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8話「もったいない」
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何度目かの「給料日」のことだった。
いつものように斑目に家に入れられ、斑目が課題をする横で俺はスマホを見ながら寛いでいた。
この頃になれば、斑目は初対面の時ほど俺に遠慮しなくなった。
期末試験は無事終わり、もう少しで夏休みがやってくる。
斑目は真剣な表情でプリントと向き合っている。
ちなみにだが、斑目が今やっているのは本来なら夏休みに配られるはずの課題だったらしい。
仕事で忙しいからと学校が特別に斑目には早めにプリントを渡してくれたようだ。学校関係者にファンがいるとしか思えない。実に羨ましい待遇だ。
「緑さん、ここの答え何だと思います?」
斑目がプリントを渡してきた。
「何?……えーっと、たぶんこれ過去完了の文でしょ。
和訳を見るに受け身の文章だから、この空欄にはbe動詞の……おいこら待て」
俺は斑目にプリントを突き返した。
「お前俺のいっこ上だろ。宿題押し付けてくんなよ」
「だってぇ、僕勉強苦手なんですよ」
「知るか。というか、せめて自分で解きなよ」
斑目は再びプリントと睨めっこを始めた。腕を組み、シャーペンを弄び、終いには頭を掻き始めた。
「あー……わっかんねぇ……」
仕方ないな、もう。
「貸して」
斑目の前に座り、机の上に置かれた何枚ものプリントに目を通す。斑目が期待の眼差しで俺を見た。
「ヒントは出してあげるよ。間違ってても文句言わないでよ」
「やったあ! ありがとうございます!」
だから、俺相手にそんな嬉しそうな顔すんなっての。
俺は斑目に勉強を教えてやった。
と言ってもまだ習っていないところもあるので、分かる箇所だけだ。
斑目は俺の解説にふんふんと頷き、素直な反応を示しながら問題を解いていく。
「じゃあ、ここの答えは……こうかな」
「うん。同じようにしたら、多分こっちの方も解けると思う」
斑目が宿題に取り組んでいる間、俺は斑目の顔を観察していた。
元々整っている顔立ちをしているが、こうしてまじまじと観察すると、やはり滅多にいないくらいの美人だ(男に掛ける言葉として正しいのか分からないが)。
長い睫毛に高い鼻、綺麗な輪郭、大人びて艶のある声。
これで誰ともと付き合ったことがないって言うんだから、もったいない。
どうして女が苦手なのか聞いてみたことがあった。斑目はこう言った。
「女の子の考えることは良く分からないから、そんなつもりがなくても傷つけてしまいそうで怖い」って。
肉体的にも精神的にも、人間はそう柔じゃないと俺は思うんだけど、斑目はどうしても怖いらしい。
女性を前にすると萎縮してしまい、上手く喋ることができなくなるようだった。
せっかくの恵まれた容姿を持っているのにモデル業界でいまいちパッとしないのも、こうした自信のなさのせいかもしれない。
つくづくもったいない。お前が望むなら、俺はすぐにでもお前を男にしてやれるのに。
いつものように斑目に家に入れられ、斑目が課題をする横で俺はスマホを見ながら寛いでいた。
この頃になれば、斑目は初対面の時ほど俺に遠慮しなくなった。
期末試験は無事終わり、もう少しで夏休みがやってくる。
斑目は真剣な表情でプリントと向き合っている。
ちなみにだが、斑目が今やっているのは本来なら夏休みに配られるはずの課題だったらしい。
仕事で忙しいからと学校が特別に斑目には早めにプリントを渡してくれたようだ。学校関係者にファンがいるとしか思えない。実に羨ましい待遇だ。
「緑さん、ここの答え何だと思います?」
斑目がプリントを渡してきた。
「何?……えーっと、たぶんこれ過去完了の文でしょ。
和訳を見るに受け身の文章だから、この空欄にはbe動詞の……おいこら待て」
俺は斑目にプリントを突き返した。
「お前俺のいっこ上だろ。宿題押し付けてくんなよ」
「だってぇ、僕勉強苦手なんですよ」
「知るか。というか、せめて自分で解きなよ」
斑目は再びプリントと睨めっこを始めた。腕を組み、シャーペンを弄び、終いには頭を掻き始めた。
「あー……わっかんねぇ……」
仕方ないな、もう。
「貸して」
斑目の前に座り、机の上に置かれた何枚ものプリントに目を通す。斑目が期待の眼差しで俺を見た。
「ヒントは出してあげるよ。間違ってても文句言わないでよ」
「やったあ! ありがとうございます!」
だから、俺相手にそんな嬉しそうな顔すんなっての。
俺は斑目に勉強を教えてやった。
と言ってもまだ習っていないところもあるので、分かる箇所だけだ。
斑目は俺の解説にふんふんと頷き、素直な反応を示しながら問題を解いていく。
「じゃあ、ここの答えは……こうかな」
「うん。同じようにしたら、多分こっちの方も解けると思う」
斑目が宿題に取り組んでいる間、俺は斑目の顔を観察していた。
元々整っている顔立ちをしているが、こうしてまじまじと観察すると、やはり滅多にいないくらいの美人だ(男に掛ける言葉として正しいのか分からないが)。
長い睫毛に高い鼻、綺麗な輪郭、大人びて艶のある声。
これで誰ともと付き合ったことがないって言うんだから、もったいない。
どうして女が苦手なのか聞いてみたことがあった。斑目はこう言った。
「女の子の考えることは良く分からないから、そんなつもりがなくても傷つけてしまいそうで怖い」って。
肉体的にも精神的にも、人間はそう柔じゃないと俺は思うんだけど、斑目はどうしても怖いらしい。
女性を前にすると萎縮してしまい、上手く喋ることができなくなるようだった。
せっかくの恵まれた容姿を持っているのにモデル業界でいまいちパッとしないのも、こうした自信のなさのせいかもしれない。
つくづくもったいない。お前が望むなら、俺はすぐにでもお前を男にしてやれるのに。
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