16 / 32
第二章
第十五話
しおりを挟む
教えてもらった場所は、都市の大通りから一本外れた路地にある、洒落た喫茶店だった。
内装は白で統一され、ところどころに花や小物が置かれ、明らかに女性がターゲットのお店だ。
実際、店内には俺を除いて男性の姿はない。そんなわけで、とても居心地が悪い空間だった。
「で? あんたはどれにするの?」
「うーん、そうだな……」
渡されたメニューを見て考えるが、どれも美味そうなケーキだ。
定番のショートケーキ。ガトーショコラ、ミルフィーユ生地に生クリームをたっぷりホイップして、ふんだんに果物を乗せたものなど、目移りし始めるときりがない。
「私は、これにするわ」
そう言ってセレナが選んだのはガトーショコラだった。
「ああ、それも美味そうだよな」
「でしょ? あんたは?」
「俺は、これかな」
結局選んだのはミルフィーユ生地の物だった。
あのサクサクした触感が好きで、タルトなんかも大好物だ。もちろん、フィル姉のパイに及ぶとは思っていないが。
「あっ、それ一口頂戴。私、それも気になってたのよ」
「じゃあ、お前のも一口くれ」
「いいよ。じゃあ、約束ね」
そう言ったセレナの顔は、満面の笑みだった。
なんだ、普通に笑えるんじゃねーか。
今日見た表情は、謝った時に見せたショボン、とした表情と、俺との会話で怒った表情だけだった。
だから、セレナの笑顔を見て、少しだけ。こいつに対して感じていた壁というか、なんというか。そういったものがなくなった気がした。
「その、さ。さっきは素直になれなかったけど、これで最後にするから。本当に、ありがとね」
ケーキと飲み物を注文して少し。セレナが口を開いた。
「ああ、気にするな」
が、それ以降会話がなくなる。
どうにも、先ほどの事が尾を引いているらしい。
「お待たせしました!」
そんな空気を壊すかのように、明るい店員さんの声が届く。
やっと来たか。と、内心で安堵する俺だったが。
「キャッ」
その時、何かに躓いたのか女性店員がよろめく。
同時に、手に持っていたトレイが宙を舞い。
ボトン。と言う音と共に、セレナの上に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
店員は転んだりしておらず、特に心配はなさそうだったので、セレナに駆け寄る。マントには紅茶が染み込んでしまい、少し染みになっていた。
「とりあえず、これ脱げ」
紅茶が染みたままでは、セレナの体が冷えてしまう。そう判断して顔を上げて伝えたのだが。
「あっ……」
セレナの呟きが聞こえる。
俺の顔と、セレナの顔は、至近距離にあった。
セレナの顔が、よく見える。今なら、まつ毛の数だって数えられそうだ。
肩口で切りそろえられた、カールのかかった髪。透き通った黒い瞳。テーブルに乗るほどの大きな胸。更に女の子特有の甘い香りが鼻孔を擽る。
なんだよ、普通にかわいいじゃん……。
この状況で、猛烈にセレナを女として認識してしまい、俺の頬が、耳が、熱を持つのが感じられる。
「あ、えっと……」
どうしようか、判断ができずにいると。
「申し訳ありません! お怪我はありませんか⁉」
という、駆け寄ってきた店員さんの声で我に返る。
「は、はい! 平気です。心配しないでください」
「ですが、お召し物が! すぐに着替えを用意いたします。後、今日のお代は結構です。後でクリーニング代もお渡しいたしますので」
「あ、はい。わかりました」
店員さんの真剣な謝罪に、セレナは押されて頷くしかできないようだった。
「彼氏さんも、申し訳ありません。折角のデートを邪魔してしまいまして」
「はっ? 彼氏?」
「ん? 違うのですか? 遠目から見ていても、お似合いのお二人でしたので、てっきりそうかと……」
「あ、えっと……」
なんて答えればいいんだ?
