31 / 59
第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第31話 会うべき人の元へ
しおりを挟む
「とにかく。お前も抜かるなよ」
「わかってる。ここから先は、一つも失敗できないからね」
「例の光属性魔法は、上手く扱えるか?」
「大丈夫。さっきテストした感じ、ばっちりだったから」
フロルは、力強く頷いて見せる。
「ほら、これはあなたの分。魔力を流せば起動するように、光魔法をエンチャントしといたから」
「サンキュー」
俺は、フロルが差し出してきたものを受け取った。
それは、ある光魔法を付与した小さな耳飾りだ。
これから行う作戦には、彼女が得意とする光属性魔法が必要不可欠なのである。
俺じゃあ、光属性は扱えないからな。
俺は、その耳飾りを左耳に付けた。
「俺は俺で動く。彼女とその周辺の情報を――」
「把握している人数分は、全て魔力でトレースしてこの会場の縮図にまとめてる。赤いピンが彼女を示していて、他の黒いピンは護衛やメイド達だから」
言いながら、フロルは手帳くらいの大きさの紙を取り出した。
そこにはこの会場の見取り図が示されていて、無数の黒いピンが蠢いていた。
この会場にいるモブ達の居所が、リアルタイムで表示されているのだ。
「うわっ。集合体恐怖症の人が見たら発狂するだろうな……これ」
しかし、この短時間でよくもまあこれだけの情報を集めたものだ。
有能な部下を持つ大切さを、異世界に来て初めて実感した。
紙の上で動いている無数の黒くてキモいピン。
その中に一つだけ、動いていない赤いピンがある。
これが、今から俺が会うべき人物だ。
「状況は把握できた。それじゃあ行ってくる」
「わかってる、気をつけてね」
「ああ」
俺は短く答えて、無属性魔法《色彩変化》を眼に起動する。
瞳の色を黄色に変え、懐から仮面を取り出すと顔に付けて、歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、フロルは黙って見送っているのだった。
――。
黒いピンが周囲を徘徊している中、隙を見計らって赤いピンに近づく。
本来なら、そうするべきところなんだろうが、俺はそんなことをしなくても彼女に近づける。
「スキル《空間転移》」
俺は、自由に場所を移動できる空間転移のスキルを起動する。
これで、面倒くさい護衛を相手取る必要もなく、彼女に直接会うことが出来る。
――と思ったのだが。
「……ありゃ?」
何故か、一向に転移が発動する気配がない。
「おかしいな。魔法の発動が妨害されてる?」
俺は、指先を立てて《紫炎》を発動した。
すると、ボッと音を立てて指先から紫色の炎が立ち上る。
魔法の発動が妨害されているというわけでも無さそうだ。
とすれば、考えられるパターンは一つ。
「この場所ではなく、彼女がいる部屋に、魔法発動をキャンセルする術が付与されている、と考えた方がいいな」
俺は《紫炎》を切り、フロルから貰った縮図を見る。
彼女のいる部屋の前の廊下には、二人の護衛がいる。
両側に部屋はなく、分厚い壁になっていて――と、彼女がいる部屋の後方に、小さな部屋があることに気付いた。
「この部屋には、特に人はいない、か」
ワープするならこの部屋しかなさそうだ。
「《空間転移》!」
俺は、空間転移の魔法を起動し。
今度こそ、ワープに成功した。
――移動した先は、薄暗い部屋だった。
何かしらの資料や分厚い本がずらりと並ぶ本棚があり、使い古されたドレスなどが放置されている。
まさしく、物置といったところか。
暗闇に目が慣れてきたところで、俺は目当ての人物がいる部屋へ続く扉を見つけた。
――が。
「……どうやら、魔錠がかかってるみたいだな」
俺は、ドアを舐めるように見まわしながらぼそりと呟いた。
魔錠とは、その名の通り魔法による施錠だ。
それが向こう側の部屋からかけられている以上、こちらから解錠することはできない。
無理矢理扉を蹴破れば、即座に表の衛兵が気付いて飛び込んでくるだろう。
一見すれば、完全に詰み。
だが――俺には、頼もしい仲間達がいる。
「聞こえるか、リーナ」
「聞こえているのじゃ」
俺は、無線で繋がっているリーナに小声で話しかける。
「俺の状況は理解しているな?」
「もちろん」
通話の向こうで、リーナがニヤリと笑った……気がした。
「その忌々しい鍵を、解除すればいいんじゃろう?」
「わかってる。ここから先は、一つも失敗できないからね」
「例の光属性魔法は、上手く扱えるか?」
「大丈夫。さっきテストした感じ、ばっちりだったから」
フロルは、力強く頷いて見せる。
「ほら、これはあなたの分。魔力を流せば起動するように、光魔法をエンチャントしといたから」
「サンキュー」
俺は、フロルが差し出してきたものを受け取った。
