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26話「嫌な予感」
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スタジオの前でマネージャーさんが車を停めて待っていた。彼方は僕を先に車に入れ、その後続けて入る。
社用車ではなくマネージャーさんの車なので、背の高い僕には少し窮屈だけど、このこじんまりとした感じが僕は嫌いではない、
「今日もありがとうございます」
「いえいえ。子供を夜遅くに外で歩かせるわけにはいきませんからね。今日の仕事はどうでした?」
「とっても楽しかったです。彼方と一緒に撮影ができたのも、嬉しかったですし」
「それは良かったです。カイトくん、今日もすごく素敵でしたよ」
「マネージャー、俺は?」
「もちろん彼方くんも、いつも通り、とても素晴らしかったです」
僕と彼方のマネージャーをこの人が兼任している。僕をスカウトしてくれた人だ。
売れっ子の彼方のマネージャーであるというだけでも大変だろうに、僕のことも気にかけてくれる凄い人で、僕はこの人を尊敬している。
「ねー、聞いてよマネージャー。カイってばまたナンパされてたんだよ」
助手席のヘッドレストにしがみついて、彼方が口を尖らせる。
「ナンパってわけじゃ……。あの人が誰かをからかって遊ぶのはいつものことだろ」
「いーや。あの顔は絶対、あわよくばを狙ってたね。俺には分かるよ」
「でも、あの人には家庭があるし」
「家族や恋人がいたって、他の人に手を出す奴はいるんだよ。男女問わずね」
「でも……」
あの人は、単に僕で遊んでいたのかもしれない。僕を心配していたのかもしれない。僕に手を出そうとしていたのかもしれない。
本当のところは良く分からないから、僕はあの人を悪い人だとは思いたくない。
僕が黙ると、彼方は困ったように眉を下げ、僕の手を取る。
「カイ。俺は何もお前を責めたくて、こんなことを言ってるんじゃないんだよ。心配なんだ、カイのことが。
お前って抜けてるところがあるから。ね、マネージャーもそう思うよね?」
「確かにカイトくんは、もう少し周りに注意した方が良いかもしれませんね。
この業界は良い人ばかりじゃないんです。悪意を持ってあなたに近づく人がいるかもしれないし、事実を大袈裟に吹聴したり、週刊誌に情報を売る人がいるかもしれない。
そうなった時に被害を被るのは、あなただけじゃなくて、あなたの大切な人……たとえば家族や友人、仲間、彼方くんかもしれないんです」
彼方の名前を出されると、僕は弱い。マネージャーもそれを分かっているんだろう。
「もちろん僕達も、そうならないように全力であなた達をサポートしますし、守るつもりです。でも、まずは本人が自覚を持つことが大切ですね」
「自覚?」
「あなたは、あなた自身が思っている以上に世間から注目されています。それは良いことでもあり、悪いことでもあるんです」
「……僕、もしかしてみんなに迷惑かけてますか?」
「むしろ、迷惑をかけてください。一番大切なのは、1人で抱え込まないことなんです」
彼方は頻りに頷く。
「困ったことがあったら、すぐに誰かに言うんだよ。マネージャーでも良いし、僕でも良いから。分かった?」
「……うん」
なんだか、胸の奥がざわざわして落ち着かなくなった。
それは、嵐の前触れのように、僕の心を静かに揺さぶった。
社用車ではなくマネージャーさんの車なので、背の高い僕には少し窮屈だけど、このこじんまりとした感じが僕は嫌いではない、
「今日もありがとうございます」
「いえいえ。子供を夜遅くに外で歩かせるわけにはいきませんからね。今日の仕事はどうでした?」
「とっても楽しかったです。彼方と一緒に撮影ができたのも、嬉しかったですし」
「それは良かったです。カイトくん、今日もすごく素敵でしたよ」
「マネージャー、俺は?」
「もちろん彼方くんも、いつも通り、とても素晴らしかったです」
僕と彼方のマネージャーをこの人が兼任している。僕をスカウトしてくれた人だ。
売れっ子の彼方のマネージャーであるというだけでも大変だろうに、僕のことも気にかけてくれる凄い人で、僕はこの人を尊敬している。
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助手席のヘッドレストにしがみついて、彼方が口を尖らせる。
「ナンパってわけじゃ……。あの人が誰かをからかって遊ぶのはいつものことだろ」
「いーや。あの顔は絶対、あわよくばを狙ってたね。俺には分かるよ」
「でも、あの人には家庭があるし」
「家族や恋人がいたって、他の人に手を出す奴はいるんだよ。男女問わずね」
「でも……」
あの人は、単に僕で遊んでいたのかもしれない。僕を心配していたのかもしれない。僕に手を出そうとしていたのかもしれない。
本当のところは良く分からないから、僕はあの人を悪い人だとは思いたくない。
僕が黙ると、彼方は困ったように眉を下げ、僕の手を取る。
「カイ。俺は何もお前を責めたくて、こんなことを言ってるんじゃないんだよ。心配なんだ、カイのことが。
お前って抜けてるところがあるから。ね、マネージャーもそう思うよね?」
「確かにカイトくんは、もう少し周りに注意した方が良いかもしれませんね。
この業界は良い人ばかりじゃないんです。悪意を持ってあなたに近づく人がいるかもしれないし、事実を大袈裟に吹聴したり、週刊誌に情報を売る人がいるかもしれない。
そうなった時に被害を被るのは、あなただけじゃなくて、あなたの大切な人……たとえば家族や友人、仲間、彼方くんかもしれないんです」
彼方の名前を出されると、僕は弱い。マネージャーもそれを分かっているんだろう。
「もちろん僕達も、そうならないように全力であなた達をサポートしますし、守るつもりです。でも、まずは本人が自覚を持つことが大切ですね」
「自覚?」
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「むしろ、迷惑をかけてください。一番大切なのは、1人で抱え込まないことなんです」
彼方は頻りに頷く。
「困ったことがあったら、すぐに誰かに言うんだよ。マネージャーでも良いし、僕でも良いから。分かった?」
「……うん」
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それは、嵐の前触れのように、僕の心を静かに揺さぶった。
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