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第二章 宝玉とわがままな神子

11 近況報告

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「ツ、ツアーイル。」
「ちげーわ。カイリー。」
ってー。手加減っ。」
 俺は、相変わらずアースの共通語を習いつつ、間違えると叩かれると言うペナルティー付きだ。
 ツヴァイルだって、俺の名前言えてないじゃーん。と文句を言っても、みんな、はははと笑ってスルー。なぜだ!?
 
 そして、俺はなんとラクダもどきのケーモルに、一人で乗れるようになったのだ!。レクソンさんとデクトさんに優君みたいに一人で乗りたいってお願いしたら、ちょっと嫌な顔されちゃったけどね。そりゃそうだよね、みんな観光じゃないんだ、忙しいんだよ。
 でも、二人が丁寧に教えてくれてさ。実際乗るときは、ツヴァイルやアッシュもフォローしてくれて。今では立派なケーモルライダーとなったのだ。走ることもできちゃうんだ!。

 はっ、ちょっと脱線してしまったけれど、俺達の近況報告をしようと思っていたんだった。(誰に?)
 
 結局、黒豹ことユージーンさん達は優君のため、俺たちは銀様のため、同じ砂の宮を目指して、一緒に旅をすることにした。
 ユージーンさんもやっぱり番候補者で、なんと優君はユージーンさんに望まれて召喚された神子だったんだって。でも、優君がこちらの世界に来たときに出会ってしまったのはテドールで…。なんとか優君を奪還したものの、ひょっこり悪名高い災厄の神子がオアシス周辺をうろうろしていて、俺をテドールのスパイだと疑っていたらしい。だから。あんなにピリピリしていたんだね。

 でもさ、俺は思うんだ。いくら番が欲しいからって、召喚するってどうなんだろう?。優君は少し前にご両親を亡くされ、突然の天涯孤独な事態に途方にくれていたから、召喚されても、結果好きになったユージーンさんと一緒に居たいと言っていたよ。あ、もしかして、そう言う身の上の人が喚ばれるの、かな?。
 俺は、母さんの離婚騒ぎに巻き込まれて来た、イレギュラーな神子な訳だし。うーむ…。

 はっ。そんなことよりも、いまはあの騒動の話だった。

 俺が、「宙づりテドール」をライアンさんに渡したあと、ライアンさんがテドールを人質に、あの騒動を治めたんだ。
 ライアンさんは、普段物静かなお兄さんなんだけれど、実はこの盗賊団の副団長で、攻撃魔法も扱うすごい人だ。
 あの騒動のなか、機転?を利かせて、撤退をしないと災厄の神子の呪いが降りかかるだろう、と、脅したことが功を奏したらしく、テドール軍は自分の国に引き返していったんだって。
 タイミング良く、俺の特大念話で倒れる人が続出したしな。あれ、幸い日本語で、皆には意味不明なことばの羅列に聞こえていたらしいから、効果抜群だったみたい。
    災厄の神子にまた一つ箔がついてしまった…。気にしないけどね。うん。

 なにはともあれ銀様達と合流して4日。あと2日で砂の宮に到着する予定だ。
 俺達の旅は順調だった。魔物が出てもパパっと倒してしまう銀様達は、さすがだと思う。俺のことば講座も順調で、日常会話はほぼ困らなくなりつつある。

 ただ、問題が2つ。
 いや、1つは些末な問題なんだ。
 俺が共通語を習いたいから、体液交換キス禁止のお願いをしたから、銀様が不機嫌…。いやいや、そもそもキスする必要がないからねっ。

 そんなことは置いといて、もう一つが最大の問題だ。
 それは、優君だった。

「海里さん、今日の夕食はデクトさんが捕った砂漠ネズミ肉でシチューを作るって聞きましたよ。僕にも手伝わせてください。」

「お、よく知っているね。ネズミって言うから驚いたけれど、なんかウサギっぽいらしいよ。」

「へぇー。名前とイメージがなかなか一致しませんよね。僕、またじゃが芋の皮剥きに挑戦したいです。」

 優君がキラキラと目を輝かして、嬉しそうに話す。可愛いなぁ、弟がいたらこんな感じだよなぁと思う。
 問題はそのうしろの人物だ。

 俺はいつの日か視線で殺されるのではないかと思えるほどの、鋭い眼差しをユージーンさんが向けてくる。まぁ、そんなことは絶対ないと信じているけれど、怖いものは怖い。で、俺が怖がると銀様がユージーンさんに吠えるし、銀様は優君が俺に近づくのもあまりいい顔をしないから、余計に困ってしまう。

 優君は目覚めてから、ユージーンさんと一緒にいることを避けていた。他の盗賊さん達もユージーンさんが怖くて優君を腫れ物のように扱うから、優君も必然的に俺と一緒に行動したがるんだ。
 優君の、その理由が、まぁ、分かっちゃうから、俺から断ることは極力しないのだけれど、後ろからの視線に…俺はいつも斬られているよ、優君よ。





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