それは、ある光魔法を付与した小さな耳飾りだ。
これから行う作戦には、彼女が得意とする光属性魔法が必要不可欠なのである。
俺じゃあ、光属性は扱えないからな。
俺は、その耳飾りを左耳に付けた。
「俺は俺で動く。彼女とその周辺の情報を――」
「把握している人数分は、全て魔力でトレースしてこの会場の縮図にまとめてる。赤いピンが彼女を示していて、他の黒いピンは護衛やメイド達だから」
言いながら、フロルは手帳くらいの大きさの紙を取り出した。
そこにはこの会場の見取り図が示されていて、無数の黒いピンが蠢いていた。
この会場にいるモブ達の居所が、リアルタイムで表示されているのだ。
「うわっ。集合体恐怖症の人が見たら発狂するだろうな……これ」
しかし、この短時間でよくもまあこれだけの情報を集めたものだ。
有能な部下を持つ大切さを、異世界に来て初めて実感した。
紙の上で動いている無数の黒くてキモいピン。
その中に一つだけ、動いていない赤いピンがある。
これが、今から俺が会うべき人物だ。
「状況は把握できた。それじゃあ行ってくる」
「わかってる、気をつけてね」
「ああ」
俺は短く答えて、無属性魔法《色彩変化》を眼に起動する。
瞳の色を黄色に変え、懐から仮面を取り出すと顔に付けて、歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を、フロルは黙って見送っているのだった。
――。
黒いピンが周囲を徘徊している中、隙を見計らって赤いピンに近づく。
本来なら、そうするべきところなんだろうが、俺はそんなことをしなくても彼女に近づける。
「スキル《空間転移》」
俺は、自由に場所を移動できる空間転移のスキルを起動する。
これで、面倒くさい護衛を相手取る必要もなく、彼女に直接会うことが出来る。
――と思ったのだが。
「……ありゃ?」
何故か、一向に転移が発動する気配がない。
「おかしいな。魔法の発動が妨害されてる?」
俺は、指先を立てて《紫炎》を発動した。
すると、ボッと音を立てて指先から紫色の炎が立ち上る。
魔法の発動が妨害されているというわけでも無さそうだ。
とすれば、考えられるパターンは一つ。
「この場所ではなく、彼女がいる部屋に、魔法発動をキャンセルする術が付与されている、と考えた方がいいな」
俺は《紫炎》を切り、フロルから貰った縮図を見る。
彼女のいる部屋の前の廊下には、二人の護衛がいる。
両側に部屋はなく、分厚い壁になっていて――と、彼女がいる部屋の後方に、小さな部屋があることに気付いた。
「この部屋には、特に人はいない、か」
ワープするならこの部屋しかなさそうだ。
「《空間転移》!」
俺は、空間転移の魔法を起動し。
今度こそ、ワープに成功した。
――移動した先は、薄暗い部屋だった。
何かしらの資料や分厚い本がずらりと並ぶ本棚があり、使い古されたドレスなどが放置されている。
まさしく、物置といったところか。
暗闇に目が慣れてきたところで、俺は目当ての人物がいる部屋へ続く扉を見つけた。
――が。
「……どうやら、魔錠がかかってるみたいだな」
俺は、ドアを舐めるように見まわしながらぼそりと呟いた。
魔錠とは、その名の通り魔法による施錠だ。
それが向こう側の部屋からかけられている以上、こちらから解錠することはできない。
無理矢理扉を蹴破れば、即座に表の衛兵が気付いて飛び込んでくるだろう。
一見すれば、完全に詰み。
だが――俺には、頼もしい仲間達がいる。
「聞こえるか、リーナ」
「聞こえているのじゃ」
俺は、無線で繋がっているリーナに小声で話しかける。
「俺の状況は理解しているな?」
「もちろん」
通話の向こうで、リーナがニヤリと笑った……気がした。
「その忌々しい鍵を、解除すればいいんじゃろう?」
34
お気に入りに追加
690
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役貴族だけど、俺のスキルがバグって最強になった
ポテトフライ
ファンタジー
異世界ゲーム『インフィニティ・キングダム』の悪役貴族クラウス・フォン・アルベリヒに転生した俺。しかし、この世界の設定がバグっており、俺のスキルが異常な強さになっていた——『魔王級魔力(SSS)』『戦闘技術(SSS)』『経済操作(SSS)』……チートのオンパレード!?
ゲームでは主人公に敗北し、悲惨な最期を迎えるはずだった俺だが、こんなスキルを持っているなら話は別だ。侵攻してくる王国軍を迎え撃ち、領地を発展させ、俺の支配下に置く。
悪役? いや、もはや“魔王”だ。
世界を手中に収めるため、バグスキルを駆使した最強の統治が今、始まる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる