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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第57話 リーナの秘密と、俺の魔力

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「それにしても……この部屋暗いな」

「あ、おぬし今話を逸らしたな?」



 ジト目で睨んでくるリーナを華麗にスルーし、俺は辺りを見まわす。

 四隅にある明かりと、怪しげな薬品が薄緑色に光っているだけ。

 どう見ても、マッドサイエンティストの研究室にしか見えない。



「やっぱり、ヴァンパイアだからか?」

「普通のヴァンパイアと一緒にするでない。わしに弱点などないのじゃぞ」



 リーナは、「不敬な」と言いたげに鼻を鳴らした。



「いや。お前が日光を問題としないことは知っているさ。だから、そういう意味じゃない。本能で暗闇の方が落ち着くのかって聞いただけだ」

「ふん。まあ、明るい場所よりは暗いところの方が好きじゃな」



 リーナは、機嫌こそ損ねたままだがそう答えた。



 吸血鬼の弱点は、日光。

 故に、夜にしか活動できない種族だ。

 

 ただし、リーナは《剣聖》として力を振るっていた200年前から、日光を問題としていなかった。



 リーナはヴァンパイアでありながら“特殊”だ。

 普通の眷属ではなく黒影《こくえい》と呼ばれる不死身の人形を眷属として操り、人の生き血を必要とせず、日光まで平気としている。



 それは、ひとえに彼女が持つ並外れた魔法センスに他ならない。



 操作しやすい黒影を配下として操り、そいつらが取り込んだ空気中の“生気”を糧としているから、血を啜る必要が無い。

 そればかりか、普通の食事から栄養を摂取することさえできる。



 日光に関しては、彼女の全身に、目には見えない薄い闇の魔力膜を展開しており、それで防いでいるのだ。

 言うなれば、全身が常に影に入っている状態と言っていい。

 だから、直射日光を受けることがないのだ。



 俺が魔法の面で彼女に頼るのも、絶対的な信頼があるからだった。

 

「落ち着くという他に、研究室が暗い理由はあるのか?」

「強いて言えば、魔法の研究を目で確認するときに、色の変化がわかりやすいからじゃな。魔力の光の僅かな変化も、暗闇ならば気付きやすい」

「なるほどな」



 リーナなりに、いろいろ考えているようだ。

 見た目は幼いのに、凄いヤツだよホント。

 俺は、改めてリーナが仲間になってくれてよかったと思うのだった。



「そういや……俺も相当魔力量が増えたんだったな」



 ここ半年間の訓練で、大物を討伐したわけではないものの、地道にレベルを上げていた。

 その上で今日、俺はツォーンを打ち負かした。

 勇者アリスに関しては、彼女が負けを認めたわけでもなく、単に自滅しただけだからレベルが上昇した雰囲気がない。



 だが――それでも凄まじく強くなってしまったような気がする。



「普段魔力を封印して、ステータスを詐称してるからな。実際どうなんだろう」



 そのとき、俺はほんの興味本位のつもりでいた。

 魔法に詳しいリーナと話していて、なんとなく気になっただけ。

 その“なんとなく”という理由で、俺は中指に嵌めている《紫苑の指輪》に手を掛け――引き抜いた。



「っ! お、おぬし! 何をしておる、やめるのじゃ――ッ!」

「へ?」



 俺の行動に気付いたリーナが声をかけるも、もう遅い。

 《紫苑の指輪》は、俺の手から完全に外れ――次の瞬間。



 もの凄い魔力の波動が、俺を台風の目にして吹き荒れた。

 逆巻く藤色の魔力風まりょくふうが、研究室内を蹂躙する。



「は、え、ちょ……エェッ!?」



 予想だにしなかった事態に、狼狽える俺。

 その間にも、研究室に置かれていた薬品やら本が全部吹き飛ばされ、窓ガラスが悉く割れ砕ける。



「ば、馬鹿者! はやくソレをはめなおすのじゃ!」



 机の縁につかまり、吹き飛ばされまいと耐えながら。リーナが叫んだ。



「お、おう!」



 言われるがまま、《紫苑の指輪》をはめなおす。

 すると、荒れ狂う魔力風が嘘のように収まり、静けさが訪れた。

 倒れた瓶からしたたる薬品が、床をひたひたと叩く音だけが小さく響き渡る。



「まったく、とんでもないことをしてくれたのう……」



 リーナは、フラフラと俺の方まで歩いてくると、忠告してきた。



「おぬし、今まで《ステータス詐称》の闇属性魔法で魔力オーラを抑えておったんじゃろう。それを消したんだから、魔力が暴れるのも当然じゃ。ちっとは考えんか!」

「す、すいません。まさかこうなるとは思わず……」



 思わず敬語になってしまう。

 

 リーナが言ったことを俺なりに解釈すると、ガスの元栓を開けたまま火を付けずにいた状態だったようだ。

 垂れ流し状態の魔力を無理矢理抑えていた《紫苑の指輪》を外すことで、既に高レベルに達している俺の本来のオーラが外に噴出してしまったのだと言う。



 だが、そうすると疑問が残る。

 フロルなんかは、出会った当初俺と同じくらいのオーラを有していた。

 なのに、あれから大幅に強くなった今でも、そこまで外に出ているオーラの強さは変わらない。

 俺だけが、凄まじいオーラを放ってしまったことに説明が付かないと思うのだが。

 

 そう聞いたら、流石はリーナ先生。驚くほど的確に答えをくれた。



 どうやら、この世界の人間はレベル50を越えた辺りで、魔力操作の能力が格段に向上するらしい。

 だから、放出する魔力のオーラも、自然に身体が適応して、ある程度抑え込み、コントロールすることができるんだとか。



 一方俺は、《紫苑の指輪》がもつ《状態異常スペシャル》の力で、《ステータス詐称》を常に自分にかけている。



 要するに、本来の魔力を平時では自動で抑えて貰っていたのだ。

 その結果、抑えた状態が通常の状態だと身体が錯覚してしまい、本来の魔力を解放した今、オーラが溢れ出してしまったのだろう、とのこと。



 久々に自分のステータスを確認したところ。



◆◆◆◆◆◆



 名前:カイム=ローウェン

 年齢:17→18

 性別:男

 職業:新組織帝王 



 レベル:452→667

 体力:84000→130800

 魔力:109900→162000



 スキル:《鑑定眼》 《索敵》 《火球フレア・ボール》 《土形変化ソイル・チェンジ》 《石弾ロック・バレット》 《風刃エア・カッター》 《暴風乱テンペスト》 《疾風足ジェット・ラン》 《空間移動ワープ》 《回復リカバリー》 《解呪ディスペル》 《色彩変化》 《魔力障壁マジック・フィールド》 《異物摘出エクストラクション》 《魔力通信》 《空間把握》 《幻影イリュージョン》 《紫炎(火属性魔法+《状態異常スペシャル》)》

状態異常スペシャル》で生んだ闇属性魔法一覧:《金縛り》 《概念消滅》 《ステータス詐称》 《記憶改変》 《変声》 《魔力相殺暗号アンチ・コード》 《液化》



◆◆◆◆◆◆



 あー、とんでもないことになっていた。

 しれっと誕生日を迎えていたことはスルーするとして、魔力量16万越えか。

 確かに、ステータスを無理矢理抑えていたとなると、身体がこの魔力量に慣れていなくて、さっきの惨事が起きたのも納得である。



 幸い、《紫苑の指輪》を外して2、3日過ごせば、自然とオーラを抑え込むことができるようになると言う。

 少しずつ、身体を慣らしていこうと思ったのだった。
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