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第三章 偽りの神子と幼馴染み

7 戦闘

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    「おい、シルス! シルス!」

「だ、大丈夫。ライザック達も無事?」

「あぁ、無事だ。脱出するぞ。」

「はい。」

 檻を力任せにライザックがねじ曲げ、その隙間からみんな脱出をする。横転した馬車の影に隠れて矢を交わしながら、バシタが御者の兵隊さんから装備品を返してもらっていると言うか、勝手に持ち出している。その間にティコが魔法でライザックに刺さった数本の矢を抜いて傷の手当てをした。

「護送兵の1人は馬車に足を挟まれて動けねぇ。もう1人は投げ出されて肩負傷。あと1人は矢が刺さってダメだ。無事帰れたら俺達の働きをきっちり報告してもらうことで、言質とったぜ。」

「上等だ。シルスは護送兵を守れ。大事な生き証人だ。無口な兄さんも協力してもらうぜ。来るぞ!」

 バシタがそれぞれに装備を渡し、ライザックが指示を出しながら態勢を整える頃には、俺達を襲った奴らが現れ、すっかり囲まれてしまっていた。
 俺はナイフを渡され、怪我をして苦しそうな兵隊さん達と一緒にいる。

 やっぱりガダルフではなかったんだ。
 だとするとガダルフはどうしたんだろうか?
 あの人達に捕まってひどい目に遭ってなければいいけれど。

 盗賊?達が仕掛けてきて、ライザック達が応戦を始めた。気合いを入れる怒声やものがぶつかり合う激しい音が響く。

「うぅ。」

 俺の近くの兵隊さんの呻き声で、俺の意識も目の前のことに集中し始める。

 俺ができること…。この身体になってから、魔法も体術も使ってないから、何ができるか分からない。でも、目の前の兵隊さん達を助けられるなら助けたい。

 まずは、肩の人。
 ラグビー部に所属していたときに、脱臼をした仲間のの肩を蒼士と一緒に治したことがある。と、言っても本当はやっちゃダメって、コーチに怒られたんだけど、みんな医者に行くの面倒がって、すぐ俺達に頼んできたんだよな。
 この人も、肩の間接部だ。骨は折れてない。皮膚の色も体温も悪くない。痛そうだけど意識もしっかりしている。これなら、脱臼だと思う。多分…。

「違ったらごめんね。」

 俺は謝ってから、脱臼の整復をしてみる。
 関節がうまくはまったようで、表情が和らいだ。良かった。あとは、矢の傷。太ももに刺さった矢を抜き、止血。
 治癒魔法。お願い使えて…。
 ………。う、き、気持ち悪い、身体のなかでなにかが反発している。やっぱり元の身体じゃなきゃ、魔法は使えないのか。

 俺は魔法を諦めて、圧迫止血をする。
 応急手当て。よく蒼士が教えてくれた。蒼士はなんと言ってた? 思い出せ。冷静に。
 矢の傷がひどいのは二人。出血がひどく、1人は意識がない。この人は、二の腕に矢が貫通して刺さっている。素人の俺が下手に矢を抜いたら、さらに出血が進みそうだ。なにかで固定して、医者に見せた方が良いだろう。
 固定できる物は? 辺りを見ると、俺のすぐそばにクモっちがいた。小さな小さなクモっち。普段どこにいるかも意識してなかったのに。

「クモっち、俺のこと分かるの? ついてきてくれたんだね。ありがとう。」

 例えクモもどきでも、知り合いが側にいてくれるのって、こんなに感動なんだな。蜘蛛は苦手なんだけど、なんだか可愛さ倍増だよ。

 あ、そうだ。

「ね、クモっち。この人の腕、クモっちの糸で固定できないかな?」
 
 クモっちは、ちょっと固まっていたけれど、俺のことばをちゃんと理解して、糸を出して患部を固定してくれた。糸は緻密でしっかりと固定されて、止血テープの役目もしてくれそうなほどだ。

「じょうず。ありがとうね。」

 俺は整復した肩の固定から、三人の止血手当てまで。クモっちにお願いして糸を活用させてもらった。

 その間も戦いは続いている。
 ライザックは両サイドに鋭い刃がついているバトルアックスのような大きな斧を軽々と操り、盗賊を馬ごと切りつけ、落としている。

 ティコは、ライザックの落とした盗賊にとどめ?をさしたり、ライザックの後方の支援をしたりしている。良いコンビだな。この二人はもともと一緒に仕事をしているのかもしれない。

 無口なお兄さんは、フード付きのマントに頭をすっぽりと被せているので、顔がよく分からないけれど、俺の身長くらいあるんじゃないかと思うような大剣を器用に操り、向かってくる盗賊を凪払っている。

 ライザックとこのお兄さんが派手に敵を撃破し、バシタとデルストが俺と言うか兵隊さんを守っていて、ティコがサポートしている。凄い。打ち合わせしてないのに、連携しながら戦っているよ。
 盗賊の奴らよりも明らかに実力が上だ。まもなくこっちの勝利で戦いが終わるだろう。



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