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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第53話 《命喰》―イケニエ―
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「構うものか! このまま、何も成せずに引き下がるわけにはいかないんだ! ……《命喰》ッ!」
彼女の覚悟を決めた言葉を呼び水に、聖剣に刻み込まれた魔法陣が赤黒く輝く。
刹那、聖剣からどす黒い稲妻が生まれ、周辺の地面を舐め上げ荒れ狂う。
と同時に、もの凄いパワーで押し切られ、俺の身体が後方へ吹っ飛んだ。
「ちっ」
俺は、空中で素早く体勢を立て直し、着地する。
靴底をすり減らしながら地面を滑り、勢いを殺して止まった俺は、桁違いのオーラを放つアリスを見据えた。
《命喰》。
持ち主の魔力に加え生命力を吸い取って攻撃力に変換する、聖剣に備わったもう一つの魔法。
裏コードという名称が示す通り《解放》と対になる魔法であり、同時使用は不可能だ。
しかし、その性能は完全に《解放》の上位互換。
攻撃力の上昇幅が3倍程度の《解放》に比べて、こちらは20倍近い攻撃力にまで上昇する。
ただ、強すぎる力には代償が伴うというのもよくある話。
攻撃力がバカみたいに上がる分、持ち主の生命力と魔力はもの凄い速度で奪われていく。
当然、こんなリスキーな裏コードを物語序盤で使用するわけがない。
使用するに足る強敵がストーリー展開的に出てくるわけがないし、そもそもこの時点では使えるはずがない。
実戦で扱うには、彼女の肉体の方が不完全なのだ。
今の彼女はそこまでレベルも高くなく、精々50程度。
そんな状態で禁忌の技を発動しようものなら、力に耐えられず自滅して終了。
だから、原作ではツォーンに激怒して《解放》は使ったものの、《命喰》までは使っていない。
使う前に逃げられたという感じだが、メタ発言をするとゲームのストーリー構成上の問題だろう。
切り札は最後までとっておいた方が、盛り上がるというものだ。
それなのに、俺を相手に《命喰》を使ったということは。
余程、精神的に追い詰められているのだろう。
それか、あるいは――
「面倒だな……」
赤黒い稲妻が聖剣より放たれている様を見ながら、俺は毒突いた。
地力はアリスより俺の方が圧倒的に上。
だが、20倍の攻撃力アップとなると、話は変わってくる。
俺の額を、数ヶ月ぶりの冷や汗が伝う。
――と。アリスは聖剣を振りかぶる。
「やべっ!」
咄嗟に地面を蹴って跳躍するのと同時。
「ハァアアアアアアアアアアッ!」
狂気に満ちた気迫と共に、アリスは聖剣を横薙ぎに振るった。
大気を劈く巨大な刃が、水平に放たれる。
まるで巨大な三日月のようなその斬撃は、赤黒い稲妻を纏って俺の足下を掠め、そのまま遠くへカッ飛んでいき――
ズパァアンッ! と、俺の背後にそびえる山を真っ二つにぶった切った。
「うぇえ……マジ?」
切り口から斜めにズレる山を振り返りつつ、俺は慄然とする。
もうこんなの主人公じゃねぇよ。
魔王だよ。
「おい、頑固っ子ちゃん。流石にやりすぎだ」
俺は、アリスの方を見る。
「ハァ……ハァ……誰が、頑固っ子ちゃん、だ……!」
アリスは、大量の脂汗を額に浮かべ、肩で息をしながら俺を睨みつけた。
一撃放っただけで、この疲労は……あと1分と持たないんじゃないだろうか?
そんな心配をよそに、再び聖剣を構えるアリス。
死なば諸共……とか思ってるな、これは。
「はぁ~まったく、よく聞けよ。お前がここまでやる意味が、一体どこに――」
「うるさいっ! こうすることでしか、私の存在意義を保てないのだ!」
半ばヒステリックに叫んで、アリスは我武者羅に剣を振った。
衝撃波と共に、大量の赤い斬撃が飛んで来る。
山を割った一撃より一発一発の威力は低そうだが、それでも災害級の斬撃であることに変わりはなかった。
「くっ! 《疾風足》ッ!」
俺は、足に風を纏って全速力でその場を離脱する。
一瞬遅れて刃が着弾し、地面が大きくえぐれた。
「命削ってるっても……やっぱ主人公だな。えげつない」
俺は、飛んで来る刃を避けながら、アリスを中心にコンパスが円を描くように走り回る。
「逃げるな貴様っ!」
アリスは、その場に立ったまま斬撃を振るい続ける。
刃の雨は次々に俺が過ぎ去った地面に着弾し、大量の土埃が巻き上がった。
ったく、メチャクチャやりやがって。
俺は、逃げまくりながら舌打ちする。
王国の人間――とくに話をつけた騎士団長に止めて貰いたいが、どうやら重鎮の護衛に出てしまったらしく、この場にはもういない。
