上 下
26 / 52

26話「嫌な予感」

しおりを挟む
 スタジオの前でマネージャーさんが車を停めて待っていた。彼方は僕を先に車に入れ、その後続けて入る。

 社用車ではなくマネージャーさんの車なので、背の高い僕には少し窮屈だけど、このこじんまりとした感じが僕は嫌いではない、

「今日もありがとうございます」

「いえいえ。子供を夜遅くに外で歩かせるわけにはいきませんからね。今日の仕事はどうでした?」

「とっても楽しかったです。彼方と一緒に撮影ができたのも、嬉しかったですし」

「それは良かったです。カイトくん、今日もすごく素敵でしたよ」

「マネージャー、俺は?」

「もちろん彼方くんも、いつも通り、とても素晴らしかったです」

 僕と彼方のマネージャーをこの人が兼任している。僕をスカウトしてくれた人だ。

 売れっ子の彼方のマネージャーであるというだけでも大変だろうに、僕のことも気にかけてくれる凄い人で、僕はこの人を尊敬している。

「ねー、聞いてよマネージャー。カイってばまたナンパされてたんだよ」

 助手席のヘッドレストにしがみついて、彼方が口を尖らせる。

「ナンパってわけじゃ……。あの人が誰かをからかって遊ぶのはいつものことだろ」

「いーや。あの顔は絶対、あわよくばを狙ってたね。俺には分かるよ」

「でも、あの人には家庭があるし」

「家族や恋人がいたって、他の人に手を出す奴はいるんだよ。男女問わずね」

「でも……」

 あの人は、単に僕で遊んでいたのかもしれない。僕を心配していたのかもしれない。僕に手を出そうとしていたのかもしれない。

 本当のところは良く分からないから、僕はあの人を悪い人だとは思いたくない。

 僕が黙ると、彼方は困ったように眉を下げ、僕の手を取る。

「カイ。俺は何もお前を責めたくて、こんなことを言ってるんじゃないんだよ。心配なんだ、カイのことが。

 お前って抜けてるところがあるから。ね、マネージャーもそう思うよね?」

「確かにカイトくんは、もう少し周りに注意した方が良いかもしれませんね。

 この業界は良い人ばかりじゃないんです。悪意を持ってあなたに近づく人がいるかもしれないし、事実を大袈裟に吹聴したり、週刊誌に情報を売る人がいるかもしれない。

 そうなった時に被害を被るのは、あなただけじゃなくて、あなたの大切な人……たとえば家族や友人、仲間、彼方くんかもしれないんです」

 彼方の名前を出されると、僕は弱い。マネージャーもそれを分かっているんだろう。

「もちろん僕達も、そうならないように全力であなた達をサポートしますし、守るつもりです。でも、まずは本人が自覚を持つことが大切ですね」

「自覚?」

「あなたは、あなた自身が思っている以上に世間から注目されています。それは良いことでもあり、悪いことでもあるんです」

「……僕、もしかしてみんなに迷惑かけてますか?」

「むしろ、迷惑をかけてください。一番大切なのは、1人で抱え込まないことなんです」

 彼方はしきりに頷く。

「困ったことがあったら、すぐに誰かに言うんだよ。マネージャーでも良いし、僕でも良いから。分かった?」

「……うん」

 なんだか、胸の奥がざわざわして落ち着かなくなった。

 それは、嵐の前触れのように、僕の心を静かに揺さぶった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

双子攻略が難解すぎてもうやりたくない

はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。 22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。 脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!! ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話 ⭐︎登場人物⭐︎ 元ストーカーくん(転生者)佐藤翔  主人公 一宮桜  攻略対象1 東雲春馬  攻略対象2 早乙女夏樹  攻略対象3 如月雪成(双子兄)  攻略対象4 如月雪 (双子弟)  元ストーカーくんの兄   佐藤明

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...