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第一章 反逆への序章編
第15話 元《剣聖》の正体
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「リーナ=ヴェルステインって……嘘、本物!?」
「ど、どうなっているのだ?」
フロルとフェリスは、口々に驚きの声を上げる。
まあ、リーナと言えば、公国だけでなくブルガス王国にも未だ名が語り継がれる、伝説級人物だ。
公国の貧民街で育ち、奴隷として働かされた教養に乏しい二人でも、知らないはずがない大物。
それが今目の前にいる。
その事実と、もう一つ驚くべき点があった。それは――
「で、でもリーナさんは200年前に生きてた人だよね? なんで今ここにいるの!? も、もしかして幽霊とか!?」
フロルの指摘はもっともだ。
なぜ、200年前に畏怖の対象となった人間が、生きているのか?
それも、子どもの姿で。
知れば誰もが抱く矛盾。
だが、シナリオを知り尽くしている俺は、その答えなど当然持っている。
勇者アリスが、《解放の試練》に現れたときも、フロルと全く同じ疑問を口にしていた。
「あいつは幽霊なんかじゃない。正真正銘、リーナ=ヴェルステインその人だ」
「え……えぇ!? だって、黄金期は200年前で……」
「ああ。確かに彼女は200年前に生きていたが、今も生きている。単純な話、こいつは人間じゃない」
そう答えると、リーナの眉がピクリと動く。
「人間じゃ、ない?」
「ああ。こいつの正体は吸血鬼……ヴァンパイアだ。人間より遙かに寿命が長い。だから、幼子の見た目をしているが俺達より遙かに年上だ、そこのロリババアは」
「誰がロリババアじゃ! わしに向かって不敬じゃぞ」
リーナは、声を荒らげる。
「こう見えてもわしはまだピチピチの300歳代じゃ!」
「け、桁が一つおかしいのだ」
「……うん」
胸を張って長老宣言をするリーナに対し、フェリスとフロルはジト目を向ける。
「それにしても小童。よく《剣聖》であるわしが、ここにいると知っておったな。おまけに正体まで。親しき友人にしか話したことがないはずじゃが」
「別に。事前にいくつか情報を仕入れてたからね。もちろん、あなたがただのヴァンパイアじゃないことも知ってるよ?」
「ほぅ?」
興味深そうに、リーナは眉を吊り上げる。
「たとえば?」
「たとえば、そうだな――」
俺は、予備動作なしに腰に佩いた剣を抜き、振り返ることなく後ろ手に放り投げる。
そのすぐ後に、ズシャッという、何かを断つ鈍い音が響いた。
いつの間にか再生し、背後から音もなく忍び寄っていた一体の黒影を、切り裂いたのだ。
「――人を眷属にするのではなく、黒影という不死身の兵隊を作って眷属としていること、かな」
「ふん、やるではないか。一応、不意打ちをかけたつもりだったのじゃがな」
「見くびるな。あなた程度の不意打ちで、俺を仕留められるとでも?」
むろん、何も知らなかったらたぶん今の不意打ちで俺の首は飛んでいた。
今、俺が相手の不意打ちに対応できたのは、あくまで勇者アリスのときと全く同じ展開を予測したからだ。
リーナなら、このタイミングで、こういう攻撃をしかけてくる。
その確信があったから、張り詰めた意識が後方の僅かな空気の揺らぎを察知して、対応することができた。
そして――この賭けに勝ったことは、有利に働いてくる。
相手は勝負を挑むことすら烏滸がましい元《剣聖》。そのリーナに、俺がただならぬ存在である、という認識を縫い付けた。
「一応聞いておくが……ここに来たおぬしの目的はなんじゃ?」
「愚問だな。《紫苑の指輪》と、国宝に指定されている武器をもらいに来た。それともう一つは――いいや、あなたに勝ったあとで言うよ」
「よかろう。わしの役目はその国宝を守ること。そして、万が一にもわしに勝つ者が現れた場合、その者に力を託すことじゃ。手を抜いて勝てる相手でも無さそうじゃし、わしが直々に相手をしてやろう」
リーナは、腰に佩いた黒い片手直剣を抜いた。
観客席から舞台リングに飛び降りたリーナは、足音軽く着地する。
これでいい。
相手に、黒影程度では倒せない相手と認識させ、大ボスを勝負の場に引きずり出す。
それこそが、ベストのシナリオだ。
問題は、《剣聖》と謳われた相手に、勝てるかどうかだが――やるしかない。
本人はおくびにも出さないが、とある理由から200年もこの《解放の試練》の場に閉じ込められているせいで、彼女の実力は全盛期の30%ほどというのが、原作の設定だ。
そのペナルティだけが、俺へのアドバンテージとなる。
まあ、そのアドバンテージがあっても、まともに戦えば負けるのは100%俺の方だ。
なんというか、昨日から死なないために死線を潜るという本末転倒をおかしている気がするが、仕方が無い。
それに俺だって、勝算のない勝負を挑むほどバカじゃない。
命をつなぐために、ここで命をかけるメリットがあると判断したから、俺は迷わずここに立っているのだ。
「覚悟はいいな、《剣聖》様!」
自分にも言い聞かせるように一言吠えると、俺は地面を蹴って駆けだした。
「ど、どうなっているのだ?」
フロルとフェリスは、口々に驚きの声を上げる。
まあ、リーナと言えば、公国だけでなくブルガス王国にも未だ名が語り継がれる、伝説級人物だ。
公国の貧民街で育ち、奴隷として働かされた教養に乏しい二人でも、知らないはずがない大物。
それが今目の前にいる。
その事実と、もう一つ驚くべき点があった。それは――
「で、でもリーナさんは200年前に生きてた人だよね? なんで今ここにいるの!? も、もしかして幽霊とか!?」
フロルの指摘はもっともだ。
なぜ、200年前に畏怖の対象となった人間が、生きているのか?
