綺麗なモノ集め

倉辻 志緒

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幸せ運ぶ音色

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 ──貴方の声が聞きたいの駄目かな?

 圭さんにスマホを渡されてから、数日が立った。
 あの日の生徒会長さんの行動は謎に包まれたままで、学校でもあれから会う事もなかった。
 スマホにも誰からの着信がなかった。
 学校に行っている間は自宅に置き去りのスマホ。

 お風呂に入ってホッと一息つくと、ベッドに寝転んで、スマホを眺めた。
 圭さん、電話くれないのかな?

 けれど電話が来たところで緊張して、何を話したら良いのか分からなくなりそうではある。

 それでも声を聞きたいのは変わりなくて、圭さんのアドレスを開いては消して……を繰り返す。 

 彼女でもないのに自分からかけるなんて事、図々しいよね。 
 メールアドレスも記載されているけど、突然メールしても良いのかな?

 ──スマホを握りしめて、圭さんの事を考えていたら、電気をつけたまま、いつの間にか眠りについていたみたいだった。 
 夢なんか見てなくて、爆睡。

 爆睡していたのにも関わらず、手にはしっかりとスマホを握りしめていて……突然の着信音により、目が覚めた。 

「ふぁい?」

 電話かメールかも確かめもせずに通話ボタンを無意識の内に押して、スマホを耳に充てる。
 返答はなくて無理矢理に起こされて、まだ寝ぼけてる頭で考える。

 何で話さないの?
 一体、誰なの?

 目をこすってよく見てみると……あらら、メールでした。 
 初めて開くメール。

 “今日は美姫さんの所に泊まるから、帰らない。

 あ、今から電話するから出ろよ!“

 見たところ、アドレス帳には記載されてないアドレス。
 だから一体、誰なの?

 考える間もなく、再び音が鳴りだす出すスマホ。
 今度は画面に番号が表示されたから、電話みたいだ。

 どうしよう?
 知らない人からだ。
 出たら出たで、相手の人を混乱させてしまうし、何よりも自分がパニックになりそう。 
 早く、着信音が鳴りやんでほしい。

 布団に押し込んで、グルグル巻きにする。
 それでも、まだ音は響く。 

「あ、鳴りやんだ?」

 しばらく鳴り響いた後、静かになった携帯を布団の中から取り出し開いた。
 画面には、留守電ありと表示されている。 

 留守電?
 恐る恐る留守電を聞く準備をして耳に充てる。
 アナウンスに従い、ドキドキしながら新しいメッセージを聞くという選択をする。
 一体、どんな人が留守電にメッセージをくれたんだろう?
 ドキドキと胸を高鳴らせながら、声を聞けるのを待つ。

 一番最初のメッセージは、『圭? あっちに出ないから、こっちにかけたんだけど。いい加減、電話に出て下さい! 兄ちゃんより』と聞こえた。

 お兄ちゃんからだったんだ?
 そう言われれば、電話越しの声が圭さんに似てる。
 圭さんの携帯にもかけて、こっちの携帯にもかけてきて急用に違いない!

 圭さんに知らせなきゃ、だよね?
 けれど、気付けばもう夜中の一時を時計の針が指そうとしていて連絡は諦めた。

 圭さんは寝てるかもしれないから。

 メールならどうかな? と思いつつ、通知音で起きてしまうかもしれないと思うと、躊躇して送れずにいた。

 せっかく連絡をする用事が出来て嬉しかったけれど、その反面、ホッと胸を撫で下ろしている自分もいた。 

 いざ連絡をしようものなら、ドキドキしすぎて、心臓が破裂してしまうかもしれないから。そんなだから迷いに迷って、結局は連絡なんてできないのかもしれない。

 はぁ……
 スマホを胸の上に置き、ため息をつく。 
 とりあえず、寝ようか。
 ひとまず寝てから、明日起きたら考えることにしよう。 

 おやすみなさい、圭さん。
 おやすみなさい、新君。

 私は毎日、寝る前には大好きな二人におやすみの挨拶をしてから寝るの。 

 ……がしかし、圭さんへの連絡をどうすれば良いのか? を巡って、一人でモヤモヤしていて眠る事なんてできなかった。

 あぁっ、圭さんから電話をかけてきてくれたらな。用件を伝えることができるのに。

 ―――――――
 ――――――
 ―――――

「澪ちゃん、俺と一緒に行こう?」

 あ、新君だ!
 もちろん、断る理由なんてどこにもない。 

 でも、隣には……

「駄目。澪ちゃんは俺と行くの!」

 圭さんがいて、私のことをそっと抱き寄せる。
 わわっ、そんな大胆な事!?
 生まれて初めてされたから、頭はパニック状態。

 新君が私達二人に近付いて来て、私の腕を引っ張り、圭さんから引き離そうとする。 
 圭さんも負けずにギュッと力を込めて、私を抱き締める。

 両方の力が加わり、私の体に痛みが走った。

 痛い、痛い……!
 ギシギシと歪み始めた途端に人形へと変化していく、身体。

 何これ?
 何なのよ、これ!?

