上 下
1 / 11

A ランチの時間です

しおりを挟む
「A伯爵令嬢!この度のアーディアへのいじめ、論外である!
私は、お前とは婚姻を結ばない!
破棄だっ!」


昼食時の混雑する食堂。
学園生活でお楽しみの時間に轟く大きな声に、一同はギョッとした。

テラスの一角で友達と食事していたA伯爵令嬢は、テーブルを挟んでふんぞり返って立つ、エー侯爵子息を見遣った。

「なりませんわね。」

緑の瞳は、しっかと向かい側の婚約者と対峙した。

「私が決めたのだ!
お前の様な腹黒いアバズレ!
アーディアは泣いてすがって来たぞ。
聞けば、お前にのけ者にされたり、悪口を目の前で言われたり!
淑女にあるまじき根性の悪さだな!
そのような品格の無い女を妻になどできん!」


(おい。エーは、宰相の)
(ああ。
 切れ物で、生徒会でも殿下の懐刀ふところがたなと信頼の厚い人物だよな。…利発なA嬢とは良縁だと思っていたが)

(平民の娘とねんごろだと言う噂ですわ。ふしだらな女よね)


こんな人目の多い所での修羅場である。回りは固唾を飲んで、成り行きを見守った。

A嬢は、勝気な表情を崩さない。

「わたくしの品格は兎も角。貴方の品性はどこにあるのでしょうね。
 少なくともわたくしは、婚約者のある身で殿方と親しげに身体に触ったり、2人きりで過ごしたりはしておりません」

「そ、それはっ!お前のいじめを告発するためにっ!」

「アーディアと会っていたと?」

「そうだ!」



おかしいですわね……
A嬢は、手帳を取り出し、パラパラとめくると、朗々と読み上げた。


「某月某日!
二限目をおサボりしてエー様はアーディア嬢に中庭で膝枕!ほぼ1時間過ごして、その後手を繋いで生徒会室へ!」

  

        ぐ、具合が悪くて介抱してもらって……



「某月某日!
図書館の片隅で、およそ半刻!
人の出入りのない古書の書架にて、うふふあははと歓びの声を忍んで密着!」


……べ、勉強を教えていてっ!


「某月某日!夜会にて婚約者のわたくしとのダンスをさっさと済ませ、アーディア嬢と3度も連続でダンス!
その後、飲み物を持って、腰を抱いてバルコニーに移動!
戻ったアーディア嬢は控え室にて何故か化粧直しを。エー様は胸元のジャボが裏返しに!」

………。


ここまで「ご報告」されれば、誰でもがエーの様に萎えてしまうだろう。
赤面を通り越して、やや青白くなる顔色に、A嬢は

「……を例として、まだまだございます。
わたくしのいじめとやらも、お可愛く見える事でございましょう。
……あら、まだご不満。ご納得がいかない。成程。
ではっ!どなたかわたくしに水をっ!残り58ページ頑張って朗唱させていただきますっ!」


止めてぇぇぇぇ!
許してぇぇぇぇえ!

周囲は、いたたまれずに、ぞろぞろと午後の教室へ三々五々散っていく。

その間もA嬢の声は響き続けた。


「某月某日っ!」
「ひええぇぇぇぇ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

信用してほしければそれ相応の態度を取ってください

haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。 「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」 「ではその事情をお聞かせください」 「それは……ちょっと言えないんだ」 信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。 二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。

処理中です...