少年が、薄ら笑いを浮かべながら一歩近づく。
鼻にテーピングを施し、いかにも背伸びして不良ぶっている感じの少年で、乃花の隣のクラスのガキ大将――杉野荒太だ。
「お前、名前舐めてるよな?」
「え……?」
「はっ、とぼけてんじゃねぇよ」
忌々しそうに舌打ちした荒太は、後ろに控えている二人の少年の方を振り返った。
一人はそばかすでガリガリの少年。もう一人は、片耳に金色のピアスをつけた小太りの少年。
乃花の知る限り、荒太にいつもくっついている取り巻き連中だ。
「お前らもそう思うだろ? 知ってるか? 高嶺の花って、憧れのものだけど遠くて手に入らないものって意味なんだぜ? つまり――」
不意に荒太は乃花を振り返り、下卑た笑いを浮かべる。
それから怯える乃花を、路地の壁に押しつけた。
「ぐっ! ちょ……やめて!」
「つまりこいつは、俺達平庶民にはつりあわない美人です~って、言いふらしながら歩いてるってことなんだぜ!」
「ギャハハハ! マジかよ、ありえねぇ!」
「流石に冗談がきついでやんす!」
取り巻き2人は、その場で腹を抱えて笑い出した。
「べ、別にそんなこと言いたくて名前貰ったわけじゃない」
「そっかそっか。そりゃあ可哀想になぁ! ブスのくせに、大層な名前もらってよぉ。同情するぜ? まあ、そのお陰で俺達は楽しいけどさぁ!」
ゲスじみた笑い声を上げ、荒太は乃花の短い髪の根元を掴むと、思いっきり引っ張った。
「い、痛い! 離して!」
ぐいぐいと髪を引っ張る手を、乃花はなんとか引きはがそうとするが、恐怖のせいで力が入らない。
(もう、嫌だよ……なんでいつも、こんなことばっかり)
乃花は恐怖で真っ白になりかけている頭でもの思う。
別に乃花は、自分の名前が嫌いだと思ったことは今までない。
親がくれた大切な名前だし、名前の響きだって可愛いと思う。でも……小学校3年生に上がる頃から、たまに名前で弄られるようになった。
最初は、難しい言葉を使いたがる背伸び男子が、お遊びでからかっていただけだったが、やがてそれがエスカレートし、気付けばイジメにまで発展していた。
(なんで、こうなっちゃったんだろう。私は別に、自分のことを美人だって示したくて、この名前をもらったわけじゃないのに!)
こうも酷いイジメが続くと、乃花は嫌でも思ってしまうのだ。
必死に考えまいとしていたことを。自分の気に入っているものを、嫌いになっていく瞬間を感じながら。
(どうして、こんな名前にしちゃったの? こんな思いをするくらいなら、私はこんな名前、欲しくなかった!)
「なんだ泣いてんの? だらしねぇなぁ。いい名前じゃねぇか、高嶺の花ちゃん!」
自分でも目尻に溜まっていた涙を目敏く見つけた荒太は、更に煽っていく。
「やめて……!」
「くはははははっ!! そりゃあやめて欲しいよな! 高貴な乃花様(笑)は俺達みたいな平庶民に触られたくないもんなぁ! 手に入らないから、高嶺の花のはずだもんなぁ!?」
「うぅ……」
恐怖と屈辱で、視界が真っ白に染まる。取り巻き達のゲスな笑い声が不協和音を奏で、頭の中で暴れ回る。
今度こそ、自分の名前を明確に嫌いになってしまった――そのときだった。
「あのさ。そういうのやめたら?」
不意に、凜とした声が響いた。
3人の不良達に囲まれ、乃花の方からは見えない路地の出口。
その方向を荒太達3人が一斉に振り向いたことで、乃花の視界がわずかに開かれる。
「だ、れ……?」
乃花は、思わずそう呟く。
彼女の視線の先には、大通りから差し込む光を背負って、1人の子どもが立っていた。
6年前。
山台高校のある地域から遠く離れた、とある街。
当時、小学校四年生だった高嶺乃花《たかみねのんか》は、とある少年に出会うその日まで、お世辞でも楽しいとは言えない日々を送っていた。
――。
「な、なに……こんなとこへ呼び出して!」
胸元に手を当て、声が震えそうになるのを必至に堪えながら、乃花は掠れた声で叫ぶ。
乃花が思っていたよりずっと小さな声が、人気の無い路地裏に反響した。
「いやさ、ずっと思ってたんだけどさ……」
彼女の正面に立っている少年が、薄ら笑いを浮かべながら一歩近づく。
鼻にテーピングを施し、いかにも背伸びして不良ぶっている感じの少年で、乃花の隣のクラスのガキ大将――杉野荒太だ。
「お前、名前舐めてるよな?」
「え……?」
「はっ、とぼけてんじゃねぇよ」
忌々しそうに舌打ちした荒太は、後ろに控えている二人の少年の方を振り返った。
一人はそばかすでガリガリの少年。もう一人は、片耳に金色のピアスをつけた小太りの少年。
乃花の知る限り、荒太にいつもくっついている取り巻き連中だ。
「お前らもそう思うだろ? 知ってるか? 高嶺の花って、憧れのものだけど遠くて手に入らないものって意味なんだぜ? つまり――」
不意に荒太は乃花を振り返り、下卑た笑いを浮かべる。
それから怯える乃花を、路地の壁に押しつけた。
「ぐっ! ちょ……やめて!」
「つまりこいつは、俺達平庶民にはつりあわない美人です~って、言いふらしながら歩いてるってことなんだぜ!」
「ギャハハハ! マジかよ、ありえねぇ!」
「流石に冗談がきついでやんす!」
取り巻き2人は、その場で腹を抱えて笑い出した。
「べ、別にそんなこと言いたくて名前貰ったわけじゃない」
「そっかそっか。そりゃあ可哀想になぁ! ブスのくせに、大層な名前もらってよぉ。同情するぜ? まあ、そのお陰で俺達は楽しいけどさぁ!」
ゲスじみた笑い声を上げ、荒太は乃花の短い髪の根元を掴むと、思いっきり引っ張った。
「い、痛い! 離して!」
ぐいぐいと髪を引っ張る手を、乃花はなんとか引きはがそうとするが、恐怖のせいで力が入らない。
(もう、嫌だよ……なんでいつも、こんなことばっかり)
乃花は恐怖で真っ白になりかけている頭でもの思う。
別に乃花は、自分の名前が嫌いだと思ったことは今までない。
親がくれた大切な名前だし、名前の響きだって可愛いと思う。でも……小学校3年生に上がる頃から、たまに名前で弄られるようになった。
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必死に考えまいとしていたことを。自分の気に入っているものを、嫌いになっていく瞬間を感じながら。
(どうして、こんな名前にしちゃったの? こんな思いをするくらいなら、私はこんな名前、欲しくなかった!)
「なんだ泣いてんの? だらしねぇなぁ。いい名前じゃねぇか、高嶺の花ちゃん!」
自分でも目尻に溜まっていた涙を目敏く見つけた荒太は、更に煽っていく。
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「くはははははっ!! そりゃあやめて欲しいよな! 高貴な乃花様(笑)は俺達みたいな平庶民に触られたくないもんなぁ! 手に入らないから、高嶺の花のはずだもんなぁ!?」
「うぅ……」
恐怖と屈辱で、視界が真っ白に染まる。取り巻き達のゲスな笑い声が不協和音を奏で、頭の中で暴れ回る。
今度こそ、自分の名前を明確に嫌いになってしまった――そのときだった。
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「だ、れ……?」
乃花は、思わずそう呟く。
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