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17話「馬鹿」
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配信が終了したのを確認してリビングに戻る。
ベッドの上でスマホを弄っていた斑目が、俺を見てぱぁっと笑顔を浮かべた。俺の良く知る斑目だ。
俺と斑目はそんな気安い関係ではないはずなのに、何で俺、斑目の笑顔を見て安心してんだろうな。
「風呂、ありがとう」
「いえいえ。無事入れたみたいで良かったです」
「お前俺を馬鹿にしてんの?」
「え? 何でですか?」
斑目は虚を突かれたような顔をした。前々から思っていたが、こいつは無自覚に人を怒らせるタイプだろう。
「……それにしてもワイン風呂って、洒落たもん持ってんね」
俺は話を逸らすことにした。
「以前お仕事でご一緒した人に頂いて、それから気に入って使ってるんです。
良いでしょ、あれ」
「うん、悪くはなかったかな」
心なしか肌も普段より艶々しているような気がする。
「良かったら入浴剤分けましょうか」
「いらない。俺、家で風呂入らないから」
「たまには入った方が良いですよ。シャワーだけだと疲れが取れにくいでしょ?」
「水道代がもったいないじゃん」
斑目がそわそわとし出す。
「あ、あの、もしかして生活費足りてませんでした?」
全然足りない。そう言ったら斑目は何の躊躇いもなく金を渡してきそうな気がした。怖い。
「貯金してんだよ。節約できるなら、するに越したことはないだろ。
お前みたいな金持ちには分かんない感覚かもしんないけどさ」
「別に、そんなにお金持ってるわけじゃないですけど……」
「こんな家に住んでて良くそんなことが言えるな」
「え、でもどこの家もこんな感じじゃないですか? 友達の家も似たような感じだったし……」
このナチュラルに世間知らずな感じが非常に腹立たしい。だが斑目らしいとも最近は思うようになっていた。
これが慣れというやつなのだろうか。
「まあ良いや。斑目、早く風呂入ってこいよ」
「そうですね」
斑目は風呂場の方に向かった。
がさごそと身動ぐ音が聞こえてきたかと思うと、腰にタオルを巻いただけの姿でリビングに戻ってきた。
「服持っていくの忘れてました」
俺は思わずスマホを取り落としそうになった。床にぶつかるスレスレでキャッチ。セーフだ。
「……お前、マジか」
「え、何がですか?」
無自覚か。そうか。分かってはいたけれど。
「あのさ、斑目」
「何ですか?」
「俺、今ここでお前のこと襲っても良いんだよ?」
リビングがシンと静まり返る。ぴたっと動きを止めていた斑目が、瞬間、全身を赤くさせた。
「……あ、す、すみません! ごめんなさい! すみません!」
斑目がダッシュでリビングから消える。浴室の扉が勢い良く閉められる音が耳に届いた。
斑目と話して少し分かったことがある。あいつは馬鹿だ。
彼女ができたことなど一度もないと言っていたが、恐らく斑目が相手のアピールに気が付かずに自然消滅したパターンが殆どだろう。
可哀想だ。拒絶されることより、気づいてくれない方が辛いだろうに。
俺はあいつに恋をしていたかつての女子達に心底同情しつつ、先程見た斑目の裸を思い浮かべる。
白い肌、程良く鍛えられた筋肉、引き締まった臀部、肩甲骨、太腿のライン……
あの腕が俺を抱きしめたのだと思うと、体温が上昇していく。
早くセックスがしたい。
律儀にあいつとの約束を守って、誰ともヤッていないのだから、そろそろご褒美をくれたって良いじゃないか。
俺のことをめちゃくちゃにしてほしい。何もかも忘れさせてほしい。
俺の価値観を粉々に砕くような深い快楽が欲しい。
今までの行為を思い出して、脳がじんと甘く痺れるような感覚があった。
スマホを弄るような気分にもなれず、俺は斑目のベッドに横になり、布団に抱きつく。
深く息を吸う。何とも言えない香りがした。これが、斑目の匂い。
遠くで、ドライヤーの音が聞こえる。いつの間に斑目は風呂から上がっていたのだろう。
早く来てほしい。俺を抱いてほしい。
やがて、斑目はおっかなびっくりという様子で静かに扉を開けた。
