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第一章
第四話
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「ただいま」
「あ、おかえりー! どうだった⁉」
パタパタと音を立てて、玄関にやってくるフィル姉。その顔には、期待と不安がごちゃ混ぜになったような表情をしている。
「無事、受かったよ」
「本当⁉ おめでとう!」
ガバッ! と、まるで自分の事のように喜んでくれる。
「ありがとう。これも、フィル姉のおかげだね」
「何言ってるの! これは全部、努力してきたレインの成果だよ。私はただ、そんなレインを支えただけ。あ、ちょっと待ってて! レインにプレゼントがあるの!」
抱擁が解かれたと思ったら、フィル姉は何か思い出したらしく部屋の中へと戻っていく。そして、両手に何かを抱えて戻ってきた。
「レイン、これ!」
「これって……」
フィル姉が差し出してきたのは、防具と武器。これから冒険者となるにあたって新調しなければ、と考えていた装備一式だった。
「お姉ちゃんが、レインの為だけに仕立て上げました。レインが冒険者になれるようにっていう願掛けも含めて作っておいた、お姉ちゃん特製の装備です! どう、凄い?」
「凄い……。すごいけど、いいのか?」
試しに、剣を持ってみる。
初めて持ったとは思えないほどに、俺の手に馴染む。そして、めちゃくちゃ軽い。軽く振ってみるが、無駄な力が一切必要ない。
「ほら、大丈夫だと思うけど、一応つけてみて。万が一サイズが会ってなかったら、お姉ちゃんがすぐに直してあげるから!」
そう言って、フィル姉が装着を手伝ってくれる。
「おぉ……」
思わず感嘆の声が漏れるほど、防具のサイズは完璧だった。そして、こちらもびっくりするぐらい軽い。付けているのか不安になるほどだ。
「あ、一応説明しておくと。武器の方には軽量化と鋭利化。防具の方には軽量化はもちろん、自動HP.MP回復の機能と、物理、魔法攻撃軽減の付与魔法をかけてあるから。バッチリだよ!」
グッと、親指を立ててくるフィル姉。
「うん、ありがとう。こうやって装備するとわかるけど、めっちゃ軽いし、使いやすいと思う。けど、本当にいいのか? これ、かなり良い素材も使ったんじゃ?」
フィル姉は、実はそれなりに有名な錬金術師だ。
姉の造る防具や武器は、あのⅡ等級冒険者のパーティも使っていて、その価値は凄まじい。と、聞いたことがある。
「いいのいいの! レインの為なら、私は物なんて惜しまない! それを使って、無事にレインが戻ってきてくれれば、それでいいの」
フィル姉の顔には、優しい笑みが浮かんでいる。
この顔を曇らせる訳にはいかない。この好意はありがたく受け取ろう。俺が為すべきことは、他にある。
「フィル姉」
「ん? どうしたの?」
「ありがとう。これまで、俺はフィル姉にいろいろと迷惑を掛けてきたと思う。でも、それも今日までだ。これからは、俺もフィル姉に恩返しするから。こんな俺を救ってくれて。そして、ここまで育ててくれて。こうして、愛してくれて。俺は、幸せです。本当にありがとうございました」
「あっ……」
俺は頭を下げる。これまで、フィル姉は俺を育てるために、たくさんの苦労をしてくれた。それは、一番近くで見てきた俺が知っている。
いつか、そんな姉に恩返しをしたい。だから、俺は冒険者を志した。
そして、その一つ目の願いを果たした今。俺が為すべきことは一つだ。
俺が、フィル姉を幸せにする。これまでもらった愛を、恩を。返すつもりで。
「レイン」
フィル姉は俺の名を呼ぶと、頭を抱えて自分の胸に押し付けた。
鼻孔をくすぐるのは、安心するフィル姉の匂いだ。こうしてもらうのが、俺は小さいころから大好きだ。
「こんなに、大きくなったんだね。背も、昔は私の腰の少し上くらいだったのに。今じゃもう、目線が一緒。これから、さらに大きくなるんだよね……。私ね、レインがいてくれて幸せだったよ。こんな幸せでいいのかな、ってくらい。だから、私こそありがとう。私と出会ってくれて、ありがとう。私はこれからも、レインの隣にいる。ずっとずっと、支え続けるから。だからレインも。あなたの帰る場所はここにある。私はずっと、待ってるからね」
「うん、ありがとう。フィルお姉ちゃん」
俺もフィル姉の背中に手を回す。
久々に、こうしてフィル姉に甘えてる気がする。
やっぱり、俺は……
「フィル姉、大好きだよ」
「ッ⁉ ふふ、うん! 私も、大好きだよ! レイン!」
より強く、フィル姉は俺を抱きしめてくれる。
俺も応えるように、抱きしめ返す。
これからは、俺が。
フィル姉を支えるんだという決意を、再度胸に刻んで。
「あ、おかえりー! どうだった⁉」
パタパタと音を立てて、玄関にやってくるフィル姉。その顔には、期待と不安がごちゃ混ぜになったような表情をしている。
「無事、受かったよ」
「本当⁉ おめでとう!」
ガバッ! と、まるで自分の事のように喜んでくれる。
「ありがとう。これも、フィル姉のおかげだね」
「何言ってるの! これは全部、努力してきたレインの成果だよ。私はただ、そんなレインを支えただけ。あ、ちょっと待ってて! レインにプレゼントがあるの!」
抱擁が解かれたと思ったら、フィル姉は何か思い出したらしく部屋の中へと戻っていく。そして、両手に何かを抱えて戻ってきた。
「レイン、これ!」
「これって……」
フィル姉が差し出してきたのは、防具と武器。これから冒険者となるにあたって新調しなければ、と考えていた装備一式だった。
「お姉ちゃんが、レインの為だけに仕立て上げました。レインが冒険者になれるようにっていう願掛けも含めて作っておいた、お姉ちゃん特製の装備です! どう、凄い?」
「凄い……。すごいけど、いいのか?」
試しに、剣を持ってみる。
初めて持ったとは思えないほどに、俺の手に馴染む。そして、めちゃくちゃ軽い。軽く振ってみるが、無駄な力が一切必要ない。
「ほら、大丈夫だと思うけど、一応つけてみて。万が一サイズが会ってなかったら、お姉ちゃんがすぐに直してあげるから!」
そう言って、フィル姉が装着を手伝ってくれる。
「おぉ……」
思わず感嘆の声が漏れるほど、防具のサイズは完璧だった。そして、こちらもびっくりするぐらい軽い。付けているのか不安になるほどだ。
「あ、一応説明しておくと。武器の方には軽量化と鋭利化。防具の方には軽量化はもちろん、自動HP.MP回復の機能と、物理、魔法攻撃軽減の付与魔法をかけてあるから。バッチリだよ!」
グッと、親指を立ててくるフィル姉。
「うん、ありがとう。こうやって装備するとわかるけど、めっちゃ軽いし、使いやすいと思う。けど、本当にいいのか? これ、かなり良い素材も使ったんじゃ?」
フィル姉は、実はそれなりに有名な錬金術師だ。
姉の造る防具や武器は、あのⅡ等級冒険者のパーティも使っていて、その価値は凄まじい。と、聞いたことがある。
「いいのいいの! レインの為なら、私は物なんて惜しまない! それを使って、無事にレインが戻ってきてくれれば、それでいいの」
フィル姉の顔には、優しい笑みが浮かんでいる。
この顔を曇らせる訳にはいかない。この好意はありがたく受け取ろう。俺が為すべきことは、他にある。
「フィル姉」
「ん? どうしたの?」
「ありがとう。これまで、俺はフィル姉にいろいろと迷惑を掛けてきたと思う。でも、それも今日までだ。これからは、俺もフィル姉に恩返しするから。こんな俺を救ってくれて。そして、ここまで育ててくれて。こうして、愛してくれて。俺は、幸せです。本当にありがとうございました」
「あっ……」
俺は頭を下げる。これまで、フィル姉は俺を育てるために、たくさんの苦労をしてくれた。それは、一番近くで見てきた俺が知っている。
いつか、そんな姉に恩返しをしたい。だから、俺は冒険者を志した。
そして、その一つ目の願いを果たした今。俺が為すべきことは一つだ。
俺が、フィル姉を幸せにする。これまでもらった愛を、恩を。返すつもりで。
「レイン」
フィル姉は俺の名を呼ぶと、頭を抱えて自分の胸に押し付けた。
鼻孔をくすぐるのは、安心するフィル姉の匂いだ。こうしてもらうのが、俺は小さいころから大好きだ。
「こんなに、大きくなったんだね。背も、昔は私の腰の少し上くらいだったのに。今じゃもう、目線が一緒。これから、さらに大きくなるんだよね……。私ね、レインがいてくれて幸せだったよ。こんな幸せでいいのかな、ってくらい。だから、私こそありがとう。私と出会ってくれて、ありがとう。私はこれからも、レインの隣にいる。ずっとずっと、支え続けるから。だからレインも。あなたの帰る場所はここにある。私はずっと、待ってるからね」
「うん、ありがとう。フィルお姉ちゃん」
俺もフィル姉の背中に手を回す。
久々に、こうしてフィル姉に甘えてる気がする。
やっぱり、俺は……
「フィル姉、大好きだよ」
「ッ⁉ ふふ、うん! 私も、大好きだよ! レイン!」
より強く、フィル姉は俺を抱きしめてくれる。
俺も応えるように、抱きしめ返す。
これからは、俺が。
フィル姉を支えるんだという決意を、再度胸に刻んで。
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