愛なんてなければいいのに

プロローグ

そしてロボットは出逢う

　イアクはふらふらで街を歩いていた。

「あぶねぇだろ！」

　クラクションと共に怒号が聞こえる。
　よろよろと車道を歩ているとまたしても後ろから車が来る。
　白色のスポーツカーだ。
　その車はイアクの存在に気付いたのか、スピード落としながら横を通り過ぎようとする。
　その時だった。彼女はふらっと車の方によろけてしまった。
　車は急減速したが間に合わない。
　とても人とぶつかったとは思えないような音がした。
　運転手は飛び降りて確認する。
　そこにイアクの姿はなかった。
　運転手は何事もなかったかの様に歩いているイアクの姿を見つける。
　彼は驚いた様子で駆け寄る。

「大丈夫か、救急車は呼ぶ？」

　運転手はとりあえず警察に電話をしようと携帯を取り出した。
　しかし、イアクはその手を力強く握る。

「どこに連絡するの？」

　運転手は呆気に取られた顔をしている。

「事故があったら警察に連絡するだろう？」

　イアクはなんの事か分からないという表情である。

「なぜ警察に連絡するの？」

　彼女の真剣な表情とは似つかない常識外れの質問に運転手は驚く。

「人にぶつかったら警察に連絡するのは当たり前だろう」

「分からない……」

　この運転手は普通ではないこの女の子に疑問を抱いた。

「名前は？」

「イアクシリーズ個体番号一番、個体名イアクです」

　彼の顔が引き攣った。ふざけていると思っているようだ。
　しかし、イアクの真剣な表情――嘘など付いていないであろう――に話を聞くことにしたようだ。

「なあ、とりあえず車に乗って話でもしよう」

「あなたは研究所の人？」

　運転手は訳が分からない上にさらに意味の分からない質問をされ困っている。
　しかし、質問としてはごく簡単なものである。
　彼はありのままを伝える。

「ち、違うけど……」

　イアクはそれを聞くと安心したような表情になる。

「分かりました。乗せて下さい」

　二人は車に乗り込む。

「俺は智さとしだ。さっきの会話からすると君は研究所から逃げてきたの？」

　智は先の理解に苦しむ会話を苦しんで理解したようだった。


「そうです。私は失敗品で、処分されることになっていて、でも怖くて逃げだしました」

　智は見るに堪えない顔になっていた。

「許せないな。人を失敗品として扱って処分するなんて」

「私は人じゃないです」

　智はわけわからないという顔になっていく。

「じゃあ何なの？」

「私は人型AIロボットで潜入や暗殺、戦闘のために開発されました。」

　智は信じられないという顔をしている。
　無理もない。そんなことを信じられる人間などいない。