上 下
12 / 59
第一章 反逆への序章編

第12話 ラスボスを超える覚悟

しおりを挟む
 どれくらい気を失っていただろうか?

 水の底から泡が立ち上るように、沈んでいた意識がゆっくりと覚醒する。



「……うん?」



 まず、感じた感触は後頭部に柔らかい何かがあたっている、ということ。

 続いて重たい瞼を開けると、人の上半身が映った。



「あ、気が付いたんだね」



 その人物が、俺の顔を覗き込む。

 桃色の綺麗な瞳が、俺を真っ直ぐに射貫いた。

 どうやら俺の後頭部は、この美しい少女の太ももに乗っかっているらしかった。



「お前は……フロルか。よかった、無事だったんだ」

「え? なんで私の名前……」

「知ってるさ。だって俺達、一度会ってるし」



 俺は、息を小さく吐きつつ答える。

 フロルはもちろん首を傾げているが、別に間違ったことは言っていない。



 アジトの廊下の角でぶつかるという、ラブコメお約束展開を経験済みだ。

 もちろん、名前を知っているのは別件だが。



「それよりも、ありがとう。助けてくれて」



 こっちこそありがとう。柔らかい太ももで膝枕してくれて。

 なんて緊張感のない台詞を吐きたかったが、変態と思われるのは嫌なのでやめておく。



「どういたしまして。無事でよかったよ、本当に」



 俺は、ふっと微笑みかけて――ふとそれに気付く。

 赤い月が照らす彼女の首元には、まだチョーカーがついていることに。



「しまった。チョーカー取り外すのを忘れてた……!」



 俺は、急いで飛び起きる。

 とりあえず、フロルは、オーナーに逆らったら死ぬ呪いで死んでいない。

 じゃあ、フェリスの方は!



 周囲を見まわす。

 草原に横たわるフェリスが、すぐに視界に飛び込んできた。



「フェリス!」

「……当然のように、その子の名前も知ってるんだね」



 フロルは落ち着いた声色で、俺の考えを察したように言葉を続けた。



「大丈夫だよ、お兄さん。フェリスちゃんは死んでない」

「本当か!?」

「うん」



 俺は、ひとつ深呼吸をして横たわる彼女を注視する。

 彼女の大きな胸は、呼吸に合わせて静かに上下していた。



「よかった……」



 どうやら、二人とも呪いは発動していないみたいだ。

 というかむしろ、首輪に流れる魔力の光が消えている。

 たぶん、術者のレイズが、彼女たちが死んだと思い込んだことで、呪いの持続効果が切れたのだと思う。

 ただ、これはあくまで効果が切れているだけ。



 電気のスイッチが切れているだけで、電球がなくなったわけではないのと一緒だ。

 呪いそのものは、チョーカーに刻み込まれている。



「呪いが発動する心配はもう無さそうだけど、念のためだ。解いておくよ」

「え? 呪いを解くって……?」

「そのままの意味だ」



 俺は、《魔法創作者スキル・クリエイター》を起動して、無属性魔法《解呪ディスペル》を作成する。



 魔力自体は、寝たことである程度回復しているから、既に効力を切られている状態の呪いを解くには十分だろう。



「《解呪ディスペル》」



 フロルのチョーカーに手を当て、そう唱える。

 すると、白い光がチョーカーを包み込み、パキンと音を立ててチョーカーが割れ砕けた。



「これでよし」

「す、凄い……」



 フロルは首に手を当て、驚いたように目を丸くする。

 

「次はフェリスだな」



 俺は、横たえているフェリスの方に歩いて、同じように手をかざした。



「《解呪ディスペル》」



 チョーカーが白く輝き、涼やかな音を立てて割れ砕ける。

 その音が、彼女の意識を覚醒させる呼び水になったらしい。



「ん」



 身じろぎをしたフェリスの瞼が、ぱちりと開く。

 その下から現れたブルーの瞳が、俺を見上げた。



「お目覚めかな、お姫様」

「誰なのだ?」

「そうだな……悪い魔王から君を救い出したナイト……的な?」

「……その顔で言われても、説得力がないのだ」



 え? 顔?

 俺そんなモブじみた顔だっけ?

 あ、モブだったわ



 俺は、自分の顔に手を置いて。

 硬い何かが、指先に当たった。



「ああ、そういえばずっと仮面付けてたんだった」



 俺は、正体を隠すために付けた仮面を取り外し、色彩変化の魔法で変えていた目の色を、元に戻した。



「あ、あなたは……!」



 そんな俺の顔を見て、フロルは声を上げる。



「あのとき、廊下でぶつかった……!」

「そう。だから言っただろ、俺達は一度会ってるって」

「でも私、名前教えてなかったような……」

「まあ、その辺の細かいことは、気にするな」



 俺は苦笑いしつつ、仮面をしまった。



「助けてくれてありがとうなのだ」



 フェリスは、落ち着いた声色で頭を下げてくる。



「いいさ、気にしなくて。勝手にやっただけだから」



 そう、これは俺が勝手にやったこと。

 自分のこれからにリスクを背負ってでも、彼女たちが死ぬことを知っていて、目を背けることはできなかった。



 正直俺は、この世界に転生したとき、死ぬ運命がわかっていながらもそこまで悲観はしていなかった。

 自分には、並外れた才能がある。自分には、前世で得たゲームの知識がある。



 だから、何とかなるだろうとタカを括っていたのだ。



 しかし、俺は今日思い知った。

 この世界の行く末を。未来を知ってしまった中で生きることが、どれほど残酷なことなのかを。



 ――そう。

 俺は、一人だけ生き残ることに、とてつもない罪悪感を感じているのだ。



 たぶん、これから先。俺は、自分のことだけを考えて生きていくことはできない。

 いつか自分が殺される運命も、彼女たちが殺される運命も。

 これから起こる理不尽で、死んでいく人達も。



 それらが全部、あのクソッタレのラスボスのせいで引き起こされるのなら、その元凶たるラスボスを叩きつぶす。

 俺が、レイズにとってのラスボスとなるのだ。



 自分も他人も死ぬのが嫌だから、知識チートと天賦の才で、とことん無双してやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。 「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」 とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。 単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。 自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか? 剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~

おさない
ファンタジー
 徹夜で新作のRPG『ラストファンタジア』をクリアした俺は、気づくと先程までプレイしていたゲームの世界に転生していた。  しかも転生先は、味方としてパーティに加わり、最後は主人公を裏切ってラスボスとなる悪役貴族のアラン・ディンロードの少年時代。  おまけに、とある事情により悪の道に進まなくても死亡確定である。  絶望的な状況に陥ってしまった俺は、破滅の運命に抗うために鍛錬を始めるのだが……ラスボスであるアランには俺の想像を遥かに超える才能が眠っていた! ※カクヨムにも掲載しています

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界まったり冒険記~魔法創造で快適無双~

南郷 聖
ファンタジー
普通の学校に通う普通のオタクな高校生「坂本 匠」16歳は童貞だ。 将来の夢は可愛い女の子と付き合ってあんなことやこんなことをすること。 しかしその夢は、放火の魔の手によってもろくも崩れ去る。 焼死した匠の目の前に現れたのは、ナイスバディな女神様。 その女神様の計らいで異世界に転生することになった主人公。 次の人生では女の子にモテるような人生を歩むことを心に誓い、転生を決意する。 果たして匠は異世界で童貞を捨てることはできるのか!?

処理中です...