上 下
3 / 3

第3話 獲得。新たなスキル

しおりを挟む
 このままじゃ終わらせない(キリッ)、とは言ったものの……

「これまで、自分に唯一できる植物魔法の研究は進めてきたけど、一向に成果が現れないんだよなぁ」

 その日の深夜。
 自分の住処である、屋敷の裏の納屋に帰ってきた俺は、ため息をついた。
 窓ガラスは割れ、屋根からは雨漏りがするボロボロの納屋だ。
 家族から迫害され、形式上使用人というサンドバッグとパシリをやっている俺に与えられたのは、六畳ほどの広さのボロ小屋だった。

 腐り落ちた棚には、何種類もの植物の鉢や薬品が並んでいる。
 これまで研究してきた、異世界の植物の標本や、成分を抽出した液体などだ。
 もちろん、棚に並んでいるのはそこまで貴重なものではない。理由は単純。三日に一片くらいの頻度で、オウルやカースが、石を投げ入れたり壁に落書きをしたりして、嫌がらせしてくるからだ。

「よっこらせっと」

 俺は、煤汚れた絨毯の端をめくり、下から現れた鉄の扉を持ち上げる。
 ギシギシと音を立て、重たい鉄扉が開くと、下へ続く梯子が現れた。
 
 兄たちに壊されないよう、大事な研究成果はこうして地下に隠しているのだ。
 俺は薄暗い地下室に降りて、壁に掛けてある蝋燭に火を付ける。
 
 密閉空間で火を使うのは危ないが、この空間には空気の浄化を行う【カンキソウ】と呼ばれる植物を育てている。
 酸欠や一酸化炭素中毒で死ぬ心配は皆無なのだ。

「痛っ……まずは、この怪我をなんとかしないとな」

 俺は、火傷や擦り傷でボロボロになった腕をさする。
 地下室の棚に常備しているフラスコ型の小瓶をとって、先端のコルク栓を開ける。
 それから、中身の青緑色の液体を患部に振りかけた。

 すると、みるみるうちに傷が癒え、元通り綺麗な肌になった。
 うん、やはり七年研究した回復薬の効果は抜群だ。

 薬効成分を多く含む【ゲンキソウ】を主軸に、火傷に効く【アローエ】、鎮痛効果のある【ヨクセイグサ】など数十種類の薬草から成分を抽出、蒸留して作り上げた回復薬である。

 並みの回復魔法や市販のポーションをしのぐ効果を持ち、既に俺は回復術士として独立できるだけの力を持っているのだった。
 しかし、焦ってはならない。俺は、あんなクズたちよりも出世して、見返してやらねばならないのだから。

 俺は、完全に治癒した身体に包帯を巻いていく。
 回復魔法が使えないのに、一瞬で傷がなくなったことがバレると面倒だからだ。

「当面の問題は、やっぱ攻撃魔法をどうするか、だよなぁ」

 俺は、いろいろと育てている植物を見まわしながらため息をついた。
 植物魔法は、補助魔法に分類されるように、4属性の攻撃魔法に比べて圧倒的に直接戦闘での効果が薄い。

 現状俺が使える、戦闘で役立ちそうな植物属性魔法は以下の二つのみ。

蔓捕縛アイビー・バインド”:地面からツルを伸ばし、相手を拘束する。
葉壁リーフ・シールド”:数枚の葉っぱを重ねて、障壁にする。
 
 まあ……圧倒的にサポート系なんだよな。
 しかも、植物という特性上、火属性魔法にめっぽう弱いし。

 ここはまだまだ研究の余地がある。
 植物魔法とは、周囲に生えている植物を操り己が力とする魔法。
 つまり、植物のポテンシャルがそのまま攻撃力に直結する。そんなわけで、より強い植物を育てればいいということに早々気が付いた俺は、強そうな植物を今まで育ててきたわけだ。

 その、最高傑作が俺の目の前の鉢植えに植えてある。
 名称は【騎士草】。
 その名の通り、騎士が持つ剣のように美しい細長い葉を持っている植物だ。
 
 近くを通り過ぎる魔獣や虫を、刃物のように鋭い葉で狩り、動物の栄養を根から吸い上げて成長していく魔植物である。
 ちなみに魔植物とは、植物属性の魔物のことであり、非常に高い攻撃性を誇る。しかし、殆どの魔植物は炎に弱いため、植物魔法で操れるとしても好き好んで操る人間はいない。操るのも、近くに魔植物がいることが前提条件であるため、使い勝手も劣悪なのだ。

