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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第59話 登場。もう一人の勇者
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《レイズ視点》
悠然と佇むのは、ダークブルーの髪を肩まで伸ばした、小柄な女性だった。
金色の瞳は全てを見透かすように冴え渡っており、底知れぬ雰囲気を内包している。
一見、年端もいかぬ少女に見えるが――その正体を、俺はよく知っていた。
「アルマか。急に何の用だ」
俺は、少女に向かって問うた。
アルマ=ロンシェルク。
公国における最強の地位を持つ少女――すなわち、勇者だ。
俺達の組織がアリクレース公国を裏から牛耳っている以上、彼女とは協力関係にあるのだった。
「別に。暇だったから遊びにきただけだよ~」
アルマはカラカラと笑いながら、会議室に入ってくる。
それから、ザルツの隣――今は無き、《水龍》:ツォーン=レフィストスの席にどかりと腰を掛けた。
その姿が、何故か様になっているのが不思議だ。
まるでツォーンがそこに座っているような……いや、まるで彼女の中にツォーンの残滓が生きているような。
そんな雰囲気。
だが、それには触れず、俺は彼女に問うた。
「ふん。まあ、いいさ。それより、知っているとはどういうことだ?」
「そのままの意味だよ。私は、《友好舞踏会》の場にいたんだ。だから、何が起きたのか、全てとはいかないまでも、この目で見てきたんだ」
「「「何?」」」
四天王の三人が、同時に声を上げた。
「それが本当ならば、俺は貴様に幻滅したのである! 仲間が殺される姿を、むざむざと見ていたと言うのか!」
マルバスが、怒りも露わに机を叩く。
その姿を見ながら、アルマは飄々とした態度を崩さずに答えた。
「いや~、今はともかく、あのときの私じゃ勝ち目はなかったよ。こちらの計画を妨害した連中は組織単位で動いてた。それに、ざっと見ただけでもヤバい奴が四人はいたね。レーネ王女をどうやって逃がしたのかはわからないから、たぶんそっち方向でも他に強い仲間がいたはず。まあ、中でも問題なのは……紫色がパーソナルカラーの、仮面の男かな」
そう聞いた瞬間、俺は驚く。
だが、他の者どもに反応はない。
当然だろう。
紫色の、仮面の男。
それに心当たりがあるのは、俺だけなのだから。
俺は思い出す。
半年前、俺に喧嘩を吹っかけてきた男。
大して強くもなく、苦戦すらしなかった男を。
なのに、あの男のことを今でもはっきりと覚えているのは、あいつの中に底知れぬ“何か”を感じたからだ。
仮面の奥で光る信念に満ちた黄金色の瞳は、広範囲殲滅魔法の《終末ノ焔》を受けてなお、不屈に不敵に輝いていた。
《極光閃》で、奴隷少女二人諸共この世から消し去ったと思っていたが、まさかあいつが生きていた……?
いや、あいつならあり得る。
この俺に、底知れぬ恐怖を与えたほどの男だ。生きていても不思議じゃない。
「あの男の強さだけは別格だよ。見ていた限り、《水龍》の兄さんを一方的に蹂躙してた」
「なんなの。それほどまでに、そいつは強いの?」
「うん。私も試しに、王国の勇者アリスに、負の方向に精神を鼓舞する魔法をどさくさに紛れてエンチャントして、彼と戦わせた。でも、まるで通用しなかった。まさに紫色の帝王。すえ恐ろしかったよ」
メイヴェルの問いに、わざとらしく身震いして見せながら答えるアルマ。
その様子から、本気で恐れていなさそうなのが気がかりだが、今はそんなことを気にしている場ではない。
「紫色の帝王……《紫帝》か。厄介なヤツが敵に回ったものだね」
俺は、小さくため息をつく。
「そうだね。その部下達も厄介だと思ったけど。戦闘が少なくて、内包する魔力量や一瞬見せた技量で、強さを暫定的にはかるしかなかった」
「そんなことはどうでもいいのである!」
ドンッと、再びマルバスが机を叩く。
「貴様はさっき、その《紫帝》を知っていると言ったな? 心当たりがあるのであろう、だれなんだ?」
「ああ、それは知らないよ」
アルマは、「私もそこまで万能じゃないよ~」と笑いながら言った。
だが――いかんせん、この女は底知れない。
ウチの最高戦力が集まるこの場で、不遜な態度をとれる精神力からもわかる通り、この女は謎が多いのだ。
それが証拠に――彼女の話は、肩すかしでは終わらなかった。
「でも、彼の部下達の中に、私が知っている人物がいたよ」
