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第一章 災厄の神子と呪われた王子

10 仲間ができました。

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「なぁ、おまえさ、まだ俺のこと喰おうと思うかい?。縄張り荒らしたことが許せないかい?。」

 俺は、腹這いで寝ている野犬の背中を撫でながら話を続けた。
 目を閉じていた野犬が、目を開けてこちらに顔を向けてきた。

「俺さ、さっきも言ったけど、好きでここにいるわけじゃないんだ。俺だって帰りたいんだ。帰り道さえ分かれば、2度とここには来ないし、ここのことは誰にも言わない。」

 野犬はじっと、こちらを見ている。しっぽも振らない。

「もちろん、車が邪魔だっていうなら、車も退けるよ。でも、それには俺一人の力じゃ無理だから、誰かしら人を呼ぶことになるけれど。」


「俺がここを出るの許してくれる?。」
「グルルルルっ。」

 野犬が唸って俺を見る。だ、ダメなのか?

「車の処分を先にしろってことか?。」

 車を指しながら、腕をクロスしてバツマークを作ってみる。
 …寝たふりしてるし。

「もしかして、俺と一緒にいたい?。あのべろべろ攻撃は、ボディートークだったとか?って、ぶっ。」

 ボスンと、野犬は俺の頭の上に自分の頭部を乗せてくる。
 お、怒ってるのか?、喜んでいるのか?、どっちだ?。
 
「お、おまえね。重たいし、それ、失礼だからな。」

 両手を伸ばして、耳下辺りをもふもふしてやる。

「俺と一緒にいたいってことか?。」

 野犬は俺の頬をペロッと舐めた。
 お、喜んでるっぽいな?。

「おまえが、俺のこと食べたり怒ったりしないなら、脱出した後、週末にでも遊びに来るよ。」

 野犬は、フン~と鼻息をたてた。
 あれ?それはあんまり歓迎されないのか?。

「分かったよ、遊びには来ないから、脱出するまで一緒によろしく?」

 野犬は、フシューとさっきより長めの鼻息をたてた。
 なんだよ?、その諦めた感じの息づかいは。

 まぁ、そんなわけで若干意思のすれ違いはありそうだけれど、なんとか交渉できて、俺には野犬の仲間ができた。と、思う(汗)


 * * *


 俺は、どこかに落としてしまったキャップと銀様野犬の近くに落ちてたバックパックを回収してから、時間を確認した。

 と、言っても、キャップは銀様が見つけてくれたから、さほど時間のロスはない。
 他の装備も確認して、仕切り直すことにした。

 何より今度は、頼もしい? 銀様がいる。
 「銀様」とは、俺がつけたこの野犬の名前。

 名前を決める時、この素晴らしい毛並みとその態度から「銀様」一択と、俺が命名した。銀様は鼻息をフシューッと吐いて、諦めた感満載だったが…。

「では、いざ行かん!、南側探検へ!!。」
「ウォン。」

 俺が南の方角を指で示すと、銀様が俺の指を頭で押して西の方角へ向かわせようとする。

「なんだよ、銀様。西から探検したいのか?」
「グルル。」

 そう言えば、銀様は西の方角から現れたな。もしかしたら、そっちに人が住んでいるのかもしれない。

「じゃ、西に行こう!!。」

 再び気持ちを仕切り直して、西に向かうことにした。
 
 
 
 俺の後を銀様が進む。
 時折、方位磁針で方向を確認したり、時計で時間を確認したり、蔓や枯れ枝を目印になるようにナイフで加工したりする俺の姿を、銀様は静かに見つめている。

 巨木を出発したのは9時をだいぶ過ぎたころだった。12時まで下ってお昼を食べたら、また桜の巨木のところに戻る計画だ。
 
 俺たちの探検はとても順調だった。万が一クマに遭遇しても、銀様が何とかしてくれるんじゃないか。そんな安心感もあったんだ。





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