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マフラー
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『マフラー』
「行ってきまーす」
誰もいない部屋に叫びつつ家を出る。
階段を降りていくと美味しい匂いが強くなる。私のお家はパン屋さん。毎朝この美味しいパンの匂いに見送られて学校へ向かう。
「おはよう。相変わらずいい匂い」
お店の正面まで来たところで背中から声が聞こえた。
「依ちゃんおはよう」
背の高い彼女を見上げ力一杯挨拶する。
「おはよう咲ちゃん」
爽やかな笑顔と声が返ってくる。
二件お隣で幼馴染の依子ちゃんは、綺麗で背の高い自慢の幼馴染だ。
「あー今日ミニテストあるよねぇ、やだな~」
「そうだねー数学の先生、怖いし」
答えながら、ぼんやりと困った顔の依ちゃんの横顔に見惚れる。
かわいい。
そう、私は、小さい頃からずっと依ちゃんのことが好きだった。はじめはとっても仲のいいお友達。幼稚園から小中高とずっと一緒で今でも一緒にいる。
「ん?どうかした?」
私があまりにも見つめ続けていたので依ちゃんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「あ、いやほら、依ちゃんがあんまりかわいくって」
「もー咲ちゃんてばいつもそーなんだから。おだててもなんもでないよー」
「だって本当だもん、依ちゃんはほんとかわいい」
「ありがとう」
言ってふふふ、と笑う依ちゃん。そんな依ちゃんを眺めながらしみじみと想う。私は依ちゃんが”好き”だ。
そう、特別な意味の『好き』
「あ、危ない」
「?」
ぐいっと依ちゃんが私を引き寄せた直後、真横を車がすごいスピードで走っていった。
「もー狭い道なんだからもう少しゆっくり走ればいいのに」
走りすぎる車へ怒る。
私の目の前には依ちゃんの胸元がドアップになっている。
心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。依ちゃんの胸、やわらかい。
「あ!ごめん」
慌てた様子で依ちゃんが私を元の位置にもどす。ああ惜しい、もう少しくっついていたかったのに。
「ありがとう!危ない車だねぇ」
平静を装って返す。
「あ、そういえば咲ちゃん今日部活寄ってく?」
「うん。依ちゃんも進めるでしょ?」
「出るよーもう秋だしね、出来る前に本番になっちゃう」
「そうだよねーもう結構寒い」
「うんうん。だんだんお布団恋しい季節だよね」
「んー起きるの辛い」
「ふふっそれは毎日じゃない?」
「あ!ひどい!でも確かにそうかも」
何とはない話で二人で笑いあって。こんな毎日が続けばいいのにな。ずっとこのまま。
<<放課後>>
「あーもう!なんでこんな難しいのにしちゃったかなっ!」
目の前のウサギもどきを放り出し叫ぶ。
静かな部室に私の声が響く。手芸部の部室。
部室とは言っているけど、部員の少ない手芸部に与えられたのは家庭科室の物置だけで、物置に机を二つ置いて、イスは各自が家庭科室から持ってくるというかなり簡易的なもの。
「だから咲ちゃんも編み物にすればよかったのに」
手慣れた手つきで編み棒を動かしながら依ちゃんが言う。
部室には二人だけ。部活動は基本自由参加で、私たちのように部室で作品作りをする者もいれば家でコツコツ仕上げちゃう子もいる。皆で会うのは文化祭前位なのでもう少しして準備が始まる頃までこうやって二人きりの事が多い。
「だって、このウサギがかわいかったんだもん」
ぬいぐるみセットの説明書をぴらぴらさせて、私はふくれる。
手芸屋さんで目に留まって、あまりのかわいさに作りたいと思ったものの、説明書が言うほど簡単には出来上がるしろものではなかった。
「でもそれじゃあ、文化祭の展示に間に合わないでしょ?」
「うーん、そうなんだけどさぁ」
手を止めることなくそう言う依ちゃんの編んでいるものと、ウサギもどきを見比べながら私はぶうたれる。
「依ちゃんはもう出来てるんだもんね」
「うん!帽子と手袋は完成したからそれでいいかなーって」
「そのマフラー、プレゼント、なんだよね?」
机に突っ伏したまま聞く。
「そうだよ~」
「誰にあげるの?」
少し低いトーンになってしまった。変に思われてないかな?
