上 下
5 / 109
第一章 災厄の神子と呪われた王子

4 森を抜けるのが目標です。

しおりを挟む
「俺が車をこんな大木に乗せられるわけがない。って、警察だって分かってくれるよな。」

 そのためには、誠意=自首?、自己申告?、が大事だろう。
 とりあえず、通信できるところまで下山して、助けを呼んで、通報される前に警察に行こう。

「よし!、きまり!。」

 プランが決まったら実行だ!。
 どっちの方角に歩くのが良いか、木に登って確かめよう。
 携帯食を食べて空腹を満たすと、もう一回桜の巨木に登ることにした。

 車から垂らしてあるロープを掴むと、思いっきり引っ張ってみた。
 よし、車もガッチリ安定していて、木もびくともしない。俺が体重をかけて登っても、ぜんぜん大丈夫そうだ。


「よいしょっと。」

 俺はロープに腕を絡ませつつ、桜の木を足掛かりに車の中に戻ると、更に車の屋根に登り、立ち上がった。

「うっわ、絶望的~。」

 見えるのは木、木、木。こんな太くてでっかい桜の木なのに、周囲の木も高いから遠くが見通せない。

 こうなったら、ここを拠点に探っていくしかない。そもそも、こんな巨木の桜、俺はこの地域に住んでいて聞いたことがない。
 ここはいったいどこなんだろう?
 前人未到な深い山中なのか、実はどこかの神社の裏山なのか。

 遭難したときは、下手に動くな。助けを待て。

 よく雄吾に言われた言葉が頭をよぎる。

 俺は、いつもはめている腕時計に目を向けて考える。

 俺の腕時計は、実は、登山者向けの超高級GPS機能付きなのだ。
 二十歳の誕生日に雄吾と蒼士が、絶対持っておけと、プレゼントしてくれたんだ。こんな高級品貰えないと断ろうとしたけど、全て却下され、悪いと思うなら肌身離さず持っておけと言われたんだよな。

 こいつがあれば、実は移動しないでこのまま救助を待っていた方が、遭難リスクが低く救出されやすいのではないだろうか?。 

 スマホが通信エラーで使えなくとも、こいつさえあれば、衛星から場所を特定してもらえるのではないだろうか?。

 雄吾だって、絶対俺を探してくれている。
 
 あぁ、どうしよう。俺、月曜日にこども園に出勤できるだろうか。不意に可愛い子ども達の顔や、同僚の先生達、ついでに母さん、主任、運動会のスケジュールが頭の中をよぎる。

「だめだめ、休めんて。一刻も早く脱出して自首できるように頑張ろう!。」

 俺は待機案を振り払い、車のドアに鍵をかけると、再び下に降りた。
 今度はグローブ着けてたもんね!。

 山中を歩くにはトレランの服やシューズは絶好のアイテムだ。俺は服とシューズを着替え、キャップを被り、ショートグローブを着け、方位磁針とメモ帳を取り出した。

 食料と水よーし。スマホとライトと充電器よーし。ナイフよーし。
 それらをバックパックにつめて担ぐと、とりあえず南から歩くことにした。
 
 頼みの超高級GPSウォッチは、起動してスマホと連動させてみたけど、エラーの文字。ここは妨害電波でもでているのか?。
 俺の知識の中では、連続するエラーの文字に、機能を回復させるスキルはない。

 ただの腕時計と化して、俺の腕に装着している…。
 
 だがしかし、実は俺は、方位磁針も持っているのだ!。無いよりは全然心強いし、方角を確認しながら進めば、ここにも戻ってこられるだろう。

 持ってて良かったアナロググッズ。

 気を取り直して、いざ進まん!。西宮こども園の子ども達のために!。

 気合いを入れて木々の間を進もうとしたとき。俺の目の前をよぎる影が走った。




しおりを挟む

処理中です...