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第二章
第十一話
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「はぁッ!」
俺の振るった剣がウルフの首を切り落とす。
「終わったわね」
今倒したウルフで、ちょうど二人分のクエストを達成したことになる。
ドカーン!
その時、近くで爆発音が聞こえる。
「またか」
「どうかした?」
「いや、この爆発音だ。妙じゃないか?」
「妙?」
「ああ。さっきから聞こえるのは爆発音だけ。魔法使いがいるなら、普通前衛なりがいるはずだろ? なのに、剣の音なんて全く聞こえない」
それに、この足音はオークか? それも、かなりの数がいるように感じる。
「そうなの? でも、魔法使いがソロで迷宮に挑むということもあるんじゃないかしら?」
リアの言うことはもっともだ。
魔法使いだから確実に仲間がいる、という訳ではない。卓越した魔法使いは、前衛数人分の仕事をやってのける。
が、ここは2層。俺の脳裏には、今朝のティナさんやフィル姉から忠告された文言が蘇る。
同時に、何か嫌な予感が襲う。
「リアは先に帰還してくれ。俺は少し様子を見てくる」
「え? なら私も行くわよ。何かあるなら、人手が必要でしょう?」
「ダメだ。おそらく、オークがいる。万が一があれば、俺は殺されるだろうからまだいいが、お前はそうはいかないぞ?」
言外に、母体にされると伝える。
リアの顔色は、俺の伝えんとしていることを理解してくれたようで、少し青くなった。
「わ、分かったわ。でも、無事に帰ってきなさい? サポーターの方には私の方から伝えておくわ」
「ああ、頼む」
俺は音がする方に足を向ける。
「間に合ってくれ」
何もなければそれでいい。が、おそらくそうじゃない。何かあると、俺の胸の鼓動が伝えてくる。
俺自身がフィル姉に助けてもらった身。ならば俺も、困っている人がいるのであれば見捨てることはしたくない。
それが、俺のできる誠意だ。
「これは……」
音がする方に進むと、そこには一本の通路があった。中を進むと焼け焦げたオークの死体が散見される。
「やっぱり、オークがいたか。だとすると、この奥に?」
俺は足を速める。オークの足音は止まることなく、さらに進んでいるらしい。
ドカーン!
直後、再度爆発音が聞こえる。
「またか。少し急いだ方がいいかもな」
さらなる焦燥にかられ、俺は走り出す。
そして、その途中で。
「これは、折れた杖か?」
オークに踏まれたのだろうか。杖は柄の部分が完璧に折れていて、先端の魔力を集中させる為の石も、粉々に砕けてしまっていた。
あれ以降、爆発音は聞こえていない。
「間に合え!」
少し前から、オークの足音が止んでいた。
既に殺されていないことを祈り、俺は全力で走る。
「だ、だれか、助けて……」
俺の耳に、微かだが助けを求める声が届く。
「あれか!」
少しして。目の前にはオークの背中。
その奥には、先ほどの声の主であろう、行き止まりの壁を背にして座り込む、少女の姿があった。
「死ねッ!」
無防備な背中に、一閃。
フィル姉特製の剣は軽々とオークの胴体を真っ二つに切り裂く。
「グモッ⁉」
断末魔を上げて地面へと落ちるオーク。
「間に合ったか。無事か⁉」
「へ……?」
未だ震える少女は、俺が殺したオークの返り血を浴びて、真っ赤に染まってしまっていた。
今は、この少女の救助が先か。
「悪いな。少し大人しくしてろよ」
俺は少女の体を担ぎ上げる。
幸いにも、恐怖で体が動かないのか、ジッとしてくれているのは助かった。
俺は全力で一階層への通路を目指す。
帰り道、敵に会わないことを祈って。
俺の振るった剣がウルフの首を切り落とす。
「終わったわね」
今倒したウルフで、ちょうど二人分のクエストを達成したことになる。
ドカーン!
その時、近くで爆発音が聞こえる。
「またか」
「どうかした?」
「いや、この爆発音だ。妙じゃないか?」
「妙?」
「ああ。さっきから聞こえるのは爆発音だけ。魔法使いがいるなら、普通前衛なりがいるはずだろ? なのに、剣の音なんて全く聞こえない」
それに、この足音はオークか? それも、かなりの数がいるように感じる。
「そうなの? でも、魔法使いがソロで迷宮に挑むということもあるんじゃないかしら?」
リアの言うことはもっともだ。
魔法使いだから確実に仲間がいる、という訳ではない。卓越した魔法使いは、前衛数人分の仕事をやってのける。
が、ここは2層。俺の脳裏には、今朝のティナさんやフィル姉から忠告された文言が蘇る。
同時に、何か嫌な予感が襲う。
「リアは先に帰還してくれ。俺は少し様子を見てくる」
「え? なら私も行くわよ。何かあるなら、人手が必要でしょう?」
「ダメだ。おそらく、オークがいる。万が一があれば、俺は殺されるだろうからまだいいが、お前はそうはいかないぞ?」
言外に、母体にされると伝える。
リアの顔色は、俺の伝えんとしていることを理解してくれたようで、少し青くなった。
「わ、分かったわ。でも、無事に帰ってきなさい? サポーターの方には私の方から伝えておくわ」
「ああ、頼む」
俺は音がする方に足を向ける。
「間に合ってくれ」
何もなければそれでいい。が、おそらくそうじゃない。何かあると、俺の胸の鼓動が伝えてくる。
俺自身がフィル姉に助けてもらった身。ならば俺も、困っている人がいるのであれば見捨てることはしたくない。
それが、俺のできる誠意だ。
「これは……」
音がする方に進むと、そこには一本の通路があった。中を進むと焼け焦げたオークの死体が散見される。
「やっぱり、オークがいたか。だとすると、この奥に?」
俺は足を速める。オークの足音は止まることなく、さらに進んでいるらしい。
ドカーン!
直後、再度爆発音が聞こえる。
「またか。少し急いだ方がいいかもな」
さらなる焦燥にかられ、俺は走り出す。
そして、その途中で。
「これは、折れた杖か?」
オークに踏まれたのだろうか。杖は柄の部分が完璧に折れていて、先端の魔力を集中させる為の石も、粉々に砕けてしまっていた。
あれ以降、爆発音は聞こえていない。
「間に合え!」
少し前から、オークの足音が止んでいた。
既に殺されていないことを祈り、俺は全力で走る。
「だ、だれか、助けて……」
俺の耳に、微かだが助けを求める声が届く。
「あれか!」
少しして。目の前にはオークの背中。
その奥には、先ほどの声の主であろう、行き止まりの壁を背にして座り込む、少女の姿があった。
「死ねッ!」
無防備な背中に、一閃。
フィル姉特製の剣は軽々とオークの胴体を真っ二つに切り裂く。
「グモッ⁉」
断末魔を上げて地面へと落ちるオーク。
「間に合ったか。無事か⁉」
「へ……?」
未だ震える少女は、俺が殺したオークの返り血を浴びて、真っ赤に染まってしまっていた。
今は、この少女の救助が先か。
「悪いな。少し大人しくしてろよ」
俺は少女の体を担ぎ上げる。
幸いにも、恐怖で体が動かないのか、ジッとしてくれているのは助かった。
俺は全力で一階層への通路を目指す。
帰り道、敵に会わないことを祈って。
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