上 下
12 / 123
第二章 弓使いと学校のアイドル編

第12話 学校のアイドルに声をかけられた件

しおりを挟む
「いやどうしたよ翔。死んで一週間経った魚みたいな目してるぞ」

 朝。
 自分の席に座るなり、スライムばりに脱力して机に突っ伏していると、英次が声をかけてきた。

「そりゃ熟成が進んでていいな。魚は熟成すると旨みが増すらしいぞ。つまり俺のポテンシャルも通常時より跳ね上がってるわけだ」
「あーそう。ちなみに、熟成させるとタンパク質が分解されるから、柔らかくなるらしいぜ? 今のお前にぴったりだなこの軟体動物」

 ジト目で俺を見つつ、英次は前の席にどかりと腰を掛けた。
 そのまま俺の方を振り返り、背もたれを肘掛け代わりに腕を置くと、「何かあったのか?」と問いかけてきた。

「まあいろいろ?」
「はぐらかすなよ、教えろよ」
「……自分のコンプレックスに救われたっていう、釈然としない状況なんだよ」

 俺は素直にそう答えた。
 
 別に、自分の容姿が嫌いというわけではない。
 今はなき両親から受け取った大切なものだ。
 それに、世の中には「かわいい」と思われて嬉しい男子だっていくらでもいると思う。

だから、これはただ自分の容姿が理想の自分とかけ離れているが故の苦悩に過ぎない。
「男らしく思われたい」「頼りがいがある、兄らしい自分になりたい」
そんな気持ちでいるから、中学一年の頃まで「僕」だった一人称だって「俺」に変えたのだ。
なりたい自分のイメージを持っているから、今回の事態は釈然としないのである。

「ふ~ん、まあよくわかんねぇけど。強く生きろよー」
「うわ、軽いなお前。人が真剣に悩んでるのに」
「だって他人事だし。それよりお前、昨日のアレ見たか!?」

 不意に英次はテンションを上げ、俺に顔を近づけてくる。
 
「昨日のアレって、何?」
「何言ってんだ! アレっつったら、例のSランクパーティーを一人で返り討ちにした、アーチャーのことしかないだろ! もうSNSでバズりにバズってんぜ?」
「あー……なんかニュースで見たわ。凄かったらしいな」
「いや「あー……」って。軽いな~お前」
「そりゃまあ、他人事だし」

 ホントは自分事なんだけどね、と心の中でツッコミを入れる。

「いや他人事ではねぇだろ」

 英次のツッコミに、俺は一瞬ぎくりとする。
 まさかこいつ、俺の正体に気付いて!?

「昨日やられたそのSランクパーティー、【ボーンクラッシャー】なんだぜ? 豪気のクソ野郎にガム吐かれたお前からしたら、気分スッキリだろ」
「そ、そうだね」

 よかった。正体がバレたわけじゃないみたいだ。
 
「アイツもバカだよなぁ。あんな全国に恥をさらしたんだから」
「そうだね。ていうかこれ、もう学校に来れないでしょ」
「はは、確かに。まあ同情はしないけどな」

 英次は笑いながら楽しそうに言った。
 ある意味デジタルタトゥーをその身に刻むことになったわけだ。しばらくは大人しくするだろう。
 ただ、人の噂も七十五日。ほとぼりが冷めたらまた暴れ出すかもしれない。

 できればもう、関わりたくはないが――
 そんなことを思っていると、朝のSHRショートホームルームの開始を告げるチャイムが鳴ったのだった。

――。

 その日、学校は迷惑Sランクパーティーを葬った冒険者の話題で持ちきりだった。
 トイレ休憩で廊下に出れば、あちこちからその話題が聞こえてくる始末だ。

「ねぇ、あの動画見た?」
「見た見た! Sランクパーティーがまるで相手にならないなんて、凄いよねぇ! 私ファンになっちゃった」
「しかもさ、あの女の子絶対可愛いよね!」
「それな! カッコいいし可愛いし、もうギャップ萌え!」

 ――例によって性別を思いっきり勘違いされているが、そのお陰で俺にはまったく注目が集まらないから助かった。

 俺に関する話題の他に、当然のように悪役ヒールとして豪気の話題も耳にした。
 いくら根性捻くれ鋼鉄メンタルの豪気も、今回の件は思う所があったらしい。
 今日は学校に顔を出していない。
 まあ、廊下を歩いていると当たり前のように豪気を非難する声を聞くから、来ない方が正解だろうが。

 ――そんなこんなで一日が過ぎ、あっという間に放課後になった。
 が、今日はダンジョンには行く予定はない。
 理由は一つ。放課後の学校といえば、やるべきことは一つしか無いからだ。

 そう、部活動である。
 今日から仮入部が始まるのだ。

「弓道場ってどこにあるんだろうな……」

 教室等を出た俺は、弓道場を探してしばらく歩き回り――しばらくして、建物を見つけた。
 体育館裏に柔剣道場と並んで建てられている、平屋造りの建物だ。

 見たところ、俺の他に仮入部の一年生はいないようである。

 ダンジョンが敷地内にある本校の特性上、ダンジョン攻略部やダンジョン生態研究部など、ダンジョンが身近にあることを活かした部活が多く存在する。
 また、ダンジョン攻略を優先する生徒も多いため、そもそも部活に参加していない生徒もいるから、必然的に他の部活は寂れがちになってしまう。

 そのせいだろうか。幸い、俺が入りたい弓道部も部員自体かなり少ないようだ。
 俺が弓道部を選んだ理由は一つ。俺がアーチャーだからで――

「……ん?」

 そのとき、俺はふと重大なことに気付いた。
 ちょっと待てよ。ついつい無意識に弓道部に入ろうとしてるけど、俺が例の有名人アーチャーだとバレる可能性があるのでは?

「いや、流石に考えすぎか」

 現状、あのアーチャーは女の子だと思われているし、攻略中はゴーグルもしていた。
 学校にいる間は男子の制服を着ているわけだし、弓矢を使うという共通点だけでバレるとは思えない。
 現状でも、誰にも俺の正体はバレていないはずだ。

「大丈夫だ、うん」

 そう自分に言い聞かせ、弓道場の入り口の戸を潜ろうとしたそのとき。

「あ、あなたは」

 不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこにいたのは、目を見張るほどの美少女だった。
 艶やかな金髪に白い肌。吸い込まれそうなほどに深い、青色の瞳。
 清楚ながらどこか快活な雰囲気も漂うその少女には、見覚えがあった。つい先日、例の盗撮魔からさりげなく助けた子だ。

「えと……高嶺たかみねさん?」
「はい、そうです! あなたは隣のクラスの息吹翔くんですよね」
「は、はい。そうです」

 驚いた。学校のアイドル、高嶺乃花《たかみねのんか》が俺のフルネームを知っているとは。一度面識はあるが、自己紹介なんてしてないはずなのに。
 というかなんで、こんな場所にいるんだろうか。

 そんなことを考えていると、高嶺さんは嬉しそうに微笑んで――次の瞬間、衝撃的な発言をした。

「やっぱり、息吹さんは弓道部に入るんですね。使

 ……んっ!?
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スナッチ ボクに魔力はありません 王都学院の異端児

hakusuya
ファンタジー
 コーネル家唯一の男子として生まれたロアルドには生まれつき魔法の才がなかった。使える魔法なし、魔力ゼロ。あるのは意味不明の特性「スナッチ」。その卑怯なチートスキルは温厚で聡明なロアルドだから許されたものだった。  十二歳になったロアルドは父のコネで、三人の優秀な姉が通う王都学院に進学する。 「どろぼうだなんて、ちょっと借りるだけです」  そんなセリフを何度も口にすることになろうとは思いもしなかった。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...