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2.目覚めれば神様の庭
しおりを挟む「ーート、ーーハルト」
名前を呼ばれている気がする。
天国の両親が迎えに来てくれたのか?
男性の声のようだが、父さんの声はこんなだっただろうか。
もう何十年も前で全く覚えていない。
「ハルト」
低い声に耳元近くで呼ばれたが、その響きの心地良さに一層目を開けるのが億劫になった。
身体を包む温もりも眠気を誘う。
「起きてくれ、ハルト」
起床を促す声とともにペロリと頬を舐められた。
「は?」
驚きに目を開けると、整った顔立ちの青年が俺を横抱きにしていた。
彼は一体、誰だ?
初めて見る顔だ。てっきり先立った父親がいるものだと思っていたのに。
こんなイケメンの遺伝子は受け継いでいない。
薄茶色のメッシュの入った黒い前髪から覗く凛々しい顔立ち。黒目の大きい瞳は涼やかで僅かに垂れて色っぽい。
俺の名前を呼ぶ口元も形が良く、どのパーツをとっても、全体を眺めても美形だ。
黒のシャツと同色の細身のパンツもよく似合っていて、スタイルの良さが伺える。
ここまで整っていると、同じ男として悔しさすら湧かない。美しさに感動するやら感心するやらぼうっと眺めていると、形のいい眉が垂れ下がる。
「気が付いたか。どこか痛いところはないか?」
そう問い掛けながら、またペロペロと顔中を舐め回された。
犬なのか、このイケメンは犬なのか?!
「ちょ、ちょっと待った!!」
綺麗な顔を両手で押しやり、無理やり離れた。
「どうしたんだ?」
どうしたのか聞きたいのは俺の方だ。
心配してくれているところ申し訳ないが、こちらとしても色々確認したい。
「えーと、どなたですか? 何で舐めたんですか?」
「倒れた時に頭を打ったのか? オレはクロだ。自分の名前は分かるか?」
我が心の友と同じ名前を名乗る青年は、記憶喪失の心配をしてくれているらしい。
「名前は設楽晴人。限界社蓄の享年29歳。趣味は旅行と飲酒。心残りはビールを呑まずに死んじゃったこと。初めまして」
優しい青年を安心させようと冗談めかして自己紹介すると。
「初めましてじゃない。オレが分からないのか?」
「こんなイケメンの知り合いに心当たりはないですねぇ」
「そんな……」
俺の言葉にショックを受けたらしい青年の耳がシュンと垂れた。比喩ではなく、頭の上にぴょこっと生えた黒い犬みたいな耳が垂れている。
確かに動くのが見えた。
まさかと思って下を向くと、長めのシャツの裾からフサフサの尻尾も覗いている。
惹かれるように尻尾を撫でると、驚いたようにピンッと伸びた。
驚かせてごめんな、とゆっくりと撫でつけるとぎゅっと抱き締められる。
肌に馴染む温もりと手触りにまさか、と青年の正体を察した。
「もしかしてクロって黒柴の、ぬいぐるみのクロ?」
「そうだ! やっと思い出してくれたか」
クロは感極まったように目を潤ませた。
「いや、思い出したんじゃなくて気付いたんだよ。何でクロが人間? になってんの。これって夢? 俺まだ寝てる??」
「夢じゃない。オレはそこの創造神の力で獣人になったんだ」
そう言ってクロは俺の後ろを指差した。
創造神?! 獣人??
ぐるんとクロが指差す方へ向き直ると、テーブルセットに座りティータイムを楽しんでいたらしい英国紳士みたいな格好のおじさんがこっちに気付いて手を振った。
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