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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第58話 緊急会議
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《レイズ視点》
――《黒の皚鳥》本部。
その、無駄に広い会議室にて。
凹の字に並べられた机の上座に座り、俺は苛立ちを募らせていた。
「クソがッ!」
ガン!
机の脚を乱暴に蹴飛ばすと、この場に集まった人達がビクリと肩を振るわせた。
これは、予定に無かった緊急会議。
本来であれば、今頃は作戦の成功を祝す宴を開催している――そのはずだったのに。
この場には今、ウザったいまでに重苦しい空気が流れている。
「おい、さっさと報告しろ」
既に伝聞で粗方の状況は聞いていたが、今一度、俺は情報伝達担当の部下に発言を促した。
この場にいる全員に、起きたことを伝えるために。
「は、はい。本日開催された《友好舞踏会》において、作戦に参加していた公国の剣士団25名と、構成員29名が忽然と姿を消し――代表であるツォーン=レフィストス様の遺体が発見されました」
瞬間、会議室にどよめきが走った。
「それは誠であるか!」
俺から見て右手前に座っていた、黄土色の髪を逆立たせた筋骨隆々の男が、怒鳴りつけるように言った。
四天王 《土虎》:マルバス=アルバーレだ。
「はい、残念ながら。作戦の成功を伝える信号が、いつまで経っても発信されず――何者かの手により、殺されたものと」
「あり得ぬ! ヤツは我と同じ四天王であるぞ! 何かの間違いである!」
憤るように犬歯をむき出しにして、烈火に燃える瞳を細める。
と、そんなマルバスに水を差すように、冷ややかに言い捨てる者がいた。
「ふん。あの子は調子に乗りすぎていたのよ。自業自得なのよ」
そう言い放ったのは、マルバスの奥に座っている深紅に燃える髪を持つ、小柄の少女だ。
透き通るような肌に、尖った耳。
派手な印象を与える割りに、どこか氷のような冷たさを感じさせる。
《火鳥》:メイヴェル=メギアドル。
彼女もまた、四天王の一柱を担う者だ。
「貴様は少し薄情であるぞ! 仲間の死を悼み、慈しむ。四天王たるもの、心持ちも大切なのではないか?」
「ウルサイのよ。気持ちがどうであれ、負けているアイツが悪いのよ」
赤い瞳で睨み返すメイヴェル。
そんな二人の会話に、更にもう一人、マルバスの向かいに座っている男が割り込んでくる。
「まあまあ。二人とも落ち着いて。喧嘩はダメ、ね」
宥めるようにそう言った優男は、《風鯨》:ザルツ=ウィーンズ。
薄緑色の髪をうなじ辺りで括り、丸メガネの奥で輝く理知的な紺色の瞳が特徴の彼は、好戦的な四天王には珍しく温厚。
だが、戦闘技能は他にひけをとらない。
「あのツォーンが負けたというのは、正直僕も信じられない」
「そうである! だから俺達でツォーンを潰した野郎を見つけ出して、殺してやるのである!」
「落ち着いて、マルバス! どうやって見つけるって言うのさ。それに、たとえ見つけたとしても、今の僕達が動くのはリスクが――」
「ああ、してやられたね」
俺は、ぼそりと呟いた。
そのとたん、いがみ合っていた三人が口を閉じ、俺の方を見る。
「ザルツの言う通り、俺達は行動を封じられた。今回のことで、王国側も俺達に害意ありと認識されたことだろう。ツォーンを下した相手となると、秘密裏に処理することは不可能。少なくとも、大部隊の派遣を余儀なくされるだろうね。ただ――」
「王国が俺達の動きを警戒し始めた今、好きなように動けないのであるな?」
「そういうことだ」
マルバスの答えに、頷いて返す。
「そこの君、王国の動きを教えろ」
俺は、報告役の男に発言を促した。
「は、はい! 王国で偵察を行っている者からの連絡によれば、速やかに騎士団を動かしているとのこと。国境付近の警備も固め、今後警戒が強まるものと予想されます」
「やはりか」
今回の作戦は、最悪な形で失敗した。
王国への宣戦布告が失敗しただけに留まらず、第三者の介入があり、その上で最高戦力の一角が崩された。
王国とは一触即発の状態。
その上で、意図しない第三者にも警戒を裂かねばならない。
どちらか一方では無く、両方に注意を裂かねばならない状況に立たされた。
それにしても――
「今回の妨害、手際があまりにも鮮やかすぎる。こちらが今日仕掛けることを、予め知っていたとしか思えない」
「僕達の組織に、裏切り者がいるのでしょうか?」
「その可能性は否定できないね」
ザルツの意見に首肯する。
だが、裏切ったとしても、誰が? 何の目的で?
この組織は、行く当ても帰る場所もない絶望に彩られた者達が集う場所。
ここ以外に居場所がないことを知っているから、そう簡単に裏切るとは思えないのだが。
「ツォーンを潰した野郎を見つけ出すっていう、マルバスの意見には賛成さ。誰かがわかれば、今後の対策も考えられる。今すぐには潰せないだろうが、折を見て潰すためにも知っておきたいことだ」
「でも、アタイにも心当たりがないのよ」
「そうである、それが問題であるのだ」
メイヴェルの発言に、大きく頷くマルバス。
と、そのときだった。
「それなら、私が知ってるよ」
不意に、会議室に声が響いてきた。
「誰だ?」
「くせ者であるな!」
一斉に声のした方を見る俺達。
いつの間にか――扉の前に、誰かが立っていた。
――《黒の皚鳥》本部。
その、無駄に広い会議室にて。
凹の字に並べられた机の上座に座り、俺は苛立ちを募らせていた。
「クソがッ!」
ガン!