「誰だ?」
そう問い返すと、アルマはにかっと剛胆に笑みを浮かべて、答えた。
「フロルって女の子と……落ちぶれた《剣聖》リーナだよ」
悠然と佇むのは、ダークブルーの髪を肩まで伸ばした、小柄な女性だった。
金色の瞳は全てを見透かすように冴え渡っており、底知れぬ雰囲気を内包している。
一見、年端もいかぬ少女に見えるが――その正体を、俺はよく知っていた。
「アルマか。急に何の用だ」
俺は、少女に向かって問うた。
アルマ=ロンシェルク。
公国における最強の地位を持つ少女――すなわち、勇者だ。
俺達の組織がアリクレース公国を裏から牛耳っている以上、彼女とは協力関係にあるのだった。
「別に。暇だったから遊びにきただけだよ~」
アルマはカラカラと笑いながら、会議室に入ってくる。
それから、ザルツの隣――今は無き、《水龍》:ツォーン=レフィストスの席にどかりと腰を掛けた。
その姿が、何故か様になっているのが不思議だ。
まるでツォーンがそこに座っているような……いや、まるで彼女の中にツォーンの残滓が生きているような。
そんな雰囲気。
だが、それには触れず、俺は彼女に問うた。
「ふん。まあ、いいさ。それより、知っているとはどういうことだ?」
「そのままの意味だよ。私は、《友好舞踏会》の場にいたんだ。だから、何が起きたのか、全てとはいかないまでも、この目で見てきたんだ」
「「「何?」」」
四天王の三人が、同時に声を上げた。
「それが本当ならば、俺は貴様に幻滅したのである! 仲間が殺される姿を、むざむざと見ていたと言うのか!」
マルバスが、怒りも露わに机を叩く。
その姿を見ながら、アルマは飄々とした態度を崩さずに答えた。
「いや~、今はともかく、あのときの私じゃ勝ち目はなかったよ。こちらの計画を妨害した連中は組織単位で動いてた。それに、ざっと見ただけでもヤバい奴が四人はいたね。レーネ王女をどうやって逃がしたのかはわからないから、たぶんそっち方向でも他に強い仲間がいたはず。まあ、中でも問題なのは……紫色がパーソナルカラーの、仮面の男かな」
そう聞いた瞬間、俺は驚く。
だが、他の者どもに反応はない。
当然だろう。
紫色の、仮面の男。
それに心当たりがあるのは、俺だけなのだから。
俺は思い出す。
半年前、俺に喧嘩を吹っかけてきた男。
大して強くもなく、苦戦すらしなかった男を。
なのに、あの男のことを今でもはっきりと覚えているのは、あいつの中に底知れぬ“何か”を感じたからだ。
仮面の奥で光る信念に満ちた黄金色の瞳は、広範囲殲滅魔法の《終末ノ焔》を受けてなお、不屈に不敵に輝いていた。
《極光閃》で、奴隷少女二人諸共この世から消し去ったと思っていたが、まさかあいつが生きていた……?
いや、あいつならあり得る。
この俺に、底知れぬ恐怖を与えたほどの男だ。生きていても不思議じゃない。
「あの男の強さだけは別格だよ。見ていた限り、《水龍》の兄さんを一方的に蹂躙してた」
「なんなの。それほどまでに、そいつは強いの?」
「うん。私も試しに、王国の勇者アリスに、負の方向に精神を鼓舞する魔法をどさくさに紛れてエンチャントして、彼と戦わせた。でも、まるで通用しなかった。まさに紫色の帝王。すえ恐ろしかったよ」
メイヴェルの問いに、わざとらしく身震いして見せながら答えるアルマ。
その様子から、本気で恐れていなさそうなのが気がかりだが、今はそんなことを気にしている場ではない。
「紫色の帝王……《紫帝》か。厄介なヤツが敵に回ったものだね」
俺は、小さくため息をつく。
「そうだね。その部下達も厄介だと思ったけど。戦闘が少なくて、内包する魔力量や一瞬見せた技量で、強さを暫定的にはかるしかなかった」
「そんなことはどうでもいいのである!」
ドンッと、再びマルバスが机を叩く。
「貴様はさっき、その《紫帝》を知っていると言ったな? 心当たりがあるのであろう、だれなんだ?」
「ああ、それは知らないよ」
アルマは、「私もそこまで万能じゃないよ~」と笑いながら言った。
だが――いかんせん、この女は底知れない。
ウチの最高戦力が集まるこの場で、不遜な態度をとれる精神力からもわかる通り、この女は謎が多いのだ。
それが証拠に――彼女の話は、肩すかしでは終わらなかった。
「でも、彼の部下達の中に、私が知っている人物がいたよ」
「誰だ?」
そう問い返すと、アルマはにかっと剛胆に笑みを浮かべて、答えた。
「フロルって女の子と……落ちぶれた《剣聖》リーナだよ」
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