「えーとね………好きな、人」
少し間が開いてそう返って来た。
「好きな、そっそっかあ好きなえっとどんな人?」
思いの外しどろもどろになってしまった。しかも、誰って聞けばいいのに、つい確信を聞いてしまうのが怖くなってどんな人、とかなんか変な聞き方になっちゃった。
「えぇっとそうだな、可愛くて、なんだか守ってあげたくなるって感じかな」
そう言う依ちゃんの顔はとても優しい笑顔だ。
(えっちょっとまって可愛い?守りたくなる??えー?同じクラスの男子で可愛い系ってなると松島君?可愛いけど、守りたいタイプ?え?)
「そうなんだぁ!へ、へぇ」
あ動揺しすぎて変な声出た。
「うん。とっても大切な人」
依ちゃんの顔がほころぶ。なんだか胸がざわつく。
「そっか」
「と、いうわけで楽しみにしててね?」
「?ん?え??」
にこっと笑う依ちゃんが、ごそごそともう一枚のマフラーを取り出す。
「すごく良い柄で出来たからもう一枚作ろうと思って。私と咲ちゃんでお揃い」
編んでいるのと同じ柄で色違いのマフラーをひらひらと揺らす。
「え?私、に??」
びっくりしすぎて頭が働かない。え?何?好きな人って、私?
「あ、色嫌だった?柄?」
私の微妙な反応に依ちゃんが心配そうな顔をする。
「え、あ、違う違う!むしろすごい嬉しくて」
「そっか、よかったあ」
嬉しそうな依ちゃんを眺めながら私の心臓はバクバクしていた。依ちゃんの言う『好きな、大切な人』と、私の気持ちのそれとは多分違うんだろうな。
「好きな人っていうからなんかビックリしちゃって」
「そう?だって私にとって咲ちゃんはとっても大切な人だからね」
当たり前というように返ってきたその言葉に私は居心地の悪さを感じる。私にとっても依ちゃんは大切な人。とっても。特別な人。
依ちゃんも同じように思ってくれていたら嬉しいのにな、なんて。
私の片思いは、終わる日が来るのだろうか………
つづく
「行ってきまーす」
誰もいない部屋に叫びつつ家を出る。
階段を降りていくと美味しい匂いが強くなる。私のお家はパン屋さん。毎朝この美味しいパンの匂いに見送られて学校へ向かう。
「おはよう。相変わらずいい匂い」
お店の正面まで来たところで背中から声が聞こえた。
「依ちゃんおはよう」
背の高い彼女を見上げ力一杯挨拶する。
「おはよう咲ちゃん」
爽やかな笑顔と声が返ってくる。
二件お隣で幼馴染の依子ちゃんは、綺麗で背の高い自慢の幼馴染だ。
「あー今日ミニテストあるよねぇ、やだな~」
「そうだねー数学の先生、怖いし」
答えながら、ぼんやりと困った顔の依ちゃんの横顔に見惚れる。
かわいい。
そう、私は、小さい頃からずっと依ちゃんのことが好きだった。はじめはとっても仲のいいお友達。幼稚園から小中高とずっと一緒で今でも一緒にいる。
「ん?どうかした?」
私があまりにも見つめ続けていたので依ちゃんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「あ、いやほら、依ちゃんがあんまりかわいくって」
「もー咲ちゃんてばいつもそーなんだから。おだててもなんもでないよー」
「だって本当だもん、依ちゃんはほんとかわいい」
「ありがとう」
言ってふふふ、と笑う依ちゃん。そんな依ちゃんを眺めながらしみじみと想う。私は依ちゃんが”好き”だ。
そう、特別な意味の『好き』
「あ、危ない」
「?」
ぐいっと依ちゃんが私を引き寄せた直後、真横を車がすごいスピードで走っていった。
「もー狭い道なんだからもう少しゆっくり走ればいいのに」
走りすぎる車へ怒る。
私の目の前には依ちゃんの胸元がドアップになっている。
心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。依ちゃんの胸、やわらかい。
「あ!ごめん」
慌てた様子で依ちゃんが私を元の位置にもどす。ああ惜しい、もう少しくっついていたかったのに。
「ありがとう!危ない車だねぇ」
平静を装って返す。
