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第二章
第十二話
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「あれ、リアさん?」
リアがギルドに着くと、ちょうどティナが作業のために外にいた。
「どうしたんですか? って、レインさんはどうしたんです?」
リアと共に出掛けたレインの姿が無い。
それを認識した途端、ティナの目が真剣なものへと変わった。
「安心して。レインに何かあったわけじゃないわ。彼は今、2階層で不審な爆発音を聞いて調査中よ」
「不審な爆発音?」
「ええ。彼が言うには、ソロの魔法使いが2階層でオークに追われているとか。私はレインに言われて、この事実を伝えに戻ってきただけ。だから、すぐに迷宮に戻るわ。彼が本当に人を救助したのだとしたら、戦闘要員が必要なはずだから」
「わ、分かりました。私はギルドでやれることをやっておきます」
「お願いするわね」
それだけ伝えると、リアは迷宮に向かって走る。
「間に合って」
万が一があってからでは遅い。
リアにとってレインは、助けるに値する人間なのだから。
「何とか撒けたか」
2階層から1階層へと下る通路の前で、オーク二体に遭遇してしまった。
背中に少女を背負っている以上満足に戦うこともできず、かといって彼女を降ろすこともできない。万が一にも、もう一体のオークに攫われるわけにはいかない。
そう判断した俺は、身体強化の魔法を付与し、近くの通路を駆使してオークを撒いた。
あとは1階層を抜けるだけ。だが、今日の俺はとことん付いていないらしい。
曲がり角から、ゴブリンが三体姿を現した。
「グギャギャ!」
「クソッたれ……」
剣を構えて相対する。
ゴブリン三体程度、普段であれば訳はない。
が、今は守る対象がいる以上、ゴブリンの使う飛び道具などには細心の注意を払わなければならない。
故に、たかがゴブリンであっても、今は全神経を集中させて戦う必要がある。
「はぁッ!」
その時だった。
一体のゴブリンが背後から攻撃でこちらへと吹き飛んでくる。
俺は宙を舞うゴブリンめがけて剣を振り、身体を真っ二つにする。
断末魔を上げることなく、そのゴブリンは絶命した。
「レイン、無事かしら?」
「リア⁉ お前、ギルドに戻ったはずじゃ?」
「戻ってきたのよ。あなたがもしも救助していたら、戦闘要員が必要だと思ってね」
「なるほど。その読み通り、今は戦闘要員が必要不可欠だ」
「わかってる。私が道を作るから、貴方は付いてきなさい」
リアはその言葉の通り、瞬く間に乱打を浴びせて二体のゴブリンを死体に変える。
その後もゴブリンは出現するも、全てがリアによって瞬殺され、無事に迷宮を抜けた。
「レインさん!」
そして、ギルドに戻った俺たちを迎えたのは、ティナさんにアルマさん、それにリアのサポーターであるミリヤさん。
「セレナさん⁉」
そしてもう一人。俺が助けた少女をセレナと呼ぶ、おそらく少女のサポーターであろう女性だった。
「まずは彼女の手当てを。見たところ外傷はありませんが、万が一ということもありますから」
「わ、分かりました!」
ティナさんはこの場に残り、アルマさんとミリヤさんが付き添う形で、ギルドの奥へと消えていった。
おそらくその奥に、救護室があるのだろう。
「それで? レインさんは無事なんですか?」
「はい。俺は何ともありません。リアが助けに来てくれたおかげで、帰りはスムーズに帰ってこれましたから」
「それはよかったです。リアさんが一人で帰ってきたときは、本当に肝を冷やしましたよ」
「あはは……。すいませんでした」
「いえいえ。確かに心配しましたが、無事なので許します。それに、レインさんのそういう優しいところは、とても尊敬していますから」
「俺は当たり前のことをしただけですよ」
「それを当たり前と言えるところが、凄いんですよ」
特別なことをしたわけではないと思うが。
あまり褒められ慣れてないから、なんか恥ずかしい。
「あ、まだいらしたんですね!」
と、そこに。
先ほどのセレナのサポーターの女性が戻ってくる。
「あ、あの。今回は本当にありがとうございました! 本当に、なんとお礼すればいいか……」
「いえいえ、頭を上げてください。別に特別なことはしていませんから」
「それよりも、まずは名前を名乗ったら? 話はそれからじゃないかしら?」
「へ? あ、そうですよね⁉ すいません、まだ少し混乱していて。改めて。先ほどの冒険者、セレナさんのサポーターをしております、ナナと申します」
「俺はレインです」
「私はリアよ。彼とは今日、臨時でパーティを組んでいたの」
「そうだったんですか。お二人がいなければ、今頃セレナさんは……」
ナナさんは、言い淀んでしまう。
彼女も新人のサポーター。いきなりの事態で、まだまだパニックの中にいるのだろう。
「死んでいたでしょうね」
が、その続きをリアがバッサリと言ってのける。
「おい、リアッ」
「いいのよ。あなたはサポーター。冒険者の相棒でしょ? そこに、新人もベテランも関係ない。あなたは、セレナさんとはよく話をしたの? コミュニケーションをとって、彼女の変化には気が付いていたの?」
「そ、それは……」
「今回はレインがいた。私だけだったら、助けになんて行っていないわ。今回は本当に運がよかったの。冒険をしていれば、その人には必ず変化が訪れる。良くも悪くもね。だから、今回のことを教訓に、今後は同じ失敗を犯さないようにしなさい。いいわね?」
「は、はいッ」
ナナさんはリアの言葉に、何度も頷いている。
それを横で聞いていた俺も、なぜだか聞き入ってしまった。
なんだろう、風格というかなんというか。叱られているのに優しいというか。なんだかよくわからない感覚だった。
「わかればいいわ。彼女の事、支えてあげなさい」
「はいッ。レインさん、リアさん。本当に、ありがとうございました!」
ナナさんはもう一度俺たちに頭を下げて、再び奥へと戻っていった。
「それじゃあ、リアさんの分も含めて、私がクエストの報告を承ります」
「はい、お願いします」
ともあれ、今日も無事にクエストクリア。
こうして冒険者としてまた一歩成長できた。そう感じる一日だった。
リアがギルドに着くと、ちょうどティナが作業のために外にいた。
「どうしたんですか? って、レインさんはどうしたんです?」
リアと共に出掛けたレインの姿が無い。
それを認識した途端、ティナの目が真剣なものへと変わった。
「安心して。レインに何かあったわけじゃないわ。彼は今、2階層で不審な爆発音を聞いて調査中よ」
「不審な爆発音?」
「ええ。彼が言うには、ソロの魔法使いが2階層でオークに追われているとか。私はレインに言われて、この事実を伝えに戻ってきただけ。だから、すぐに迷宮に戻るわ。彼が本当に人を救助したのだとしたら、戦闘要員が必要なはずだから」
「わ、分かりました。私はギルドでやれることをやっておきます」
「お願いするわね」
それだけ伝えると、リアは迷宮に向かって走る。
「間に合って」
万が一があってからでは遅い。
リアにとってレインは、助けるに値する人間なのだから。
「何とか撒けたか」
2階層から1階層へと下る通路の前で、オーク二体に遭遇してしまった。
背中に少女を背負っている以上満足に戦うこともできず、かといって彼女を降ろすこともできない。万が一にも、もう一体のオークに攫われるわけにはいかない。
そう判断した俺は、身体強化の魔法を付与し、近くの通路を駆使してオークを撒いた。
あとは1階層を抜けるだけ。だが、今日の俺はとことん付いていないらしい。
曲がり角から、ゴブリンが三体姿を現した。
「グギャギャ!」
「クソッたれ……」
剣を構えて相対する。
ゴブリン三体程度、普段であれば訳はない。
が、今は守る対象がいる以上、ゴブリンの使う飛び道具などには細心の注意を払わなければならない。
故に、たかがゴブリンであっても、今は全神経を集中させて戦う必要がある。
「はぁッ!」
その時だった。
一体のゴブリンが背後から攻撃でこちらへと吹き飛んでくる。
俺は宙を舞うゴブリンめがけて剣を振り、身体を真っ二つにする。
断末魔を上げることなく、そのゴブリンは絶命した。
