10 / 59
第一章 反逆への序章編
第10話 流星猛威、そして――
しおりを挟む
空より肉薄する無数の業火を見ながら、俺は――正直誉れ高いと思っていた。
だってこれ、物語の終盤で王国軍1万の兵士を全滅させた、超殲滅級魔法だぞ!?
それを、俺一人相手に使うとは。大盤振る舞いもいいところだって!
これ、生き残ったら超カッコいいじゃないか。
まあ、生き残れる確率は正直低いだろうが、根性見せろ俺!
この《終末ノ焔》とかいうバカげた大魔法は、無差別攻撃魔法。
勘と運で、是が非でも生き残る!
もちろん――腰を抜かしているフロルと、生死の境を彷徨っているフェリスも含めて、だ。
「絶望したかい?」
「まさか。これだけ流れ星がたくさんだと、一生分の願いが叶いそうだ」
俺は、少しでも気を抜けば恐怖で食い潰されそうな心を制し、打開策を考える。
上空の業火はすぐ近くまで迫り、もはや真昼のような明るさだ。
「基本四属性のうち、炎に有効な水属性だけ持ってないなんて、不運だな俺。この威力じゃ、《魔力障壁》でも防ぎきれないし」
だが――見つけた。
圧倒的不利な状況で、少しでも有利に立ち回る方法を。
「《魔法創作者》起動、風属性魔法《疾風足》」
できあがった魔法を、瞬時に使用。
すると、俺の両足を中心に風が逆巻く。
地面を蹴ると、たった一蹴りで数メートル離れていたフロルの元まで一瞬で届いた。
《疾風足》。
足に風を纏い、疾風のように駆けるための風属性魔法だ。
「ちょっとすまん」
フロルと、壁にたたき付けられた衝撃で半ば死にかけているフェリスの二人を抱える。
うん、女の子って軽いんだな。
などと呑気なことを考えている暇はない。
「あ、あの……」
「喋らないで、舌噛むぞ」
「う、うん」
現状持っているありったけの魔力をつぎ込んで、再度《疾風足》で駆けだした。
と同時に、天から降ってきた業火が、すぐ後ろの地面に落下する。
ドンッ!
音を立てて爆発した地面から土埃と熱波が舞い上がり、襲いかかる。
あと少し、走り出すのが遅かったら全員溶けていた。
――が、当然安心している暇はない。
煮えたぎる業火が、次々と降ってくる。
周囲の塀や建物が次々と破壊されていくのを尻目に、俺はひたすら逃げ回る。
右へ左へ、近くの壁を駆け上がって方向転換し、風を纏った足で壁面を蹴って加速する。
あちこちで爆発する熱と衝撃波の伝う速度より尚速く、残像をも置き去りにする速度で。
「うぉおおおおおおおおお――ッ!」
雄叫びを上げ、無我夢中で駆け回った。
そして――流星が、止む。
辺りは、惨憺たる有様だった。
地面のあちこちにクレーターができていて、真っ黒な煙を上げている。
周囲の建物や塀は吹き飛んで、広いアジトの約2割が消し炭になっていた。
この辺の建物は倉庫ばかりだから、幸いにも死者は出なかったはずだが――もしこれが、アジトのど真ん中だったらと思うとゾッとする。
そんな、残り火と黒煙が渦巻く世界の中心に、俺は立っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
肩で激しく息をしながら、俺は煙で霞む先を見る。
両脇に女の子二人を抱えた上で、魔力を惜しみなくつぎ込んでの全力疾走。
それに追い打ちをかけるように、業火が酸素を求めて暴れ狂った後だ。
酸欠による過呼吸と目眩に見舞われながらも、俺は警戒を解かない。
解くわけにはいかない。
「まさか、生き残るとはね」
黒煙の向こうから、レイズが現れる。
そう語る彼は、当たり前のように無傷。
あれだけ猛烈な攻撃の渦中にいて、かすり傷一つ無い。
おそらく、《魔力障壁》などの防御魔術を起動していたのだろう。
今の俺よりも、魔力量も魔力操作センスも遙かに上の男だ。
自分の魔法を自分で喰らうわけもないが――改めてコイツのヤバさを再確認した。
「正直、嘗めてたよ」
レイズの目は据わっている。
先程までの弱者を見下す目ではない。
ただ一人、倒すべき敵がここにいる。そう確信している目だった。
「荷物を二つも抱えて、音速を超える速度で逃げるなんて。おまけに、生じた衝撃波で火の粉や破片を吹き飛ばし、怪我をも防ぐ。まさか、限られた時間と少ない手札で、ここまで食い下がるとは」
レイズは目を細め、小さく息を吐く。
それから、「一応聞いておく。名前は?」と聞いてきた。
「……悪いけど、それは企業秘密なんだ。生き残ったとき、名前を知られてたら厄介だからな」
「そう。残念だ」
レイズはもう一度ため息をついて、ゆっくりと右手を伸ばした。
「せめてもの手向けだ。地獄まで持って行けよ――《極光閃》」
カッ!
白い光が、レイズから放たれる。
夜の色すら真っ白に塗り替えたその光の奔流は、一直線に俺等へと肉薄し――視界が真っ白に染め上げられた。
その日。周辺地域では、空より降る流星と、地上を駆け抜ける真っ白な光が観測されたという。
もちろん、その両方が直撃した場所は、塵すら溶けて蒸発しており、後には何も残らなかったらしい。
だってこれ、物語の終盤で王国軍1万の兵士を全滅させた、超殲滅級魔法だぞ!?