「あ、そういえば咲ちゃん今日部活寄ってく?」
「うん。依ちゃんも進めるでしょ?」
「出るよーもう秋だしね、出来る前に本番になっちゃう」
「そうだよねーもう結構寒い」
「うんうん。だんだんお布団恋しい季節だよね」
「んー起きるの辛い」
「ふふっそれは毎日じゃない?」
「あ!ひどい!でも確かにそうかも」
何とはない話で二人で笑いあって。こんな毎日が続けばいいのにな。ずっとこのまま。
<<放課後>>
「あーもう!なんでこんな難しいのにしちゃったかなっ!」
目の前のウサギもどきを放り出し叫ぶ。
静かな部室に私の声が響く。手芸部の部室。
部室とは言っているけど、部員の少ない手芸部に与えられたのは家庭科室の物置だけで、物置に机を二つ置いて、イスは各自が家庭科室から持ってくるというかなり簡易的なもの。
「だから咲ちゃんも編み物にすればよかったのに」
手慣れた手つきで編み棒を動かしながら依ちゃんが言う。
部室には二人だけ。部活動は基本自由参加で、私たちのように部室で作品作りをする者もいれば家でコツコツ仕上げちゃう子もいる。皆で会うのは文化祭前位なのでもう少しして準備が始まる頃までこうやって二人きりの事が多い。
「だって、このウサギがかわいかったんだもん」
ぬいぐるみセットの説明書をぴらぴらさせて、私はふくれる。
手芸屋さんで目に留まって、あまりのかわいさに作りたいと思ったものの、説明書が言うほど簡単には出来上がるしろものではなかった。
「でもそれじゃあ、文化祭の展示に間に合わないでしょ?」
「うーん、そうなんだけどさぁ」
手を止めることなくそう言う依ちゃんの編んでいるものと、ウサギもどきを見比べながら私はぶうたれる。
「依ちゃんはもう出来てるんだもんね」
「うん!帽子と手袋は完成したからそれでいいかなーって」
「そのマフラー、プレゼント、なんだよね?」
机に突っ伏したまま聞く。
「そうだよ~」
「誰にあげるの?」
少し低いトーンになってしまった。変に思われてないかな?
「えーとね………好きな、人」
少し間が開いてそう返って来た。
「好きな、そっそっかあ好きなえっとどんな人?」
思いの外しどろもどろになってしまった。しかも、誰って聞けばいいのに、つい確信を聞いてしまうのが怖くなってどんな人、とかなんか変な聞き方になっちゃった。
「えぇっとそうだな、可愛くて、なんだか守ってあげたくなるって感じかな」
そう言う依ちゃんの顔はとても優しい笑顔だ。
(えっちょっとまって可愛い?守りたくなる??えー?同じクラスの男子で可愛い系ってなると松島君?可愛いけど、守りたいタイプ?え?)
「そうなんだぁ!へ、へぇ」
あ動揺しすぎて変な声出た。
「うん。とっても大切な人」
依ちゃんの顔がほころぶ。なんだか胸がざわつく。
「そっか」
「と、いうわけで楽しみにしててね?」
「?ん?え??」
にこっと笑う依ちゃんが、ごそごそともう一枚のマフラーを取り出す。
「すごく良い柄で出来たからもう一枚作ろうと思って。私と咲ちゃんでお揃い」
編んでいるのと同じ柄で色違いのマフラーをひらひらと揺らす。
「え?私、に??」
びっくりしすぎて頭が働かない。え?何?好きな人って、私?
「あ、色嫌だった?柄?」
私の微妙な反応に依ちゃんが心配そうな顔をする。
「え、あ、違う違う!むしろすごい嬉しくて」
「そっか、よかったあ」
嬉しそうな依ちゃんを眺めながら私の心臓はバクバクしていた。依ちゃんの言う『好きな、大切な人』と、私の気持ちのそれとは多分違うんだろうな。
「好きな人っていうからなんかビックリしちゃって」
「そう?だって私にとって咲ちゃんはとっても大切な人だからね」
当たり前というように返ってきたその言葉に私は居心地の悪さを感じる。私にとっても依ちゃんは大切な人。とっても。特別な人。
依ちゃんも同じように思ってくれていたら嬉しいのにな、なんて。
私の片思いは、終わる日が来るのだろうか………
つづく
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