8 / 17
第七話 耐え難い、孤独
しおりを挟む
突然、鎌で襲い掛かってきた見知らぬ誰か。
弾はとっさに鎌をよけたが
狂ったように釜を振り回し、殺しに罹ってくる。
「一体なんだんだッ!」
弾は声を荒げた。
すると、その者は何を思ったか、釜を振る手を止めぴたりと動かなくなった。
「す、すまん人間だったのか!わわわ、わしはてっきり・・・」とても驚いた声で話すのは、人間の男。
弾は、訳がわからず黙っていた。
「すまん!怪我は無いか」そう言って、弾へ近づいてきた。
鎌を振りかざしていたその男は、近くで見ると年をとった老人であった。
「こんな夜に何を?」弾は、地面に置いておいた傘を拾いながら老人に尋ねた。
「あ、あぁ・・・熊かと思ってな。まさか人間だとは・・」
「熊だと思ったなら、すぐに逃げなくては。鎌で勝てる相手ではないと知っているはずだ」
「す、すまん・・・」老人は深く頭を下げながらうなずく。
「おぬし、びしょ濡れになってしまっておる。わしの家で着物を乾かさせてくれんか?何か詫びをさせてくれ」老人は相変らず頭を下げながら言う。
結構だと断ったが、老人は殺してしまう所だったと何度も頭を下げてきた。
断りきれず、乾かしてもらう事にした。
老人の後に付いて行き草をかき分け、道を進んで行くと小さな家に着いた。
茶々丸は怯えた顔で、こっそりと何があったのか弾に尋ねてきた。
弾は“心配ない”という事だけ伝えた。
家の中へ入ると、老人は手早く囲炉裏に火を起こした。
乾くまで着ている着物も用意してくれた。
パチパチと音を立てて燃える囲炉裏の火。
弾は火を見つめながら、着物が乾くのを待っていた。
茶々丸は、弾の懐の中でぐっすりと寝ていた。
「さっきは本当に申し訳なかった・・・」老人はまた謝ってきた。
「いえ、お気になさらずに」
「しかし、おぬしは何故あんな所におったんじゃ?」老人は尋ねてきた。
「探し物をしていてね。
月光丘には、三年に一度、秋雨が降る夜にだけ生息する花があると、聞いた事があったものですから。
襲われる前にいくつか見つけておいて良かった」弾は、冗談まじりに言った。
「ほー、あの丘にはそんな花が咲くのか!聞いた事がなかったのう。
よかったら、花を見せてくれんか?」
「えぇ、いいですよ」弾は腰袋から花を出した。
光を帯びた花。
老人は目を丸くした。
「光っておる!!」
「光の花、といいます。この花は光るだけではない。
人に一筋の光を与えるとも言われているんです。」
「一筋の光を・・・?」老人は不思議そうな顔をしている。
「私は薬作りをしていてね。この花は薬として素晴らしい効能を持っている」
「ほー!今日は何だか驚く事ばかりじゃ!こんな花がこの村に・・・」老人はしばし花を見つめていた。
すると
「おっと、そういえば。名乗るのを忘れておったのう!わしは平八へいはちと申す。この辺りじゃ平八じいさんと呼ばれておるよ」笑顔で自己紹介をした。
「そうですか。私は雪村弾と申します。」
お互いの身分を明かすと、何だか和やかな雰囲気になった。
そして、弾は平八じいさんに気になっていた事を質問した。
「ところで一体なぜ、明りも灯さず山の中に?
熊かと思ったと言っていたが、まさか熊を捕まえようとでもしていたんですか?」
「ん・・・熊をひっ捕らえようとしておった・・・。
長年連れ添ったばあさんの敵を討ちたくてのう。
この辺りじゃ、もう何人も熊にやられておるよ。
熊だけじゃない、最近は動物や獣も妙に荒々しくなったもんじゃ・・・」
言葉につまる弾。
囲炉裏の火がパチパチと燃える音が響いた。
「いつの事だったんですか?」弾は小さく尋ねた。
「一カ月前のやけに寒い日の事じゃった」
そう言って平八は立ち上がり、弾の着物を裏返しシワを伸ばした。
そしてまた囲炉裏の前に座り、手を温めた。
「あの月光山、あそこをもう少し行くと崖っぷちに出るんじゃよ。
その崖の下でばあさんは死んでいたんじゃよ・・・。
崖から落ちて傷だらけになっておった。
村の人間はみんな崖がある事は知っておるしのう、怖がりなばあさんも近づく事はしないよ。きっと熊に引きずられたか、追いかけられて落ちたんじゃないかのう」
平八は遠い目で火を見つめている。
「あまりに急な事で、無念で仕方がないんじゃよ。
動物や自然を大事にする心優しいばあさんじゃった、本当に」
「そうだったんですか」
しばらく沈黙が続いた。
老いた身で、ある日突然一人ぼっちになる寂しさ。
弾は想像していた。
「この寂しさ・・・耐え難い」平八じいさんが小さく言った。
弾は、平八じいさんの顔をじっと見つめた。
そして、救いの手を差し伸べるべく言葉を言う。
「平八じいさん、きっとあまり眠れていないのではないですか?