それを、俺一人相手に使うとは。大盤振る舞いもいいところだって!
これ、生き残ったら超カッコいいじゃないか。
まあ、生き残れる確率は正直低いだろうが、根性見せろ俺!
この《終末ノ焔》とかいうバカげた大魔法は、無差別攻撃魔法。
勘と運で、是が非でも生き残る!
もちろん――腰を抜かしているフロルと、生死の境を彷徨っているフェリスも含めて、だ。
「絶望したかい?」
「まさか。これだけ流れ星がたくさんだと、一生分の願いが叶いそうだ」
俺は、少しでも気を抜けば恐怖で食い潰されそうな心を制し、打開策を考える。
上空の業火はすぐ近くまで迫り、もはや真昼のような明るさだ。
「基本四属性のうち、炎に有効な水属性だけ持ってないなんて、不運だな俺。この威力じゃ、《魔力障壁》でも防ぎきれないし」
だが――見つけた。
圧倒的不利な状況で、少しでも有利に立ち回る方法を。
「《魔法創作者》起動、風属性魔法《疾風足》」
できあがった魔法を、瞬時に使用。
すると、俺の両足を中心に風が逆巻く。
地面を蹴ると、たった一蹴りで数メートル離れていたフロルの元まで一瞬で届いた。
《疾風足》。
足に風を纏い、疾風のように駆けるための風属性魔法だ。
「ちょっとすまん」
フロルと、壁にたたき付けられた衝撃で半ば死にかけているフェリスの二人を抱える。
うん、女の子って軽いんだな。
などと呑気なことを考えている暇はない。
「あ、あの……」
「喋らないで、舌噛むぞ」
「う、うん」
現状持っているありったけの魔力をつぎ込んで、再度《疾風足》で駆けだした。
と同時に、天から降ってきた業火が、すぐ後ろの地面に落下する。
ドンッ!
音を立てて爆発した地面から土埃と熱波が舞い上がり、襲いかかる。
あと少し、走り出すのが遅かったら全員溶けていた。
――が、当然安心している暇はない。
煮えたぎる業火が、次々と降ってくる。
周囲の塀や建物が次々と破壊されていくのを尻目に、俺はひたすら逃げ回る。
右へ左へ、近くの壁を駆け上がって方向転換し、風を纏った足で壁面を蹴って加速する。
あちこちで爆発する熱と衝撃波の伝う速度より尚速く、残像をも置き去りにする速度で。
「うぉおおおおおおおおお――ッ!」
雄叫びを上げ、無我夢中で駆け回った。
そして――流星が、止む。
辺りは、惨憺たる有様だった。
地面のあちこちにクレーターができていて、真っ黒な煙を上げている。
周囲の建物や塀は吹き飛んで、広いアジトの約2割が消し炭になっていた。
この辺の建物は倉庫ばかりだから、幸いにも死者は出なかったはずだが――もしこれが、アジトのど真ん中だったらと思うとゾッとする。
そんな、残り火と黒煙が渦巻く世界の中心に、俺は立っていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
肩で激しく息をしながら、俺は煙で霞む先を見る。
両脇に女の子二人を抱えた上で、魔力を惜しみなくつぎ込んでの全力疾走。
それに追い打ちをかけるように、業火が酸素を求めて暴れ狂った後だ。
酸欠による過呼吸と目眩に見舞われながらも、俺は警戒を解かない。
解くわけにはいかない。
「まさか、生き残るとはね」
黒煙の向こうから、レイズが現れる。
そう語る彼は、当たり前のように無傷。
あれだけ猛烈な攻撃の渦中にいて、かすり傷一つ無い。
おそらく、《魔力障壁》などの防御魔術を起動していたのだろう。
今の俺よりも、魔力量も魔力操作センスも遙かに上の男だ。
自分の魔法を自分で喰らうわけもないが――改めてコイツのヤバさを再確認した。
「正直、嘗めてたよ」
レイズの目は据わっている。
先程までの弱者を見下す目ではない。
ただ一人、倒すべき敵がここにいる。そう確信している目だった。
「荷物を二つも抱えて、音速を超える速度で逃げるなんて。おまけに、生じた衝撃波で火の粉や破片を吹き飛ばし、怪我をも防ぐ。まさか、限られた時間と少ない手札で、ここまで食い下がるとは」
レイズは目を細め、小さく息を吐く。
それから、「一応聞いておく。名前は?」と聞いてきた。
「……悪いけど、それは企業秘密なんだ。生き残ったとき、名前を知られてたら厄介だからな」
「そう。残念だ」
レイズはもう一度ため息をついて、ゆっくりと右手を伸ばした。
「せめてもの手向けだ。地獄まで持って行けよ――《極光閃》」
カッ!
白い光が、レイズから放たれる。
夜の色すら真っ白に塗り替えたその光の奔流は、一直線に俺等へと肉薄し――視界が真っ白に染め上げられた。
その日。周辺地域では、空より降る流星と、地上を駆け抜ける真っ白な光が観測されたという。
もちろん、その両方が直撃した場所は、塵すら溶けて蒸発しており、後には何も残らなかったらしい。
46
お気に入りに追加
663
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。
良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる