いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一

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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第36話 凱旋の産声

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《レント視点》

「そ、総員戦闘態勢!」



 騎士団長と思しき人物が、剣を抜きつつ号令を掛ける。

 周囲に控えていた騎士団員達が一斉に動き出し、ツォーン様を大きく取り囲む陣形をとった。



 おそらくツォーン様の強さを警戒しての、この布陣だ。

 広く間合いを取ってから、ゆっくり距離を詰めて確実に仕留めるための陣形。

 

「貴様はこの場で確実に仕留める! レーネ王女殺害、及び勇者を踏みつける狼藉! 情状酌量の余地はない!」

「仕留める? 笑わせるな、貴様等程度の雑兵など、私が一々相手をしてやるまでもない」



 そう言って、ツォーン様はパチンと指を鳴らす。

 その瞬間。



『騎士団を倒せ』



 頭の中に、ツォーン様の指示が響く。

 おそらく、俺個人に対するものではなく潜入している仲間全員に一斉送信された思念波だろう。



 ザッ!

 王国騎士団が円形で陣を展開しているその周囲に点在していた俺の仲間達が、一斉に騎士団へ右手を向けた。

 同時に、護衛の名目でこの作戦に参加している公国剣士団の面々も、一斉に抜刀して騎士団の円陣の背後に陣取る。



 剣士団の剣先と、魔法を放つための右手が、王国の騎士達を背後から狙う形となる。

 

「なっ! 貴様等……正気か! 国家単位でテロを起こすなど!」

「ああ、正気だ。元々、このために私達はここへ来た」

「我が国との戦争は免れんぞ!」

「望むところさ。今日はその宣戦布告に来たのだから!」



 ツォーン様は、涼しげに言いながら、起き上がろうとしたアリスを更に強く踏みつけた。



「さあ、我等がアリクレース公国の凱旋の始まりだ! ……だが、その前に」



 ツォーン様は、ゆっくりと視線を横滑りさせ――俺の方で止めた。



「危うく作戦を台無しにしようとしたバカを、処刑しないとだな」

「ッ!」

「わかってるよな? 暗殺対象に「逃げろ」なんて叫ぶような無能は、うちの組織にはいらないんだ」



 ツォーン様の目が、青白く光る。

 ヤバい殺される――ッ! 逃げなきゃ――ッ!

 そう思った時には、もう遅い。



 鼠一匹逃さない陣形をとっていた騎士団の包囲網。

 が、瞬きすらしない内にツォーン様の姿がふっと消える。

 その場に、倒れ伏す勇者アリスだけを残して――



 消えた!? どこに――



「ここだ」



 俺の心の声に反応するかのように、冷たい声色が目の前で響く。

 いつの間にか、ツォーン様は騎士団の包囲を飛び越えて、俺の目前にいた。



「っ!」

泡沫ほうまつと散れ、無能」



 ツォーン様の右手が霞むように動き、握られた水の剣が振るわれる。

 ああ、終わった。



 自らの死を悟り、迫り来る水の斬撃を見つめていた――そのときだった。



「あなたは誇っていい。言葉だけでも一矢報いる展開は、主様マスターの予見にはなかった」



 どこかで聞いた女性の声が、耳に届く。

 刹那、光り輝く桃色の花びらを撒き散らし、紫色の影が俺とツォーン様の間に割って入る。

 その人物の足下に、刀を持った黒い影のような人形がどこからともなく現れ、割り込んできた人物に手渡した。



「《燦花さんか――徒花あだばなっ!」



 凜とした声と共に、その人物は受け取った刀を逆手さかてで抜き放ち、ツォーン様の斬撃を受け止めた。



 キィイインッ!

 鋭い音と共に剣と刀が交錯し、互いの剣圧で生じた風が会場中に吹き荒れる。



「なっ! そんなバカな!」



 俺は、割り込んできた人物を見て驚愕していた。

 勇者アリスの剣ですら容易く打ち破ったツォーン様の剣を、真っ向から受け止めていることもさることながら、俺はその人物の正体に驚愕していたのだ。



「ほう。貴様は確か、昨日私とすれ違うときに一切動揺を見せなかった男だな? やはりただ者ではなかったようだ」



 ツォーン様は、不敵に笑う。

 俺の前に現れた人物は――俺の親友であるカイムだったのだ。



「か、カイム! お前――」



 俺は、目の前に現れた親友に声をかける。

 が、その親友は剣撃を受け止めながらわずかに振り返り、「私はカイムじゃないよ」と言った。



「……は?」

「貴様があの男ではないだと? どういうことだ」



 訝しむ俺とツォーン様の前で、カイムの姿をした人物は「《幻影イリュージョン》、解除」と呟く。

 その瞬間、そいつの纏う紫色のオーラがぐにゃりと歪み、新たな人物を形作っていく。



 先っぽが鮮やかな桃色に染まった白く長い髪。

 すらりとした細い身体。

 それを被う薄桃色の帯と着物が、剣圧の生み出す風に揺れている。



「貴様は?」

「き、君は……あのときのメイド!?」

「正解」



 俺が正体に気付くと、桃色を纏う少女は快活な笑みを浮かべた。

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