目が合うと、斑目は肩を大きく震わせ、恐る恐る部屋に入ってくる。
ベッドの上でスマホを弄っていた斑目が、俺を見てぱぁっと笑顔を浮かべた。俺の良く知る斑目だ。
俺と斑目はそんな気安い関係ではないはずなのに、何で俺、斑目の笑顔を見て安心してんだろうな。
「風呂、ありがとう」
「いえいえ。無事入れたみたいで良かったです」
「お前俺を馬鹿にしてんの?」
「え? 何でですか?」
斑目は虚を突かれたような顔をした。前々から思っていたが、こいつは無自覚に人を怒らせるタイプだろう。
「……それにしてもワイン風呂って、洒落たもん持ってんね」
俺は話を逸らすことにした。
「以前お仕事でご一緒した人に頂いて、それから気に入って使ってるんです。
良いでしょ、あれ」
「うん、悪くはなかったかな」
心なしか肌も普段より艶々しているような気がする。
「良かったら入浴剤分けましょうか」
「いらない。俺、家で風呂入らないから」
「たまには入った方が良いですよ。シャワーだけだと疲れが取れにくいでしょ?」
「水道代がもったいないじゃん」
斑目がそわそわとし出す。
「あ、あの、もしかして生活費足りてませんでした?」
全然足りない。そう言ったら斑目は何の躊躇いもなく金を渡してきそうな気がした。怖い。
「貯金してんだよ。節約できるなら、するに越したことはないだろ。
お前みたいな金持ちには分かんない感覚かもしんないけどさ」
「別に、そんなにお金持ってるわけじゃないですけど……」
「こんな家に住んでて良くそんなことが言えるな」
「え、でもどこの家もこんな感じじゃないですか? 友達の家も似たような感じだったし……」
このナチュラルに世間知らずな感じが非常に腹立たしい。だが斑目らしいとも最近は思うようになっていた。
これが慣れというやつなのだろうか。
「まあ良いや。斑目、早く風呂入ってこいよ」
「そうですね」
斑目は風呂場の方に向かった。
がさごそと身動ぐ音が聞こえてきたかと思うと、腰にタオルを巻いただけの姿でリビングに戻ってきた。
「服持っていくの忘れてました」
俺は思わずスマホを取り落としそうになった。床にぶつかるスレスレでキャッチ。セーフだ。
「……お前、マジか」
「え、何がですか?」
無自覚か。そうか。分かってはいたけれど。
「あのさ、斑目」
「何ですか?」
「俺、今ここでお前のこと襲っても良いんだよ?」
リビングがシンと静まり返る。ぴたっと動きを止めていた斑目が、瞬間、全身を赤くさせた。
「……あ、す、すみません! ごめんなさい! すみません!」
斑目がダッシュでリビングから消える。浴室の扉が勢い良く閉められる音が耳に届いた。
斑目と話して少し分かったことがある。あいつは馬鹿だ。
彼女ができたことなど一度もないと言っていたが、恐らく斑目が相手のアピールに気が付かずに自然消滅したパターンが殆どだろう。
可哀想だ。拒絶されることより、気づいてくれない方が辛いだろうに。
俺はあいつに恋をしていたかつての女子達に心底同情しつつ、先程見た斑目の裸を思い浮かべる。
白い肌、程良く鍛えられた筋肉、引き締まった臀部、肩甲骨、太腿のライン……
あの腕が俺を抱きしめたのだと思うと、体温が上昇していく。
早くセックスがしたい。
律儀にあいつとの約束を守って、誰ともヤッていないのだから、そろそろご褒美をくれたって良いじゃないか。
俺のことをめちゃくちゃにしてほしい。何もかも忘れさせてほしい。
俺の価値観を粉々に砕くような深い快楽が欲しい。
今までの行為を思い出して、脳がじんと甘く痺れるような感覚があった。
スマホを弄るような気分にもなれず、俺は斑目のベッドに横になり、布団に抱きつく。
深く息を吸う。何とも言えない香りがした。これが、斑目の匂い。
遠くで、ドライヤーの音が聞こえる。いつの間に斑目は風呂から上がっていたのだろう。
早く来てほしい。俺を抱いてほしい。
やがて、斑目はおっかなびっくりという様子で静かに扉を開けた。
目が合うと、斑目は肩を大きく震わせ、恐る恐る部屋に入ってくる。
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