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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第51話 VS主人公

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「参るッ!」



 アリスは、地面を蹴って一直線にカッ飛んでくる。

 蹴った地面がヘコみ、土煙が立ち上る。

 ツォーンへ斬りかかる時も思ったが、突進力だけは大したものだ。



 まあ、この程度《紫炎牢》を放てば、本来なら一撃で行動不能にできるのだが――相手は腐っても主人公だ。

 たぶん、《紫炎牢》では止まらない。



「《紫炎剣》」



 俺は、ツォーンを倒した《紫炎剣》を生成し、アリスを真っ向から迎え撃つ。

 《紫炎剣》。

 刃が触れれば、それが個体である限り液体になってしまう、ともすれば“斬れないものがない剣”だ。



 アリスの持つ剣は、《水剣》とは異なり、固体の剣だ。

 つまり、真っ向からぶつかれば相手の剣はたちまち溶けてしまう。

 普通ならば――



 ガキィイインッ!

 剣と剣がぶつかり合い、盛大に火花が散る。

 

「やはり、斬れないか」



 俺は、アリスの剣圧を容易く耐えながらも、小さく舌打ちした。

 

「やはり厄介だな。あなたのスキル……《状態異常無効化》は」



 勇者アリスは、あらゆる状態異常を無効化する。

 《状態異常スペシャル》で無双してきた俺にとっては、ある意味相性最悪と言っていいが――それは、相手が俺と同じ土俵に立っていればの話。



 まあ、実際のストーリーではこの《紫苑の指輪》を手に入れるのはアリスであり、相手からのデバフは受け付けず、相手にはデバフをかけまくるチートキャラになっているのだが――それはまた別の話だ。



 今、《紫苑の指輪》を持っているのは俺。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

「団長の固有スキルを見破った時も思ったが、随分と薄気味悪いヤツだな貴様は!」



 刹那、剣を戻し、間髪入れずに斬りかかってくるアリス。

 それも、何度も。

 俺を粉微塵に切り刻もうと、鋭い剣撃を幾度となく放ってくる。



 いやー、それにしても。

 彼女の連撃を捌きながら、俺の目はアリスの胸元に釘付けだった。

 ゲームやってるときも思ったが、実際見ると破壊力凄いな。



 着ている服がはちきれんばかりの、二つの膨らみ。

 ウチの幹部で一番デカいフェリスをも凌駕する、圧倒的大きさ。

 それが、剣を振るう度激しく上下に揺れて――



 い、いかん。

 戦闘に集中しなければ。

 いや、しかし……どんなに彼女の一挙手一投足に集中しようとしても、自然と視線が胸元へ寄ってしまう。



 くっ、あなどっていた!

 これが、主人公ヒロインの真の戦闘力だとでも言うのか!



「その全てを俯瞰しているような目、気に入らないな。貴様は一体、何を見ている」



 不意に、アリスがそう問いかけてきた。



「う゛ぇ!?」



 ギクッ。

 ま、まさか。

 俺が胸を見ていたことがバレて……!



「貴様のその強さと知識、どこで身につけた? 何のための力だ? 何を見据えて戦っている! 私が貴様に勝利し、その薄汚い口から真実を吐かせてやる!」

「あー……見てるってそういう」



 俺は小さく安堵の息を吐いて、アリスを睨みつけた。



「悪いけど、俺が王国と敵対するつもりがないというのは本当だ。拷問をされようが、これが真実なのだから他に答えようがない」

「世迷い言を!」



 アリスは吠え、一際強い一撃を加える。

 ガキィイインッ!

 その一撃を《紫炎剣》で受け止めた俺は、アリスの耳元で囁いた。



「そっちこそ、本音を言えよ」

「なに……?」

「だって……あなたのそれは、ただの自己満足だろ?」

「っ!」



 アリスが目を見開くのと同時。

 俺はアリスの剣を弾いて受け流し、無防備な腹部に強烈な蹴りを食らわせた。



「ッ!? かはっ!!」



 アリスの身体が宙に浮き、後方へ吹っ飛ばされる。

 そのまま背中から舞踏会会場の壁に激突した。



「あ、やべ。やりすぎた?」



 俺は、土煙が立ち上る壁の方を見て、頭の後ろを搔いた。



「まあ、いいか。死にはしないだろ。俺も早くアジトに――」



 俺は、踵を返してその場を立ち去ろうとする。

 ――が。



「待……て。貴様」



 ふと、声をかけられて俺は振り返る。

 土煙を払いのけ、アリスがよろよろと立ち上がった。



「今の言葉……聞き捨てならないな。自己満足だと……?」



 アリスの鋭い眼光が、俺を真っ直ぐに射貫いた。

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