机の脚を乱暴に蹴飛ばすと、この場に集まった人達がビクリと肩を振るわせた。
これは、予定に無かった緊急会議。
本来であれば、今頃は作戦の成功を祝す宴を開催している――そのはずだったのに。
この場には今、ウザったいまでに重苦しい空気が流れている。
「おい、さっさと報告しろ」
既に伝聞で粗方の状況は聞いていたが、今一度、俺は情報伝達担当の部下に発言を促した。
この場にいる全員に、起きたことを伝えるために。
「は、はい。本日開催された《友好舞踏会》において、作戦に参加していた公国の剣士団25名と、構成員29名が忽然と姿を消し――代表であるツォーン=レフィストス様の遺体が発見されました」
瞬間、会議室にどよめきが走った。
「それは誠であるか!」
俺から見て右手前に座っていた、黄土色の髪を逆立たせた筋骨隆々の男が、怒鳴りつけるように言った。
四天王 《土虎》:マルバス=アルバーレだ。
「はい、残念ながら。作戦の成功を伝える信号が、いつまで経っても発信されず――何者かの手により、殺されたものと」
「あり得ぬ! ヤツは我と同じ四天王であるぞ! 何かの間違いである!」
憤るように犬歯をむき出しにして、烈火に燃える瞳を細める。
と、そんなマルバスに水を差すように、冷ややかに言い捨てる者がいた。
「ふん。あの子は調子に乗りすぎていたのよ。自業自得なのよ」
そう言い放ったのは、マルバスの奥に座っている深紅に燃える髪を持つ、小柄の少女だ。
透き通るような肌に、尖った耳。
派手な印象を与える割りに、どこか氷のような冷たさを感じさせる。
《火鳥》:メイヴェル=メギアドル。
彼女もまた、四天王の一柱を担う者だ。
「貴様は少し薄情であるぞ! 仲間の死を悼み、慈しむ。四天王たるもの、心持ちも大切なのではないか?」
「ウルサイのよ。気持ちがどうであれ、負けているアイツが悪いのよ」
赤い瞳で睨み返すメイヴェル。
そんな二人の会話に、更にもう一人、マルバスの向かいに座っている男が割り込んでくる。
「まあまあ。二人とも落ち着いて。喧嘩はダメ、ね」
宥めるようにそう言った優男は、《風鯨》:ザルツ=ウィーンズ。
薄緑色の髪をうなじ辺りで括り、丸メガネの奥で輝く理知的な紺色の瞳が特徴の彼は、好戦的な四天王には珍しく温厚。
だが、戦闘技能は他にひけをとらない。
「あのツォーンが負けたというのは、正直僕も信じられない」
「そうである! だから俺達でツォーンを潰した野郎を見つけ出して、殺してやるのである!」
「落ち着いて、マルバス! どうやって見つけるって言うのさ。それに、たとえ見つけたとしても、今の僕達が動くのはリスクが――」
「ああ、してやられたね」
俺は、ぼそりと呟いた。
そのとたん、いがみ合っていた三人が口を閉じ、俺の方を見る。
「ザルツの言う通り、俺達は行動を封じられた。今回のことで、王国側も俺達に害意ありと認識されたことだろう。ツォーンを下した相手となると、秘密裏に処理することは不可能。少なくとも、大部隊の派遣を余儀なくされるだろうね。ただ――」
「王国が俺達の動きを警戒し始めた今、好きなように動けないのであるな?」
「そういうことだ」
マルバスの答えに、頷いて返す。
「そこの君、王国の動きを教えろ」
俺は、報告役の男に発言を促した。
「は、はい! 王国で偵察を行っている者からの連絡によれば、速やかに騎士団を動かしているとのこと。国境付近の警備も固め、今後警戒が強まるものと予想されます」
「やはりか」
今回の作戦は、最悪な形で失敗した。
王国への宣戦布告が失敗しただけに留まらず、第三者の介入があり、その上で最高戦力の一角が崩された。
王国とは一触即発の状態。
その上で、意図しない第三者にも警戒を裂かねばならない。
どちらか一方では無く、両方に注意を裂かねばならない状況に立たされた。
それにしても――
「今回の妨害、手際があまりにも鮮やかすぎる。こちらが今日仕掛けることを、予め知っていたとしか思えない」
「僕達の組織に、裏切り者がいるのでしょうか?」
「その可能性は否定できないね」
ザルツの意見に首肯する。
だが、裏切ったとしても、誰が? 何の目的で?
この組織は、行く当ても帰る場所もない絶望に彩られた者達が集う場所。
ここ以外に居場所がないことを知っているから、そう簡単に裏切るとは思えないのだが。
「ツォーンを潰した野郎を見つけ出すっていう、マルバスの意見には賛成さ。誰かがわかれば、今後の対策も考えられる。今すぐには潰せないだろうが、折を見て潰すためにも知っておきたいことだ」
「でも、アタイにも心当たりがないのよ」
「そうである、それが問題であるのだ」
メイヴェルの発言に、大きく頷くマルバス。
と、そのときだった。
「それなら、私が知ってるよ」
不意に、会議室に声が響いてきた。
「誰だ?」
「くせ者であるな!」
一斉に声のした方を見る俺達。
いつの間にか――扉の前に、誰かが立っていた。
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