良かったら・・・着物を乾かしてくれたお礼に茶を煎じたい。
飲んでい頂けますか?」と言い、笑みを浮かべた。
明鏡の絵空事、この薬を作る時
弾はいつも企みのような微笑みをする。
まるで不思議な世界への案内人。
弾は平八の薬を作り始める。
弾はとっさに鎌をよけたが
狂ったように釜を振り回し、殺しに罹ってくる。
「一体なんだんだッ!」
弾は声を荒げた。
すると、その者は何を思ったか、釜を振る手を止めぴたりと動かなくなった。
「す、すまん人間だったのか!わわわ、わしはてっきり・・・」とても驚いた声で話すのは、人間の男。
弾は、訳がわからず黙っていた。
「すまん!怪我は無いか」そう言って、弾へ近づいてきた。
鎌を振りかざしていたその男は、近くで見ると年をとった老人であった。
「こんな夜に何を?」弾は、地面に置いておいた傘を拾いながら老人に尋ねた。
「あ、あぁ・・・熊かと思ってな。まさか人間だとは・・」
「熊だと思ったなら、すぐに逃げなくては。鎌で勝てる相手ではないと知っているはずだ」
「す、すまん・・・」老人は深く頭を下げながらうなずく。
「おぬし、びしょ濡れになってしまっておる。わしの家で着物を乾かさせてくれんか?何か詫びをさせてくれ」老人は相変らず頭を下げながら言う。
結構だと断ったが、老人は殺してしまう所だったと何度も頭を下げてきた。
断りきれず、乾かしてもらう事にした。
老人の後に付いて行き草をかき分け、道を進んで行くと小さな家に着いた。
茶々丸は怯えた顔で、こっそりと何があったのか弾に尋ねてきた。
弾は“心配ない”という事だけ伝えた。
家の中へ入ると、老人は手早く囲炉裏に火を起こした。
乾くまで着ている着物も用意してくれた。
パチパチと音を立てて燃える囲炉裏の火。
弾は火を見つめながら、着物が乾くのを待っていた。
茶々丸は、弾の懐の中でぐっすりと寝ていた。
「さっきは本当に申し訳なかった・・・」老人はまた謝ってきた。
「いえ、お気になさらずに」
「しかし、おぬしは何故あんな所におったんじゃ?」老人は尋ねてきた。
「探し物をしていてね。
月光丘には、三年に一度、秋雨が降る夜にだけ生息する花があると、聞いた事があったものですから。
襲われる前にいくつか見つけておいて良かった」弾は、冗談まじりに言った。
「ほー、あの丘にはそんな花が咲くのか!聞いた事がなかったのう。
よかったら、花を見せてくれんか?」
「えぇ、いいですよ」弾は腰袋から花を出した。
光を帯びた花。
老人は目を丸くした。
「光っておる!!」
「光の花、といいます。この花は光るだけではない。
人に一筋の光を与えるとも言われているんです。」
「一筋の光を・・・?」老人は不思議そうな顔をしている。
「私は薬作りをしていてね。この花は薬として素晴らしい効能を持っている」
「ほー!今日は何だか驚く事ばかりじゃ!こんな花がこの村に・・・」老人はしばし花を見つめていた。
すると
「おっと、そういえば。名乗るのを忘れておったのう!わしは平八へいはちと申す。この辺りじゃ平八じいさんと呼ばれておるよ」笑顔で自己紹介をした。
「そうですか。私は雪村弾と申します。」
お互いの身分を明かすと、何だか和やかな雰囲気になった。
そして、弾は平八じいさんに気になっていた事を質問した。
「ところで一体なぜ、明りも灯さず山の中に?
熊かと思ったと言っていたが、まさか熊を捕まえようとでもしていたんですか?」
「ん・・・熊をひっ捕らえようとしておった・・・。
長年連れ添ったばあさんの敵を討ちたくてのう。
この辺りじゃ、もう何人も熊にやられておるよ。
熊だけじゃない、最近は動物や獣も妙に荒々しくなったもんじゃ・・・」
言葉につまる弾。
囲炉裏の火がパチパチと燃える音が響いた。
「いつの事だったんですか?」弾は小さく尋ねた。
「一カ月前のやけに寒い日の事じゃった」
そう言って平八は立ち上がり、弾の着物を裏返しシワを伸ばした。
そしてまた囲炉裏の前に座り、手を温めた。
「あの月光山、あそこをもう少し行くと崖っぷちに出るんじゃよ。
その崖の下でばあさんは死んでいたんじゃよ・・・。
崖から落ちて傷だらけになっておった。
村の人間はみんな崖がある事は知っておるしのう、怖がりなばあさんも近づく事はしないよ。きっと熊に引きずられたか、追いかけられて落ちたんじゃないかのう」
平八は遠い目で火を見つめている。
「あまりに急な事で、無念で仕方がないんじゃよ。
動物や自然を大事にする心優しいばあさんじゃった、本当に」
「そうだったんですか」
しばらく沈黙が続いた。
老いた身で、ある日突然一人ぼっちになる寂しさ。
弾は想像していた。
「この寂しさ・・・耐え難い」平八じいさんが小さく言った。
弾は、平八じいさんの顔をじっと見つめた。
そして、救いの手を差し伸べるべく言葉を言う。
「平八じいさん、きっとあまり眠れていないのではないですか?
良かったら・・・着物を乾かしてくれたお礼に茶を煎じたい。
飲んでい頂けますか?」と言い、笑みを浮かべた。
明鏡の絵空事、この薬を作る時
弾はいつも企みのような微笑みをする。
まるで不思議な世界への案内人。
弾は平八の薬を作り始める。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦国姫 (せんごくき)
メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈
不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。
虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。
鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。
虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。
旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。
天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる