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第一章 反逆への序章編
第17話 降臨。真なる守護者
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「さて、おぬしはこのわしに勝ったわけじゃが……目的は《紫苑の指輪》と国宝武器であったな?」
服を整え、俺の方を睨んでくるリーナが、心底不服そうに問うてくる。
「ああ。そのつもりでここへ来た」
俺はヒリヒリする頬を押さえながら答える。
「ふん。まあよかろう。正直気に食わぬが……弱体化しているとはいえ、このわしに勝った男じゃ。上の連中に聞かされた掟通り、おぬしに授けるとしよう」
「助かる」
不意にリーナはしゃがみ込むと、リングに手を置く。
「《解錠》」
エコーのかかった不思議な呪文を唱えると、何もなかったリングの上に、三つの報酬が出現した。
一つは、拳大の玉手箱のような黒塗りの箱。二つ目は、艶やかな紅玉色の鞘におさまった日本刀。そして最後は、分厚い瑠璃色の盾だ。
「これでよいか?」
「ああ、ばっちりだ」
俺は不敵に微笑んで、日本刀を手に取る。
鞘から僅かに剣を抜くと、薄桃色の刃が覗いた。
国宝武器、名刀《桃花褐》。
このゲームの設定では、大昔に西の国と交流を持ったときに贈られたもの――だった気がする。
もう一つは《蒼盾》。
200年前の黄金期、一番の鍛冶職人と唄われた男が一年かけて作り上げた、ミスリルの盾だ。
その二つを俺は、装備――することはせず、それぞれフロルとフェリスに渡した。
「え? これ私達に?」
「どうしてなのだ?」
「言っただろう? 役に立って貰わなきゃ困るって」
首を傾げる二人に対し、あくまで事務的に答える。
「消えると知りながら消えてゆく命を見過ごせなかったことは事実だけど、俺もただ偽善100%でお前達二人を救ったわけじゃない。いずれ俺の側近となる、十分な素質を見出したからこそ、俺はお前達を助けることに決めた。だからこれはプレゼントじゃない。それを受け取れば、もう二度と後戻りはできないぞ」
そう言うと、フロルとフェリスは顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。
「うん、知ってる。望むところ」
「昨日覚悟は決めているのだ。僕たちはもう、カイムを主と認めているのだ」
なんの躊躇いもなく、フロルは腰に刀をさし、フェリスは盾を背負う。
「ありがとう、二人とも」
俺は、そんな二人の頭を軽く撫でてから、黒塗りの箱をとった。
蓋を開けると、中には紫色の指輪が入っていた。
《紫苑の指輪》。
それをはめるだけで、闇属性魔法が使えるようになるアイテムだ。
これを使えば、魔力やステータスの隠蔽ができるようになる。
俺は、紫色に輝くそれを右手の中指にはめた。
「これでよし……作戦の第一段階は終了だ。あとは――」
「の、のう小童。そういえばおぬし、さっきここへ来たのにはもう一つ理由があると言っておったな――それは一体」
ふと、リーナが俺の元へ歩いてきて、そんなことを聞いてきた。
勝ってから教えると言っていた、もう一つの理由。
「ああ、それね」
俺はリーナに向きなおって、一言告げた。
「お前、俺のものになってくれ」
――一瞬の静寂。
呆けたような顔つきだったリーナの頬が瞬く間に赤くなっていき、ぼふんと音を立てて顔から湯気が爆発した。
「は? お、おお、おぬし何を――?」
「俺の仲間になれと言ってる。俺の計画に、《剣聖》というピースが加われば心強いんだ」
「――な、なんじゃ。そ、そういう……いや、わかっておったがの!」
勘違いしたことが恥ずかしいのか、見事なまでにきょどるリーナ。
300歳で初心か。一周回ってアリだと思う。
「それはそうと、仲間になって欲しい、か。気持ちは嬉しいが……それには応えられぬ」
リーナは、少し残念そうに肩を落として言った。
「なぜならわしは――」
「この《解放の試練》に縫い付けられているから、だろ?」
そう答えると、リーナは驚いたように目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。
「そういえばおぬしは、わしの正体も、ここにいることも最初から知っておったな。わしがこの場に囚われていることも知っていて、おかしくないか」
自嘲気味に笑い、リーナは言葉を続ける。
「おぬしの言う通りじゃ。どういうわけか、わしはこの空間から抜け出せぬ。わしが公国から与えられた役割は、国宝と《紫苑の指輪》の守護じゃ。じゃが、わしを越える強さを持つ相手が現れたら、その者に渡して良いとも言われておる」
「なるほど……概ね、知識通りか」
俺は、小さく呟いてから、リーナに言った。
「その呪縛は、俺が解く。それなら問題ないだろう?」
「それは――そうじゃが」
眉をひそめるリーナを差し置いて、俺はフロルとフェリスの方を振り向いた。
「初陣だ。フロル、フェリス。気を引き締めろ?」
「え? だ、だってもう戦いは終わって――」
「第二ラウンドだ。言っておくけど、かなり際どい戦いになるぞ」
俺は、ニヤリと笑い、指先をパチンと鳴らす。
次の瞬間、リングをぐるりと取り囲むように《魔力障壁》のドームが展開され――
同時に、赤い空の一点がきらりと光る。
その一点は瞬く間に肥大化し、辺り一帯を真っ白に埋め尽くした。
「こ、この光は――まさか!?」
ドームで守られた中で、フロルは声を上げる。
「安心して。レイズの魔法じゃない。あいつの使う《極光閃》に似てるが、威力はこっちの方が低い。とはいえ、こっちがその原本ではあるんだけど」
あいつの《極光閃》は、とある生物が持つ殲滅魔法を研究・改良しより殺傷能力を高めたものだ。
その原本を持つ生物は――
外の真っ白な光が、ドームにヒビを入れ、やがて光が収まる。
と同時に、防御力が限界を迎えていた障壁は、ガラスが砕けるような音を立てて砕け散った。
落ちてゆくドームの破片の向こうに、黒い影が映る。
悪魔のような羽と二つの頭を持つ龍のような生物を見た瞬間、俺を除いた全員が口をそろえて叫んだ。
「「「ワイバーンッ!?」」」
服を整え、俺の方を睨んでくるリーナが、心底不服そうに問うてくる。
「ああ。そのつもりでここへ来た」
俺はヒリヒリする頬を押さえながら答える。
「ふん。まあよかろう。正直気に食わぬが……弱体化しているとはいえ、このわしに勝った男じゃ。上の連中に聞かされた掟通り、おぬしに授けるとしよう」
「助かる」
不意にリーナはしゃがみ込むと、リングに手を置く。
「《解錠》」
エコーのかかった不思議な呪文を唱えると、何もなかったリングの上に、三つの報酬が出現した。
一つは、拳大の玉手箱のような黒塗りの箱。二つ目は、艶やかな紅玉色の鞘におさまった日本刀。そして最後は、分厚い瑠璃色の盾だ。
「これでよいか?」
「ああ、ばっちりだ」
俺は不敵に微笑んで、日本刀を手に取る。
鞘から僅かに剣を抜くと、薄桃色の刃が覗いた。
国宝武器、名刀《桃花褐》。
このゲームの設定では、大昔に西の国と交流を持ったときに贈られたもの――だった気がする。
もう一つは《蒼盾》。
200年前の黄金期、一番の鍛冶職人と唄われた男が一年かけて作り上げた、ミスリルの盾だ。
その二つを俺は、装備――することはせず、それぞれフロルとフェリスに渡した。
「え? これ私達に?」
「どうしてなのだ?」
「言っただろう? 役に立って貰わなきゃ困るって」
首を傾げる二人に対し、あくまで事務的に答える。
「消えると知りながら消えてゆく命を見過ごせなかったことは事実だけど、俺もただ偽善100%でお前達二人を救ったわけじゃない。いずれ俺の側近となる、十分な素質を見出したからこそ、俺はお前達を助けることに決めた。だからこれはプレゼントじゃない。それを受け取れば、もう二度と後戻りはできないぞ」
そう言うと、フロルとフェリスは顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。
