冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第二章

第二十三話

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ティナさんに伝えるのは状況が整ってから。
 そう決めて、まずは俺の家へと帰ってきた。
「フィル姉、いる?」
「ん、レイン? おかえり~」
 俺の声にフィル姉は玄関まで出てきてくれた。
 薄汚れた作業用のエプロンをしているところを見るに、錬金術で作業でもしていたのか?
「その子たち、誰?」
 フィル姉が、俺の両隣に立つリアとセレナに目を向ける。何故か、その視線は少し厳しさを感じる。
「今、俺がパーティを組んでる仲間だよ」
 俺は二人を紹介する。
「そっか。レインの特別な相手ではないんだね?」
「うん、全然違う」
 俺は当たり前の事を即答したつもりなんだが、なぜか二人から足を踏まれた。理不尽でしかない。
「それで、今日はどうしたの?」
「それが……」
 俺はティナさんの現状や、お母さんの病気について話した。
「あー、ゲヒト病かー」
 俺の話を聞き、フィル姉はそういった。
ティナさんのお母さんの病気はゲヒト病と呼ばれ、錬金術や医師の界隈ではつい最近になって薬が開発されたのだという。これまでは不治の病であり、致死率は高く、発症から死に至るまでの期間も短く、呪われた病気と呼ばれていたりして、病名は決まっていなかったらしい。
フィル姉の口から病名を聞くまで病気がはっきりとしなかったのも、そういう理由らしい。
「作れる?」
「ふふん、もちろん。だってその薬、このお姉ちゃんが作ったんだし」
「「「はぁ⁉」」」
 俺含めて三人の声が重なった。
 というか、新薬の開発って、フィル姉がすごいのは知ってたけどそこまですごかったのか。
「じゃあ、薬に必要な材料があるのでしょうか?」
 動揺はしているが冷静さを保っているリアがそう尋ねた。
「ううん。聞いてると思うけど、新鮮なオーガの心臓が必要だから。他の素材はあるから心配はないよ」
「でも、フィル姉。俺たちもティナさんも、そんなにお金出せないよ? 他の素材もそれなりに高いんじゃないの?」
 俺の言葉に、フィル姉は顎に手を当てて考え込む。
 そして、顔を上げた。
「いいよ、別に。新薬の開発でお金には困ってないしね。ただ、オーガの心臓はレインたちが採ってくること」
「それは行くつもりだったけど。というか、フィル姉には反対されると思ってた」
「しないよ。だって、レインは冒険者。冒険しなきゃ、ね?」
 そういうフィル姉の顔には、悪戯をする子供のように無邪気な笑顔が浮かんでいた。
「けど、お姉ちゃんだからサポートはしてあげる。はい、これ」
 そう言って、フィル姉は数本の細長い瓶に入ったポーションを渡してくれる。
「って、これ!」
 俺が渡した瞬間、セレナが叫んだ。
「なんだ?」
「なんだ、じゃないよ⁉ これ、超高いポーションじゃん⁉」
「お、気が付いた? それ、HPMP全快ポーション。一本ずつあげるから、気を付けて行っておいで。無事に帰ってきたら、私が調合してあげるから」
「フィル姉、ありがとう」
 俺はフィル姉に向かって頭を下げる。それに続いて、リアとセレナが頭を下げたのが伝わってきた。
「別にいいよ。これがお姉ちゃんの役目だから」
 そう言って胸を張るフィル姉はいつも通りだ。
「じゃあ行くぞ」
「そうね。ティナさんにすぐ伝えなくちゃ」
「行こう!」
 俺たちはもう一度フィル姉に頭を下げて家を後にした。

「行ったね……」
 レインが出ていった扉を見て、フィルは微笑んだ。
 レインを救ってから数年、本当にあっという間だった。
 この間冒険者になったと思ったら、もうオーガを倒しに仲間と一緒に中層に行こうとしている。
「時がたつのは早いなー」
 フィルは口元に笑みを浮かべながらぼそりと呟く。
「レインはきっと、もっともっと強くなる。いつかは、私のパーティも抜かされちゃうかな?」
 あのリアという少女、どこか見覚えがあった。パーティメンバーのアリスに目元がそっくりだ。それに、センスはアリス同様に抜群だろうと見抜く。
 セレナという少女は、かなりの魔術の使い手か、はたまたその卵か。
「どっちにしても、私のレインにはかなわないけどね!」
 レインはフィルの弟だから贔屓している、という訳ではない。フィルでも計り知れないほどの、とんでもない才能の持ち主なのだ。
「レインならきっと、あの迷宮も……」
 フィルの想像が、いつか現実となるか。そんな日を夢見るフィルなのだった。
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