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第一章 反逆への序章編

第18話 運命を変える提案

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「なぜじゃ! なぜここに伝説上の生物が……! 《解放の試練》は、外界から完全に閉ざされた空間。万が一にも、迷い込む余地などないはず」



 あからさまに狼狽えるリーナ。

 そりゃそうだ。彼女はこの展開を予測していなかった。

 だって――彼女自身、自分こそがこの《解放の試練》の守護者だと勘違いしているのだから。



「決まっているだろう? 最初からずっと、ワイバーンはこの空間に潜んでいたんだ。この《解放の試練》の守護を任されたお前すら欺いて」

「そんな。だってわしは、この場所の守護を仰せつかったんじゃぞ。それで、わしに勝つような強い人間が現れたら、その者に指輪と武器を渡す。それが、《剣聖》として誉れ高い役目と言われて――」

「それは誰に言われたの? お前にこの場所の守護を任せた……いや、お前をこの場所に閉じ込めた公国上層部の焦臭い連中の言葉だろう?」

「ッ!」



 歯に衣着せぬ物言いに、リーナは微かに怯える。



 瞬間、ワイバーンが動いた。

 真っ黒な翼を翻し、暴風を纏って突っ込んでくる。



 俺は咄嗟に《魔法創作者スキル・クリエイター》を起動。

 手に入れたばかりの《紫苑の指輪》にエンチャントされている闇属性魔法《状態異常スペシャル》と、火属性魔法を融合。新たな魔法スキルを造り出す。



「ちょっと今、話している最中なんだけど――」



 俺は右手を真っ直ぐ伸ばし、ワイバーンに睨みを利かせる。

 ――と。



 轟っ!

 ワイバーンの直下の地面から、紫色の炎の壁が立ち上り、ワイバーンを飲み込む。

 その炎に焼かれたワイバーンは、飛ぶ力を失って真っ逆さまに地面へと落下した。



 《状態異常スペシャル》。

 作中最強の闇属性魔法。

 《盲目》や《魔力吸収》、《金縛り》など、かけられる状態異常には一つずつ種類があるが、《紫苑の指輪》が持つ《状態異常スペシャル》はその枠に囚われない。



 いつでも、好きな状態異常を任意で起動できる。

 まさに、戦争の行く末すら左右しかねない国宝級の代物だ。



 その《状態異常スペシャル》と、今しがた作った火属性の魔法、《大燃焼バーニング》を融合して生み出した、状態異常を含む紫色の炎。その新たに開発した究極スキルの名は、《紫炎しえん》。




 今ワイバーンにかけた《紫炎》は、金縛りの効果を含む炎だ。

 紫色の炎に閉じ込め、身動きを封じる。

 技名をつけるなら――《紫炎牢しえんろう》とでも言ったところか。



「それにしても、大分魔力が上がったか?」



 スキルを使ったからわかる、俺の成長。

 おそらく、リーナを下したことでステータスが大幅にアップしたのだろう。

 嬉しい誤算だ。



「話が終わるまで、そこで寝ていろ」



 俺は、炎の出力を上げると、伝説級の生き物を地面に強く縫い付け、リーナを振り向いた。

 何かに怯えるように、肩を振るわせるリーナ。

そんな彼女に、俺はただ粛々と真実を述べるのだ。



「いいかよく聞け元《剣聖》。公国の人間がこの《解放の試練》の守護者にお前を選んだ理由は二つある。一つは、200年前、持てる力の限りを尽くして暴れ回った《剣聖》を閉じ込めておくこと。そしてもう一つは、国宝武器と《紫苑の指輪》を奪おうとする者の抑止力とすること、だ」

「それはわかっている! じゃが――」

「だけど、考えてみればおかしいだろう? 刻を経て《剣聖》は弱体化し、名も知らないモブAにすら負けてしまう状態になった。そんな状態なのに、王国の精鋭――騎士団や勇者がここに現れたらどうする? まず間違い無くお前は負ける。そして、公国の敵対する王国側に最強の武器が渡る」

「何が……言いたいのじゃ?」



 リーナは、絞り出すように聞いてくる。

 たぶん、彼女の中ではこの先の真実がわかっているだろうに。



「お前は、この牢屋の門番であって守護者ではない。そして、公国の情報もろとも武器が流出するのを防ぐために、お前がやられれば真の守護者たるワイバーンが眠りから覚めるようにプログラムされてたんだよ。要するに、お前は《剣聖》だから都合が良いというだけの、ただの捨て駒だったんだ」

「ッ!」



 リーナは、ビクリと肩を振るわせる。

 つーと、滑らかな頬を雫が伝った。



「わしは……ただ、何の役目も期待されず、死ぬという選択肢以外与えられず、200年間放置されていたのじゃな」

「そういうことになる……かな」

「のう小童。わしは、この先どうすればいい?」

「そう聞かれると思っていた。だから、これは俺からの提案……いや、お願いだ。ここにきた、もう一つの理由――」



 俺は、リーナに手を差し伸べて言った。



「俺達と一緒に、この腐った運命を塗り替えてくれないか?」
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