いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一

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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第54話 勇者への言葉

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「っざけんなこのやろーっ!」



 野郎じゃないけど、というツッコミは心の奥底に押しとどめる。



「さっきから聞いてりゃ、存在意義だの、レーネ王女に相応しい人間だの、つまらない理由こじつけて来やがって!」

「ハァッ、ハァッ! つまらない理由、だと……ッ」

「ああ、そうだよ!」



 俺は、休みなく放たれる斬撃をかいくぐりながら叫ぶ。

 と同時に《紫炎弓箭しえんきゅうせん》を構え、弓柄ゆがらの一端をつまんで引き絞った。

 

 過去二回の射撃と同じように、引き絞るのに合わせて紫色の矢が生成される。

 だが、これまでと違う点はその本数だ。

 数十本の矢が、弓のしなりに合わせて扇状に広がる。



「《紫炎弓箭》――檜扇ひおうぎっ!」



 右手を離した瞬間、無数の矢が放たれる。

 紫色の雨が花咲くように宙を舞い、アリスの放つ無数の斬撃と激突する。

 瞬間、《概念消滅》の状態異常が発動し、斬撃は一つ残らず消え去った。



「なっ!」



 驚愕に目を剥くアリス。

 状態異常はアリス本人と装備品には効かないが、一度彼女の手を離れたものには作用する。

 だから、飛来する斬撃は打ち消すことができるのだ。



「レーネ王女に相応しい人間になりたいんなら、あんたはこんなところで何やってんだよ!」



 攻撃の手を止めたアリスに、俺はすかさず怒鳴りつける。



「よくわからん自己満足に躍起になりやがって。お前のプライドがズタボロなのはわかってるさ。けどな、お前の守るべき人はまだ生きてんだよ!」

「ッ!」



 俺の言葉に、アリスは少し怯んだ様子を見せる。

 

 俺だけが知っている正史。

 それは、彼女が命をかけて守ると誓った人間が亡くなった世界だ。

 もし、俺がレーネ王女を救えなかったのなら、恨み節の一つも受け入れてやるだろう。



 だが、俺の生きるこの世界ではレーネ王女が死んでいない。

 自分の情けなさに激怒して、俺という人間に嫉妬している暇があるのなら、アリスはすべきことを見据えるべきなのだ。



「お前が今すべきことはなんだ! 俺に感情をぶつけることじゃないだろう! まだ生きている大切な主君を、今度こそ己が手で守ることでしょうが!」

「わ、私は……ッ!」

「自分の命をかける場面を、履き違えるな!」

「私はぁあああああああッ!!」



 アリスは絶叫し、行き場のない感情をぶつけるように聖剣を振り上げる。

 その刀身に、真っ赤な魔力が集っていき――



「! やめろ! そんなに剣へ力を送ったら、干からびて死ぬぞ!!」

「私は……私が弱いから、貴様のような男に遅れをとって……! 私が強かったら、王女を不安にさせることもなかったのにぃいいいいッ!!」



 明らかに異常なまでの、負の感情の増幅。

 たぶん、俺の言葉は届いている。自身の過ちにも気付きつつあるはずだ。

 なのに、振り上げた剣を下ろせないでいるのは……外部から何かしらの干渉を受けている可能性がある。



 負の感情を利用されて、暴走するよう仕向けられている。

 そんな嫌な気配すら感じるが――



 だが、そんなのは後回しでいい。

 今、俺がすべきことは――後悔に染まるにはまだ早い彼女を、狂気から救い出すことだ。



 だから俺は、拳を握りしめて一直線に彼女の元へ駆け出すのだ。



 地面を蹴り飛ばし、彼女の元へ接近する。

 

「ゲホッ、ゴホッ! ハァアアアアアアッ!」



 吐血しながらも、アリスは剣に魔力と生命力を込めていく。

 もう立っていられる力も残っていないのか、膝をつき、目も虚ろになって――

 もう、意識を失う寸前だ。



 このまま攻撃を放てば、剣は彼女の生命ちからの全てを吸い取って――彼女は死に至るだろう。



「私、は……レーネ様のため……に……貴様を許すわけ、には……ッ!」

「だったら、くだらない矜恃に命賭けてんじゃねぇッ! お前主人公だろぉッ!」



 俺は、絶叫するように問いかける。

 その瞬間、アリスの瞳に光が戻りかける。

 俺の言葉が届いた――そんな雰囲気。



 だが、次の瞬間。

 剣が力を解放するように禍々しい光を放ちながら、ゆっくりと振り下ろされる。



「させるかよッ!」



 俺は、剣が振り下ろされる前に彼女の懐に入り、手を伸ばした。

 魔力を掌に集めて簡易防御結界のようにし、振り下ろされかけた剣を受け止める。

 そして、魔力を全開にして魔法を起動した。



「《解呪ディスペル》ッ!!」



 《解呪ディスペル》。

 奴隷時代のフロル達の首にはめられたチョーカー――隷属の首輪にかけられた呪いの魔法も消した、無属性魔法だ。



 それを起動したことで、聖剣にエンチャントされた《解放ブースト》兼、《命喰イケニエ》の魔法陣を破壊する。



 パリィイインッ!

 ガラスが割れ砕けるような音を立て、魔法陣が粉々に砕け散る。

 その瞬間、溢れていた力も光の粒子となって霧散し――世界に溶けていった。



「……あ」



 間一髪、生命力の全てを放出してしまう前に、根源である魔法を破壊したことで、アリスは一命を取り留める。

 だが、相当の力を放出してしまったがために、彼女は意識を失い、ゆっくりと俺の方にもたれかかってきた。



「おっと」



 俺は、そんなアリスを抱き留める。

 

「ったく。迷惑かけまくりやがって。あとで覚えておけよ」



 俺は、目を閉じたままグッタリしているアリスへ、愚痴を吐いた。

 当初の予定通り、王国と敵対するつもりはないが――彼女の暴走のツケくらいは、払って貰わないと困る。



 それはそれとして、どうやら一件落着と言って良さそうだ。

 俺は、すっかり暗くなった夜空の下で、小さく息を吐く。



 《友好舞踏会エクセレント・パーティー》における騒乱は、終盤に予想外の介入こそあったものの、概ね計画通りという形で収束したのだった。
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