「レイン、無事かしら?」
「リア⁉ お前、ギルドに戻ったはずじゃ?」
「戻ってきたのよ。あなたがもしも救助していたら、戦闘要員が必要だと思ってね」
「なるほど。その読み通り、今は戦闘要員が必要不可欠だ」
「わかってる。私が道を作るから、貴方は付いてきなさい」
リアはその言葉の通り、瞬く間に乱打を浴びせて二体のゴブリンを死体に変える。
その後もゴブリンは出現するも、全てがリアによって瞬殺され、無事に迷宮を抜けた。
「レインさん!」
そして、ギルドに戻った俺たちを迎えたのは、ティナさんにアルマさん、それにリアのサポーターであるミリヤさん。
「セレナさん⁉」
そしてもう一人。俺が助けた少女をセレナと呼ぶ、おそらく少女のサポーターであろう女性だった。
「まずは彼女の手当てを。見たところ外傷はありませんが、万が一ということもありますから」
「わ、分かりました!」
ティナさんはこの場に残り、アルマさんとミリヤさんが付き添う形で、ギルドの奥へと消えていった。
おそらくその奥に、救護室があるのだろう。
「それで? レインさんは無事なんですか?」
「はい。俺は何ともありません。リアが助けに来てくれたおかげで、帰りはスムーズに帰ってこれましたから」
「それはよかったです。リアさんが一人で帰ってきたときは、本当に肝を冷やしましたよ」
「あはは……。すいませんでした」
「いえいえ。確かに心配しましたが、無事なので許します。それに、レインさんのそういう優しいところは、とても尊敬していますから」
「俺は当たり前のことをしただけですよ」
「それを当たり前と言えるところが、凄いんですよ」
特別なことをしたわけではないと思うが。
あまり褒められ慣れてないから、なんか恥ずかしい。
「あ、まだいらしたんですね!」
と、そこに。
先ほどのセレナのサポーターの女性が戻ってくる。
「あ、あの。今回は本当にありがとうございました! 本当に、なんとお礼すればいいか……」
「いえいえ、頭を上げてください。別に特別なことはしていませんから」
「それよりも、まずは名前を名乗ったら? 話はそれからじゃないかしら?」
「へ? あ、そうですよね⁉ すいません、まだ少し混乱していて。改めて。先ほどの冒険者、セレナさんのサポーターをしております、ナナと申します」
「俺はレインです」
「私はリアよ。彼とは今日、臨時でパーティを組んでいたの」
「そうだったんですか。お二人がいなければ、今頃セレナさんは……」
ナナさんは、言い淀んでしまう。
彼女も新人のサポーター。いきなりの事態で、まだまだパニックの中にいるのだろう。
「死んでいたでしょうね」
が、その続きをリアがバッサリと言ってのける。
「おい、リアッ」
「いいのよ。あなたはサポーター。冒険者の相棒でしょ? そこに、新人もベテランも関係ない。あなたは、セレナさんとはよく話をしたの? コミュニケーションをとって、彼女の変化には気が付いていたの?」
「そ、それは……」
「今回はレインがいた。私だけだったら、助けになんて行っていないわ。今回は本当に運がよかったの。冒険をしていれば、その人には必ず変化が訪れる。良くも悪くもね。だから、今回のことを教訓に、今後は同じ失敗を犯さないようにしなさい。いいわね?」
「は、はいッ」
ナナさんはリアの言葉に、何度も頷いている。
それを横で聞いていた俺も、なぜだか聞き入ってしまった。
なんだろう、風格というかなんというか。叱られているのに優しいというか。なんだかよくわからない感覚だった。
「わかればいいわ。彼女の事、支えてあげなさい」
「はいッ。レインさん、リアさん。本当に、ありがとうございました!」
ナナさんはもう一度俺たちに頭を下げて、再び奥へと戻っていった。
「それじゃあ、リアさんの分も含めて、私がクエストの報告を承ります」
「はい、お願いします」
ともあれ、今日も無事にクエストクリア。
こうして冒険者としてまた一歩成長できた。そう感じる一日だった。
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