「うん、知ってる。望むところ」
「昨日覚悟は決めているのだ。僕たちはもう、カイムを主と認めているのだ」
なんの躊躇いもなく、フロルは腰に刀をさし、フェリスは盾を背負う。
「ありがとう、二人とも」
俺は、そんな二人の頭を軽く撫でてから、黒塗りの箱をとった。
蓋を開けると、中には紫色の指輪が入っていた。
《紫苑の指輪》。
それをはめるだけで、闇属性魔法が使えるようになるアイテムだ。
これを使えば、魔力やステータスの隠蔽ができるようになる。
俺は、紫色に輝くそれを右手の中指にはめた。
「これでよし……作戦の第一段階は終了だ。あとは――」
「の、のう小童。そういえばおぬし、さっきここへ来たのにはもう一つ理由があると言っておったな――それは一体」
ふと、リーナが俺の元へ歩いてきて、そんなことを聞いてきた。
勝ってから教えると言っていた、もう一つの理由。
「ああ、それね」
俺はリーナに向きなおって、一言告げた。
「お前、俺のものになってくれ」
――一瞬の静寂。
呆けたような顔つきだったリーナの頬が瞬く間に赤くなっていき、ぼふんと音を立てて顔から湯気が爆発した。
「は? お、おお、おぬし何を――?」
「俺の仲間になれと言ってる。俺の計画に、《剣聖》というピースが加われば心強いんだ」
「――な、なんじゃ。そ、そういう……いや、わかっておったがの!」
勘違いしたことが恥ずかしいのか、見事なまでにきょどるリーナ。
300歳で初心か。一周回ってアリだと思う。
「それはそうと、仲間になって欲しい、か。気持ちは嬉しいが……それには応えられぬ」
リーナは、少し残念そうに肩を落として言った。
「なぜならわしは――」
「この《解放の試練》に縫い付けられているから、だろ?」
そう答えると、リーナは驚いたように目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。
「そういえばおぬしは、わしの正体も、ここにいることも最初から知っておったな。わしがこの場に囚われていることも知っていて、おかしくないか」
自嘲気味に笑い、リーナは言葉を続ける。
「おぬしの言う通りじゃ。どういうわけか、わしはこの空間から抜け出せぬ。わしが公国から与えられた役割は、国宝と《紫苑の指輪》の守護じゃ。じゃが、わしを越える強さを持つ相手が現れたら、その者に渡して良いとも言われておる」
「なるほど……概ね、知識通りか」
俺は、小さく呟いてから、リーナに言った。
「その呪縛は、俺が解く。それなら問題ないだろう?」
「それは――そうじゃが」
眉をひそめるリーナを差し置いて、俺はフロルとフェリスの方を振り向いた。
「初陣だ。フロル、フェリス。気を引き締めろ?」
「え? だ、だってもう戦いは終わって――」
「第二ラウンドだ。言っておくけど、かなり際どい戦いになるぞ」
俺は、ニヤリと笑い、指先をパチンと鳴らす。
次の瞬間、リングをぐるりと取り囲むように《魔力障壁》のドームが展開され――
同時に、赤い空の一点がきらりと光る。
その一点は瞬く間に肥大化し、辺り一帯を真っ白に埋め尽くした。
「こ、この光は――まさか!?」
ドームで守られた中で、フロルは声を上げる。
「安心して。レイズの魔法じゃない。あいつの使う《極光閃》に似てるが、威力はこっちの方が低い。とはいえ、こっちがその原本ではあるんだけど」
あいつの《極光閃》は、とある生物が持つ殲滅魔法を研究・改良しより殺傷能力を高めたものだ。
その原本を持つ生物は――
外の真っ白な光が、ドームにヒビを入れ、やがて光が収まる。
と同時に、防御力が限界を迎えていた障壁は、ガラスが砕けるような音を立てて砕け散った。
落ちてゆくドームの破片の向こうに、黒い影が映る。
悪魔のような羽と二つの頭を持つ龍のような生物を見た瞬間、俺を除いた全員が口をそろえて叫んだ。
「「「ワイバーンッ!?」」」
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