3 / 59
第一章 反逆への序章編
第3話 真夜中の討伐
しおりを挟む
――青白い月が照らす下、漆黒の影が過ぎる。
黒い影――俺は、生い茂る木々の隙間を縫い、風を切って駆け抜ける。
夜はいい。
視界が不明瞭な分、他の感覚を鋭敏に研ぎ澄ます。
聞こえる。
俺の左右に展開し、併走しているファング・ウルフの足音と息づかいが。
「……数は右に3、左に4。少し離れたところにボスが1か。ボスの気配だけ、なんだか異様に大きいな」
この程度、わざわざ《索敵》スキルを使うまでもない。
俺の耳と第六感で、常に位置を把握している。
「狩りをはじめよう」
にっと、不敵に笑った瞬間。
暗闇の向こうからグルルル……といううなり声が聞こえてきて。
青白い毛並みの狼のようなモンスター、ファング・ウルフが次々に飛びかかってきた。
先陣を切って飛んできた一匹が、鋭い牙のついた口を大きく広げて迫る。
「お腹を空かせてるんだね。食事を上げよう。でも……」
俺は素早く腰に佩いた片手直剣を引き抜き、突きを放つ。
月光を跳ね返す剣先が、ファング・ウルフの口に突き刺さった。
「……俺の料理は、鉄と血の味がするけど」
刃を垂直に立て、そのまま下にスライドさせる。
下顎と喉を搔き斬られた一体目は、瞬時に絶命した。
と、間髪入れず、倒れ伏す一体目の影から二体目が飛び出す。
それと同時に背後からもファング・ウルフが肉薄する気配。
俺は、地面を思いっきり蹴って空中へ飛び上がる。
俺を襲った二体が、真正面から激突するのを下に見ながら、俺は左手を空に掲げた。
「《火球》」
ボッ!
掲げた掌の上に、赤い火球が生まれ、宵闇を照らす。
俺は、眼下で絡みつく二体のファング・ウルフめがけて火球を放った。
轟!
一瞬にして二体のファング・ウルフは火達磨になる。
そんな、深夜の即興焼き肉パーティーに参加したい命知らずのモンスターは、まだまだたくさんいるらしい。
足音軽く着地した俺めがけて、残りのファング・ウルフたちが一斉に飛びかかってくる。
焼き肉になるか、挽肉になるか。
彼等にはその二つしか選択肢が残されていないというのに。
「立派な牙を付けているとこ悪いんだが……君たちは食われる側だ」
そんな俺も、今はまだ食われる側だ。
だが、いつか。ラスボスに手が届くときが来たらそのときは――
「全身全霊を持って、お前を食い潰す」
覚悟を決めると同時に剣を構え、地面を蹴って駆けだした。
俺の周囲をぐるりと取り囲むようにして飛びかかってきたファング・ウルフの速度より尚速く。
一陣の夜風となって、四体の脇を縫うようにすり抜ける。
そして――残心。
一瞬の静寂を打ち払うように、四体のファング・ウルフは、切り口から血を吹き出して倒れた。
「あとは……群れのボスか」
ぼそりと呟いた俺の背後から、ガウゥ! という恐ろしい声が聞こえた。
振り向くと、今までのファング・ウルフよりも二回りも大きなボスが、地面を蹴って、空高く跳び上がっているところだった。
名付けるとしたら……ボスファング・ウルフといったところだろうか。
蒼銀のシルエットが月を背にして、襲いかかる。
赤く輝く三つの眼が、闇夜の中異様に不気味に映った。
「《石弾》ッ!」
俺は、掌をボスファング・ウルフに向け、土属性の魔法である《石弾》を放つ。
小石大の大きさの岩が瞬時に生成され、狙い過たずファング・ウルフの眉間を――貫かなかった。
「っ!?」
石弾は、相手の額に当たった瞬間、粉々に砕け散ってしまったのだ。
俺は咄嗟に跳び下がって距離をとる。
「なるほど。この程度じゃ傷一つ付かない……と」
やはり、あのとき感じた気配で強いヤツの予感はしていたが。
「やってみるか。初めての大物退治!」
この程度のモンスターに苦戦しているようなら、レイズを倒し、死の運命を回避するなんて夢のまた夢だ。
「見せてやるよ。現時点での、俺の本気を!」
そう言葉にした瞬間、鋭い牙をむき出しにして、ボスファング・ウルフが襲いかかってきた。
黒い影――俺は、生い茂る木々の隙間を縫い、風を切って駆け抜ける。
夜はいい。
視界が不明瞭な分、他の感覚を鋭敏に研ぎ澄ます。
聞こえる。
俺の左右に展開し、併走しているファング・ウルフの足音と息づかいが。
「……数は右に3、左に4。少し離れたところにボスが1か。ボスの気配だけ、なんだか異様に大きいな」
この程度、わざわざ《索敵》スキルを使うまでもない。
俺の耳と第六感で、常に位置を把握している。
「狩りをはじめよう」
にっと、不敵に笑った瞬間。
暗闇の向こうからグルルル……といううなり声が聞こえてきて。
青白い毛並みの狼のようなモンスター、ファング・ウルフが次々に飛びかかってきた。
先陣を切って飛んできた一匹が、鋭い牙のついた口を大きく広げて迫る。
「お腹を空かせてるんだね。食事を上げよう。でも……」
俺は素早く腰に佩いた片手直剣を引き抜き、突きを放つ。
月光を跳ね返す剣先が、ファング・ウルフの口に突き刺さった。
「……俺の料理は、鉄と血の味がするけど」
刃を垂直に立て、そのまま下にスライドさせる。
下顎と喉を搔き斬られた一体目は、瞬時に絶命した。
と、間髪入れず、倒れ伏す一体目の影から二体目が飛び出す。
それと同時に背後からもファング・ウルフが肉薄する気配。
俺は、地面を思いっきり蹴って空中へ飛び上がる。
俺を襲った二体が、真正面から激突するのを下に見ながら、俺は左手を空に掲げた。
「《火球》」
ボッ!
掲げた掌の上に、赤い火球が生まれ、宵闇を照らす。
俺は、眼下で絡みつく二体のファング・ウルフめがけて火球を放った。
轟!
一瞬にして二体のファング・ウルフは火達磨になる。
そんな、深夜の即興焼き肉パーティーに参加したい命知らずのモンスターは、まだまだたくさんいるらしい。
足音軽く着地した俺めがけて、残りのファング・ウルフたちが一斉に飛びかかってくる。
焼き肉になるか、挽肉になるか。
彼等にはその二つしか選択肢が残されていないというのに。
「立派な牙を付けているとこ悪いんだが……君たちは食われる側だ」
そんな俺も、今はまだ食われる側だ。
だが、いつか。ラスボスに手が届くときが来たらそのときは――
「全身全霊を持って、お前を食い潰す」
覚悟を決めると同時に剣を構え、地面を蹴って駆けだした。
俺の周囲をぐるりと取り囲むようにして飛びかかってきたファング・ウルフの速度より尚速く。
一陣の夜風となって、四体の脇を縫うようにすり抜ける。
そして――残心。
一瞬の静寂を打ち払うように、四体のファング・ウルフは、切り口から血を吹き出して倒れた。
「あとは……群れのボスか」
ぼそりと呟いた俺の背後から、ガウゥ! という恐ろしい声が聞こえた。
振り向くと、今までのファング・ウルフよりも二回りも大きなボスが、地面を蹴って、空高く跳び上がっているところだった。
名付けるとしたら……ボスファング・ウルフといったところだろうか。
蒼銀のシルエットが月を背にして、襲いかかる。
赤く輝く三つの眼が、闇夜の中異様に不気味に映った。
「《石弾》ッ!」
俺は、掌をボスファング・ウルフに向け、土属性の魔法である《石弾》を放つ。
小石大の大きさの岩が瞬時に生成され、狙い過たずファング・ウルフの眉間を――貫かなかった。
「っ!?」
石弾は、相手の額に当たった瞬間、粉々に砕け散ってしまったのだ。
俺は咄嗟に跳び下がって距離をとる。
「なるほど。この程度じゃ傷一つ付かない……と」
やはり、あのとき感じた気配で強いヤツの予感はしていたが。
「やってみるか。初めての大物退治!」
この程度のモンスターに苦戦しているようなら、レイズを倒し、死の運命を回避するなんて夢のまた夢だ。
「見せてやるよ。現時点での、俺の本気を!」
そう言葉にした瞬間、鋭い牙をむき出しにして、ボスファング・ウルフが襲いかかってきた。
50
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
転生したら主人公を裏切ってパーティを離脱する味方ヅラ悪役貴族だった~破滅回避のために強くなりすぎた結果、シナリオが完全崩壊しました~
おさない
ファンタジー
徹夜で新作のRPG『ラストファンタジア』をクリアした俺は、気づくと先程までプレイしていたゲームの世界に転生していた。
しかも転生先は、味方としてパーティに加わり、最後は主人公を裏切ってラスボスとなる悪役貴族のアラン・ディンロードの少年時代。
おまけに、とある事情により悪の道に進まなくても死亡確定である。
絶望的な状況に陥ってしまった俺は、破滅の運命に抗うために鍛錬を始めるのだが……ラスボスであるアランには俺の想像を遥かに超える才能が眠っていた!
※カクヨムにも掲載しています
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる