49 / 52
49話「何も変わらない」
しおりを挟む
緑さんが実家に戻って1年が経った。幸いなことに、僕と緑さんの関係は続いていた。暇な時間に電話で喋った。緑さんは僕のくだらない話を頷いて聞いてくれたけれど、自分のことはあまり話そうとしなかった。
最近どう? と尋ねると「普通だよ」と返ってくる。それだけ。でも、それで良かった。言うことがないってことは、平和な証なのだと僕は思うことにした。
ある日緑さんが、何でもないことのように言った。
「そういえば、半年前に親父が死んだんだよ」
びっくりし過ぎて、それ以前の会話を忘れてしまった。僕の頭がハテナで埋め尽くされる。
亡くなった? 緑さんのお父さんが? あのお父さんが?……どのお父さんが?
僕は緑さんのお父さんのことをあまり詳しく知らないし、緑さんから聞いたことはない。彼方が以前「碌でもない奴だったよ」と話していたのを聞いたくらいだ。そういえば、彼方もお父さんの話は全くしていなかった。
「彼方は、そのこと知ってるの?」
「知ってる。俺が教えた」
「なんって言ってました?」
「『まだ死んでなかったんだ』だってさ。まぁ、そんなもんだよな。殆ど仕事ばかりで家にいなかったし、興味なくても仕方ないよな」
いや、その言い方は明らかに「興味がない」ではなく、強い恨みがこもっているような気がする。でも、言わないでおこう。言ったところでそれこそ「仕方ない」話だ。
「……俺も同じこと、前は思ってたよ」
緑さんは言った。
「家に帰って親父を見る度に、『なんでまだ生きてるんだろう』って思ってた。こいつさえいなければ、誰も不幸にはならなかったんじゃないかってさ」
僕は何も言えなかった。
「でも、何も変わらなかったよ。半年待ってみたけど何も変わらなかった。母さんと親父が離婚した事実は消えなかったし、あの頃の日々は戻ってこない」
どうして、穏やかな口調で、ともすれば笑みすら浮かべていそうな声で、そうも寂しいことが言えるんだろう。
僕は不安になった。今度こそ緑さんが消えてしまいそうな気がした。
捕まえなければ。でも、どうやって。
「……緑さん。好きだよ」
「知ってる」
「告白ついでに、頼みがあるんだけど」
「どっちかって言うと告白の方がおまけな感じがするんだけど……何?」
「今度、緑さんのお家にお邪魔させてください」
緑さんと直接会って話したかった。
こうして僕は緑さんの故郷に向かった。
最近どう? と尋ねると「普通だよ」と返ってくる。それだけ。でも、それで良かった。言うことがないってことは、平和な証なのだと僕は思うことにした。
ある日緑さんが、何でもないことのように言った。
「そういえば、半年前に親父が死んだんだよ」
びっくりし過ぎて、それ以前の会話を忘れてしまった。僕の頭がハテナで埋め尽くされる。
亡くなった? 緑さんのお父さんが? あのお父さんが?……どのお父さんが?
僕は緑さんのお父さんのことをあまり詳しく知らないし、緑さんから聞いたことはない。彼方が以前「碌でもない奴だったよ」と話していたのを聞いたくらいだ。そういえば、彼方もお父さんの話は全くしていなかった。
「彼方は、そのこと知ってるの?」
「知ってる。俺が教えた」
「なんって言ってました?」
「『まだ死んでなかったんだ』だってさ。まぁ、そんなもんだよな。殆ど仕事ばかりで家にいなかったし、興味なくても仕方ないよな」
いや、その言い方は明らかに「興味がない」ではなく、強い恨みがこもっているような気がする。でも、言わないでおこう。言ったところでそれこそ「仕方ない」話だ。
「……俺も同じこと、前は思ってたよ」
緑さんは言った。
「家に帰って親父を見る度に、『なんでまだ生きてるんだろう』って思ってた。こいつさえいなければ、誰も不幸にはならなかったんじゃないかってさ」
僕は何も言えなかった。
「でも、何も変わらなかったよ。半年待ってみたけど何も変わらなかった。母さんと親父が離婚した事実は消えなかったし、あの頃の日々は戻ってこない」
どうして、穏やかな口調で、ともすれば笑みすら浮かべていそうな声で、そうも寂しいことが言えるんだろう。
僕は不安になった。今度こそ緑さんが消えてしまいそうな気がした。
捕まえなければ。でも、どうやって。
「……緑さん。好きだよ」
「知ってる」
「告白ついでに、頼みがあるんだけど」
「どっちかって言うと告白の方がおまけな感じがするんだけど……何?」
「今度、緑さんのお家にお邪魔させてください」
緑さんと直接会って話したかった。
こうして僕は緑さんの故郷に向かった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる