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第一章 反逆への序章編
第4話 少し、レベルを上げすぎたようです。
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ボスファング・ウルフの前足が、俺へと振り下ろされる。
その先端に生えそろった鋭い爪が、容赦なく肉薄し――
「くっ!」
俺の身体を八つ裂きにする寸前、剣を横に構えて爪を受け止めた。
刃と爪が擦れ、火花が散る。
一瞬、互いの力が拮抗したが、何せ相手はボス級のモンスター。
凄まじい膂力で、身体が後ろに吹っ飛ばされた。
「この馬鹿力が!」
空中で体勢を整え、着地。
靴底をすり減らして勢いを殺し、敵を見すえる。
――強い。
が。
「思ったほどじゃ、ない!」
とある事情から意図的にセーブしていた魔力を、解放する。
掌を相手に向け、呪文を唱えた。
「《石弾》ッ!!」
さっきと同じ、石弾のスキル。
しかし今回は、小石サイズから漬け物石くらいの大きさに成長している。
石弾に込められるだけの魔力を全て込めて、撃ち放つ。
「喰らえっ」
大きな石弾が、衝撃波を纏って飛翔する。
先程よりも数十倍速い、それこそ音速を超える速度で。
石弾は容赦なくボスファング・ウルフの腹を抉り抜き、胴体に大穴を開ける。
ボスファング・ウルフは白目を剥いて、その場に倒れ伏すのだった。
「今扱える最大威力は、こんなものか」
俺は、服に付いた土埃をはらいながら毒突いた。
足りない。
最大威力が音速の漬け物石じゃ、話にならない。
ちなみに、今の強さで既に王国の騎士副団長レベルの強さはあるのだが、それで満足してられない。
だって、いつか俺を殺すあの男は、比べるのもバカらしいほどに異次元クラスの強さを誇っているから。
「まだまだ、強くならないと!」
天賦の才に溺れている暇はない。
レベルを上げ、使える魔法を増やし、俺はまだまだ強くならなければいけない。
「ん? 北西140メートル先に、モンスターの気配。数は……10体か」
まだまだ夜は終わらない。
俺は、次なる獲物を求めて駆けだした。
△▼△▼△▼
――翌日。
俺は、前日の夜が明けるまでモンスターを倒しまくっていたことを後悔していた。
何しろ、この日は週に一度の実力測定試験があったからだ。
いろいろ焦っていて、すっかり忘れていた。
あえて言うが、寝不足で試験を受けることになったから後悔したわけじゃない。
後悔したのは、なぜかというと――
「おい。貴様」
「は、はい」
俺は、恐る恐る顔を上げる。
目の前には、身長二メートルを超える巨体の、怖そうな男が立っていた。
額に青筋が入っているあたり……うわぁ、相当お怒りでいらっしゃる。
「貴様、なんだ今の火属性魔法の威力は」
「す、すいません。本気で撃ったんですが、魔力が暴走してしまって……あは、あはは」
俺は、訓練用の対魔法コーティングが施された的が、跡形もなく吹き飛んだ痕を見ながら必至に愛想笑いを浮かべる。
「本当か?」
「ええ。体内の魔力のほとんどを、一気に放出しちゃいました」
もちろん、魔力の暴走なんて嘘である。
体内の魔力だって、1%も減っていない。
いつもの調子で《火球》を放ったら、的を吹き飛ばしてしまったのだ。
ではなぜ、俺は今必至に弁明しているのか。
それは――普通の魔法では傷一つつかない訓練用の的なのに、それを粉々に吹き飛ばす威力の魔法を撃ってしまったから、である。
俺はただのモブとして転生した以上、モブらしくいなければならない。
それは、目立ちたくないとかではなく、目立つわけにはいかないからだ。
規格外の力が周囲にバレれば、当然ボスであるレイズの目にとまる。
刻が満ちるまで、俺は水面下で動かなければいけない。
いずれ反旗を翻す相手に、俺という存在を認知させるわけにはいかないのだ。
「まあ、単に魔力の暴走ってことならいいんだがな。これまでのテスト結果を、あえて手を抜いて偽っていたとなると……ボスに報告せねばならないからな。そこんとこ、わかっているか?」
「もちろんです! 教官殿!」
ここは全力で敬礼しておく。
俺は立派なレイズ信者! 反吐が出そうだが、そう思わせることが無害なモブの勤めだ。
「なら、よし。壊した的の修理代は、お前の給料から差し引いておくからな」
「え゛!?」
「……何か問題でも?」
「いえ! ありません!」
マジかよ。
去って行く教官に敬礼して忠誠を現しつつ、決め顔の裏ではさめざめと涙を流す俺であった。
――それはそれとして、さしあたって疑問が一つ残る。
たかが《火球》を放っただけで、対魔法コーティングが施された的を簡単に吹き飛ばす威力。
どうやら俺は、昨日のモンスター狩りで大幅にレベルアップしたらしい。
一夜でこんな強くなってるなんて。
昨日モンスターを狩りまくったことで、自らを危険にさらすこととなったのを後悔しつつ、恐る恐るステータスを確認した俺は、思わず腰を抜かしそうになった。
その先端に生えそろった鋭い爪が、容赦なく肉薄し――
「くっ!」
俺の身体を八つ裂きにする寸前、剣を横に構えて爪を受け止めた。
刃と爪が擦れ、火花が散る。
一瞬、互いの力が拮抗したが、何せ相手はボス級のモンスター。
凄まじい膂力で、身体が後ろに吹っ飛ばされた。
「この馬鹿力が!」
空中で体勢を整え、着地。
靴底をすり減らして勢いを殺し、敵を見すえる。
――強い。
が。
「思ったほどじゃ、ない!」
とある事情から意図的にセーブしていた魔力を、解放する。
掌を相手に向け、呪文を唱えた。
「《石弾》ッ!!」
さっきと同じ、石弾のスキル。
しかし今回は、小石サイズから漬け物石くらいの大きさに成長している。
石弾に込められるだけの魔力を全て込めて、撃ち放つ。
「喰らえっ」
大きな石弾が、衝撃波を纏って飛翔する。
先程よりも数十倍速い、それこそ音速を超える速度で。
石弾は容赦なくボスファング・ウルフの腹を抉り抜き、胴体に大穴を開ける。
ボスファング・ウルフは白目を剥いて、その場に倒れ伏すのだった。
「今扱える最大威力は、こんなものか」
俺は、服に付いた土埃をはらいながら毒突いた。
足りない。
最大威力が音速の漬け物石じゃ、話にならない。
ちなみに、今の強さで既に王国の騎士副団長レベルの強さはあるのだが、それで満足してられない。
だって、いつか俺を殺すあの男は、比べるのもバカらしいほどに異次元クラスの強さを誇っているから。
「まだまだ、強くならないと!」
天賦の才に溺れている暇はない。
レベルを上げ、使える魔法を増やし、俺はまだまだ強くならなければいけない。
「ん? 北西140メートル先に、モンスターの気配。数は……10体か」
まだまだ夜は終わらない。
俺は、次なる獲物を求めて駆けだした。
△▼△▼△▼
――翌日。
俺は、前日の夜が明けるまでモンスターを倒しまくっていたことを後悔していた。
何しろ、この日は週に一度の実力測定試験があったからだ。
いろいろ焦っていて、すっかり忘れていた。
あえて言うが、寝不足で試験を受けることになったから後悔したわけじゃない。
後悔したのは、なぜかというと――
「おい。貴様」
「は、はい」
俺は、恐る恐る顔を上げる。
目の前には、身長二メートルを超える巨体の、怖そうな男が立っていた。
額に青筋が入っているあたり……うわぁ、相当お怒りでいらっしゃる。
「貴様、なんだ今の火属性魔法の威力は」
「す、すいません。本気で撃ったんですが、魔力が暴走してしまって……あは、あはは」
俺は、訓練用の対魔法コーティングが施された的が、跡形もなく吹き飛んだ痕を見ながら必至に愛想笑いを浮かべる。
「本当か?」
「ええ。体内の魔力のほとんどを、一気に放出しちゃいました」
もちろん、魔力の暴走なんて嘘である。
体内の魔力だって、1%も減っていない。
いつもの調子で《火球》を放ったら、的を吹き飛ばしてしまったのだ。
ではなぜ、俺は今必至に弁明しているのか。
それは――普通の魔法では傷一つつかない訓練用の的なのに、それを粉々に吹き飛ばす威力の魔法を撃ってしまったから、である。
俺はただのモブとして転生した以上、モブらしくいなければならない。
それは、目立ちたくないとかではなく、目立つわけにはいかないからだ。
規格外の力が周囲にバレれば、当然ボスであるレイズの目にとまる。
刻が満ちるまで、俺は水面下で動かなければいけない。
いずれ反旗を翻す相手に、俺という存在を認知させるわけにはいかないのだ。
「まあ、単に魔力の暴走ってことならいいんだがな。これまでのテスト結果を、あえて手を抜いて偽っていたとなると……ボスに報告せねばならないからな。そこんとこ、わかっているか?」
「もちろんです! 教官殿!」
ここは全力で敬礼しておく。
俺は立派なレイズ信者! 反吐が出そうだが、そう思わせることが無害なモブの勤めだ。
「なら、よし。壊した的の修理代は、お前の給料から差し引いておくからな」
「え゛!?」
「……何か問題でも?」
「いえ! ありません!」
マジかよ。
去って行く教官に敬礼して忠誠を現しつつ、決め顔の裏ではさめざめと涙を流す俺であった。
――それはそれとして、さしあたって疑問が一つ残る。
たかが《火球》を放っただけで、対魔法コーティングが施された的を簡単に吹き飛ばす威力。
どうやら俺は、昨日のモンスター狩りで大幅にレベルアップしたらしい。
一夜でこんな強くなってるなんて。
昨日モンスターを狩りまくったことで、自らを危険にさらすこととなったのを後悔しつつ、恐る恐るステータスを確認した俺は、思わず腰を抜かしそうになった。
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