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【煌めきLEVEL/MAX】
*ずっと会いたかった人
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私が会いたくてたまらなかった人物、茜ちゃん。
以前よりも痩せてしまって、髪も伸びて、目の下にクマが出来ているけれど……私には一瞬で茜ちゃんだと分かった。
何故ここにいるの?
この地域に住んでるの?
元気にしてた?
……他にもたくさんたくさん、聞きたいことはある。
私は思わず、そっと手を伸ばした。
茜ちゃんを抱きしめながら、私は嗚咽を漏らしながら、人前だと言うことも忘れて子供みたいに泣きじゃくった。
そして、茜ちゃんも私の背中にぎゅっとしがみつき、泣いている。
「心優ちゃん……わ、たし……ずっと謝りたかった……! 連絡も出来ないままに……引っ越しして、ごめん……」
私達はお互いに会うことを知らされてはおらず、完全なサプライズだった。茜ちゃんと一緒に現れたのは、茜ちゃんの彼氏の潤君だった。
「良かった、茜ちゃんが笑えるようになって。親友の力って凄いな」
高校時代に見た潤君よりも身長も伸びて、大人びた彼は更にイメケン度が増している。
「ここじゃなんだから……」と潤君が言い、皆でバスに乗り込み、駅前のファミレスに駆け込んだ。
バスが到着し、茜ちゃんと感動の再会をした私は有頂天でバスに乗り込んだ。……だが、茜ちゃんと隣り通しの座席に座ったのだが、茜ちゃんからは何も話しかけては貰えなかった。
三年は会っていない私達は、先程はあんなに泣きじゃくったのに……どちらとも黙りなのだ。聞きたいことが沢山あるのに聞けないままに駅前に着いてしまった。
駅前のファミレスは夏休み期間との事もあり、午後十五時過ぎにも関わらずに高校生や大学生などでガヤガヤする程、混んでいた。
「潤兄、前に話した裕貴とカナ、いや、ミヒロちゃんだよ」
「ミヒロちゃん、久しぶりだね」
……潤兄?
”兄“と呼ぶと言うことは、潤君はヒロ君のお兄ちゃん??
……ん?
ヒロ君にもミヒロちゃんって呼ばれたけど何故??
まだ私の正体は話してなかったのに。先程、茜ちゃんが私の事をそう呼んだから??
……あぁ、そうか。
以前に手紙を見られた時に名前を知られていたのかもしれない。
「ミヒロちゃんが偶然に出会った海大は俺の一つ下の弟なんだ。茜ちゃんとミヒロちゃんが通っていた高校の後輩だよ。海大とミヒロちゃん、同じ名前の読み方も凄い確率の偶然だよね」
潤君がそう言うと裕貴君がすかさず「え……? ミヒロちゃんなの? すっごい、海大とミヒロ、正に運命の人じゃん!」
と言って、はしゃいでいる。
海大と心優。ミヒロとミヒロ。
漢字は全然違うけれど読み方は同じ。
私も知った時には飛び上りたい程に驚いた。珍しい名前だから、名字が同じよりも名前が同じ方がレア度が高い気がしている。
「俺も茜ちゃんも離れた場所で暮らしてたけど、もうすぐ一緒に住めることになったんだ。まだ先になるけど……大学を卒業したらすぐに籍を入れる。俺は茜ちゃんをこれからも守って行きたいし、できれば……ミヒロちゃん達にも手伝ってほしいんだ」
潤君は色々と話をしてくれるけれど、茜ちゃんはずっと下を向いたままだった。以前の笑顔の可愛らしい、お花みたいな茜ちゃんではなくなってしまったのかな……?
どうしてなんだろう。
茜ちゃんは一度も笑わない。
潤君の言う、手伝ってほしいの意味は何だろうか?
