いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一

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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第50話 主人公との相対

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「えぇい!」



 フロルは刀を振り抜き、勇者アリスの斬撃を弾き返す。



「っ!」



 アリスは後ろに跳躍して距離をとると、剣を正眼に構えた。



「ここは私に任せて。大仕事を終えてきた主様マスターの手は患わせないから」



 フロルは、油断なく相手を見据え、刀の柄を握り直す。



「いや。あいつは俺が相手をするよ」

「! そんな……だって、主様マスターは四天王との決戦を終えた直後で」

「あの頑固っ子ちゃんの狙いは俺だろ。だったら俺が相手をするべきだよ」

「で、でも……」

「大丈夫だ。どのみち、組織の頭を張るってことは、責任が付きまとう。クレーマーの対応は、俺自らが引き受けるさ」



 俺は、心配そうに表情を曇らせるフロルの肩を、ぽんと叩く。

 本当なら、フロルやリーナ達に任せたいところだが、生憎と相手は本作品の主人公。

 ここで対応を蔑ろにすれば、今後の活動に支障が出るかも知れない。

 

 何より、王国と敵対する意志はないのだ。

 そのことを、はっきりとわかってもらわねばならない。



「お前達は、新規メンバーを連れて先に帰っていてくれ。ここおに残るのは俺だけでいい」



 俺は、フロルも含めた全員にそう指示を出す。



「わかったのじゃ」

「うん。先に撤退してる」



 リーナとシリカは口々にそう言い、撤退を始める。



「武運を」



 フロルもまた刀を収め、俺に小さくお辞儀をしてから身を引いた。



 ――。



「さて、と……待っていてくれてありがとな」



 フロル達がこの場を離れるまで、ご丁寧に待ってくれたアリスに顔を向ける。



「ふん。私とて、貴様等の力が推し量れぬほどバカではない。あのまま押し切っていても、桃色の小娘や、黒い幼女に阻まれて、逆に返り討ちにされていただろう。貴様一人が残ってくれるなら、それまで待った方が、勝率が上がると判断したまでだ」

「なるほど。短気かと思ったが、存外考えてるみたいだな。まあ、俺を倒すこと前提というのは、正直理解できないが。一体、何が目的なんだ?」



 俺は、アリスに問う。

 アリスは、鋭い眼光をこちらに向けながら答えた。



「王女様を返してもらおう」

「……はぁ?」



 俺は、思わず変な声を上げてしまった。



「ちょっと待て。その件は、騎士団長と話して解決してるはずだ。必ずそちらに送り届けると約束したはずだけど?」

「そうだな。確かに、その通りだ」

「じゃあ、なぜ――」

「だが!」



 アリスは、カッと目を見開く。

 アニメなら、集中線付きのドアップで描かれそうなほど、真に迫る表情で叫んだ。

 

「団長が納得しても、私は納得していない!!」

「理不尽!?」



 俺は、思わず頭を抱えた。

 

 ああ、そうだ。

 この主人公はそういうタイプだった。

 頑固で直情的。正義感が強く、バカが付くほど真面目だった。



 だからこそ、過酷なストーリーの中で、主人公として折れることなく突き進むことができたのかもしれないが。



「あなたの言い分は、まあ不本意だけど理解した。ただ……その言い分を貫き通せるだけの実力があるかどうか」

「なんだと?」



 アリスは、不服そうに眉をひそめる。



「それはつまり、私が取るに足らない雑魚だと言いたいのか?」

「そうだ。悪いけど、今のあなたと戦っても勝つのは100%俺だ。俺に敗北したツォーンにあしらわれている時点で、相対評価は既に出ている」

「っ!」



 的確な意見だと理解したらしく、アリスは苦々しく顔を歪める。



 ツォーンとの決戦前でさえ戦闘力に開きがあるのに、俺はツォーンに勝利したことで膨大な量の経験値をゲットし、レベルアップしている。

 倒し切れていないのに、なぜ?

 

 そう思うかもしれないが、この世界には経験値アップには絶対的な二つのルールがある。

 それは。



 1:相手を倒すことで経験値が入る

 2:相手が敗北を認めることで、倒した場合の1/2に相当する経験値が入る


 というもの。



 《解放の試練》においてリーナと戦った際、大幅にレベルが上昇したのも、彼女が敗北を認めたからに他ならない。



 要するに、先の戦闘で経験値が入ったということは。

ツォーンは俺との圧倒的な力量差に恐れおののき、完全な敗北を認めたのだと、逆説的に言うことができるのだ。



「俺とあなたの力量差は、火を見るよりも明らかだ。その上で、この戦いには何のメリットもない。恥じに恥じを塗り重ねるだけだ。できれば、帰ってくれるとありがたいんだけど」

「うるさい! この戦いに意味があるかどうかは、私が決める!」



 半ば激高して、アリスが吠えた。

 ああ~、マジで俺の話を聞く気ないな、この頑固っ子ちゃんは。



 もう何を言っても無駄らしい。



「わかった、好きにしてくれ」



 俺は、この無駄な決闘を承諾することにした。

 早く、アジトに帰って寝たいんだけど。
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