「ギャアァアッ!」

 バラバラに引き裂かれ、綿が飛び散る身体。
 もう痛みは感じない、だって人形だから――

「……はぁっ、はぁっ」

 今のは、夢……なの?|《》
 息も絶えだえに起きたら、朝の六時を過ぎていた。 
 私は夢にうなされていたらしく、身体全体が汗ばんでいた。

「澪? どうかしたの? 大丈夫?」

 ガチャリとドアが開いたかと思うと、二階の自分の部屋にいた私の声が一階のキッチンまで聞こえたらしく、お母さんが心配して見に来たらしい。

「だ、大丈夫だよ。嫌な夢を見ちゃって」
「そう? よっぽど嫌な夢だったのね、ギャアァって。お父さんもビックリしてたわよ?」

 お母さんは苦笑いを浮かべると、「もうすぐ朝御飯出来るわよ」と言って部屋を後にした。
 私の声が、そんなに響き渡っていたんだ。

 お母さんだけじゃなく、お父さんにまで聞こえていたなんて恥ずかしすぎるよ。 
 気付かない内に『ギャアァ』って叫んでたなんて……

 新君と圭さんの二人が出てきた夢。
 最後には、人形になってバラバラになった夢。
 これがどんな事を意味してるのか、もしくはただの夢なだけか……

 大好きな二人の夢だったのに、朝から気分が悪いよ。
 朝御飯を食べながら、もっとラブラブな甘い夢を見たかったな……なんて思った。

 圭さんと過ごした時間を繰り返し、繰り返し思い出してしまう。 
 あれがデートだったら、どんなに嬉しかっただろう。

 彼氏彼女の仲なら、電話もメールも躊躇しないで出来て、毎日のように会うことができるのかな?

 あぁ、そうだった。
 圭さんに連絡しなきゃいけなかったんだ。 

「こら、澪っ! ご飯をこぼしてるわよっ! もう、中学生にもなってこぼすなんて」
「わぁ、ごめんなさい」

 私は自分の世界に入り込んでいて、口に入るハズのご飯を箸からポロリとテーブルの上に落としていた。

 学校に行っても、授業も花梨ちゃんの話も上の空だった。夢が気になって、何一つ頭の中に入ってはいなかった。

 ***

 お昼休みになり、花梨ちゃんが図書室に行くと言うので着いてきた。
 花梨ちゃんは本が大好きで、新刊が図書室に入荷すると聞けば、すぐさま飛んで行く。
 そんな彼女は図書委員会だったりもする。

「新刊漁って来るから! 澪は適当に座って待ってて!」

 図書室に着くと、花梨ちゃんは勢いよく新刊コーナーへと真っ先に向かう。
 何冊かある新刊の中で、借りるか、借りないかを吟味する為に、きっとギリギリまであの場所に張り付いているハズ。

 私は本を見る気分にもなれず、ただ単に椅子に座る。
 今日はあんまり利用者がいないなぁ。

 ボンヤリと周りを見渡すと、パソコンコーナーが目に入った。 
 パソコンは三台あり、受付をすれば、インターネットが観覧自由だ。 
 三台の内、一台は誰も使ってなくて空いていた。

 あ、そっか!
 インターネットで夢占いをしちゃえば良いんだ!
 とっさに閃き、カウンターで名前とクラス、使用開始時刻を受付で書いて、パソコンを開く。

 夢占いっと。 

 検索すると、次々にサイトが表れて、“診断無料”なものを選択した。
 トップページを見たところ、怪しい様子はなく、このサイトに即決。

 まずは……夢に出てきたキーワードを選ぶのね。 
 えと、人形?
 痛い(痛かったと思う)、動けない……
 あとは何だろう?

 思いつくままに、表示されたキーワードを選んで選択する。
 どんな結果が出るのかな?
 ワクワクしつつも、怖い気もする。

 あの夢の内容は、お母さんにも花梨ちゃんにも話してないけど尋常じゃなかったよね?

 例え、どんな結果が出たとしても、悲鳴のような声はあげないようにしなくちゃ。

 キーワードを選び終わり、“診断”のボタンをポチッと押す。
 診断は画面に直ぐに出て、釘いるように見た。

 えっと、何なに?

 ◆貴方の夢の診断は?
 あと一歩なのに、前に進めない。
 何か行動を起こしたい気持ちはあるのですが、気ばかりなようです。
 不安な気持ちの中で揺れ動き、今だに踏み出せていない状況ではありませんか?
 人形は、思い通りにしたい象徴とも言えます。

 痛みは正に心の痛み。
 不安感や、孤独感などが痛みとして現れることが多いようです。 

 もしも、恋の悩みがあるのならば、姉妹サイト“恋占い広場”もどうぞご利用下さいませ。
 お待ちしております。

 最後は宣伝で終わるんだ?
 ……じゃなくて、この夢占いは当たってるかも!

 だって、圭さんに連絡したいのにできないし、もっと自分の思うようにことが進んでくれたらなっても思うし。

 調べてみて良かったな。
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