それも、子どもの姿で。
知れば誰もが抱く矛盾。
だが、シナリオを知り尽くしている俺は、その答えなど当然持っている。
勇者アリスが、《解放の試練》に現れたときも、フロルと全く同じ疑問を口にしていた。
「あいつは幽霊なんかじゃない。正真正銘、リーナ=ヴェルステインその人だ」
「え……えぇ!? だって、黄金期は200年前で……」
「ああ。確かに彼女は200年前に生きていたが、今も生きている。単純な話、こいつは人間じゃない」
そう答えると、リーナの眉がピクリと動く。
「人間じゃ、ない?」
「ああ。こいつの正体は吸血鬼……ヴァンパイアだ。人間より遙かに寿命が長い。だから、幼子の見た目をしているが俺達より遙かに年上だ、そこのロリババアは」
「誰がロリババアじゃ! わしに向かって不敬じゃぞ」
リーナは、声を荒らげる。
「こう見えてもわしはまだピチピチの300歳代じゃ!」
「け、桁が一つおかしいのだ」
「……うん」
胸を張って長老宣言をするリーナに対し、フェリスとフロルはジト目を向ける。
「それにしても小童。よく《剣聖》であるわしが、ここにいると知っておったな。おまけに正体まで。親しき友人にしか話したことがないはずじゃが」
「別に。事前にいくつか情報を仕入れてたからね。もちろん、あなたがただのヴァンパイアじゃないことも知ってるよ?」
「ほぅ?」
興味深そうに、リーナは眉を吊り上げる。
「たとえば?」
「たとえば、そうだな――」
俺は、予備動作なしに腰に佩いた剣を抜き、振り返ることなく後ろ手に放り投げる。
そのすぐ後に、ズシャッという、何かを断つ鈍い音が響いた。
いつの間にか再生し、背後から音もなく忍び寄っていた一体の黒影を、切り裂いたのだ。
「――人を眷属にするのではなく、黒影という不死身の兵隊を作って眷属としていること、かな」
「ふん、やるではないか。一応、不意打ちをかけたつもりだったのじゃがな」
「見くびるな。あなた程度の不意打ちで、俺を仕留められるとでも?」
むろん、何も知らなかったらたぶん今の不意打ちで俺の首は飛んでいた。
今、俺が相手の不意打ちに対応できたのは、あくまで勇者アリスのときと全く同じ展開を予測したからだ。
リーナなら、このタイミングで、こういう攻撃をしかけてくる。
その確信があったから、張り詰めた意識が後方の僅かな空気の揺らぎを察知して、対応することができた。
そして――この賭けに勝ったことは、有利に働いてくる。
相手は勝負を挑むことすら烏滸がましい元《剣聖》。そのリーナに、俺がただならぬ存在である、という認識を縫い付けた。
「一応聞いておくが……ここに来たおぬしの目的はなんじゃ?」
「愚問だな。《紫苑の指輪》と、国宝に指定されている武器をもらいに来た。それともう一つは――いいや、あなたに勝ったあとで言うよ」
「よかろう。わしの役目はその国宝を守ること。そして、万が一にもわしに勝つ者が現れた場合、その者に力を託すことじゃ。手を抜いて勝てる相手でも無さそうじゃし、わしが直々に相手をしてやろう」
リーナは、腰に佩いた黒い片手直剣を抜いた。
観客席から舞台リングに飛び降りたリーナは、足音軽く着地する。
これでいい。
相手に、黒影程度では倒せない相手と認識させ、大ボスを勝負の場に引きずり出す。
それこそが、ベストのシナリオだ。
問題は、《剣聖》と謳われた相手に、勝てるかどうかだが――やるしかない。
本人はおくびにも出さないが、とある理由から200年もこの《解放の試練》の場に閉じ込められているせいで、彼女の実力は全盛期の30%ほどというのが、原作の設定だ。
そのペナルティだけが、俺へのアドバンテージとなる。
まあ、そのアドバンテージがあっても、まともに戦えば負けるのは100%俺の方だ。
なんというか、昨日から死なないために死線を潜るという本末転倒をおかしている気がするが、仕方が無い。
それに俺だって、勝算のない勝負を挑むほどバカじゃない。
命をつなぐために、ここで命をかけるメリットがあると判断したから、俺は迷わずここに立っているのだ。
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