騎士団の面々も、下っ端の数人しかこの場に残っていないし、そもそもこのレベルの戦いを止められる者が現状誰もいない。
だから、俺がなんとかするしかないのだ。
「ゲホッ! 貴様だけは……たとえ差し違えてでもぉおおおお!」
彼女の覚悟を決めた言葉を呼び水に、聖剣に刻み込まれた魔法陣が赤黒く輝く。
刹那、聖剣からどす黒い稲妻が生まれ、周辺の地面を舐め上げ荒れ狂う。
と同時に、もの凄いパワーで押し切られ、俺の身体が後方へ吹っ飛んだ。
「ちっ」
俺は、空中で素早く体勢を立て直し、着地する。
靴底をすり減らしながら地面を滑り、勢いを殺して止まった俺は、桁違いのオーラを放つアリスを見据えた。
《命喰》。
持ち主の魔力に加え生命力を吸い取って攻撃力に変換する、聖剣に備わったもう一つの魔法。
裏コードという名称が示す通り《解放》と対になる魔法であり、同時使用は不可能だ。
しかし、その性能は完全に《解放》の上位互換。
攻撃力の上昇幅が3倍程度の《解放》に比べて、こちらは20倍近い攻撃力にまで上昇する。
ただ、強すぎる力には代償が伴うというのもよくある話。
攻撃力がバカみたいに上がる分、持ち主の生命力と魔力はもの凄い速度で奪われていく。
当然、こんなリスキーな裏コードを物語序盤で使用するわけがない。
使用するに足る強敵がストーリー展開的に出てくるわけがないし、そもそもこの時点では使えるはずがない。
実戦で扱うには、彼女の肉体の方が不完全なのだ。
今の彼女はそこまでレベルも高くなく、精々50程度。
そんな状態で禁忌の技を発動しようものなら、力に耐えられず自滅して終了。
だから、原作ではツォーンに激怒して《解放》は使ったものの、《命喰》までは使っていない。
使う前に逃げられたという感じだが、メタ発言をするとゲームのストーリー構成上の問題だろう。
切り札は最後までとっておいた方が、盛り上がるというものだ。
それなのに、俺を相手に《命喰》を使ったということは。
余程、精神的に追い詰められているのだろう。
それか、あるいは――
「面倒だな……」
赤黒い稲妻が聖剣より放たれている様を見ながら、俺は毒突いた。
地力はアリスより俺の方が圧倒的に上。
だが、20倍の攻撃力アップとなると、話は変わってくる。
俺の額を、数ヶ月ぶりの冷や汗が伝う。
――と。アリスは聖剣を振りかぶる。
「やべっ!」
咄嗟に地面を蹴って跳躍するのと同時。
「ハァアアアアアアアアアアッ!」
狂気に満ちた気迫と共に、アリスは聖剣を横薙ぎに振るった。
大気を劈く巨大な刃が、水平に放たれる。
まるで巨大な三日月のようなその斬撃は、赤黒い稲妻を纏って俺の足下を掠め、そのまま遠くへカッ飛んでいき――
ズパァアンッ! と、俺の背後にそびえる山を真っ二つにぶった切った。
「うぇえ……マジ?」
切り口から斜めにズレる山を振り返りつつ、俺は慄然とする。
もうこんなの主人公じゃねぇよ。
魔王だよ。
「おい、頑固っ子ちゃん。流石にやりすぎだ」
俺は、アリスの方を見る。
「ハァ……ハァ……誰が、頑固っ子ちゃん、だ……!」
アリスは、大量の脂汗を額に浮かべ、肩で息をしながら俺を睨みつけた。
一撃放っただけで、この疲労は……あと1分と持たないんじゃないだろうか?
そんな心配をよそに、再び聖剣を構えるアリス。
死なば諸共……とか思ってるな、これは。
「はぁ~まったく、よく聞けよ。お前がここまでやる意味が、一体どこに――」
「うるさいっ! こうすることでしか、私の存在意義を保てないのだ!」
半ばヒステリックに叫んで、アリスは我武者羅に剣を振った。
衝撃波と共に、大量の赤い斬撃が飛んで来る。
山を割った一撃より一発一発の威力は低そうだが、それでも災害級の斬撃であることに変わりはなかった。
「くっ! 《疾風足》ッ!」
俺は、足に風を纏って全速力でその場を離脱する。
一瞬遅れて刃が着弾し、地面が大きくえぐれた。
「命削ってるっても……やっぱ主人公だな。えげつない」
俺は、飛んで来る刃を避けながら、アリスを中心にコンパスが円を描くように走り回る。
「逃げるな貴様っ!」
アリスは、その場に立ったまま斬撃を振るい続ける。
刃の雨は次々に俺が過ぎ去った地面に着弾し、大量の土埃が巻き上がった。
ったく、メチャクチャやりやがって。
俺は、逃げまくりながら舌打ちする。
王国の人間――とくに話をつけた騎士団長に止めて貰いたいが、どうやら重鎮の護衛に出てしまったらしく、この場にはもういない。
騎士団の面々も、下っ端の数人しかこの場に残っていないし、そもそもこのレベルの戦いを止められる者が現状誰もいない。
だから、俺がなんとかするしかないのだ。
「ゲホッ! 貴様だけは……たとえ差し違えてでもぉおおおお!」
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