「後は帰りの新幹線の中ででも、海大から話してくれると助かる。今日はわざわざ来てくれてありがとう。それからミヒロちゃんに裕貴君、海大と仲良くしてくれてありがとう。これからも宜しくな」
潤君は私達に優しく微笑んだ。
新幹線のプラットフォームまで二人は見送りをしてくれたが、茜ちゃんとは話せないままに別れの時間になってしまった。何も話せなかったけれど、新幹線が見える位置から手を振ってくれていた。
またね、茜ちゃん──
帰りの新幹線の中、裕貴君が牛タン弁当を買ってくれたので三人で食べている。
「やっぱり、牛タンと言えば仙台だよなー」
裕貴君が美味しそうに頬張ると、ヒロ君も同じ様に美味しそうに頬張る。その二人の姿に癒される。
「カナミちゃん、いや、ミヒロちゃんのが良い? でも、自分の名前を呼んでるみたいだから、やっぱりカナミちゃんかな?」
「どっちも本人なんだから、どっちでも良いだろ! けど、真実を知らない人の前では使い分けに気をつけなきゃな」
「裕貴、お前もな」
モグモグしながら話をする裕貴君。
「……そう言えば、海大の会いたかった人って、茜ちゃん? お兄ちゃんの彼女なの?」
「そうだよ。病気持ちで茜ちゃんは高校を辞めてるんだ。潤兄も辞めてからは一切会えてなかったらしいけど、最近になってご両親からスマホに電話があったらしいんだ……」
私も気になっていたことを裕貴君が自ら、どんどん聞いている。
ヒロ君が話してくれたことは、茜ちゃんは学校を辞めた後に治療に専念したが、様々なストレスから鬱状態になってしまったらしい。
その原因が学校を辞めた嫌な思い出のある東京に住んでいるからだ、と勝手に決めつけたご両親は仙台の母方の実家に引っ越しをした。
それからと言うもの、親友の私や彼氏の潤君にも会えないストレスも加算され、少しずつ鬱になってしまった。必死に勉強して入った学校を辞めさせられた事から始まり、私達に会えない寂しさが引き金となってしまった。
ご両親は日に日に茜ちゃんが引きこもってしまうのを恐れて、潤君に助けを求めたのだ。
茜ちゃんのスマホは解約されて番号もスマホ自体も変わったが、ご両親が保存しておいた以前のスマホのデータから潤君の電話番号を探し出して連絡したらしい。
潤君も必死で茜ちゃんを探していたが、見つからずに挫けそうになっていた時の連絡だったので泣いて喜んでいたそうだ。
「……茜ちゃん、笑ったら可愛いだろうなぁ」
裕貴君がボソリと呟く。
「か、可愛いですよ、茜ちゃんは。素が美少女だから……」
「ん? カナミちゃんも可愛いよ、とても。高校時代にこんな可愛い子が二人して歩いていたら、男は迷わずに声かけちゃうでしょー。現に海大が声かけてるけどぉ!」
「ひーろーき!」
座席を回転させて向かい合わせに座っている私達は、お互いの表情が良く見える。ヒロ君は裕貴君にからかわれて、ほんのりと頬が赤いのだ。
「と、とにかく、茜ちゃんは潤兄が面倒見るからって東京に戻るのをOKされたんだって。……カナミちゃんって、通信制の高校に通ってたりする……? ごめん、偶然にも見ちゃったんだ、手紙……」
慌ててかき消す様にヒロ君は言った。私はチャンスだと思い、話すことを決意した。
「はい、私も高校を辞めてしまったので……通信制高校に通ってるんだ。いずれは大学にも通ってみたいな、っては思ってます」
不思議。
今までは隠さなきゃいけないと思っていたことが、すらすらと話せてしまう。
「……だったら、茜ちゃんも一緒に通っても良いかな? 茜ちゃん、仙台では引きこもってしまって、行けなかったんだって。カナミちゃんも茜ちゃんも二人なら一緒に行けると思うんだ」
「はい、喜んで」
少しずつ、少しずつ、茜ちゃんとの日常を取り戻して行こう。
話をしながらの新幹線の車内、あっという間に東京まで到着してしまった。高校時代に行けなかった修学旅行みたいで楽しかったなぁ……
いつの日か、茜ちゃんとも出かけたりしたいな。
「カナミちゃん、楽しかった! また遊んでね! マンガも楽しみにしてる! 海大、またな!」
「裕貴君、ありがとうございました。またね」
「裕貴、お前、二人で会った時は覚悟してろよ!」
東京に到着し、裕貴君とは最寄り駅でお別れする。ヒロ君が放った言葉が良く理解できないけれど、裕貴君は「バーカッ!」と返していた。
すっかり夜になったが、昼間と変わらずに人手は多いし、仙台に比べると東京は暖かい。
「送って行くから……」
新幹線を降りた時から繋がれている手。最初は緊張していたけれど、今はとても心地好くてヒロ君の手の温もりが安心する。
さりげなく手を繋いでくれること、裕貴君も事情を知っているからか冷やかさなかったこと、送って行ってくれこと、全てが私には新鮮で心温まるエピソードだったりする。
「ヒロ君、茜ちゃんに会わせてくれてありがとう。全部、お見通しだったんだね」
「うん、潤兄の彼女だった茜ちゃんから、俺と同じ名前の女の子がいるって話は聞いてたんだ。だから、手紙を見てしまった時にピンときた。その後に茜ちゃんの居場所が分かったから、カナミちゃんも一緒に連れて行きたかったんだよ。こちらこそ、来てくれてありがとう」
ヒロ君は私と茜ちゃんを驚かせたい為に内緒で準備を進めてくれていた。
私と茜ちゃん、ヒロ君と潤君、意外なところから繋がって一つの円になった。そこからまた枝分かれしていく人間関係がある。
「ヒロ君……あのね……」
「何?」
私は勇気を振り絞って、自分の想いを伝えてみることにした。
「私は貴方となら捨てただけの過去を取り戻せる気がするよ」
置き去りにしてしまった青春時代。今更どうこうできるわけではないが、新たに作っていきたいと思ったんだ。
「それって恋愛も?」
「……え?」
想いもよらない返答が降って来たので、聞き直してしまった。
「良かったら俺と付き合って下さい。あー、もー、こんな事言うのもなんだけどカナミちゃんは純粋だからアオハルみたいで初々しくて気恥しいんだよね」
暗いから良く見えないけれど、ヒロ君は照れているようだった。
「私、もう一つ秘密があって……高校時代は……えっと、あの……太ってたし、一重が嫌で……両親の承諾を得て、……プチ整形もしました。こんな私でも良かったら、お願いします……」
「勿論、こちらこそ、宜しくお願いします。てーゆーかね、カナミちゃんの容姿も好きだけど、それよりも、その純粋さが大好きなんだよ! 言いたくなかったら言わなくて良かったのに、気を許した瞬間に言っちゃうとことか……秘密を教えてくれたのは勿論、嬉しかったけど……って、何言ってんだか、分からなくなってきた」
ヒロ君は照れながら、滅茶苦茶に話をしていた。私は与えられた現実が幻じゃないかと思い、半信半疑だったりもする……
それぞれのパズルのピースが揃って、再び動き出した未来。
煌めく青春時代を取り戻すべく、君と明日へ進もう──
【END】
以前よりも痩せてしまって、髪も伸びて、目の下にクマが出来ているけれど……私には一瞬で茜ちゃんだと分かった。
何故ここにいるの?
この地域に住んでるの?
元気にしてた?
……他にもたくさんたくさん、聞きたいことはある。
私は思わず、そっと手を伸ばした。
茜ちゃんを抱きしめながら、私は嗚咽を漏らしながら、人前だと言うことも忘れて子供みたいに泣きじゃくった。
そして、茜ちゃんも私の背中にぎゅっとしがみつき、泣いている。
「心優ちゃん……わ、たし……ずっと謝りたかった……! 連絡も出来ないままに……引っ越しして、ごめん……」
私達はお互いに会うことを知らされてはおらず、完全なサプライズだった。茜ちゃんと一緒に現れたのは、茜ちゃんの彼氏の潤君だった。
「良かった、茜ちゃんが笑えるようになって。親友の力って凄いな」
高校時代に見た潤君よりも身長も伸びて、大人びた彼は更にイメケン度が増している。
「ここじゃなんだから……」と潤君が言い、皆でバスに乗り込み、駅前のファミレスに駆け込んだ。
バスが到着し、茜ちゃんと感動の再会をした私は有頂天でバスに乗り込んだ。……だが、茜ちゃんと隣り通しの座席に座ったのだが、茜ちゃんからは何も話しかけては貰えなかった。
三年は会っていない私達は、先程はあんなに泣きじゃくったのに……どちらとも黙りなのだ。聞きたいことが沢山あるのに聞けないままに駅前に着いてしまった。
駅前のファミレスは夏休み期間との事もあり、午後十五時過ぎにも関わらずに高校生や大学生などでガヤガヤする程、混んでいた。
「潤兄、前に話した裕貴とカナ、いや、ミヒロちゃんだよ」
「ミヒロちゃん、久しぶりだね」
……潤兄?
”兄“と呼ぶと言うことは、潤君はヒロ君のお兄ちゃん??
……ん?
ヒロ君にもミヒロちゃんって呼ばれたけど何故??
まだ私の正体は話してなかったのに。先程、茜ちゃんが私の事をそう呼んだから??
……あぁ、そうか。
以前に手紙を見られた時に名前を知られていたのかもしれない。
「ミヒロちゃんが偶然に出会った海大は俺の一つ下の弟なんだ。茜ちゃんとミヒロちゃんが通っていた高校の後輩だよ。海大とミヒロちゃん、同じ名前の読み方も凄い確率の偶然だよね」
潤君がそう言うと裕貴君がすかさず「え……? ミヒロちゃんなの? すっごい、海大とミヒロ、正に運命の人じゃん!」
と言って、はしゃいでいる。
海大と心優。ミヒロとミヒロ。
漢字は全然違うけれど読み方は同じ。
私も知った時には飛び上りたい程に驚いた。珍しい名前だから、名字が同じよりも名前が同じ方がレア度が高い気がしている。
「俺も茜ちゃんも離れた場所で暮らしてたけど、もうすぐ一緒に住めることになったんだ。まだ先になるけど……大学を卒業したらすぐに籍を入れる。俺は茜ちゃんをこれからも守って行きたいし、できれば……ミヒロちゃん達にも手伝ってほしいんだ」
潤君は色々と話をしてくれるけれど、茜ちゃんはずっと下を向いたままだった。以前の笑顔の可愛らしい、お花みたいな茜ちゃんではなくなってしまったのかな……?
どうしてなんだろう。
茜ちゃんは一度も笑わない。
潤君の言う、手伝ってほしいの意味は何だろうか?
「後は帰りの新幹線の中ででも、海大から話してくれると助かる。今日はわざわざ来てくれてありがとう。それからミヒロちゃんに裕貴君、海大と仲良くしてくれてありがとう。これからも宜しくな」
潤君は私達に優しく微笑んだ。
新幹線のプラットフォームまで二人は見送りをしてくれたが、茜ちゃんとは話せないままに別れの時間になってしまった。何も話せなかったけれど、新幹線が見える位置から手を振ってくれていた。
またね、茜ちゃん──
帰りの新幹線の中、裕貴君が牛タン弁当を買ってくれたので三人で食べている。
「やっぱり、牛タンと言えば仙台だよなー」
裕貴君が美味しそうに頬張ると、ヒロ君も同じ様に美味しそうに頬張る。その二人の姿に癒される。
「カナミちゃん、いや、ミヒロちゃんのが良い? でも、自分の名前を呼んでるみたいだから、やっぱりカナミちゃんかな?」
「どっちも本人なんだから、どっちでも良いだろ! けど、真実を知らない人の前では使い分けに気をつけなきゃな」
「裕貴、お前もな」
モグモグしながら話をする裕貴君。
「……そう言えば、海大の会いたかった人って、茜ちゃん? お兄ちゃんの彼女なの?」
「そうだよ。病気持ちで茜ちゃんは高校を辞めてるんだ。潤兄も辞めてからは一切会えてなかったらしいけど、最近になってご両親からスマホに電話があったらしいんだ……」
私も気になっていたことを裕貴君が自ら、どんどん聞いている。
ヒロ君が話してくれたことは、茜ちゃんは学校を辞めた後に治療に専念したが、様々なストレスから鬱状態になってしまったらしい。
その原因が学校を辞めた嫌な思い出のある東京に住んでいるからだ、と勝手に決めつけたご両親は仙台の母方の実家に引っ越しをした。
それからと言うもの、親友の私や彼氏の潤君にも会えないストレスも加算され、少しずつ鬱になってしまった。必死に勉強して入った学校を辞めさせられた事から始まり、私達に会えない寂しさが引き金となってしまった。
ご両親は日に日に茜ちゃんが引きこもってしまうのを恐れて、潤君に助けを求めたのだ。
茜ちゃんのスマホは解約されて番号もスマホ自体も変わったが、ご両親が保存しておいた以前のスマホのデータから潤君の電話番号を探し出して連絡したらしい。
潤君も必死で茜ちゃんを探していたが、見つからずに挫けそうになっていた時の連絡だったので泣いて喜んでいたそうだ。
「……茜ちゃん、笑ったら可愛いだろうなぁ」
裕貴君がボソリと呟く。
「か、可愛いですよ、茜ちゃんは。素が美少女だから……」
「ん? カナミちゃんも可愛いよ、とても。高校時代にこんな可愛い子が二人して歩いていたら、男は迷わずに声かけちゃうでしょー。現に海大が声かけてるけどぉ!」
「ひーろーき!」
座席を回転させて向かい合わせに座っている私達は、お互いの表情が良く見える。ヒロ君は裕貴君にからかわれて、ほんのりと頬が赤いのだ。
「と、とにかく、茜ちゃんは潤兄が面倒見るからって東京に戻るのをOKされたんだって。……カナミちゃんって、通信制の高校に通ってたりする……? ごめん、偶然にも見ちゃったんだ、手紙……」
慌ててかき消す様にヒロ君は言った。私はチャンスだと思い、話すことを決意した。
「はい、私も高校を辞めてしまったので……通信制高校に通ってるんだ。いずれは大学にも通ってみたいな、っては思ってます」
不思議。
今までは隠さなきゃいけないと思っていたことが、すらすらと話せてしまう。
「……だったら、茜ちゃんも一緒に通っても良いかな? 茜ちゃん、仙台では引きこもってしまって、行けなかったんだって。カナミちゃんも茜ちゃんも二人なら一緒に行けると思うんだ」
「はい、喜んで」
少しずつ、少しずつ、茜ちゃんとの日常を取り戻して行こう。
話をしながらの新幹線の車内、あっという間に東京まで到着してしまった。高校時代に行けなかった修学旅行みたいで楽しかったなぁ……
いつの日か、茜ちゃんとも出かけたりしたいな。
「カナミちゃん、楽しかった! また遊んでね! マンガも楽しみにしてる! 海大、またな!」
「裕貴君、ありがとうございました。またね」
「裕貴、お前、二人で会った時は覚悟してろよ!」
東京に到着し、裕貴君とは最寄り駅でお別れする。ヒロ君が放った言葉が良く理解できないけれど、裕貴君は「バーカッ!」と返していた。
すっかり夜になったが、昼間と変わらずに人手は多いし、仙台に比べると東京は暖かい。
「送って行くから……」
新幹線を降りた時から繋がれている手。最初は緊張していたけれど、今はとても心地好くてヒロ君の手の温もりが安心する。
さりげなく手を繋いでくれること、裕貴君も事情を知っているからか冷やかさなかったこと、送って行ってくれこと、全てが私には新鮮で心温まるエピソードだったりする。
「ヒロ君、茜ちゃんに会わせてくれてありがとう。全部、お見通しだったんだね」
「うん、潤兄の彼女だった茜ちゃんから、俺と同じ名前の女の子がいるって話は聞いてたんだ。だから、手紙を見てしまった時にピンときた。その後に茜ちゃんの居場所が分かったから、カナミちゃんも一緒に連れて行きたかったんだよ。こちらこそ、来てくれてありがとう」
ヒロ君は私と茜ちゃんを驚かせたい為に内緒で準備を進めてくれていた。
私と茜ちゃん、ヒロ君と潤君、意外なところから繋がって一つの円になった。そこからまた枝分かれしていく人間関係がある。
「ヒロ君……あのね……」
「何?」
私は勇気を振り絞って、自分の想いを伝えてみることにした。
「私は貴方となら捨てただけの過去を取り戻せる気がするよ」
置き去りにしてしまった青春時代。今更どうこうできるわけではないが、新たに作っていきたいと思ったんだ。
「それって恋愛も?」
「……え?」
想いもよらない返答が降って来たので、聞き直してしまった。
「良かったら俺と付き合って下さい。あー、もー、こんな事言うのもなんだけどカナミちゃんは純粋だからアオハルみたいで初々しくて気恥しいんだよね」
暗いから良く見えないけれど、ヒロ君は照れているようだった。
「私、もう一つ秘密があって……高校時代は……えっと、あの……太ってたし、一重が嫌で……両親の承諾を得て、……プチ整形もしました。こんな私でも良かったら、お願いします……」
「勿論、こちらこそ、宜しくお願いします。てーゆーかね、カナミちゃんの容姿も好きだけど、それよりも、その純粋さが大好きなんだよ! 言いたくなかったら言わなくて良かったのに、気を許した瞬間に言っちゃうとことか……秘密を教えてくれたのは勿論、嬉しかったけど……って、何言ってんだか、分からなくなってきた」
ヒロ君は照れながら、滅茶苦茶に話をしていた。私は与えられた現実が幻じゃないかと思い、半信半疑だったりもする……
それぞれのパズルのピースが揃って、再び動き出した未来。
煌めく青春時代を取り戻すべく、君と明日へ進もう──
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