と考えているうちに、店員さんが呼ばれてその場を去っていく。残されたのは、何とも言えない空気と、恋人に勘違いされて真っ赤になった俺とセレナだった。
内装は白で統一され、ところどころに花や小物が置かれ、明らかに女性がターゲットのお店だ。
実際、店内には俺を除いて男性の姿はない。そんなわけで、とても居心地が悪い空間だった。
「で? あんたはどれにするの?」
「うーん、そうだな……」
渡されたメニューを見て考えるが、どれも美味そうなケーキだ。
定番のショートケーキ。ガトーショコラ、ミルフィーユ生地に生クリームをたっぷりホイップして、ふんだんに果物を乗せたものなど、目移りし始めるときりがない。
「私は、これにするわ」
そう言ってセレナが選んだのはガトーショコラだった。
「ああ、それも美味そうだよな」
「でしょ? あんたは?」
「俺は、これかな」
結局選んだのはミルフィーユ生地の物だった。
あのサクサクした触感が好きで、タルトなんかも大好物だ。もちろん、フィル姉のパイに及ぶとは思っていないが。
「あっ、それ一口頂戴。私、それも気になってたのよ」
「じゃあ、お前のも一口くれ」
「いいよ。じゃあ、約束ね」
そう言ったセレナの顔は、満面の笑みだった。
なんだ、普通に笑えるんじゃねーか。
今日見た表情は、謝った時に見せたショボン、とした表情と、俺との会話で怒った表情だけだった。
だから、セレナの笑顔を見て、少しだけ。こいつに対して感じていた壁というか、なんというか。そういったものがなくなった気がした。
「その、さ。さっきは素直になれなかったけど、これで最後にするから。本当に、ありがとね」
ケーキと飲み物を注文して少し。セレナが口を開いた。
「ああ、気にするな」
が、それ以降会話がなくなる。
どうにも、先ほどの事が尾を引いているらしい。
「お待たせしました!」
そんな空気を壊すかのように、明るい店員さんの声が届く。
やっと来たか。と、内心で安堵する俺だったが。
「キャッ」
その時、何かに躓いたのか女性店員がよろめく。
同時に、手に持っていたトレイが宙を舞い。
ボトン。と言う音と共に、セレナの上に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
店員は転んだりしておらず、特に心配はなさそうだったので、セレナに駆け寄る。マントには紅茶が染み込んでしまい、少し染みになっていた。
「とりあえず、これ脱げ」
紅茶が染みたままでは、セレナの体が冷えてしまう。そう判断して顔を上げて伝えたのだが。
「あっ……」
セレナの呟きが聞こえる。
俺の顔と、セレナの顔は、至近距離にあった。
セレナの顔が、よく見える。今なら、まつ毛の数だって数えられそうだ。
肩口で切りそろえられた、カールのかかった髪。透き通った黒い瞳。テーブルに乗るほどの大きな胸。更に女の子特有の甘い香りが鼻孔を擽る。
なんだよ、普通にかわいいじゃん……。
この状況で、猛烈にセレナを女として認識してしまい、俺の頬が、耳が、熱を持つのが感じられる。
「あ、えっと……」
どうしようか、判断ができずにいると。
「申し訳ありません! お怪我はありませんか⁉」
という、駆け寄ってきた店員さんの声で我に返る。
「は、はい! 平気です。心配しないでください」
「ですが、お召し物が! すぐに着替えを用意いたします。後、今日のお代は結構です。後でクリーニング代もお渡しいたしますので」
「あ、はい。わかりました」
店員さんの真剣な謝罪に、セレナは押されて頷くしかできないようだった。
「彼氏さんも、申し訳ありません。折角のデートを邪魔してしまいまして」
「はっ? 彼氏?」
「ん? 違うのですか? 遠目から見ていても、お似合いのお二人でしたので、てっきりそうかと……」
「あ、えっと……」
なんて答えればいいんだ?
と考えているうちに、店員さんが呼ばれてその場を去っていく。残されたのは、何とも言えない空気と、恋人に勘違いされて真っ赤になった俺とセレナだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる