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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第31話 会うべき人の元へ
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「とにかく。お前も抜かるなよ」
「わかってる。ここから先は、一つも失敗できないからね」
「例の光属性魔法は、上手く扱えるか?」
「大丈夫。さっきテストした感じ、ばっちりだったから」
フロルは、力強く頷いて見せる。
「ほら、これはあなたの分。魔力を流せば起動するように、光魔法をエンチャントしといたから」
「サンキュー」
俺は、フロルが差し出してきたものを受け取った。
それは、ある光魔法を付与した小さな耳飾りだ。
これから行う作戦には、彼女が得意とする光属性魔法が必要不可欠なのである。
俺じゃあ、光属性は扱えないからな。
俺は、その耳飾りを左耳に付けた。
「俺は俺で動く。彼女とその周辺の情報を――」
「把握している人数分は、全て魔力でトレースしてこの会場の縮図にまとめてる。赤いピンが彼女を示していて、他の黒いピンは護衛やメイド達だから」
言いながら、フロルは手帳くらいの大きさの紙を取り出した。
そこにはこの会場の見取り図が示されていて、無数の黒いピンが蠢いていた。
この会場にいるモブ達の居所が、リアルタイムで表示されているのだ。
「うわっ。集合体恐怖症の人が見たら発狂するだろうな……これ」
しかし、この短時間でよくもまあこれだけの情報を集めたものだ。
有能な部下を持つ大切さを、異世界に来て初めて実感した。
紙の上で動いている無数の黒くてキモいピン。
その中に一つだけ、動いていない赤いピンがある。
これが、今から俺が会うべき人物だ。
「状況は把握できた。それじゃあ行ってくる」
「わかってる、気をつけてね」
「ああ」
俺は短く答えて、無属性魔法《色彩変化》を眼に起動する。
瞳の色を黄色に変え、懐から仮面を取り出すと顔に付けて、歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、フロルは黙って見送っているのだった。
――。
黒いピンが周囲を徘徊している中、隙を見計らって赤いピンに近づく。
本来なら、そうするべきところなんだろうが、俺はそんなことをしなくても彼女に近づける。
「スキル《空間転移》」
俺は、自由に場所を移動できる空間転移のスキルを起動する。
これで、面倒くさい護衛を相手取る必要もなく、彼女に直接会うことが出来る。
――と思ったのだが。
「……ありゃ?」
何故か、一向に転移が発動する気配がない。
「おかしいな。魔法の発動が妨害されてる?」
俺は、指先を立てて《紫炎》を発動した。
すると、ボッと音を立てて指先から紫色の炎が立ち上る。
魔法の発動が妨害されているというわけでも無さそうだ。
とすれば、考えられるパターンは一つ。
「この場所ではなく、彼女がいる部屋に、魔法発動をキャンセルする術が付与されている、と考えた方がいいな」
俺は《紫炎》を切り、フロルから貰った縮図を見る。
彼女のいる部屋の前の廊下には、二人の護衛がいる。
両側に部屋はなく、分厚い壁になっていて――と、彼女がいる部屋の後方に、小さな部屋があることに気付いた。
「この部屋には、特に人はいない、か」
ワープするならこの部屋しかなさそうだ。
「《空間転移》!」
俺は、空間転移の魔法を起動し。
今度こそ、ワープに成功した。
――移動した先は、薄暗い部屋だった。
何かしらの資料や分厚い本がずらりと並ぶ本棚があり、使い古されたドレスなどが放置されている。
まさしく、物置といったところか。
暗闇に目が慣れてきたところで、俺は目当ての人物がいる部屋へ続く扉を見つけた。
――が。
「……どうやら、魔錠がかかってるみたいだな」
俺は、ドアを舐めるように見まわしながらぼそりと呟いた。
魔錠とは、その名の通り魔法による施錠だ。
それが向こう側の部屋からかけられている以上、こちらから解錠することはできない。
無理矢理扉を蹴破れば、即座に表の衛兵が気付いて飛び込んでくるだろう。
一見すれば、完全に詰み。
だが――俺には、頼もしい仲間達がいる。
「聞こえるか、リーナ」
「聞こえているのじゃ」
俺は、無線で繋がっているリーナに小声で話しかける。
