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7話「お前をオトす作戦、失敗」

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 その日以来、斑目は「給料日」に俺を部屋に入れるようになった。

 料理を作り過ぎたから、と言う日もあれば(その際は丁重に断り帰るようにしたが)、特に理由がない日もあった。

 斑目は変な奴だ。平気で俺を家に上げるくせに、俺が誘うと拒絶する。

 拒絶するくらいなら家に上げるな、と愚痴をこぼすと、斑目は

「外では会えないんだから、そうでもしないと仲良くなれないじゃないですか」

 とのたまった。

 どうやらこいつは、マジのマジで俺と仲良くなるつもりらしい。それも、友達という関係で。

 俺は斑目と友達になるつもりも馴れ合う気もないが、こいつの体には興味があった。

 それにこうも拒絶されると逆に何としてでもヤリたくなってくる。

 逃げる者を追いたくなるのは、動物としての本能か、もしくは男としての意地なのか。両方かもしれない。

 俺は、俺なりの方法でこいつとの距離を縮めるのを試みた。

 作戦その1。さりげないスキンシップ。

 斑目と喋りながら肩に触ったり髪に触れたりしてみる。「ゴミが付いてましたか?」と聞かれた。付いてねーよ。

 作戦その2。さりげないアピール。

 服を脱ぐ素振りを見せたり、服の襟を引っ張って鎖骨を晒してみたり。「暑いですか?」と斑目はエアコンの温度を下げた。暑くねーよ。

 作戦その3。好意を伝えてみる。
 何かある度に「好きだよ」と言ってみたり、斑目を褒めてみたり。斑目は顔を赤くさせて照れていた。割と良い反応だが、俺の求めていたものではない。

 俺はこいつが理性を手放し、獣のように俺を貪る姿を見たかった。

 しかし斑目は一向に俺に手を出そうとしない。

 ムカつく。まるで俺に魅力がないみたいじゃないか。

 というわけで作戦その4。拗ねてみる。

「斑目、俺ってそんなに魅力ない?」

 しょんぼりとしてみせると、斑目は慌て出した。

「緑さんはとても魅力的な人ですよ」

「じゃあ、何で手を出してこないんだよ」

「それは……緑さんは素敵な人ですけど、そういう目ではまだ見られないって言うか……。

 とにかく、ごめんなさい!」

 告白して振られたみたいな雰囲気になってしまった。

 何故か一瞬、ありもしない青春の1ページが蘇える。

 高いところにある荷物を代わりに取ってくれたり、日直の黒板消しを手伝ってくれたり、地味で冴えない俺にも分け隔てなく接してくれたり、俺はお前のそういうところが好きだったような気がした。

 無論、そんな事実はないのだけど。

 作戦その5。押して駄目なら引いてみろ。

 俺は斑目を誘うことをやめてみた。作戦が成功して、痺れを切らした斑目に襲いかかられ……なんてことはもちろんなく、斑目の態度は相変わらずだった。

 困ったことに、俺は斑目の部屋で何もせずにくつろぐことがさほど苦痛ではなくなり始めていた。

 斑目は俺に何も聞いてこない。

 どうして俺が赤槻を嫌っているのか、過去に赤槻と何があったのか、気になることはあるだろうに、全く尋ねてこない。

 それどころか赤槻の話題すら出そうとしなかった。

 その代わりに、自分のことを良く話した。

 ひとりっ子なこと。昔から背が高く、周りにからかわれてばかりいたこと。

 モデルになってから一人暮らしを始めたこと。

 料理は好きだけど、得意ではないこと。

 アクセサリーが好きでピアスを沢山空けたいけど、事務所の方針もあり軟骨のピアスはまだ空けていないこと。

 「普通」。独特な食の嗜好と日本人にしては類稀な長身を除いて、斑目は割と普通な男だった。

 若者に人気のロックバンドを好んで聞き、学校の課題に頭を悩ませ、夏休みになったら友達とどこに遊びに行くかを楽しげに語る、普通の男子高校生だ。

 洒脱な服で身を包み、大人びた表情でカメラに目線を送る雑誌の中のカイトではない。

 等身大の斑目灰人が俺の目の前にいた。

 間違いなく、斑目は本来なら俺のような奴とは関わることのない、まともな人間だった。

 決して俺は斑目と友人関係を築くつもりはない。

 だけど気がつけば俺は、必要以上に俺の事情に踏み込んでこないこいつの距離感に、ふたりきりの空間に、俺は居心地の良さを感じるようになっていた。

 まるで、柔らかなクッションにすっぽりとはまって抜け出せなくなるみたいに。そこに俺専用の居場所があらかじめ用意されていたみたいに。

 斑目は俺に友人のように接し、俺もそれを受け入れている。
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