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第一章
第一話
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夜中。既に日は落ち、夜の帳が満ちた頃。
「うん、これで良し」
笑みを浮かべながら、たった今制作が終わった装備一式を机に置き、一息つく。
「明日のテストは、まぁ慣れた武器を使ってもらうとして。終わって無事に冒険者になれたら。その時は、私特製のこの装備をプレゼントしてあげよう! 喜んでくれるかな? 喜んでくれるといいなー」
えへへ、と渡す場面を想像しているのか、その顔は笑みで支配されていた。
冒険者テスト。
年に一度、この都市を統括するギルドが開催する、冒険者になるためのテストである。
この都市には迷宮(ダンジョン)と呼ばれる塔が、天高くそびえ立っており、それを中心に街が発展。今ではギルドと呼ばれる組織が統治するこの街が出来上がった。
当初、この塔には誰であっても入ることが許されたのだが、ある日を境に塔内部で魔物と後に呼ばれることになる、凶悪な生物の出現を確認。
以降、このギルドの試験に受かったものだけが、塔へ入ることが許されるようになった。
これが、冒険者の前身である。
そして現在。冒険者になる夢を見た様々な種族の人々がこの街に集まっている。
エルフ、ドワーフ、リザードマン。悪魔の血を受け継ぐ半魔。そして、人間。
ほかにも様々な亜人達もこの街を目指してやってくる。
願わくば、彼らに祝福があらんことを……
「レイン、忘れ物はない?」
「うん、ない。大丈夫だ」
今日行われる冒険者テストに行く準備を終えてリビングに降りると、そこでは姉であるフィルが待っていた。
「レイン、無茶はだめだからね? 危ないと思ったら、すぐに引き返すこと。チャンスは来年だってあるんだから」
「フィル姉、落ちる話はしないでよ。俺は受かるんだから」
「そ、そっか。そうだね。うん。全力で、頑張っておいで」
「ありがとう」
フィル姉に背中を押され、俺は玄関をくぐる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
笑みを浮かべるフィル姉と拳を突き合わせ、俺は歩き出す。
「絶対、受かって見せる」
決意を胸に。
ドサッ。
「きゃッ!」
「ん?」
すぐ後ろで何か音がして、振り向いた。
そこには、長い金髪の綺麗な少女が倒れていて、落とした書類を拾い集めていた。
今の時間帯、道の真ん中で進路をふさいでいる彼女を、道行く人は助けようとはせず。それどころか睨む人もいる。中には、落ちた書類をわざと踏みつけて歩き去る人々の姿も見える。
「大丈夫ですか?」
近くに落ちていた書類を集め、少女に渡す。
「え? あ、ありがとうございます」
「手伝いますよ」
俺はそういって、遠くの紙から集める。また踏まれて破れたりしないようにするためだ。
「あの、ありがとうございました」
「いえいえ、これくらい普通ですから」
「よかった、貴方みたいに優しい人もいるんですね」
「え?」
「あ、私、今日からギルドで働くことになったティナって言います。実は、実家が田舎で。こんなに人が多いところに来るのも初めてで、緊張してて。さっきも、睨まれて怖かったんです。だから、貴方のように優しい人がいることに、ホッとしました」
こちらを向いてほほ笑んだ少女の顔は、とても可愛かった。一瞬、ドキリとして、その顔に見惚れてしまった。
「そういえば、冒険者の方ですか?」
少女の視線が、俺の腰に向けられる。
そこには、長年愛用してきた剣がある。
「え? ああ、違います。俺はレイン。今日の冒険者テストを受ける冒険者です」
「ふふ、冒険者って言いきってしまうあたり、自信があるんですね?」
「はい。俺は、絶対に冒険者になって、姉の手伝いをする。そう決めているんで」
「そっか。じゃあレインさん。本当はこういうのはダメなのかもしれないですけど、まだ職員じゃないということで。頑張ってくださいね」
先ほどよりも輝いた笑顔を向けられた俺は、間抜けにも、コクンと頷きを返すだけで精いっぱいだった――
「うん、これで良し」
笑みを浮かべながら、たった今制作が終わった装備一式を机に置き、一息つく。
「明日のテストは、まぁ慣れた武器を使ってもらうとして。終わって無事に冒険者になれたら。その時は、私特製のこの装備をプレゼントしてあげよう! 喜んでくれるかな? 喜んでくれるといいなー」
えへへ、と渡す場面を想像しているのか、その顔は笑みで支配されていた。
冒険者テスト。
年に一度、この都市を統括するギルドが開催する、冒険者になるためのテストである。
この都市には迷宮(ダンジョン)と呼ばれる塔が、天高くそびえ立っており、それを中心に街が発展。今ではギルドと呼ばれる組織が統治するこの街が出来上がった。
当初、この塔には誰であっても入ることが許されたのだが、ある日を境に塔内部で魔物と後に呼ばれることになる、凶悪な生物の出現を確認。
以降、このギルドの試験に受かったものだけが、塔へ入ることが許されるようになった。
これが、冒険者の前身である。
そして現在。冒険者になる夢を見た様々な種族の人々がこの街に集まっている。
エルフ、ドワーフ、リザードマン。悪魔の血を受け継ぐ半魔。そして、人間。
ほかにも様々な亜人達もこの街を目指してやってくる。
願わくば、彼らに祝福があらんことを……
「レイン、忘れ物はない?」
「うん、ない。大丈夫だ」
今日行われる冒険者テストに行く準備を終えてリビングに降りると、そこでは姉であるフィルが待っていた。
「レイン、無茶はだめだからね? 危ないと思ったら、すぐに引き返すこと。チャンスは来年だってあるんだから」
「フィル姉、落ちる話はしないでよ。俺は受かるんだから」
「そ、そっか。そうだね。うん。全力で、頑張っておいで」
「ありがとう」
フィル姉に背中を押され、俺は玄関をくぐる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
笑みを浮かべるフィル姉と拳を突き合わせ、俺は歩き出す。
「絶対、受かって見せる」
決意を胸に。
ドサッ。
「きゃッ!」
「ん?」
すぐ後ろで何か音がして、振り向いた。
そこには、長い金髪の綺麗な少女が倒れていて、落とした書類を拾い集めていた。
今の時間帯、道の真ん中で進路をふさいでいる彼女を、道行く人は助けようとはせず。それどころか睨む人もいる。中には、落ちた書類をわざと踏みつけて歩き去る人々の姿も見える。
「大丈夫ですか?」
近くに落ちていた書類を集め、少女に渡す。
「え? あ、ありがとうございます」
「手伝いますよ」
俺はそういって、遠くの紙から集める。また踏まれて破れたりしないようにするためだ。
「あの、ありがとうございました」
「いえいえ、これくらい普通ですから」
「よかった、貴方みたいに優しい人もいるんですね」
「え?」
「あ、私、今日からギルドで働くことになったティナって言います。実は、実家が田舎で。こんなに人が多いところに来るのも初めてで、緊張してて。さっきも、睨まれて怖かったんです。だから、貴方のように優しい人がいることに、ホッとしました」
こちらを向いてほほ笑んだ少女の顔は、とても可愛かった。一瞬、ドキリとして、その顔に見惚れてしまった。
「そういえば、冒険者の方ですか?」
少女の視線が、俺の腰に向けられる。
そこには、長年愛用してきた剣がある。
「え? ああ、違います。俺はレイン。今日の冒険者テストを受ける冒険者です」
「ふふ、冒険者って言いきってしまうあたり、自信があるんですね?」
「はい。俺は、絶対に冒険者になって、姉の手伝いをする。そう決めているんで」
「そっか。じゃあレインさん。本当はこういうのはダメなのかもしれないですけど、まだ職員じゃないということで。頑張ってくださいね」
先ほどよりも輝いた笑顔を向けられた俺は、間抜けにも、コクンと頷きを返すだけで精いっぱいだった――
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