「俺の状況は理解しているな?」
「もちろん」
通話の向こうで、リーナがニヤリと笑った……気がした。
「その忌々しい鍵を、解除すればいいんじゃろう?」
「わかってる。ここから先は、一つも失敗できないからね」
「例の光属性魔法は、上手く扱えるか?」
「大丈夫。さっきテストした感じ、ばっちりだったから」
フロルは、力強く頷いて見せる。
「ほら、これはあなたの分。魔力を流せば起動するように、光魔法をエンチャントしといたから」
「サンキュー」
俺は、フロルが差し出してきたものを受け取った。
それは、ある光魔法を付与した小さな耳飾りだ。
これから行う作戦には、彼女が得意とする光属性魔法が必要不可欠なのである。
俺じゃあ、光属性は扱えないからな。
俺は、その耳飾りを左耳に付けた。
「俺は俺で動く。彼女とその周辺の情報を――」
「把握している人数分は、全て魔力でトレースしてこの会場の縮図にまとめてる。赤いピンが彼女を示していて、他の黒いピンは護衛やメイド達だから」
言いながら、フロルは手帳くらいの大きさの紙を取り出した。
そこにはこの会場の見取り図が示されていて、無数の黒いピンが蠢いていた。
この会場にいるモブ達の居所が、リアルタイムで表示されているのだ。
「うわっ。集合体恐怖症の人が見たら発狂するだろうな……これ」
しかし、この短時間でよくもまあこれだけの情報を集めたものだ。
有能な部下を持つ大切さを、異世界に来て初めて実感した。
紙の上で動いている無数の黒くてキモいピン。
その中に一つだけ、動いていない赤いピンがある。
これが、今から俺が会うべき人物だ。
「状況は把握できた。それじゃあ行ってくる」
「わかってる、気をつけてね」
「ああ」
俺は短く答えて、無属性魔法《色彩変化》を眼に起動する。
瞳の色を黄色に変え、懐から仮面を取り出すと顔に付けて、歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、フロルは黙って見送っているのだった。
――。
黒いピンが周囲を徘徊している中、隙を見計らって赤いピンに近づく。
本来なら、そうするべきところなんだろうが、俺はそんなことをしなくても彼女に近づける。
「スキル《空間転移》」
俺は、自由に場所を移動できる空間転移のスキルを起動する。
これで、面倒くさい護衛を相手取る必要もなく、彼女に直接会うことが出来る。
――と思ったのだが。
「……ありゃ?」
何故か、一向に転移が発動する気配がない。
「おかしいな。魔法の発動が妨害されてる?」
俺は、指先を立てて《紫炎》を発動した。
すると、ボッと音を立てて指先から紫色の炎が立ち上る。
魔法の発動が妨害されているというわけでも無さそうだ。
とすれば、考えられるパターンは一つ。
「この場所ではなく、彼女がいる部屋に、魔法発動をキャンセルする術が付与されている、と考えた方がいいな」
俺は《紫炎》を切り、フロルから貰った縮図を見る。
彼女のいる部屋の前の廊下には、二人の護衛がいる。
両側に部屋はなく、分厚い壁になっていて――と、彼女がいる部屋の後方に、小さな部屋があることに気付いた。
「この部屋には、特に人はいない、か」
ワープするならこの部屋しかなさそうだ。
「《空間転移》!」
俺は、空間転移の魔法を起動し。
今度こそ、ワープに成功した。
――移動した先は、薄暗い部屋だった。
何かしらの資料や分厚い本がずらりと並ぶ本棚があり、使い古されたドレスなどが放置されている。
まさしく、物置といったところか。
暗闇に目が慣れてきたところで、俺は目当ての人物がいる部屋へ続く扉を見つけた。
――が。
「……どうやら、魔錠がかかってるみたいだな」
俺は、ドアを舐めるように見まわしながらぼそりと呟いた。
魔錠とは、その名の通り魔法による施錠だ。
それが向こう側の部屋からかけられている以上、こちらから解錠することはできない。
無理矢理扉を蹴破れば、即座に表の衛兵が気付いて飛び込んでくるだろう。
一見すれば、完全に詰み。
だが――俺には、頼もしい仲間達がいる。
「聞こえるか、リーナ」
「聞こえているのじゃ」
俺は、無線で繋がっているリーナに小声で話しかける。
「俺の状況は理解しているな?」
「もちろん」
通話の向こうで、リーナがニヤリと笑った……気がした。
「その忌々しい鍵を、解除すればいいんじゃろう?」
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