 それはともかくとして、俺はその【騎士草】から葉っぱを一枚もぎ取る。
 銀色に輝く葉は、まさしく剣そのもの。俺は、その葉を持ち――

「てやっ!」

 力任せに近くにあった岩を斬りつけた。
 葉は岩をすっぱりと両断――してくれればよかったのだが、所詮は植物。数センチ切れ込みをいれただけで、止まってしまった。

「だめか」

 俺は、思わず舌打ちをする。
 いくら硬く、切れ味がよくとも植物でアル限り限度がある。これなら、普通の剣を使った方がいいくらいだ。

 一応、鉱石を粉末にして肥料として与え、硬度を増しているのだが――どうにも望むような葉に仕上がらない。

「くっ……ここが限界点なのか?」

 やはり、俺ではヤツらを見返すことができないのか?
 そう思った、そのときだった。

『――現時刻を以て、ユウ=ファンル=フォレストスは八歳を迎えます。それに伴い、天界よりギフトが授けられます』
「……は?」

 急に空から聞こえてきた声に、俺は思わずきょとんと首を傾げる。
 いつの間にか日付が変わり、誕生日を迎えていたらしい。
 って、そんなことはどうでもいいのだ!

「ギフト? 何それ」
『あなたの人生が、幸福なものとなりますよう、これより、植物魔法最適正者に宿りし隠しスキル“品種改良”と“成長促進”が解放されます。これまでの人生を加味し、称号“植物之王クロリス”を与えます』
「は? 品種改良……に、クロリス?」

 わけがわからない。
 いや、言葉の意味はわかる。品種改良は、お米とかをより寒さに強く、美味しくするやつだろうし、成長促進はそのままの意味だろう。
 クロリスって言えば、確かギリシャ神話に出てくる、花を司る力を持つ豊穣神かなにか……だった気がする。

 しかし、その隠しスキルや称号が解放されたというのは、一体どういうことなんだろうか?
 俺は少し考えて。

「……まさか!」

 思い至る。
 俺は弾かれるようにして、【騎士草】の種をもぎ取る。
 それから、別で育てていた【カチコッチン】という植物の種もとった。

 【カチコッチン】とは、そのふざけた名前の通り、バカみたいに硬い黒光りする実を付ける植物である。その強度は、金剛石すらしのぐほどと言われ、この世界では世界一硬い物質と言われるほどである。

 植物の実が、鉄より固いとかそんなんアリ? と思ってしまうが、よくよく考えたら前板世界にも鰹節とかいう凄まじく硬い食べ物があったし、不思議じゃないのかもしれない。

 とにかく、今重要なのは。
 “品種改良”とやらができるようになったということだ。
 俺は、両手に持った二つの種に“品種改良”と念じる。瞬間、二つの種が光り輝き、一つに混じり合った。

「お、おお! できた!」

 想定通り、交配ができたっぽい。
 俺はワクワクしながら、その種を土に埋め、今度は“成長促進”と念じた。
 すると、種から一瞬で芽が生え、成長し、葉をつける。
 その葉は、【騎士草】の形をしていながら、【カチコッチン】の実のような、漆黒の色をしていた。

 俺は、恐る恐るその葉をとる。
 そして、気付いた。その葉が、以前よりも重くなっていることに。
 俺はごくりと息を飲み、近くにあった岩に刃を思いっきり突き立てた。

 その瞬間。
 あっさりと、岩が真っ二つに割れたのだ。

「うぇえ!? ……【騎士草】の切れ味に、【カチコッチン】の強度が重ね掛けされてる!?」

 俺は驚きのあまり、一瞬呆けてしまう。
 しかし、すぐに歓喜した。今まで堪え忍んできた月日のストレスが、ガラガラと音を立てて崩れていく。

「これは……いける!」

 俺はニヤリと笑い……その日は、ろうそくの明かりが朝までついていたのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...